歴史は必然なのか、偶然なのか
最近、加藤徹氏が書いた角川新書の「後宮」という書籍を読みました。
尚、事実上は全2冊と言える新書で、上巻が殷から唐・五代十国まで、下巻が宋から清末までの中国というか、中華王朝の「後宮」の歴史を描いた新書ということになります。
そして、「後宮」というものを描いていることから、尚更に考えてしまったのですが。
本当にもしも、子どもというか、跡取りがいたらとか。
又、子どもは居たものの、史実のような暗君ではなく、名君だったら、とか。
そういった偶然というものが、本当は歴史を大きく動かしているのでは。
そんな想い、考えが、その書籍を読み終えた後、私の中で浮かんでなりませんでした。
それこ上巻の中でも初めに近い方になりますが。
例えば、もし、前漢の高祖劉邦の嫡男と言える恵帝劉盈が長命していたら、
又は、それなりに恵帝の子が有能で、周囲から貴方様こそ高祖劉邦の嫡孫として評価されていたら。
前漢の歴史は、恵帝の系譜によって受け継がれることになり、史実のように文帝が即位することはなく、更にその末裔になる後漢の光武帝劉秀や、蜀漢の劉備が歴史に登場して活躍することは無く、中国の王朝の歴史は大きく変わっていたのではないでしょうか。
そうしたことからすれば、恵帝劉盈が早世して、更にその子(史記では偽者で、恵帝劉盈の非実子説を採っていますが)が闇に葬られてしまい、文帝が漢の皇帝に即位したことは、その後の中国の王朝の歴史を大きく変えてしまった気が私はしてなりません。
日本史でも、幾つか似た事例が挙げられます。
それこそ藤原道長の娘の彰子が一条天皇陛下との間に子どもを産まなければ、道長が御堂関白と言える権勢を持つことは出来なかったのでは。
そうなった場合、摂関家は成立せず、そうなれば、院政も成立せず、そうなってくると武家政権が、史実のような形で成立することさえ無かったのでは、という考えが、私は浮かんでくるのです。
これに対しては、歴史の流れは必然だった、という猛批判が起きるのが常です。
そんなこと、藤原道長の娘の彰子が一条天皇陛下との間に子どもを産まなくとも、何れは貴族政権は破綻して、武家政権が成立するのが、日本史の必然だったのだ等々。
そして、話は変わり、中世から近世の話になりますが。
織田信長が本能寺の変で亡くなった際、跡取りの信忠が逃げ延びていたら、織田政権は存続したのではないか。
又、豊臣秀吉の長子とされる、石松丸秀勝が長命していたら、又、織田信長の四男にして、豊臣秀吉の養子になった於次丸秀勝が長命していたら、豊臣秀吉の死の際には、成人した豊臣政権の後継者がいることになる、そうなれば豊臣政権は安定して存続していたのではないか。
そうなっていたら、日本史の流れは大きく変わっていたのではないか。
そんな様々な考えが、私の中では浮かんでなりません。
これについても、そうは言っても、仮に織田・豊臣政権が、徳川政権の代わりに存続したとしても、この当時の日本は、国内から産出される金銀が外国に多大な流出をする現実に苦しんでいた。
だから、結局は鎖国という管理貿易施策を、17世紀半ばまでには採らざるを得なかった。
織田・豊臣政権ならば、積極的な海外侵出を行なうことで、それを補えたと言うが、それは単なる希望的観測で、実際に歴史を調べると、そんな施策を採っていた形跡は乏しい。
更に言えば、海外侵出して植民地経営を行なうというのは、大抵が赤字になり、却って本国経済を衰退させることになる。
それこそ、スペイン、ポルトガル、オランダ等、少しでも世界史を知っていれば一目瞭然。
だから、鎖国や日本が国外侵出しないことは歴史の必然の流れで、結局は19世紀後半に米英等からの侵略の脅威を、日本は受けることになったのは間違いない、と叩かれたことが、私はあります。
確かに歴史の必然論から言えば、そう言われて当然のことかもしれませんが。
私としては、本当にそうなのだろうか。
確かに歴史の流れを見ると、必然としか言えないことも多々あるが、実際には偶然から大きく歴史が変わったと言えることも、それなりにあるのではないだろうか。
又、誰が君主、皇帝、国王に成ろうとも、最終的な歴史は変わらない、とよく言われるが、本当にそうなのだろうか、やはり君主が違うことで、歴史が変わったことはあるのではないか、そう考えます。
それこそ王位継承等を巡る戦争が、これまでの世界史上幾つあったでしょうか。
更に言えば、偶然から成る王位継承によって、二つの王国の王位を同一人物が兼ねることになり、そのことがきっかけで、一つの王国に成ったといえる事例さえ、世界史を振り返れば、幾つもあります。
そうしたことからすれば、歴史の流れは必ずしも必然といえるものではなく、偶然から起きる歴史の流れというのも、どの程度かはともかくとして、ある程度はあるのではないか、と私は改めて考えざるを得ないのです。
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