プロローグ
「リーダー、やっぱり何かの間違いじゃないですかね」
ワークスペースに広がる緊迫した空気の中、ふいに誰かが言った。
俺は腕を組み椅子の背もたれに背中を預けて天井を見上げる。真っ白な照明が寝不足の目を焼く。
(それは、無いやろ)
だが新入りの彼から送られてきた住所の場所には何も無かった。ただの道路で、静かなものです、との報告だけが送られてきている。当たり前だ。住宅街のど真ん中、そんな所で邪神を見つけていたら彼より先に誰かが通報している。
「ほら、寝ぼけてて違う人に送っちゃったとか、よくあるじゃ無いですか」
「まぁな」
ただの間違い。その可能性も確かにある。だけど、どこかそれだと腑に落ちないことがあるのだ。備品の貸し出し履歴に残る彼の名前や警備室の出入りをした記録。
彼が何かをしようとしていたのは明白だった。
「資料を見たが彼は元々あちら側だろう。敵側で君やそのチームを誘き出すための罠って可能性はないのかい」
俺はお嬢の方を見て、首を横に振った。
「感情論じゃないだろうね」
俺は「はい」と答え、彼がいた短い期間の事を思い出す。
仕事のために泣ける所とか、何も言ってないけれどメモを持ってきている所だったり、小さな事だけれど、あいつは信頼できると思う。
(思いたいだけかもしれへんけどな)
お嬢はそうか、とだけ言って仕事に戻った。大して気にしている様子もない淡々とした口ぶりだった。
(この仕事はよく人が死ぬ)
俺も多くの同僚を亡くしている。亡くなった知り合いは指で数えられる数字をとうの昔に超えていた。
(今回もそろそろ覚悟せなあかんかな)
例えば、彼が偶然外を歩く邪神を見つけ追った。そこでどこかに連れ去られ、最後に送ったのがその場所だった。そんな可能性も無くはない。
「後、何か一つのピースで見えてきそうなんやけど」
それが彼の残した手がかりなのか、また別の何かなのかは残念ながら俺には分からない。
「頼む」
俺は資料の並んだテーブルを見ながら手を合わせ祈った。
そんな時、部屋の扉が開かれて…