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84:ダンジョンマスター

 「陛下、異形は第4階層を突破、現在第5階層にてアルムプルト率いる獣鬼部隊にて足止めを試みております。」

 豪華。

 おぞましい。

 黄金や宝石で装飾された広間は、見る人によって印象が全く異なるだろう。

 その奥に、ひときわ豪華でおぞましい玉座があり、青白い顔の青年が座していた。

 「ウォーオブザダンジョン」

 ダンジョンマスターとして、ダンジョンを設計して、モンスターやトラップを操り侵入してくる冒険者やヒーローを返り討ちにしてゆくストラテジーゲーム。

 倒した侵入者の所持品や、掘り出した財宝でダンジョンの整備やトラップの設置、補修をし、集めた魂を贄にモンスターを召喚する。

 召喚したモンスターの維持にも財宝や魂を必要とするため、侵入者こそが生命線ともいえる。

 この世界では、地下洞窟への侵入はタブー。

 侵入者を見込むことができない。

 スタート早々積んでいた。

 そんな状況から、苦労に苦労を重ねてようやく理想のダンジョン王国をつくり上げつつあった。

 その矢先に突然訪れた侵入者によって、大きな損害を受けた。

 陛下と呼ばれた青年は、不機嫌そうに脚を組むと背もたれに寄りかかった。

 「苦労して閉じ込めても3か月で抜け出されたか。」

 彼の王国に突如侵入してきた異形の化け物は、どれだけ切ろうとも、突き刺し、擦りつぶそうとも痛みを感じる様子すらなく、魔法も同様、状態異常すら何一つ効果が無かった。

 苦肉の策で、大きな犠牲を払いながら分厚い壁の部屋に閉じ込めた。

 数日は内部から衝撃音が響いていたが、それもやむと、これまで大きな変化はなかった。

 昨夜までは。

 異形の化け物は、酸のようなもので石の壁を少しづつ溶かし、ついに脱出してきたのだ。

 どのような攻撃もまるで通用せず、なすがままに蹂躙される配下達。

 一応人型の体裁を保ってはいるが、まともに動くことができないのか、のそのそと這いずり回っている。

 全身から染み出す酸の体液のせいで、触れただけでも焼けただれ、魔力のこもった武器や防具ですら数時間後には錆に覆われてしまう。

 冒険者も勇者も存在せず、地下洞窟に入ろうとするものなどいない世界で、死に物狂いでダンジョンを拡充し、王国を築き上げて来たのに。

 こんなにもあっけなく崩壊することになるなんて。

 「陛下、侵入者です。」

 「その程度のことをわざわざ報告するな!始末して糧にしろ。」

 普段からこの程度のことは勝手に対処しているはずなのに。

 違和感を感じつつも、苛立ちに任せて怒鳴りつけてしまった。

 「それは少々かわいそうというものですね。報告は最後まで聞くべきでしょう。」

 聞き覚えの無い声に、戦慄を覚えた。

 ダンジョンマスターには戦闘能力に関するステータスが無い。

 つまり、一般人並みの能力しかないのだ。

 報告に来たヴァンパイアがガクリと膝をつくと、その陰から、真っ黒な人型が浮き上がった。

 「お初にお目にかかります。私はシャドウデーモン、さるお方の指示により、ナレハテの対処法をお伝えに参りました。」

 そう言うと丁寧にお辞儀した影。

 「ナレハテだと?アレのことか。」

 救援か?いや、そんな都合の良い話は無い。

 何か裏があると身構える青年に、影は静かに告げた。

 「ナレハテは世界中に現れ、殲滅は最優先事項となっております。さらに多くのナレハテが現れる前に、対処法を各地にお伝えするのが我が使命。

 燃やし尽くすか溶かし尽くすか。この二択になります。」

 「馬鹿か!そんなこと、とっくに試した。」

 5頭の火竜が一斉に放ったブレスですら倒せなかったのだ。

 「火力が足りなかったのでしょう。」

 こともなげに言う。

 「ふざけるな!火竜5頭のブレスが火力不足だというか!」

 立ち上がると、金のゴブレットを影に投げつけた。

 「デモンスライムが完全に包み込んで5分、これが、最初にナレハテを始末した際にかかった時間です。」

 「5分・・・だと?」

 「ナレハテには痛覚などが無く、すさまじい再生能力を持つという共通の特性があります。ドラゴンのブレスではせいぜい数十秒、再生力を超えて焼き尽くすには全く足りませんね。」

 ありえない。

 長時間焼きつくせる炎なんて。

 玉座に座り込む青年。

 「全身を包み込むことが可能であれば、時間はかかりますが火竜1頭の火力でも問題無いでしょう。後はお任せします。」

 「まて!」

 影の中に消えようとしたシャドウデーモンを呼び止めた青年は、再び立ち上がるとシャドウデーモンの元へ、頭を下げ謝意を示した。

 信じたわけではないが、情報を聞き出す時間が欲しい。

 「主にはどこで会える。できれば直接謝意を示したいんだが。」

 そもそも、主とはどこのどいつか。

 外とのやり取りをおろそかにしてきたという自覚はあったが、力を入れる余裕も無かった。

 ここの存在を知りうる何かが存在していたということか。

 「不要です。緊急事態と考え直接伺いましたが、元々の指示では対処法のうわさを流す程度で良いとのことでした。」

 あっさりと拒否された。

 「それじゃぁこちらの気が済まん。」

 これでも拒否するようなら、安易に信じるのは危険だろう。むしろナレハテを送り込んできた張本人かもしれない。

 シャドウデーモンはすこし考えるそぶりを見せた後、

 「南へ、大海を超えた先へ。」

 それだけ言うと、シャドウデーモンはスゥッと消えた。

 

 「いかがいたしましょう。」

 漆黒のドレスを身にまとった美女が、考え込む青年に声をかけた。

 (南の大海を超えた先だと?くそ、南に海があることすら初耳だぞ。)

 ダンジョンの運営にばかり気を取られて、周辺のことまで気が回らなかったばかりに、判断できる材料があまりにも少ない。

 「信じてみるしかないだろうな。問題は、どうするかだが。」

 正直な話、火竜のブレスほどの火力を連続で長時間など、現在の戦力ではおよそ不可能な話だ。

 環境変更で溶岩帯を設置することはできるが、それには階層全体を変更せねばならず、しかも数日間かかってしまう。

 現状、ダンジョン内で溶岩地帯を設定してあるのは第9階層のみ、そこまで蹂躙を許すわけにはいかないし、コアのある10階層に近すぎる。

 情報を完全に信用できない以上、そこまでの危険は冒せない。

 「動きを止めることができれば、一体ずつのブレスを交代で数珠つなぎにすれば長時間の連続燃焼は可能かと思われます。」

 美女の提案を受け入れるとして、どうやって動きを止めるか。

 トラップとして落とし穴は設置できるが、移動速度を落とすための物にすぎず止めることまではできない。

 「もう一度奴を囲い込んで動きを封じるしかないか。」

 前回は、あらかじめ用意してあった三方を分厚い壁で囲んだスペースにの大量のゴーレムで押し込み、そのゴーレムを犠牲にして空いた一方に壁を作り閉じ込めた。

 ゲーム時と異なり、壁を作るにも時間がかかるし、ゴーレムも前回の1/3程度しか回復していない。

 「穴を掘ってはいかがでしょうか。」

 「落とし穴か?アレでは足止めにもならんだろう。」

 「いえ、システムの落とし穴ではなく、実際にアレを落とせるだけの穴を掘り、そこに落とすのです。」

 

 突貫工事で7階層に巨大な穴が掘られてゆく。

 この間にも、影がナレハテと呼んだ異形の化け物は蹂躙を続けている。

 システム上は、1階層毎に造れるのは平面のみ。

 トラップとしての落とし穴でもない上ダンジョンの床は強化されているため、完全に手作業による穴掘りはとてつもない労力が必要だった。

 ようやく、ナレハテを落とせるだけの穴を掘り終えた時は、7階層の入り口まで侵入されていた。

 「ギリギリだったな。」

 眼前に迫る異形の怪物。

 ゴーレムはとうに尽き、ドラゴニュートが穴へと押し込む。

 強靭なドラゴニュートの鱗も、ナレハテの酸でボロボロと崩れ落ち、回復魔法でかろうじて姿を保っている状態。

 それでも押し込む力を緩めない。

 主の命令に忠実に従うモンスターたちに、死の恐怖は無い。

 ようやく落とした時、ドラゴニュート達にはもう立ち上が力は残されていなかった。

 人型最大戦力のドラゴニュートですら、壊滅するほどの損害。

 これで仕留めることができなければ、もう打つ手はない。

 火竜のブレスがナレハテを襲う。

 数十秒、ブレスの炎が小さくなると同時に2体目の火竜がブレスを吐く。

 それだけではなく、サラマンダーや火系魔法を使うモンスター総出で炎による攻撃を繰り返すこと7時間。

 ついに、ナレハテの消失を確認した。

 精も根も尽き果て、鬨の声すら上げられぬほど消耗しつくした中、ダンジョンマスターである青年は、傍らに控える美女に過酷な指示を出さなければならなかった。

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