93:強化
慌ててレベルアップの準備をしていたところに衝撃の事実を突きつけられて、ちょっとだけ冷静になれた。
まさかコンがねぇ・・・今度から、ちょっと嫌がっても連れていくことにしよう。
で、そんな俺の結論。
あわてて俺が強くなることないじゃん。
いや、強くなるにこしたことは無いけど、レベルアップだけじゃないし、俺だけ強くなっても意味が無い。
と、言うことで久しぶりに村会に出席して提案した。
ワタリビトの戦力向上のため、”みどり村模擬戦ランキング~”
ハンターや傭兵の人員増加のため、”ギルド創設~”
ハンターや傭兵の強化のため、”ギルド登録者専用装備開発と販売~”
警備員強化のための、”装備開発とブートキャンプ~”
村への襲撃者たちのことを思い出してしまったんだよ。
あの時は、デモンエイプだけじゃなくヒエンまで操って村へ攻撃を仕掛けてきた。
村に来たばかりのハンターや護衛の傭兵たちが頑張ってくれたんだよ。
あれがまた起こらないとは限らないし、今度はもっと強力な魔獣や、ひょっとするとナレハテが、なんてこともあり得る。
全体の戦力アップは必須だ。
ということで、まず初めに稼働したのはリタの能力を解析して作られたシミュレーション空間での仮想バトル、”みどり村模擬戦ランキング”だ。
ワタリビトだけでなく従魔たちも参加してガンガン模擬戦繰り返して戦闘経験を積み上げてもらう。
特にユーシンやライアーのようにレベルアップの無いゲームからのワタリビトには、地下訓練場のような施設はあまり意味が無い。
タイマンとかチーム戦とか、いろいろなスタイルで徹底的に頑張りましょう。
あ、モチロン俺もね。
”ギルド創設”
冒険者どころか、ギルドという概念そのものが無いので、教育、支援、仕事の割り当てと言ったサポートを行う組織を作る。
所属すると、初心者教育から宿泊場所、仕事の斡旋、素材の買い取りと言ったサポートを受けられるほか、ギルド員専用の装備品を格安で購入できる。
代わりに、ギルド員は、みどり村含めグリンウェル領が何かから攻撃を受けた際には防衛線に強制参加を義務付ける。
これまでは、ハンターたちが狩って来た獲物の素材を卸売市場が買い取って魔素抜きして販売、ということで市場の品ぞろえも安定しなかったけど、ギルドから種類と量を指定、その分はちょっと割高で買取をする。
流通のバランスも取れるし、ベテランなら歯牙にもかけられないような素材収集も依頼することで新人の収入源にもなる。
街道警備や護衛も依頼として登録してギルド会員に割り振れば、それらに割いていた人員を別の仕事に再配置できるし、ゆくゆくは森の開拓や調査もギルドに任せられるようになったらいいな、と思っている。
”ギルド登録者専用装備開発と販売”
手っ取り早い戦力強化は装備品のアップグレードだよね。
兵士と違って、ハンターや傭兵はそれぞれの戦い方みたいなものがあって、みんなが同じものを、とはいかない。多様性が求められるので武器や防具を量産しても、買われなくては意味が無い。
なので、愛用の装備をアップグレード、とかそういった方面で考えていこうというもの。
ドワーフ職人たちも武器や防具の作成に興味を持つ若手が増えてきているみたいだし、ミスリルの装備を一般向けにアレンジしてもらってもいいだろう。
術式杖は高価すぎてまだ使用者が少ないから、安価に提供すれば手軽な戦力アップにはなりそうだ。
個人の指定因子は判明しているので、購入者しか使えなくして、会員以外にはボッタクリ価格でご提供。充填とかもギルドでしかできないようにするから、ギルド会員以外は購入しようとはするまいよ。
”装備開発とブートキャンプ”
ギルド会員より割り増し性能の装備品の支給と、強化育成の促進。
ポーション系も極秘で装備させる予定。
言い出しっぺなんだから、装備品の支給は俺がって言おうとしたら、言葉を遮って書類を出された。
<防衛設備等委託契約書>
と書かれた分厚い書類。
辞書?これ辞書?
これを俺に読めと?
「一応軍事面にかかわることだから、ちゃんと契約書を作っておかないと後々面倒になる。とりあえず確認してサインしてくれ。」
だって・・・10年くらいかかるよ、これ読むのに。
最初のページを見ただけで気を失いそうになった。
みんなが出してきたんだから変なものでは無いだろうと即サインした。
だってさ、俺が知ってる資料の1/4くらいの小さい文字でびっしり埋め突くされてたんですけど。
10年なんてとんでもない、20年はかかる・・・いや、一生無理だな。
対ナレハテ部隊の副隊長にされた時もこんなのなかったよ。
それにしても、いやに準備がいいな。
「いやぁ、シンさん忙しそうだったから、いつ話すか悩んでたんだよ。いやぁ良かった。」
皆もそれに続くように良かった良かったと。
なんか違和感を感じるんだけど。
ま、いいか。
「備えあればとはこのことだね。」
「それにしても、マジで何も読まずにサインしたっスね。」
「あんなに細かいのは10頁までだったんだけどね、バレなくてよかった。」
「だから言ったじゃない、どうせクロウに丸投げでしょ。」
「こうなると、クロウを協力者に取り込んでおいたのは正解だったな。」
「ほとんど図かメモ帳だって知ったらどんな顔するんだろう。」
「大丈夫だよ、あの様子だと二度と見そうにない。」
「クロウ~、これ預けるね、俺、なくしそうだから。」
拠点に帰るなり出迎えてくれたクロウに辞書・・・もとい契約書を託すと、
さっそくお籠りだ。
会員用と警備員など兵用の装備品作成を始めることにした。
あって便利なものの定番、マジックバッグ、こいつの開発はできないものか。
トールが浮遊岩の解析にかかりっきりなので、俺一人で挑まなければならないわけだけど・・・残念ながら、空間拡張系は一切合切再現不可能なことが、わずか1時間で判明した。
正確には、再現可能だけど実用不可ってことが判明した。
空間拡張は魔力を用いる方法では魔導印が大きくなりすぎて対応不可、魔素での運用なら何とかなりそうだけど、結構な量の魔素を常に消費し続ける必要がある。
これが普及してしまうと、アホ王にできるだけ長く罰を受けてもらおうという俺とクソ悪魔の協力理由に反してしまう。かといって異世界の魔素を取り込むようにしたものを普及させていいのか、というと、これも問題。もし破損したりした時、どんな副作用が出るか分からないから俺の目の届く範囲内にとどめたい。
初めに持ってたバックとか、貯蔵庫とかインベントリ系とか、ゲームに紐づいていたものがOKなのは、俺たちのスキルや魔法は魔力ではなく魔素を使っているからで、それらの消費量はクソ悪魔も織り込み済みだったってことなんだね。
結局、マジックバッグとか、馬車の中がまるで我が家~みたいな、ラノベ定番がまた一つ夢に消えたのだった。
しかたないので、以前作ろうと思っただけでそのまま放置されてきた術式杖の開発から始める。
術式杖がバカ高いのは、使う魔石が高価だから。
なんせ、デモンエイプやグレートベアクラスの魔石でも1~2本しか作れない。
もちろん、単一魔石で作られた術式杖は上位の貴族でもなければ手が出せないほど高価。
ハンターたちが苦労して手に入れるものは、2級品以下の合成物だ。
魔石の加工技術は俺以外開発されていないわけだけど、超絶研磨技術で磨き上げられた同種の魔石どうしは、ピッタリくっつけると一つの魔石のように機能する。
もちろん、そんな超絶な研磨技術を持つ職人は国内でも数人、つなぎ合わせもせいぜい1~2か所までが限界なので、2級品以下でも高いのだ。
と、言うことで、俺はそこそこ稼いだハンターや傭兵なら気兼ねなく使える、レベルをめざそうと思う。
もちろん俺の趣味全開で。
と、開発を進めてたんだけどね、俺が集中しだすと絶対邪魔しないはずのクロウがやって来たんだよ。
「お忙しい中、申し訳ありません。グリンウェル卿より、魔国の大使館設置場所の選定はどうなっているかと問い合わせがありました。」
あ・・・ワスレテタ。
「この近くに、20mくらいの岩山があったでしょ、そこでいいと思うんだよね、行き来しやすいし、何かあったら俺らで対処できるし。」
元々そこにするつもりで、場所選びは浮遊岩やらエルフの里やらを見に行きたいための方便だったからね。
ということでさっそく岩山へ。
拠点からは1kmほどの位置にあるから行き来しやすいし、この距離なら魔獣もそこそこいるからダンジョンの稼ぎにもなるだろう。
神崎君・・・もとい、魔王エンバーロック陛下から託された大きなプレート、ダンジョンゲートを岩山の一角に立てかけて、魔力を注いで起動させる。
と、微かな地響きと共にプレートが岩山に吸い込まれてゆき、黒い靄が噴き出したと思ったら、次の瞬間には古めかしい石造りの扉が出来上がっていた。
「なるほど、これが入り口になるのか。」
魔王にはゲートが出来上がったことが伝わっているはずだから、後はお任せしよう。
「あ、ダンジョンが出来上がるまでは不用心だから、誰か護衛に付けといてよ。後、スロークにも連絡よろしくね。」
例によってクロウに丸投げして拠点へ、頭に浮かんでいる物を形にしたい、という欲求が抑えられない。
10日程失敗を繰り返してようやくできた完成品。
その名も術式銃。
術式杖を安価に、使いやすくする、という建前の元趣味に走りまくった普及用装備だ。
形状としては、リボルバーとオートマチックを混ぜたようなものになった。
弾丸の代わりになる魔石は、オートマチックのようにグリップの中へ差し込むカートリッジ式。
安価にするために小さめだ。術式杖は個体差が激しいけど、だいたい平均の半分くらい。
魔石カートリッジを複数所持すれば使用回数も増やせるし、充填中は全く使えなくなる術式杖より使いやすかろう。充填時間も短くて済むしね。
リボルバー部分には、使用できる術式のカートリッジを最大5種まで挿入できる。
本体と、魔力の塊を高速で打ち出す魔力弾の術式カートリッジ、魔石カートリッジ1個をセットにして20万ベルで販売。
術式杖がベルに換算すると50万からってことだから破格だろう。
魔石カートリッジは1つ10万ベル、術式カートリッジは金貨10~30万ベル。
さらに、緊急魔石カートリッジ充填機を50万ベルで販売。1.5Lペットボトルサイズの充填機にカートリッジ一個、丸一日の充填く1/4充填可能。
販売時に個人認証をするから、本人以外使うことができないと。
形状は完全に趣味に走った。
銃身部分なんていらないんだけどね、それ無いとカッコ悪いし。
引金も再現したかったけれど、魔法を放つ、という動作を引き金で再現するには構造が複雑で、量産化が難しい。
ということで断念。シンプルに、グリップの一部、引き金に当たる部分を平らにして、そこに人指し指の腹が触れて、微少な魔力を込めると個人認証と同時に発射。
個人認証の因子はズバリ指紋だ。
術式は魔力弾の他に貫通力を高めた物や着弾した瞬間に破裂する物などなど、順次リリース予定。
あと防具、は、まだ時間がかかりそうなので鎧の下に着る服を強化。
緬70%、スレッドスパイダーの糸20%、ミスリルの糸10%で作った生地を使った、ちょと便利なポケット多めのカーゴパンツやシャツなどを売りだすことにした。
防刃性能と防刺突性能が高めの、丈夫な服だから喜ぶでしょう。
装備品開発と同時進行で進めているものがある。
みどり村模擬戦ランキングだ。
決定以来頻繁に、様々なシチュエーションで行われている。
中でも特に熱いのがタイマンバトルだ。
部隊も初期位置もランダムな状態で一対一のガチバトル。
ダントツ一位はスローク。
なんせ、ユーシン以外全員に勝ち越している上、勝敗表をつけ始めてからずっと安定しているっていう点でも圧倒的。
何といっても、隠密系で隠れられると発見はほぼ不可能だからね。対戦相手は、どうやってスロークを見つけるかに神経を使いつぶされる。
レベルも100。
スキルも完ぺきに使いこなしており、暗殺者としての熟練度も断トツ。
勝率2位はユーキ。
バトルを重ねるごとに調子を上げてきている。
現在封印しているモンスターは20種23頭、レベルも高く、ユーキの指示に忠実。
その中から一度に召喚できる10頭のモンスターを、対戦相手に合わせてうまく組み合わせたり、戦闘中でも絶妙なタイミングでチェンジしたりと、とにかく戦い方がうまいのだ。
経験を積むごとに進化し続けている。
唯一の欠点は、ユーキ自身の自力がこの世界に一般人レベルを超えないこと。
モンスターの知覚レベルを超えた隠密能力、俺やスロークにはとことん弱い。
勝率3位はユーシン。
スロークに勝ち越している唯一の男。
当初は空回りすることが多く、コンボも実戦ではなかなか決まらないと悩んでいた彼に、うっかり最悪のアドバイスをしてしまった。
「ユーシンの本職はクラッシュレーサーなんだから、車使わなきゃ全力じゃないじゃん。」
この一言によってユーシン無双が始まってしまった。
なんせ、車の中にいれば大概の攻撃を防げてしまうんだから。
しかも攻撃にも使えるし・・・クラッシュレーサーの能力だけでもとんでもないことに気が付いてしまった。
大型ダンプのブチかましなんて、だれが防げるかっての。
スロークに勝ち越しているのも、車に閉じこもってスロークの暗殺を封殺してしまっているからだ。
当然俺のトラップも暗殺系スキルも通用しなくなってしまい、勝ち星を奪われまくっている。
いや、悩めるユーシンの助けになったんだから俺のアドバイスは悪くなかったんだ、と思いたいけどさ、ダンプに撥ねられたりひかれるのは勘弁願いたい。
4位がライアー。
彼の場合、ムラッ気が多くて勝率はあまり参考にならないかもしれない。
戦闘に対して真剣すぎるようで、思いついた戦法や組み立ての実験とブラッシュアップに余念がない。
失敗できる環境での戦いを実現できるこのシステムを最高に利用しているのが彼とも言える。
そのせいで勝率は下がっているけど、本人は気にしていないようだ。
最近、戦闘直前にキャラチェンジが可能だということに気が付いたらしい。
ストリートバトラーのキャラなら、隠しキャラ含めてすべて使えるみたいで技やコンボの確認のためにさらに勝率が下がってしまったが、遠距離攻撃を持ったキャラや、短距離だが瞬間移動ができる、武装しているキャラなど30の個性的なキャラを使えるわけで、この先一層強力な戦士になっていきそうだ。
戦闘中にチェンジできないのが不満だと漏らしているみたいだけど。
で、5位が俺。
地力で劣る俺がこの位置にいるってだけでも褒めてほしいところなんだけど、まじめにやってないとたびたび怒られるのはなんでなんだろう。
レベル90から全く上がらなくなってしまったままずいぶん経つけど、俺の職業、超越者のステータスはかなり低いし、レベルアップも非常に遅い。
レベルが上限の100レベルに至っていて、近接戦闘系ステータスの伸び率が良いスロークに並ぶには、レベルが130以上にならないと。
ということで、現状圧倒的に能力不足なのだ。
それを多彩なスキルに魔法と罠でここまで勝率を上げているというのに、評価されないのはなんでなんだ?
「それはシンさんがシンさんだからですぅ。」
とはユーコの評価だ。
意味わからん。
6位マナ。
病院が忙しいのであまり参戦しないけど、戦力強化というより、ストレス発散のために参加している節がある。
レベルは10、オートマトンではカンストだ。
レベルアップに伴い選択していけるサポート機能は医療関係に全振りしており、戦闘能力は現在の俺と同じ程度。
7位ユーコ
スピードでは断トツ。
ランダムで決まる戦場によって勝率が大きく変わる。
ピンボールのように、空中を縦横無尽に飛び跳ねながらの体当たり攻撃と、トゲを手裏剣のように放つ技で、戦場がハマルと手が付けられなくなる。
8位マスター
マナと同じく、レストランや料理研究が多忙であまり参戦していない。
物理攻撃のパターンが少ない代わりに、4元素の広範囲魔法が豊富。とはいえ戦闘経験が少なすぎて勝ち星を稼げない。
9位アオイ
なぜ参加しているのか?
右手に持った武器を頭上から振り下ろすだけ、な、シンプル極まりない戦闘方法しかないクラフト重視のゲームなのに。
ということで断トツ最下位。
と、現状参加しているワタリビトがこの9名。
ヒノモト勢が加わるともっとカオスな状況になりそうだけどね。
ということで、一応戦力も順調に強化中なのである。




