ツンドラ少女よ、報われろ
最初期に書いたお話です。改行スペース多いです。
夏休み前
「何かやりたいことがある人はいますか? 」
文化祭執行委員の川北が教卓に立ち、1年D組のクラスメートに向かって言う。
文化祭は初めてだ。
中学校にはなかった。
非常に楽しみである。
けれどもカツジには特にどれをやりたいか、という意見はなかった。
ただ女子の意見に賛成しようと思っていた。
それが一番良いと確信していた。
カツジの右隣の席、
ミンカがもじもじした後、覚悟を決めた顔つきで手を上げ、起立して言う。
「演劇やりたい! ロミオとジュリエットとか」
「はぁ? 」
ミンカの発言にカツジはとても失礼な声を重ねてしまった。
予想外の提案につい声が出た。
知らなかった。
コイツ演劇とか興味あったのか。
ずっと一緒に居たけど全然わからなかった。
カツジはモヤモヤした感情を胸の中でどう処理するべきか悩んでいた。
すると
「ちょっと! はぁ?って何よ!! 」
「あんた、私に何か言いたいことでもあんの? 」
ミンカがキッと、視線をカツジに向ける。
それと同時に二人の席を残して、
クラス全員が自分の机と椅子を壁の方に寄せる。
いつ見ても、この連携はすごい。
と、カツジがクラスメートに関心しているうちに、教室の中心にカツジとミンカが残された。
いつもと同じスペースができる。
5月から固定になった二人の席は、ずっと教室の中心に位置する。
クラスの女子の何人かはスマホを俺とミンカに向けている。
あとの人は輝く目で俺らを見ている。
録画して何になるんだ?
これはただの私刑だぞ!
しかも俺が一方的にボコられるやつ!!
この惨劇を輝く目で見るということ、すなわち女子は怖い!!!
男子はというと、
リアルファイトを見て楽しむ者、
ミンカの動きを逃さないように下心満載の視線を送る者に別れている。
俺だって、安全なところでミンカを眺めていたい!
誰にも言えない心の叫びだった。
穏便に済ませたいカツジは必死に取り繕った。
「いや、ミンカが演劇に興味あるなんて知らなくてさ」
「良いと思うぞ、演劇」
その刹那、ミンカは可愛らしい笑顔を浮かべながら、右フックをくり出す。
間一髪、カツジは腰から、くの字に体を倒しダックして避ける。
フックの風切り音と、かすった髪の毛に残る感触
俺のテンプルを打ち抜こうとした。
間違いない、今日も俺は間違えたらしい。
今日も俺はミンカを怒らせた。
「なんで避けるの? 」
頬を赤らめたミンカが俺を見ている。
少し色っぽい。
緊張すんな!
呼吸を整えろ!
自分の顔を両手で叩き、気合いを入れる。
ここから戦闘( 一方的な私刑 )が始まる。
カツジはいつも通りのオーソドックススタイル
足を止め、構える。
一方、ミンカは頬を赤らめたまま、その場でステップを踏む。
ヒットンマンスタイルだ。
その小刻みなステップと一緒に、スカートの裾がふわふわ上下する。
意識しなくとも、つい目が追いかけてしまう。
ミンカが一言
「やらしい」
ごめんなさい、とカツジが頭で考えたと同時に、
来た!!!
ダッシュで潜り込んできた!
懐とられた
頭が低い
密着された!
打ち合えない!
左足に体重が乗る
っひけーーーーー
後ろへ退く
自分のいた位置にエグい風切り音
左のボディブロー
リバーを叩かれていたら一発ノックアウトだった。
額に汗が浮かぶのがわかる。
なんで、いつもこうなるんだ。
こんなことになるなら
ミンカに < はじ〇の一歩 > なんて貸すんじゃなかった。
いつもと同じ後悔
...倒れねえぞ
俺だって男だ。
体だって毎日鍛えてる。
カツジはミンカの空振りを逃さなかった。
退いた分、素早く前進して
宙に舞うミンカの左拳、その手首を右手で掴む。
これでミンカの拳を封じた。
やった!
てか、手首ほっそ!
気が緩んだ直後、
右こめかみに衝撃が走る。
意識の外からの打撃、耐えられない。
地面に倒れるまでの0コンマ何秒
...思い出した。
俺、< ホーリー〇ンド > もミンカに貸してたわ。
右封じ からの 裏拳である
どさっと人間が地面に倒れる音
この1年D組では聞き慣れた音だ。
悲しいことに誰も動じない。
そして拍手が鳴り響く。
ミンカを讃える拍手のようだ。
泣きそうだぞ、俺
そんなとき友達のユウヤが俺のところへ来てくれた。
女子ってホント怖い。
やっぱり男友達は最高だ。
「今日、やられんの早くね? 」
「1分なかったぞ」
...
ユウヤは入学当初こそ俺に同情していたが、昔話を聞かせてからはなぜかミンカの肩を持つ。
やはり男は女子に逆らえないのか。
カツジは言った。
「寝る」
やられたのが悔しかったんじゃない。
「全然、効かねえからなお前の拳なんて!! 」
そうミンカに吐き捨てて、
カツジは机と椅子を素早く元の位置に戻して寝た。
「私、頑張るから!! 」
「絶対、あんたに勝つんだから」
ミンカが俺に宣言する。
実質負けていたのが恥ずかしくて伏せた顔を机から上げられない。
再度、拍手がまきおこる。
キャ~
頑張って~
応援してるよ~
そんな女子の声が
目をつぶり意識が途切れる寸前に聞こえてきた。
チェッ
カツジは心の中で舌打ちした。
後に文化祭執行委員の川北は語る。
1年D組のロミオとジュリエットは
体育館のステージを利用したロミオ役とジュリエット役の二人による激しいリアルファイトが決行された。と
おまけ① カツジと拡声器
あそこにミンカがいる。
300メートルくらい離れてるな。
ちょうど手元に拡声器がある。
「おーい、ミンカーーー、好きだーーー 」
俺の声に気づいたのか、
ミンカがこっちに向かって走り出してきた。
270M
230
150
100
50
おおよそ目安だが、どんどん近づいてくる。
長い距離だが加速してきているのがわかる。
すげえ!
はええ!!
彼我の距離が20メートルくらいになった時、
ミンカが飛んだ。
見事な跳躍だ。
しかし馬鹿め、
キックがバレバレだ。
しゃがみこんで避けるカツジ。
俺の頭上を通過するだけのミンカ、悔しそうな顔を見ようと上を向く。
今日は俺の勝ちだ。
「あっ!! 」
次の瞬間、
腹に激痛が走る。
なぜ?
完璧に避けたはずじゃ...
「何なのよ! 」
ベッドの横にミンカがいた。
俺は寝てたのか。
ていうか朝か!
この腹の痛みはミンカか。
どうやら腹を殴られたらしい。
起こす時に殴るのは勘弁してほしい。
「あんた、寝言言ってたわよ」
「どんな夢見てたのよ」
?
そう聞くミンカの顔は真っ赤だった。
「覚えてないけど」
腹を殴られたショックで見ていた夢を忘れた。
「何かドキドキする白いものを見たような気がする」
「意味がわからないわ」
「期待して損した」
?
「ごめん」
謝っておく。
気に障ったとしたら悪いのは男の方だから。
ミンカが俺の夢の何に期待していたか全然わからなかった。
今日も1日が始まる。
おまけ② カツジと腹筋
男子更衣室
カツジの着替えにクラスの男子が湧く。
「すげー、無駄な肉がないな」
「てか腹筋やば」
「ガッチガチのシックスパックじゃん」
「すんげー」
そんな筋肉に興味津々なクラスの男子たちとは違う声
「でもなんか、カツジの腹筋はイビツな気がするんだよなぁ」
声の主はユウヤだった。
その疑問にカツジは答えた。
「これか? 」
「これはな、ミンカがボディブローを綺麗に打ち分けるから、腹筋にミンカの拳の跡がついてとれないんだよ」
カツジを除く
クラスの男子一同ゾッとした。
誰かが声をあげた。
「ホントだ、よくみると腹筋ひとつひとつが拳の形してる」
男子たちの恐怖に染まる悲鳴があがった。
そんな反応とは対照的にカツジは言う。
「まぁ、この鍛え上げられた腹筋のおかげでミンカ以外のボディブローは屁でもないんだ」
カツジの顔は生き生きしていた。
どこか誇らしげでもある。
「ホント、お似合いだよ」
ユウヤがそう言い、クラスの男子たちは相槌を打った。
カツジはユウヤの言った言葉の意味がよくわからなかった。
おまけ③ 二人の過去
たしか小学三年だったはず
同じクラスの斉田がいじめられてた。
学校じゃ話したりはしないけど
家が隣同士、近所付き合いでよく家に招いたり、遊んだりしてた。
可愛らしい女の子
少しぽっちゃり体型の
のんびり、温厚な性格
一緒に居ると安心する。
そう思える初めての女子だった。
学校じゃ、近くにいないから知らなかったけど体型のことをからかわれているらしかった。
友達づての噂で初めて気がついた。
言い返す訳でもなく、知らん振りもせず、黙って嫌みを聞きいれる斉田の姿が許せなかった。
この初めて湧く怒りの感情をいじめていた男子にぶつけた。
相手は3人
放課後に、呼び出した。
取っ組み合いをしようとする相手に対して、ひたすらに転ばし続けた。
足を引っかけたり、服の裾を引っ張ったり
3人とも立とうとするのを諦めるまで、ずっと転ばしていた。
3人が泣いて謝るまで、怒りはおさまらなかった。
次の日
4人で先生に怒られた。
俺が泣かせたのを誰かに見られていたらしい。
喧嘩両成敗という言葉を学んだ。
その日の学校の帰りは、斉田と帰った。
クラスの友達とは別に帰った。
喧嘩っ早いと思われてしまった。
まぁ来週になれば、また遊んでくれるだろう。
多分そのくらいの軽い感じに考えていた。
斉田のほうもいつもの友達とは帰っていない。
帰り道で斉田が感謝と謝罪の言葉を言った。
その言葉にどこか嘘があるように思えてつい声を荒げてしまった。
「なんで言い返さないの! 」
「あいつらが絶対悪いよ」
「俺を頼れよ! 」
「あんな弱いやつらに負けんなよ」
「お前はもっともっと弱いんだから助けを求めろよ! 」
俺の浴びせた言葉で、斉田はびーびー泣き出したが、悪いことをしたとは感じなかった。
今の泣き虫の方が本当の姿だと思ったから。
泣き出して帰り道の途中で立ち止まってしまったので、泣き止むまで斉田の頭を撫でていた。
初めて撫でた女の子の髪はすごく柔らかだった。
それから、斉田はうちの道場に通うようになった。
週に1度、土曜日だけ
その日は俺がマンツーマンで指導する。
「弱いよ」
「もっと思いきりよく殴ってきてよ」
「勝ちたい、とか、思いは伝えなきゃ意味ないぞ! 」
「じゃあさ、私の思いも、伝わるようになるかな? 」
「強くなればな」
「私、カツジくんに伝わるように頑張る! 」
「おお、頑張れ、俺も応援するよ」
「お前が考えてること( 強くなりたい )を拳で伝えに来い! 」
「わかった。必ず伝えるよ、私の思い( 好きの気持ち )」
彼女は変わった。
毎週毎週強くなっていった。
彼女の中で何が変わったのだろうか。
性格も俺に殴りかかるような荒々しいものになった。
学校でもハキハキ喋るようになった。
体重もすっかり落ちて、いいスタイルをしている。
今じゃ、高校でアイドル的存在だ。
それに比べて俺はなんだ。
弱いとか罵ってしまった女の子にすら、負けてしまいそうな毎日を送ってる。
強くならなきゃダサいって思われちゃうのかなぁ。
女子は強いって知らなかった。
せめて守れるくらいには強くなりたいなぁ。
おまけ④ 今日も彼は道場で
私、斉田ミンカはカツジのことが好きで好きで大好きだ。
彼は今日も放課後は道場へ行く。
私は、もうしばらく道場には顔を出していない。
だから彼と会えるのは
朝行く時、学校、それと帰る時だけだ。
それだけじゃ足りない。
だから、カツジのお父様とお母様にお願いして
道場に監視カメラを置いてもらうことを許可してもらった。
向こう方も喜んでいた。
カメラでカツジや道場の練習生がサボってないか見れるって。
カツジたちが家族揃って機械音痴と聞いて、勉強に励んだ甲斐があった。
カツジは練習熱心だ。
いつも見ているからわかっていたつもりでいたが、誰も見ていないところでも彼は100%本気だ。
何を考えているか全く読めない、その目に秘めた思いを知りたい。
やっぱりカツジのことが好きでたまらない。
< っしゃあ、この技なら勝てる! >
モニターから嬉しそうなカツジの声が流れる。
「すごい、また新技完成させたんだ」
「私も頑張らなきゃ」
私は準備運動のため立ち上がる。
おまけ④の副題 ↑ 「だから新技見切られる」
おまけ⑤ 本日も変わらず空は快晴
「おはよう」
「ん、おはよ」
「じゃあね」
「ん」
どこで、何が変わるかわからない。
だから2人はひたすら努力する。
☆おしまい☆
他にも短編やオムニバスの連載を書いてます。読んでくださると幸いです。




