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79:シンさんだから

 「シンさん、俸禄って受け取ってないんじゃない?」

 早朝、王都へワープしたマスターは早々にシンの元へ駆けつけた。

 店の2階、いくつかある休憩室の一つに寝泊まりしていると確認済みだ。

 「ん?・・・あ~、俸禄ね・・・。」

 シンの反応は良くない。

 いやな予感がする。

 「あれってさ、いろいろ面倒らしいんだよね。」

 さして興味もなさそうに言うシン。

 予感的中、忘れていたというわけじゃなさそうだ。

 これは厄介なことになりそうだ。

 「結構な額になるんじゃないの?子爵なら。」

 男爵位のマスターでも、仕事をしなくても生活ができる程度の俸禄は出ている。

 子爵位、それも王の頼子なら、それこそ遊んで暮らせそうな額が出ていそうだが。

 「祝賀会出なきゃいけないんだよね、あれ・・・なら貰わなくても別にいいんじゃないかなってさ。」

 (・・・ダメだこの人・・・。)

 料理人として独立した矢先にこの世界へと落とされ、とても料理なんてできない動物の姿に、さらにこの世界では、強すぎるエグみでまともに食べられるものが無いと絶望していたマスターにとって、姿も食問題も解決してくれたシンには心から感謝していた。

 そのシンに対する女性陣、アオイやユーコ、マナの態度には、表にこそ出さなかったが思うところがあったのだが。

 (これは、彼女たちが正しいな。)

 この人は、どこか破綻している。

 ちょっと我慢するだけで、一度にいくつもの問題が解決するのに、そのちょっとをせずに自分の首を絞めている。

 余計に面倒だと思える方向に進んでいるのに、それを嬉々として取り組んでいる。

 理解できない。

 開いた口が塞がらないとは、まさにこのことである。

 本能なのか、観察力の鋭さなのか、マナ達はかなり早い段階から、彼の変人っぷりを正しく理解していたのだろう。

 困った、俸禄のことを伝えるだけのつもりで来たのに、説得もしなければいけないのか?

 店があるから長居はできない。

 (この変人をどう説得したものか・・・あぁ、彼女たちを連れてきた方が早いかもしれないけど・・・たぶん逃げるよな、この人。)

 「ちょっと我慢して俸禄貰えば・・・」

 (あれ?シンさんって、何に金使ってる?・・・)

 双子の暴飲暴食が目立つし、今回従魔の配下達への食料供給とかが発覚、それで資金難に陥ってはいるけれど、彼自身は特に金遣いが荒い印象はない。

 レストランにもたまにしか来ないし、たいていのものは自分で作ってしまうし、その素材も自分で用意してしまうらしいし・・・。

 あれ?これって、思ってるより大事では無い?

 「あ、店があるんで帰りますね。」

 結局、マスターは悩むことなく説得を諦めた。 

 

 「結局ぅ、シンさんはシンさんなのですねぇ。」

 「も、ほっときゃいいのよ、たぶんだけど、店に興味が出ちゃって楽しくなってるんだろうから。」

 食事に来たアオイとユーコに相談してみたけれどにべもない。

 「シンさんはぁ、面白そうなこと見つけると他が見えなくなるしぃ、ちょっとでも嫌なことがあると逃げだすからねぇ。ヘタッピだけど。」

 「ホントに嫌なことになると神がかるから面倒なのよ。自分勝手なんだから。」

 「そうそう、だからぁ、ここからは踏み込まないのが良いのですぅ。」

 恩人だというフィルターを外してみると、二人は実にシンの性格を理解しているように感じる。

 「説得なんて無駄だから、本人のやりたいようにやらせればいいのよ。クロウにはスロークとソンチョーが注意したみたいだから、ホントにヤバそうなら連絡くれるでしょ。」

 二人に相談してみてよかった。

 マスターはモヤモヤの吹っ切れた気分で仕事に戻るのだった。

 

 「困ったもんだな、あの人は。」

 夕食に訪れたレストランでマスターからいきさつを聞いたスロークは、椅子の背もたれに寄りかかると天井を見上げた。

 スロークとソンチョー、ユーキにライアーと、よく一緒に訪れる面子での会食だったのだが、和やかな雰囲気が一気に暗くなってしまった。

 迷惑をかけられているわけではないのだから、アオイたちのように放っておけばいいのだが、どうにも気になってしまう。

 「とりあえず、レンとユイの食費の方はどうにかなってるんでしょ?したら、従魔とかの剣は別個に考えた方がいいよね。」

 ユーキが食後のコーヒーを飲み干すと話し始めた。

 最近ようやく生産の目途が付いた貴重な、本物のコーヒーだ。

 「従魔とか配下の魔者とか魔獣たちって、村での活動に協力してもらってるんだから、給料を払うってのはどうかな。」

 確かに、給料を払うのは当然、というより、今までそれをしてこなかったことが問題ではあった。

 「問題は、シンさんが受け取らないのが問題なんだよね。」

 ソンチョーも、これまで何度か話してみたことはあったのだが、その都度はぐらかされてきた。

 こっちが勝手にやってるんだから気を使わないでと。

 「シンさん無視しちゃえば?」

 ライアーの一言が、停滞気味だった話を動かした。

 「シンさん無視か・・・でも、金を使えない連中も多いぞ。」

 魔者ならば村で買い物もできるだろうが、魔獣では使いようもない。

 「それに、シンさんに忖度して受け取らないって可能性もあるよね。」

 「金じゃなくていいじゃん。食料だったり、道具だったり、酒だったり、現物支給で。直接防衛拠点に運び込んで使ってくれって置いてくれば、後は自分たちで何とかするって。」

 「なるほどな、シンさんの拠点にいるのは直接の従魔たちだからいいとして、防衛拠点や街道警備に加わってくれている連中には現物支給の方がスムーズかもしれないな。」

 「で、村で活動してくれてる悪魔たちとか魔者には直接お金渡せばいいんじゃない?それをどう使うかは彼らに任せればいいんだよ、そこまで面倒見ることないでしょ。」

 こうして、みどり村には新たに特殊防衛費という名目の出資が生まれたのだった。 

膨らませられなかったです。

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