81:なんで?
なんかモヤモヤが残りつつも8階層を攻略して9階層へ。
頭を切り替えないとな。
8階層では緊張感が抜けすぎたから。
まずは情報収集、9階層入り口からそっと中を覗き込む。
「どう思う?」
9階層には、100頭近い狼型の幻獣がいた。
大型犬の倍近い体躯で、中央にはその3倍はあろうかという大型の狼が3頭。
「おそらく大型の3頭は我以上でしょう。」
個体の強さをオーラのように知覚できるハクアは、3頭の放つオーラが自身以上であると認めた。
「気にしすぎるなよ。それは完全な能力じゃない。」
確か、エイルヴァーンでフェンリルが持つスキルのオーラ感知は、戦闘にかかわる能力やスキル、レベルをざっくりと数値化して、オーラのように視覚化させるというもの。大きさや色で強さを判断するが、あくまでも目安にすぎず絶対的な判断基準にはなりえない。
自身より弱いと認識した相手に後れを取ることもあるし、強いと認識した相手を圧倒することもある。要は、戦い方次第で結果も大きく変わるのだ。
「なんの、我らが付いているのです。瞬く間に殲滅してご覧に入れましょう。」
背後から野太い声。
「って、なんでついてきてるのさ。」
当たり前のようについてきている8階層の住人達。
おかげでなかなか気持ちをリセットできないんだよな。
「しかも普通にしゃべってるし。最初の変な言語は何だったんだよ。」
「雰囲気が出るからとオヤブンが・・・」
あの双子、自分たちのことオヤブンとか呼ばせてるのか・・・
「オヤブンから、聖書はダンナが授けてくださったと伺いました。ならばダンナをお守りするのは我らの務め。」
聖書って・・・つくづくだよ、おまえら。
とりあえずは戦力に数えておこう。
かなり癖強すぎるけど。
いったん8階層に戻って作戦を立て直すことにした。
なんせ敵の数が多すぎる。
こっちの戦力もちゃんと把握して作戦立てないと。
まずハクアにカムイ、ヤミ、マガちゃん、コクエンと、エンオウ、ガルド、クマドンに俺。
そして、8階層の住人。
名前を聞いたけど、無いというので、適当につけることにした。
巨漢はよく見ると、なかなか愛嬌のある顔をしている。
筋肉と脂肪で真ん丸の体と、背中をガードする中華鍋のような外殻は、直立したテントウムシを思わせた。
非常に安直だけど、パッと思い浮かんだのがナナホシテントウムシ、ということで「ナナホシ」と呼ぶことにした。
見た目通りのパワーと、見た目に似合わぬ素早さを兼ね備えた肉体派だ。
ライダーもどきは、一瞬浮かんだ「お面ライダー」を早々に棄却して、好きだったライダーから「フィフス」と名付けた。
自作らしいコスプレ衣装を、もっといいの造ってやるから気にせず戦え、と言ったら片膝ついて忠誠を誓われてしまった。
安いな、オイ。
元々も戦闘スタイルもライダーっぽく徒手空拳、剣も多少使うということなので、確かにライダー役にはぴったりだったのだろう。
蜘蛛蠍の親には、見た目から「ザイス(座椅子)」と名づけた。なんか、喜ぶと腹部を持ち上げて座椅子みたいになるんだよね。その時は尻尾をくるっとまとめて飾りっぽく見える・・・見える?まぁ、じっくり見るとそうでもないけど、ファーストインスピレーションってことで。
子供たちには、まんま「コザイス」と名付けた。数えたら100匹もいるんだもの。とりあえずみんなコザイスで。
ザイスたちは真正面から戦うべきじゃないから、しっかり能力の確認をしておかないとね。
蜘蛛ではお馴染みの糸、もちろんザイスも使うことができる。ただし、使い方は普通の蜘蛛と同じ、自由自在に動かしたり、物を切断したりはできないらしい。
粘着しない糸は強度も強力で、相当な技物でも切断できないほど。
粘着する方は粘度は強力だけど、強度は弱めで、この世界の力自慢ならなら苦労せずに切れるレベル。ただし、切れたら切れたで強力な粘着が体のみならずあちこちにくっ付いてえらいことになる。
拘束するのに便利そうだ。
毒は蠍尻尾と牙の2か所から、蠍毒は、多様な毒素の混合毒で激痛、壊疽、意識障害、呼吸器障害など多様な状態異常を起こす。牙の方は神経毒で、強力な麻痺を起こす。
やっぱり、糸を利用したトラップがいいね。
拘束して毒を注入すれば勝利確定だよな。
モヤは、ホントにモヤだった。
蠅の王みたいに蠅の集合体とかではなく、砂粒より小さい粒子の集合体。
一応核にあるものはあるようで、ビー玉くらいの黒い塊が紛れ込んでいた。自在に動かせるみたいで所在を掴ませない。
戦闘スタイルはもっぱら受け身で、攻撃を受けた時に粒子を相手の体内に浸透させて麻痺させたり、浸透量が多ければ操ったり、逆に治療や状態異常の回復までできるらしい。
「クロキリ」と名付けた。
5人戦隊は・・・いやイカンイカン、丸パクリになってしまう。
どう見ても子供にしか見えないサイズ感なんで、「チルンジャー」にした。
”レ”はあえて外しました。
個体名は色そのまま、赤、青、緑、黄、桃。
どうやって戦隊もののことを知ったのか聞いたら、双子があれやこれやと指示しただけだったらしい。どおりで戦い方がチグハグなはずだ。
個体の能力はそこそこだけど、連携しての戦いが得意らしいので戦隊ごっこをやめてちゃんと戦うように言ったんだけど・・・不服そうだったから、ちゃんとした戦隊ものの動画を見て勉強してからにしなさいと、視聴会を約束することになってしまった。
魔法少女・・・というか、魔法幼女?いったいこれはどこから来たんだ?
どうも、戦隊と同じく双子からの口伝らしいのだけれど、双子はどうやって魔法少女に行きついたのか?俺、一切持ってないぞ。
猫獣人のような見た目なので、「ヌコ」と名付けた。
本来は魔素を圧縮して刃や針のようにして攻撃したり、盾のようにして防御するスタイルだそうなので、今回はそうやって戦うように頼んだ。こちらは動画持ってないけど、装備品の提供で手を打ってもらった。
あれ?
なんでこんなことに苦労してるんだ?
元々自分達だけで攻略するつもりだったのに・・・。
なんかほっとけないんだよな。
まぁ、戦力が増えることはいいことだしね。
戦力の確認も済んで、一応いろいろと作戦は伝えたのでいよいよ9階層の攻略に移ることにした。
圧倒的物量で来られるので、ゲームを彷彿とさせる役割分担型で行く。
と言っても、シングルゲームばっかりやってたからかろうじて知識がある程度なんだけどね。
クマドンとナナホシはタンク役として。
相手の数が数なので、コクエンにもタワーシールドもたせて三枚目の盾役を頼んだ。
ゲームと違ってヘイトなんて要素は無いから、うまく機能するかは分からないけど、目立って攻撃を引き付けてほしい。
エンオウ、ガルドにも、機動型のタンクを任せる。派手に動き回って引き付けてもらう。クマドン達に比べて防御が低いから、避けタンクだ。
ハクア、カムイ、ヤミとフィフス、チルンジャー、ヌコがアタッカー。
マガちゃんにはサポートを、片っ端から氷漬け&状態異常にかけてもらう。
そして、俺とクロキリは回復に専念。
クロキリの回復は限定的だし対象の近くに行かなくちゃならないけれど、人数増えちゃったから俺一人ではキャパオーバーなので。
ザイスとコザイスたちには、戦闘範囲外に巣を張ってもらって、回り込もうとする不届き者をからめとってもらう。もちろん余裕があれば駆除も頼む。
一応立ち回りとかの確認を済ませて、思いつく限りの補助魔k法をかけるといよいよ突入。
タンク役が派手に飛び出すと、即座に反応した狼たちが襲い掛かる。
タイミングを見計らってアタッカーたちが参戦、狼たちを各個撃破してゆき、タンク役をサポートするようにマガちゃんが手近な相手から凍らせてゆく。
即席の割にはかなり連携が良い。
俺は少し下がった位置から、全体を見つつ、広範囲の回復魔法、フェアリーサークルやエンジェルフェザーで回復をばらまき、深手を負うものがいないか、補助魔法が切れた者がいないかを注意深く観察していく。
一番注意しなければいけなかったのがコザイス達だが、ザイスの指示?に従って、瞬く間に巣を広げてゆく。そして、余計なことは一切せずに一目散にザイスの元へ逃げ戻る。
クロキリもいい動きをしてくれている。少し深手をおったものがいるとすかさず近づき回復、敵への攻撃も同時にこなしてくれている。
乱戦を大の苦手としていたマガちゃんの動きにも目を見張るものがある。
周囲の動向をしっかり把握して動いている。禍ツ炎の特性上、見た目には敵に隣接しているようでも、実際には絶対に誰とも接触しない位置取りをしつつ攻撃を加えていく。
それも、仕留めることにこだわらず、より多くに対して攻撃することに終始している。禍ツ炎の攻撃は、様々な状態異常を付加する凶悪なもの、たとえちょっとしたダメージであっても、乱戦においては絶大な効果を発揮するのだ。
小型?の狼もかなりの実力だったが、連携がうまくはまった俺たちの敵ではなかった。
1時間もすると大型との戦いが始まった。
ハクアの雷が皮膚を焼き、カムイの剣が両断する。
終盤まで動かなかった時点で大型三頭の敗北は確定していた。
MVPは意外にもザイスたち。
壁際からジワジワと巣を広げ、狼たちの行動範囲を削っていったことで散開されての波状攻撃を防ぐことにつながり、短時間で消耗の少ない戦いができたのだ。
実際、10頭以上が巣にからめとられ戦線離脱していった。
巣をはり、広げる速度は鮮やかの一言だった。
そしていよいよ10階層、偵察の結果は予想通り、ドラゴンだ。
フレイア並みの巨大なドラゴンが一頭、中央にドデンと寝そべっていた。
警戒しなければいけないのはやはりブレスか、尻尾による打撃も要注意ではあるが、攻撃範囲が広いブレスは、対応を間違えれば全滅もあり得る。
時間をかけて綿密な打ち合わせを済ませると、いったん就寝。
体調を万全に整えて、いよいよ突入。
ブレス対策に、一気に散開する。
正面に最も硬いナナホシが、左右にクマドンとコクエンが分かれる。
大きな空間で散開するため、近寄らなければ使えないクロキリの回復は間に合わなくなるので、最も危険なナナホシにぴったりつかせて集中させる。
ヤミには、ドラゴンの視界をふさぐように黒を展開してもらう。可動域が大きすぎるので完全にふさぐことができないから、双方が攻撃のタイミングで、瞬間的に視界を奪ってもらう。
攻撃の要は、装備破壊を得意とするカムイと状態異常を付与できるマガちゃん、
二人の攻撃によって防御力や行動制限をかけて、そこに攻撃力の高いフィフス、ヌコ、エンオウ、ガルドが集中攻撃。
ハクアやチルンジャ―には、ドラゴンの意識を散らすために縦横無尽に動きまくって攻撃してもらう。
俺はというと、ドラゴンの動きをかわしながらでは回復が間に合わないので、ザイスにしがみついて天井を大移動している。
ちょっぴり・・・かなりスリリング。
ブレスのモーションに入ると、すかさずハクアがドラゴンの頭に雷を降らせる。
チルンジャ―も負けずに尻尾へと攻撃をくわえてドラゴンの気を散らす。
ドラゴンは恐ろしく硬く、タフだった。
相当なポーションを消費しながら、3時間を超える戦闘でようやく倒すことができた。
いや、これ最初のメンバーだけだったら無理だったね。
フレイアたちの配下に入ったドラゴンたちとは、というか、基礎性能だけだったらたぶんフレイアたちより強かった。魔法まで使われていたら手に負えなかっただろうな。
まぁ、ここまで強くなってしまったのは放置期間が長すぎたからなんだろうけど。
これからは2~3か月に一回は攻略するとしよう。




