インフルエンサーの矜持
「第一僕はこの世のインフルエンサーなるものをすべからく嫌悪しているんだ。自分がインフルエンスを与えるに足る人間なのか、そのインフルエンスは本当にいいインフルエンスか、はたまた自分は羊飼いとしての資質に欠けてはいないだろうか、そういった自問もなくただ己が欲望のためだけに上流階級を目指すものを僕は嫌悪する。まるでケダモノのようだ。知識だけ持ち合わせたところで根本の知恵がないのだから、おぞましい。
いわんば、君がもしその資質を持ち合わせているというのなら、またはそれ以上の適任者がいないというなら黙ってそれをするべきなのだ。決して誰かを説得しようだなんて思うんじゃない。君はマーケットインをするのではなくプロダクトアウトをするべきなのだ。それが上に立つ者の最低限の矜持だ。
インフルエンスを与えるのなら、それに自信を持っていなければならない。自信がないなら、まず広告を使って、あるいは別の手段で自分を大きく見せようなど、下々の者を騙して金を地位を名声をふんだくってやろうなどと、邪な考えを抱くのではなく、ただ己を磨かなければならない。
友や家族と接することはまた別である。友や家族には大いに頼るべきだ。相談して、悩んで、悩ませるといい。しかし、インフルエンサーには、羊飼いには、あるいは貴族には、上流階級にはそれなりの矜持があるべきだ。愚かな民草を、愛すべき人民を責任をもって愛さなければならない。人に優しく、誠意をもって接しなければならない。何人も見下すことなく、自分より上の資質を持つ者には速やかにその椅子を明け渡すべきだ。
それがインフルエンサーの矜持だと、身分制度がない現代日本だからこそ必要な資質だと僕はそう思うのだよ」
「…………あ、ごめん、寝てた」
「…………そうか」