78:開店
いよいよ、一号店の開店間際だ。
何とかもった。
レストランと菓子店の半額サービスが無かったら10日前には借金生活になるところだったよ。
ノブロフが提示してきた店舗予定地の中から、店舗の立地を商店や飲食店の多い繁華街ではなく倉庫街に近い場所を選んだ。
基本的に業者相手の店舗なので、人通りが少ない方がトラブルも少ないだろうと思ったからだ。
おそらく時間帯によって行列とかできることになりそうだからね。
内部は飾り付けとかも無くシンプル。
建物内は中央で完全に仕切ってあり、中には片側同時に3人相手まで、左右で6人まで対応できる横一列のカウンター以外何もない。
出入口も中央の仕切りごとに別々に用意してあって、左側は預入用、右側は受渡用と業務を分けることにした。
開店に先駆けて王都に来たんだけど、今回の移動はマスターの魔法、一度でも行ったことのある町や村に瞬間移動できるワープを使わせてもらった。
マスターは上爵の時に何度か王都に来ていたからね。
町の前に転送されてしまうのが最大の難点なんだよね。まぁ、ゲームの魔法なんてこんなもんなんだけど、仕方なく人気のない真夜中にワープした。
町転移系の魔法って、RPGでは割とポピュラーだと思うんだけど、意外にもみどり村には、そのポピュラーな魔法所持者ががマスターしかいなかった。
ユーキのマジックモンスターは、ワープポータルって施設を使っての町間瞬間移動だったのでこの世界では使えず。
エイルヴァーンでもファストトラベルって移動手段があったけど、瞬間移動できるわけじゃなくて道中を省略できるだけ、移動にかかる時間はしっかり経過してしまうタイプのやつだった。
実際試しに、近距離で使ってみたら、無表情で周りに何の反応も示さず機械みたいに歩き続けたみたいで、周りから見るとただただ怖かったそうだ。
即封印しましたとも。
ということで、マスターに貴重な休日を使ってもらいました。
ほとんど村から出ることが無いので、ちょっとした旅行気分だと喜んでくれたけどね。
さっそく食堂を回ってくると言って出かけて行ったよ。
あの勤勉さは流石マスターだよな。
店の価格設定は3種類、未加工の食材のみ受付可能と限定した。
利用者には縦横高さ1mの蓋つき専用木箱を一万セイルで売り出して、そこに何でも詰め放題、一箱いくらでの商売だ。蓋がちゃんと閉められればいくつでも、どれだけ重くても同一価格。
木箱だけでも結構な売り上げになりそうだな。
この店舗では、食材の残留魔素混入量が25、20、10の三段階で、一万セイル、三万セイル、十万セイルに設定した。
この世界で一般的に流通されている食材の未加工状態での魔素混入量を100とした時、煮込んだりして食材として流通している物は50、みどり村で流通させている食材は5、マスターのレストランで使用している食材は0だから、最高価格帯でもみどり村の流通品の倍ほど魔素が残ることになる。
魔素混入量25だと、そのままではちょっと食べられないけど、味付けを濃いめにすればクセ強めで通用するレベルにはなる。10で素材の味を感じられる程度の薄味でも食べられるかなってレベル。
ちなみにみどり村の一般食堂などで今ブームになっているのは生サラダ。他では絶対食べられない生のままの食材を、ちょっと濃いめのドレッシングで食べられる。魔素混入量5ってのがそのレベルだ。
木箱には大きく各業者、個人ごとにマークを書き込んでもらい、同じマークを書き込んだ木版を渡す。これには加工した魔石を埋め込んで偽造防止にした。
翌日から3日間は登録受付のみのプレオープン。
マーク決めたり木版造ったり時間のかかる作業になるから、正式開店前に登録と説明だけ済ませてしまおうってことだ。
最初はほとんど業者だろうし、そうなると木箱も複数購入していくだろうからね。
クロウの配下を10人招集して1店舗目に投入、彼らは未来の店長だ。
従業員も雇ったけど、一応読み書きができる、というレベルなのでしばらくは戦力にならないだろう。
受付用に10名、食材の取り扱いに10名を採用した。
当面はクロウの配下を中心に、社員教育をしながらの運用になる。
挨拶を済ませ、説明やリハーサルで前日はいっぱいいっぱいだった。
宿を取って一泊、翌日も早くから市場を見てくると言って出かけて行ったマスター、ホントに勉強熱心で感心してしまう。
そしてプレオープン・・・あかんコレ。
開店前に、想像をはるかに超えた大行列ができていた。
大手商会のみならず、行商人から食堂の店主に個人?と思われる人まで。
預入用のカウンターだけで稼働するはずだったけど、急遽受渡用のカウンターも使って、6人同時に対応してのプレオープン。
一応事前に告知してあったので、ほとんどの人がマークを決めてきてくれていたので大きなトラブルも無くスムーズに進行していった。
個人での登録も意外と多く、読み書きのできない人もけっこういたので途中から受付の一つを代筆専門にして稼働させたりもした。
1マークにつき木版1枚を、トールちゃんが作成した印刷機で即印刷、即発行。木箱は翌日引き渡し。
初日は夜遅くまでかかってしまった。
マスターはみどり村の店があるので、ここでお別れ、ワープいいなぁ。
2日目、3日目は木箱の受け渡しもあるので、登録受付を預入カウンターの3席に減らして、受渡カウンター3席で木箱の引き渡し、登録希望者のほとんどが初日に並んでいたようで、2日目以降の登録はほとんどが個人、代筆記入が多くて数は少なかったけど時間はかかってたかな。
マークも、個人となると似通ったものが多くなって照会と修正に時間がかかっていた。
こんなに個人の登録があるとは思っていなかったので今後対策を考えなければならないな。
それでも夕方には一段落、3日目はほとんど木箱の受け渡しだけで済んだ。
そしていよいよオープン当日。
プレオープン初日の反省を活かして、今日は受渡カウンターも臨時預入カウンターとして稼働。
時間も、オープンから3日は早朝から夕方まで稼働させて様子を見る。
通常の営業は、預入と受渡で時間差にする予定なのだけど、3日間の様子次第では変更もあり得る。
いちおう市場がひと段落する昼前から夕方までが預入側で、食堂などの仕込みが始まる前の早朝から昼すぎくらいまでが受渡側ってことにしてるんだけどね、個人が想定以上に多かったからなぁ。
準備とミーティングを終えて様子をうかがうと、まだ暗いのにもう行列ができている。
しかも、登録と違って食材を詰め込んだ木箱を積み込んだ荷車が加わっているから行列の先が見えない。
これいかんな。
初日だから余計にだとは思うけど。
近くに待機所を作ったりしないといけないかも。
うん、俺絡むとややこしくしそうだから店長予定のミザリ(クロウの配下)に丸投げって事で。
1週間滞在したけど、やっぱり出てくるもので木箱偽造したり、蓋が締まりきらないほどに詰めてきたり、無理やり押し込んで食材がつぶれていたり・・・まぁ、大量に持ち込む大手はそういったことが無かったからよかったけど、時間も取られるので急遽、規定違反の場合は取引停止って、ルールを書いた看板を設置した。
字が読めない人も多いからイラストで分かりやすく・・・が難しかった。
売り上げは上々、これなら破産は回避できるかな、もう2~3店舗開店できれば、半額券無しでも双子の食費賄えるんじゃないかって・・・どんだけ食ってるんだよ!
食う以外に何か興味を引くものを見つけないと。
シン不在の中、みどり村ではクロウを招いて秘密会議、ワタリ会が開催されていた。
会の名称通り、ワタリビトだけで開催される会議だ。
マスター、ユーコ、アオイの連名で開催された。
「えげつないっスね。」
クロウから告げられた数値への素直な反応だった。
「一番の問題はぁ、シンさんがシンさんだからなのですぅ。」
意味の分からない言葉なのに妙にしっくり来てしまう。
「シンさんの従魔に、配下のみんなの食費まで出してたんだね、自分たちで取って食べてるし、拠点で栽培もしているから問題無いなんて言ってたのに。」
「はい、当初はそのようにしていたのですが、防衛設備の視察以降頻繁に食材等をご提供いただいております。拠点での生産物も含まれてはおりますが、配下には肉食のものが多く、まかなえてはおりません。配下が狩った魔獣の肉を使っていただこうと申し上げたのですが、獲物はあくまでも狩ったものの物だと受け取っていただけませんでした。」
一同からため息が漏れた。
どうしてこう、シンさんはシンさんなのだろう、と。
クロウも、シンの従魔であるためシンがこうと言えば、まず肯定から入るところがある。財産に係る書類やとりまとめはシンが行う、と言われれば、あえて調べたりしてこなかったのだ。
双子の食費問題は、マスターにユーコ、アオイの機転と、1号店がめでたく開業した食材加工代行業が軌道に乗れば問題なさそうだ。が、それ以外にも大食らいが隠れていた。
「牧場を広くして生肉の生産を増やして提供することは可能です。でも、問題はシンさんが受け取ってくれなさそうなんですよね。最初の生肉をおすそ分けに行った時、僕と村の財産なんだからとかいって受け取ってくれなかったんですよ。シンさんの魔道具があってこそなんだからって言っても、その対価はもらってるからって。」
高級食材である動物の肉は作れば作るだけ売れてゆく。その総責任者であるウシオもフル稼働で余裕があるわけではないだろうに、増産を願い出てくれた。が、問題はやはりシンさんだからなのだ。
なんでこう、面倒な性格なのだろう。
「受け取れって命令しちゃえば?」
それができれば簡単なのだが、彼は王の頼子で子爵だ。爵位では伯爵のスロークより下だが、王の頼子である以上実質上は同格なのだ。
むしろ、内容によってはスロークへの命令権まで有する。
それぞれが思い思いの案を出すが、あのシンさんを納得させられるか?となると、途端にトーンが落ちてしまう。
結局妙案は浮かばず、一時解散しようかとなった時にふとユーシンが、「王家からの俸禄って、どれくらいあるんスかね?」という言葉で気が付いた。
「ひょっとしてシンさん、俸禄貰ってないんじゃないか?」
スロークへの俸禄は年末、王家へ納める税からスロークとその頼子の分まとめて差し引く形で受け取っている。
スロークの頼子になるユーシンたちは、寄親のスロークから新年の挨拶時に渡されている。
シンは、王の頼子なので本来は王都で、新年の祝賀会で王から直接受け取るはずなのだ。
が、シンは王都へ行くことを面倒くさがって、招待をなんやかんやと理由をつけて断っている。
その後も行っている様子はない。
ということは、おそらく俸禄を受け取ってない。
一同、呆れるようなため息を吐くのだった。
「忙しい中申し訳ないんだけど、シンさんに伝えてくれないかな。」
頭を抱えながらスロークが、唯一ワープを持っているマスターに伝言を頼むこととなった。




