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俺がこの聖戦を支配する  作者: 夏草枯々
episode:1 新生活
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新生活 5

「そういえばさ、二人に聞きたいことあってん」


 キドウさんは書類を並べていた手を止めて顔を上げる。


「二人は付き合ってんの?」


 あぁ、またそれか。俺たちにとってはよくある質問だった。


「先輩と? 無いです、無いです」


 ベットに座ったアマツカがケラケラと笑いながら手を横に振って答えた。


「先輩とは幼馴染なんですよ。小学生になるよりも前からの知り合いです」


 アマツカが慣れた調子で説明する。その説明であってはいるけれど、あんな事をしておいて……と思わなくも無い。


「いやいや、幼馴染言うてもそんな仲良いもんか? カネイト君的にはどうなん? アマツカちゃんは」


 キドウさんはアマツカの説明で納得いっていない様子、話の矛先が俺にくる。

 俺にとってのアマツカか。


「そう、ですね……自分の心臓みたいな、そんな感じですかね」


 あって当たり前な体の一部、のような感じだ。この関係の説明が難しいけれど、俺はアマツカを大切だと思っている。幼馴染だし。


「「えぇ!?」」


「え?」


 二人して驚くほどおかしな事を言っただろうか。


「うわっ心臓ってハツですやん! これ!」


 キドウさんはおかしな事を口走りながら天井を仰ぐ。


「ならもう少し丁寧に扱ってくれませんかねー!」


 拳を突き上げアマツカは言う。声量は大きいが怒っているような表情には見えない。どちらかといえば混乱しているような。何故だか少し頬も赤い。


「そうか? 結構、甘いなと思ってるけどな」


「もっと甘いのを所望します!」


 甘いの、甘いのってなんだ、と首を捻って目を逸らす。


「……善処する」


「やらない時の回答ですよね、それ!?」


「はー、そういう感じなんや二人」


 キドウさんは緩んだ表情をしている。


「やめて下さい! 違いますー! あれは先輩だけですから!」


「またー照れちゃってー」


 アマツカは俺の方を見て眉を顰める。面倒な事をしてくれたな、という意味だろうか。捉え方の問題だと思うけれど「ごめん、ごめん」と一応謝っておく。


「もー!」


 それを最後にアマツカは備え付けの枕に顔を埋めベットに倒れ伏した。

 キドウさんはそれを見てからからと笑っている。


「さてと、じゃあアマツカちゃんが寝始めたし、起きてくるまでにさっさと仕事の事は終わらしとこか」


 そう言ってキドウさんは手を叩き向き直った。

 俺は「あぁ、はい」と頷き姿勢を正す。


「まず、カネイト君はあんまり異端審問官のことを知らんとちゃう?」


「はい。あまり詳しくは、危険な仕事って事くらいしか」


「みーんな大体そんなもんの認識やろな。危険な仕事やから色々生命に関わる事の書類もある。やのに知らんまま書かされるんも可哀想やし、一応説明しとくわ」


 俺はお願いします、と軽く頭を下げる。「うん」と頷きキドウさんは語り出した。


「まず異端審問官って聞いたら中世ごろ魔女狩りをイメージするかもしれん。異教徒を改宗させる人やな」


「はぁ」


 一応頷いておく。でも、それはこの町においておかしい。それに異教徒を改宗させている異端審問官なんて見たことがない。


「せや。この街では何を信じるかは自由やから、うちはそんな事してない。したくないし」


 そうなんですね、と答えたもののその言葉は信じられない。この街で何を信じるか自由なんて、光翼教会側の人間の考えだ。


「やから、うちのメインの仕事は邪神狩りや」


「邪神狩り?」


 聞いた事がなく首を傾げる。一狩り行こうぜ、という事だろうか。


「正式名称は神性体。人の信じる心を糧に生まれる神様。それを探して狩るのが俺らの仕事」


 へぇ、と呟き俺は首を傾げた。なんだか聞いた限りだと信じる対象を狩られるというのは残酷だ。


「さっきカネイト君が襲われたネズミ。あれも邪神の一つや」


「あれが……ですか」


 思い出すネズミの姿。爪を振り回して人を斬り裂き暴れていたアイツは何を願われたのだろう。願った人はきっとロクな人間じゃ無い。


「当面はあれを探すのが第十席の主な仕事や。邪神の発見報告場所とかを見回りつつにはなるけど……生かしちゃおけんやろ」


 キドウさんは最後の方をボソリと呟く。


「あの、第何席ってどこまであるんですか?」


 俺は手を上げ、何となく気になった事を聞いてみた。


「神前隊長、神様の前へ座れる十二の席。昔、神様が十二の都市を守る兵士を決める時、山の上にいる神様の元へと辿り着けた順に席番を与えたっていう神話から作られた異端審問官達のルールやな」


「へー……知りませんでした」


「あれ? 今は小学校とかから教えてるって聞いたけど……ちょうどカネイト君は教材入れ替わりの年やったんかもな」


 多分、別の理由だろうけど、スルーしておこう、と目を逸らす。


「ちなみにうちは10席のチーム4。覚えといてな」


 はい、と頷く。後々どれくらいの人数がチームにいるかとかは分かってくる事だろう。


「一応、邪神狩り以外にも警察と連携して町の治安維持とかあるけど、大体そっちは警察に任せっぱなし。後は……戦争の兵隊も仕事のうちにあるな」


「え」


「でも、俺が入るまえにデカい抗争があったらしいけど、それ以降そんな空気もないし、上層部が上手いこと水面下で制御してるんやろ。だから多分当分の間、大事は無いから安心して」


 調子良くキドウさんは言う。本当に大丈夫だろうか。ヤバいことはいつだって突然で表に出る頃にはもう既に日常の終わりが始まっていた。


「そんな暗い顔すんなって。安心しろ言うたやろ。そう起こらんて」


 そうキドウさんは肩を叩く。俺は「はい」と頷いた。

 きっとそのデカい抗争というのが、あの地獄のような日の事だろう。わずかに嫌な記憶が頭を掠め、ゆっくりと息を吐き出した。


「さーて、大体それが異端審問官の仕事や。なんか質問あるか? 無いならさっさと書類書いて今日中に上当てで出して送るから」


 俺は首を横に振る。分からない事は多いけれど、こういうものはやってみるうちに分かってくるものだ。それからキドウさんに言われた通り書類を書いていく。親のハンコがいる書類の方は親父に送られるそうだ。酔っていないタイミングで書類が届いてくれれば良いが。


「大体こんなもんか。よしっ」


 キドウさんは書類を集めて立ち上がる。


「アマツカちゃん、本当に寝ちゃったんちゃうか?」


 キドウさんが呆れたようにベットを見て言う。

 俺は「どうでしょう」と肩を竦めた。


「まぁ……大丈夫か。ほんじゃおやすみ。また仕事の事あればお邪魔するからよろしくー」


 そう言ってキドウさんは手を振り出て行った。

 扉を閉めながらポケットからスマホを取り出し時間を確認する。時間も時間だし明日も学校がある。起こしてあげるべきだろう。


「アマツカ?」と声をかけ肩を叩く。いつ外したのか髪を巻いていたレースは無くなっていて抑えられていた髪が背中で広がり乱れている。かなり勢いよく倒れ込んだようだ。

 突然アマツカは無言で上体を起こし部屋の方を見た。どうやら起きてはいたようだ。


「帰ったか」


 少し寝ぼけた声だ。軽く寝ていて帰る時のやりとりやドアの閉まる音なんかで起きたのかもしれない。


「うん。キドウさんなら今帰ったよ」


 そう言いつつ自分のベットに腰を下ろすとパイプの軋む音が鳴った。


「……めんどくさくなる事言って」


 再び、アマツカが枕に顔を伏せながら言った。


「ごめん、ごめん」


「私、恋人でも何でも無いんですから。あんな事言ったらダメですよ」


 不機嫌そうな声だ。俺は「うん」と勝手に頷きながらアマツカの髪に手を伸ばす。掬っては流れ落ちていくような髪に指を入れて梳いていく。


「バックに櫛あるんで」


 と、しばらくされるがままだったアマツカが呟いた。

 まだ少し機嫌が悪そうだ。仕方ない、と俺は立ち上がってバックを持ってきてまた座る。

 その後、少しの間髪を梳いているとアマツカが起き上がってきた。


「今、何時ですか?」


 自分のスマホを見る。


「十一時、十分前」


「……帰ります」


 そう言ってアマツカはのっそりとベットから立ち上がった。

 俺も立ち上がりポケットの中の鍵を確認する。


「家まで送ってくよ」

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