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89:浮かぶ

 魔国との国交も無事締結、調印やら何やらも滞りなく済んで帰ってきたわけだけど、そこで終わりじゃなかったんだよ。

 困ったことに、きっかけが俺なんだからと大使館の設置場所選定まで押し付けられてしまった。

 ヒノモトの連中が来る準備もしなきゃならんというのに面倒な。

 それもあって、森全域がグリンウェル地区に編入された。森のどこに設置してもいいけど、何かあったら責任はとれよ、的な圧を感じる。

 白蜘蛛対策も必要なくなり、帰還していた蠅の王に森の詳細図作成を依頼した。

 ハッキリ言って、村があるのは森の西側で、東側にはほとんど行ったことが無いんだよ。

 デモンエイプもグレートベアも元々は東側に生息していた魔獣だし、まだ知らない強力な魔獣や魔者がいるだろう。

 というか、大使館は俺の拠点の近くに設置してもらう予定なんで編入も調査も必要ないんだけど、いい機会だから調査も同時にやってしまおうってわけ。

 たぶん、こういった切っ掛けが無いとまた当分放置するんだろうしね。

 なんて感じで準備を進めていたんだけど、蠅の王がとんでもないものを発見したとやって来た。

 「浮いてる岩?」

 「はい、この拠点とほぼ同じ面積はあると思いますが、それだけの巨大な岩が、10mほどの空中に浮いておりました。」

 空に浮くね・・・嫌な予感しかしないんだが。

 俺の頭に浮かんだのは、アホ王ガイゼルベルグ、諸悪の根源が生息し続ける地。

 ナレハテだらけの迷惑極まりない、天空の国。

 ノエルさんもこの森にいたんだし、元々奴の国がこの付近だった可能性はあるのか?

 聞いてしまうのは簡単だけど、アホ王の追っ手に脅え、魔物化に脅え、とんでもなく長い時間を隠れ暮らしてきて、ようやく何に怯えることも無く、穏やかな生活を送れるようになったというのに、無駄に不安感を与えたくない。

 「周辺にはデモンエイプやグレートベア相当の魔獣が多く生息しておりました。さらに魔者の集落もいくつか発見しております。」

 魔者か・・・そう言えば、パラミドたちの集落も東側だったっけ。

 「オークとかオーガとかはいてもおかしくは無いか。」

 「はい、ただ、中には人に酷似した種の集落もありました。ノエル殿に近いお姿に見えましたが。」

 「エルフか!」

 思わず立ち上がっちゃったよ。

 この世界に来て結構立つし、今ではドワーフとの交流も盛んに行っているけど、エルフとはいまだ接点が無かった。

 俄然やる気が出て来たゾ。

 「とりあえず、そのまま詳細な地図の作成を続けてくれ。その浮遊する岩ってのはこっちで調べてみるよ。」

 さて、楽しくなってきたぞ。

 さっそく調査隊を選定しないとな。

 う~ん、あんまり大人数だとエルフたちに警戒されちゃうかな。

 とはいえ、カムイみたいなモロ死霊系とかも怖がられるみたいだな。

 ここはひとつ、愛くるしいをコンセプトに選ぶか・・・マガちゃんとかハクアとかコン・・・う~ん、

 マガちゃんだと、セットで凶悪な二人が付いてきそうだな。

 ハクアもコンも動物系ではあるけれど・・・かわいい・・・かわいい?

 俺の従魔、愛らしいキャラ少なくね?

 いや当然か、そういうゲームじゃないし。

 今までコンは連れて出たことないんだよなぁ・・・あいつ、俺以上に引き籠りだから。

 うん、深く考えるのはやめよう。

 マガちゃん、ハクア、コンと俺に、ほかにだれか・・・できればコミュ力高い人・・・コミュ力?

 俺の従魔にそんな奴いねぇ!

 仕方ない、誰かに頼るか・・・う~ん、コミュ力高い人・・・ユーシンはちょっと違うなぁ。

 穏健派ってことでユーキに頼みたいところだけど、彼も今やグリンウェル軍の指揮官だし、連れ出すのもなぁ。

 あ・・・

 思いついちゃった。

 でもなぁ・・・なんかやだなぁ。

 他に誰か・・・アカネも忙しいみたいだし、カイトは・・・ダメだ、意外と人見知りなんだよな。

 あぁいやだ、頼みたくない。

 うん、ギリまで保留にしよう。

 なんてかんじで出発直前に言ったら、膝カックンチョップからの背中で爪とぎという凶悪なコンボをかましてきやがりました。ヒールで治るからって容赦がない。

 文句ブーブー言いながらもついてきてくれることになりました。

 ということで、浮遊石&”エルフ”調査に出発です。

 

 目的地まではおよそ200Km、樹海の中を進むとなると10日以上はかかるだろう。

 もちろんそんなに時間をかけるつもりはない。

 新兵器のお披露目といこう。

 構想は、実のところみどり村に移民を受け入れるより前、ユーシンの軽トラで森の中を苦労しながら移動していた時からなんだよね。

 デコボコの上倒木や枯れ枝、根っこなんかで何度舌を噛み、ひっくり返りそうになったことか。

 しかし、構想を始め、研究を始めても大きくて分厚い壁に阻まれてきた。

 完成形のイメージだけはすぐに思いついたんだけどね。

 うん、簡単に言うと、多脚型の運搬機だよ。

 昆虫のように、自由に動く多脚にすることで地面の形状にとらわれず水平を保ちやすくなるし、倒木程度なら乗り越えられる。

 大きすぎる壁は、その脚を制御することだった。

 プログラマーじゃないんよワシ。

 トールちゃん頼りでいろいろ試して、平地だけはそこそこの速度で動けるようになったけど、激しく複雑な地形の森の中ではあっという間に破綻してしまった。

 平地移動なら車輪の方がよほど乗り心地もいいしね。

 で、頓挫していたんだけど、協力者の登場で一気に実用化までこぎつけたのだ。

 命名・オオザイス号

 その名の通り、ザイスをモデルにした機体で、協力者はコザイスだ。

 うん、制御諦めた。

 コザイスをパイロットに、制御を丸投げしたのだ。

 機体も蠍蜘蛛さそりぐもに近い形状に決定。

 前脚がハサミ状のマルチツールで、邪魔な障害物をどかしたり攻撃、防御も担って、残りの足で移動と姿勢制御をおこなう。

 胸部のコックピットに乗り込んだコザイスと感覚をリンクさせることで、自分で動くのと同じ感覚で操作できるのだ。

 腹部は取り換えができる。

 

●ノーマル:乗員4名で丸みのある箱型。後ろの座席は取り外し可能で、荷台としても利用可能。

●タンク:乗員1名で、円筒型。円筒の上部は回転式の術式杖がセットされていて、中距離攻撃が可能。乗員は砲撃手。

●カーゴ:箱型の荷台のみで運搬専門。

●キャリー:天井無しの荷台と、蠍の尾のような多関節アームを装備、針に当たる部分が三本指になっており、行動不能になった機体などを搬送できる。

 

 2機しか間に合わなかったので、タンクにした機体に俺が、ノーマルにした機体にマガちゃんとユーコに、やっぱりかぎつけられたレンとユイが乗り込むことになった。

 ハクアとコンは乗り込む必要ないしね。

 ビッと前足で敬礼をしてからコックピットに乗り込むコザイス。

 そういうのをどこで覚えるんだ?

 タンクの座席はかなり狭いし、窓も無い。周囲の状況はモニターで見るしかないのだ。防御面を考えたのと、ほとんどのスペースを術式杖用の成型魔石で埋め尽くされてしまうからだ。

 窓が多く、各座席に軽自動車の後部座席程度のスペースがあるノーマルと比べると結構辛いな。

 今後の課題にしよう。

 フレームや外殻は、入手の目途が立ったアダマンタイトとオリハルコンをふんだんに使・・・表面に薄く張り付けた(こういうところがセコイとアオイ&ユーコに馬鹿にされてしまった)。

 非常にスムーズだ。

 足が接地するときの振動もごくわずかで、狭く無ければ非常に乗り心地が良いと言える。

 朝早めに出発して、途中何度か休憩をはさんで深夜には浮遊岩の見えるポイントまでたどり着けた。

 鬱蒼として森の中を時速20Km程度で走破できたのだから、これは大成功だ。

 途中魔獣と遭遇しなかったのは、ここまでの行程周辺にハクア&コンと渡り合えるほど強力な相手がいなかったということだろう。

 真っ暗なので、貯蔵庫からさっそく簡易拠点を取り出して一泊した。

 

 「でかいなぁ・・・。」

 マジで、巨大な岩が浮いている。

 直径100mはありそうだな。

 上の方は割と平らか?

 あ・・・トール連れてきてないじゃん。

 調査するのにトール無しでどうするんだよって。

 エルフに気を取られ過ぎたなぁ。

 ま、いっか。

 とりあえずサンプルだけ持って帰ろうかな。

 コンの尾の一つ、大鷲に乗って浮遊する大岩の上に。

 しっかりついてきた双子は、早速岩の上で騒いでる。

 下からは見えなかったけど、中央付近には拳大から指先程度の石が無数に浮いている。

 その下、大きくくぼんだ中央には、人とさして変わらないサイズの、人だったと思われる者が柱状の岩に貫かれたまま伏していた。

 時折ピクリと動くから、かろうじて生きているらしいと思える。

 ナレハテにしては人らしいし、小さすぎる。

 ナレハテになりかけ?

 それも変だな。魔素の濃い地上でなら、ナレハテ化は加速するはずだ。

 とりあえず全員を岩の上に運んでもらうと、窪みの外で対応を考えることにした。

 「浮いてる感じが無いのねぇ。」

 そういう感想もあるんだな。と、素直に思ってしまった。

 巨大すぎるからなのか、地面はしっかりしていて浮遊感は感じない。

 「なんかぁ、痛そう。」

 ナレハテは痛み感じないと思う・・・けど、見た目は痛々しい。

 「力を感じません。動いていなければ死んでいると判断するのですが。」

 ハクアはオーラを見ることができる。そのハクアが力を感じないってことは、やはりナレハテのなりそこないなんだろうか。

 コンは・・・我関せずと寝ころんでやがる。

 こいつだけは全然成長を感じられないんだよなぁ。

 怠惰でひきこもりなのは設定だけど、もうちょっとどうにかできないものか。

 とにかく、今回は手を付けないでおこう。

 浮いている小石をいくつかサンプルとして確保して、中央のナレハテもどきは戦力をそろえた上で再調査することにしよう、などと話し合っていると、

 「生贄そのまま~?」 「食べないの~?」

 はい?

 生贄?

 そうだった、こいつら知っててもおかしく無いんだった。

 「生贄って、あれのこと?」

 「そうだよ~。」 「死んでないけど生きてない~。」

 あぁ、また理解しにくい言い方・・・仕方ない、頑張るか。

 昼食をはさむことになった双子とのやり取りでようやく分かったこと・・・。

 

 貧しい家庭の子だった彼は、理由もわからず人々が魔物化する中、両親が入信していたあるカルト教団によって、神の怒りを抑える生贄として捧げられた。

 悲劇だったのは、彼が魔物化し始めていたということだった。

 儀式で生きたまま心臓を抉りだされた彼は、死ねなかった。

 信者たちの狂信的な憎悪と恐怖、何を思って描いたのか祭壇に隙間なく描かれた血の印によって、彼は、一気にナレハテ化し始めてしまったのだ。

 理性も失った彼は、儀式の参加者を殺戮し、教会を破壊しつくして外へ。

 恐るべき化け物への恐怖に我を忘れた警備兵たちによって、崩れた柱に串刺しにされるまで多くの犠牲者を出すこととなった。

 貧しい人々の暮らす、天空の国の外輪部、スラムともいうべき場所にあった協会の柱に串刺しにされた彼は、串刺しにされたまま暴れ続け、周辺は大きく崩れ、やがて国から切り離されて地上へ。

 そのころにはもう、彼はほとんどの力を失っており、かろうじて生きているだけの存在になってしまったようだ。

 食べるとは、ファーレンで巨大蜘蛛を倒したスラりんの攻撃のことを言っていたらしい。

 「ひどい・・・。」

 「うん、できるだけ早くスラりんと戻って来るよ。」

 

 気を取り直してエルフ捜索を開始したわけだけど、再び困惑することになってしまった。

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