90:エルフ
ど~ゆ~こと?
コンにかしずくエルフの戦士たち。
当のコンも困惑している。
当然俺には何が何やら。
とりあえず敵対しなくて済みそうでなによりだけどね。
エルフの捜索を開始した俺たちは、オオザイス号を浮遊岩周辺に駐車して徒歩で、蠅の王から聞いた集落付近を目指した。
オオザイス号を未知の魔獣とかと勘違いされたら困るし、ここから先は樹の密集度が段違いなのでオオザイス号のサイズでは木を切り倒しながらでないと進めなくなっていく。
徒歩でも結構きつい森の中を進む。
エルフとの出会いって言ったら、やっぱり鉄板はいきなり矢を射かけられて威嚇され、気が付いたらグルリと囲まれているっていう、あれだよね、アレ。なんて、ちょっとだけ胸熱を期待してたんだけど・・・。
突然目の前に5人のエルフが現れ、理解できない言葉でまくしたてられたかと思ったら、コンの元でかしづいてしまった。
なんぞ、これ?
ちゅーか、言葉が分からん。
ドワーフとは普通に話せたぞ。
そういえば、ドワーフは何でヒトと同じ言葉だったんだ?
気になりだすと気になってしまう。
なんで大陸の違う魔国と言葉が同じだったのか、とか、なんならファーレンとだって言葉が違っててもおかしくないのにな・・・うん、考えるのやめよう、いつかわかるさ。
問題はエルフの言葉が分からないってことだしな。
コンになにか話しかけてるけど、コンもさっぱりわからんって感じだし。
エルフたちも、コンに言葉が通じないことを察したのか、身振り手振りでついてきてほしい、的なことを伝えてきている。
まぁ、コンに対して友好的な態度を示そうとしているみたいだからここは乗ってもいいのかな。
すこし考えたけど、とりあえず、彼らについて行くことにした。
道なき森を2時間ほどかけて進む。
「ここ、何度か通ったよねぇ。」
いつの間にかハクアの背に乗っかっているユーコがボソリと愚痴った。
ちゅうか、せめて俺の許可はとれよ。
「場所を特定されたくないんじゃないの。」
何度も曲がったり、同じ場所を何度も通ったりしているのは把握済みなんだよね。
蠅が集落を特定しているし、俺の魔導地図もあるから意味は無いんだけどね。
ここはおとなしくついてゆく。
「つまんなぁ~い。」 「あきたぁ~。」
懸案事項だった双子の暴走まであと・・・じゃない、双子対策第一弾を発動するしかない。
「とりあえずこれでも食っときなさい。」
そう言って渡したのは、新作のピリ辛スルメもどきジャーキーだ。
ファーレンからたまに入荷するスルメっぽいイカの魔獣で作った、濃いめの味のジャーキーだ。
ピリ辛と歯ごたえを楽しむ大人の味だけど、双子も好きなのはリサーチ済み。
パクパク食べるようなものではないから時間稼ぎにはもってこいだろう。
「おやじくさぁ~い。」
とか言いながら手を伸ばすんじゃない!
器用にハクアの上から手を伸ばすグータラ猫様。
まぁ、これでしばらく静かになるだろう。
情報通り樹々が密集していき、次第に木にはいばらが絡みつくようになってきた。
そしてとうとう、進むことができないほどのいばらで視界が塞がれる。
この先に集落がある。
道はない、門のようなものも無い。
彼らは、木を伝って上を通るからだ。
彼らに続いて木を登る。
いばらはさらに密集している。
その中で、ごく自然にいばらの無い隙間を通ってゆく。
刈り取られたわけではない。
そのように育てたのだろう。すごく自然に見えるから、彼らの案内が無かったら見つけるのに苦労するだろう。
いばらを抜けると、木や枝で作られた細い坂道が地上まで続いていた。
緩やかにカーブした造形がなんとも美しい。
坂を下ると、2~3言葉を交わしてから、一人が奥へと駆け出した。
純木造の家が並ぶ。
一応報告では聞いていたけど、やっぱり木の上に暮らす、というわけではないようだ。ちょっと残念。
ここからは10人程のエルフが見えるけど、やっぱり皆さんお若くておきれい。
残念ながらタイプではないけど。
うん、堀が深くてハリウッド系なんですよね。
間違いようのない美男美女ぞろいなんだけど、純和風系の顔立ちが好きな俺の好みとは違うんだよな。
その美男美女たちも、コンを見るとその場で膝をついて胸の前で手を組んで拝みだした。
なんぞこれ?
通りの奥の方から、数人のエルフたちが駆け寄ってきた。
そしてやはりコンの前で膝をつく。
「光栄に存じます、サテルフロウ様。よくぞ我らが村へお越しくださいました。」
中央にいたエルフがうやうやしくコンに話しかける。
あ、言葉が分かる。ちょっと訛ってる気がするけど。
「なんのことか?わらわはコン。サテルフロウなどではない。」
超の付く怠け者のコンも、流石に否定のための声を上げた。
「承知しました、今世はコン様とお呼びすればよろしいのですね。」
?
何かと勘違いしてるのは間違いなさそうだけど、今世?
ここはもうちょっと情報を引き出してほしいところだけど・・・はぁ。
コンは早々に諦めモード、というか、うやまわれたりが大好きなので流れに任せ始めてる。
<もうちょっと粘れよ!>
「ふぅ・・・お前は喋れるのだな。」
いかにもめんどくさそうに告げたコン。
もうちょっとはやる気をだな・・・無理か。
コンだし。
「われらの言葉は元は同じ、長き年月をかけ変化した物にございます・・・」
そうして語られた言葉の歴史、というか起源は、例のアホ王の国だった。
かつてアホ王、ガイゼルヘルグの国は、世界を蹂躙した。
国を侵略し、占領すると言葉を奪い、文字を奪った。
文字の書かれたものはことごとく破壊し、焼き、一文字すら残すことなく、話す言葉も徹底的に排除した。
次に文化を、芸術を破壊した。
すべてを自らの国と同じものに書き換え、懐かしむことすら許さなかった。
やがて、世代を変え人々の記憶からはかつての言葉も、文字も、文化も失われた。
ガイゼルベルグは世界のおよそ半分を支配下に。
俺がいままで、国をまたいでも、別の大陸に渡っても言葉が通じた理由がこれってことだ。
このエルフの集落は外界とは全く隔絶された生活を送ってきた。
若者言葉とか、ギャル語とかあるでしょ。
言葉を略したり、並べ替えたり作り替えたり。
長い年月をかけて、エルフたちの言葉もそうやって変化してきた。
100人程度の小さな世界で、しかも、エルフの寿命は長く、子供ができにくい。
さすがにファンタジー物の物語のように、数千年とか寿命が無いとかってことは無いみたいだけど、三百年くらいは普通に生きるそうだ。
現在日本の流行り言葉のように、一時の流行で終わらず言葉そのものが変化し続けた結果、全く分からない言葉になってしまったようだ。
だから、文字もほとんど同じだし文法なんかも同じらしい。
単語は全く違ってるけど。
ただ、もしもの事態が迫った時、外との意思疎通ができる手段が必要なので、彼らにとっての古代語を話すことのできることが、この集落の指導者的立場になる条件なんだそうだ。
あっさりと言葉の謎が解明されてしまった。
これだけはアホ王に感謝・・・していいのか?
あと、エルフのの特徴として老化が無いってことも聞けた。
若い姿のまま寿命を迎えるそうだ。
<で、コンが崇められる理由ってなんだ?>
あ、俺からの密談を無視しやがった。
こいつ、完全にちやほやされるのが気持ちよくなってるな。
ほんとに俺の従魔かよ・・・って、コンだしなぁ。
広場のようなところまで案内されると、ようやくコンがもてはやされる理由が分かった。
それは、広場の奥、コンが案内されてドッカリとくつろいでいる台座の後ろにかけられたレリーフに描かれていたからだ。
ありがたいことに、読める言葉(エルフにとっては古い言葉)で。
かつて、エルフたちに起こった大災害から救ったという、ハイエルフとお供の狐にまつわるおとぎ話だった。
世界が終わろうとしていた時代、突如大地が割れ、天空へと浮かび上がった。
その時、巨大な岩や巨木が大地へと降り注ぎ、エルフの国を押しつぶそうとした。
それを、白銀に輝く一人のエルフと、4本の尾を持つ黄金に輝く獣が、降り注ぐ岩や巨木からエルフたちを守り、この地へと導いた。
どうやってか、とかは書かれていないのが残念な所だけど、たぶんこのハイエルフって、ノエルさんのことじゃないかと思うんだよね。
獣が何なのかは分からないけど、描かれた姿はどことなく狐っぽい。
コンは九尾、9本の尾を持つ狐のモンスターだ。
現在は2本を医師と警護人として病院へと送り込んでいるので7本だけど、獣が成長した姿と捉えられたみたいだね。
で俺たちはコンに使える従者ってことか?
なんか、扱いもコンに比べるとぞんざいだし。
言葉が分からんってのも面倒だな、話せる連中はみんなコンのところだし。
<オイコラ、話ができんから一人くらいこっちによこせ。>
密談で指示すると、しばらくして不服そうな顔を隠そうともしない青年(に見える)エルフがやって来た。
「何の御用でしょうか。」
ちょっとイラっと来る態度だけど、ここは大人の対応をせねば。
「我々は、この森の西側にある町に所属しています。今回は、この近辺で見つかったという、宙に浮く巨大な岩について調査に来たのです。」
そう言うと、エルフの表情がパッと晴れた。
「やはり、コン様は悪鬼の巨岩から我らをお救いに来られたのですね!」
そう叫ぶと、周囲のエルフたちとかってに盛り上げって騒ぎだしてしまった。
マテコラ、こっちに話をさせろ!
との思いも空しく、そのままお祭り騒ぎになってしまった。
どうすんだよこれ。
申し訳ありません、仕事の都合で、次回更新は8月23日(水曜日)以降となります。




