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76:ほんとバカ

 なんでこうなったのだろう。

 まずいことになった。

 この世界に来て以降、いや、向こうの世界を含めても、人生最大の危機だ。

 前兆は結構前からあったはずなのに、何とかなるさと先延ばしにしてしまった。

 いつもそうだよな、俺って。

 ・

 ・

 ・

 金がない。

 現状俺の収入源って、魔導具販売限定なんだよね。

 他はみんな村の管理にしちゃってるから。

 いや、ソンチョーたちからは、利益の何割かを支払うからって言われたんだけどさ、あの時は一生遊んで暮らせるだけの貯えがあったから、カッコつけて断っちゃったんだ。

 結局今収入になっているのは・・・無い。

 充魔素シリーズはちょいちょい売れるものではないから、というか、最初売れただけでその後売れてないし、引き籠っているここ最近は収入ゼロ。

 それでも全然問題ないくらい持っていた、というか、自給自足もできるし心配して無かった。

 まさか、こんなことになるなんて。

 あの双子の胃袋はザル、じゃないな、底の無いバケツ・・・違うな、ただの筒か?

 請求書の処理くらいは自分でやるよと言っておきながら、届いた請求書をろくに見もせずに支払いだけクロウに任せていたのも悪かった。

 最初から全部クロウに任せていればここまでは・・・。

 ぶっちゃけ、貯蔵庫に保管してあるエイルヴァーン製の食料を与えるという手もあるんだけど、バフが付くんだよな・・・あれ以上双子を強化してどうするんだって話だ。

 術式杖を作って売る、って案もあるんだけど、それもそうそう売れまくるものではないだろうし、作り始めるとつい調子に乗っちゃってオーバースペックになっちゃうんだよね、で、封印と。

 常に需要があって、回転率の良いもの、コスパの良い収入源を作らなければならないわけだ。

 色々考えたけど、新しいものはなかなか思いつかない。

 仕方ない、かなり前倒しになるけどあの計画を発動しようか。

 スマン、村人たちよ、バブルはいつか弾けるものだ、せめて軟着陸できるように考えよう。

 

 

 スロークやソンチョーには悩みがあった。

 最近、頻繁に起こるトラブルが原因なのだが、まさかこの世界でまで起こるとは。

 トラブルの発生源は主に外からやって来る来訪者たち。

 村では、買い占めを防止するために食材やドワーフ製品の販売に制限をつけている。

 その取り決められた制限を超えて買い込もうとする者、持ち出し禁止の食品を持ち出そうとする者たちが後を絶えないのだ。

 手法も様々で、複数の一般人を雇って個別に上限まで購入させて村の外で集めたり、変装して何度も買おうとしたり、恐喝まがいのことまで。

 持ち出し禁止の食材を壺や鍋などに隠して持ち出そうとしたり。

 転売業者まで現れたりと、日を追うごとに巧妙化しており、対応に苦慮している。

 商魂たくましいと言えば聞こえはいいが、要はただの違反行為だ。

 押収した食材をまた販売するわけにもいかず、処遇が決まるまではとりあえずスロークの第三貯蔵庫に押し込まれているが、早々に満杯になりそうな勢いだ。

 中には、数か月をかけて遠くの町からやって来る者もいる。

 傷みやすいから持ち出し禁止になっている食材なのにお構いなし。

 保存技術の未熟なこの世界ではかなり危険な行為なのだが。

 一度、村会を開いて対策を話し合わなければ。

 そう思っていた矢先、驚くべきことにシンから村会の要請が入った。

 「明日は嵐かな。」

 ソンチョーがぽつりとつぶやいた。

 現在、王家直轄領グリンウェル地区の運営は、王の名代であるグリンウェル伯爵によって執行されている。

 異世界からの来訪者だったという守護神像の加護により、不思議な力を持つ能力者が集い、他では再現不可能な魔道具、友好的な魔者の住人や使役された魔獣が共に暮らす異端の地。

 近隣諸国のみならず、大陸中に希望をもたらした食の改善は、莫大な富をグリンウェル領に、そしてサンザ王国にもたらしていた。

 現在、国内外の魔導士達が、こぞって研究を進めるのが食の長期保存を可能にする魔道具開発になっている。

 実用間近となっているのが、荷馬車に乗せられる程度のサイズの箱内を低温、低湿度状態にできるというもので、荷馬車に積み込んで輸送するための物。

 いわゆる湿度コントロール付きの保冷車みたいなものらしい。

 サンザ王国とファーレン王国の国家認定魔導士達が共同研究の末に開発に成功したとかで、近く実証実験のために買い付けに来ることになっている。

 もう一つの収入源が、魔石である。

 元々魔素が濃く魔物の密集地帯、魔石の一大産地でもあったグリンウェル領だが、その魔石を加工して、大きさや形状、魔素の含有量を規格化する技術によって、領外からも大量の魔石が持ち込まれ、加工されて販売されてゆく。

 街道の通行料や劇場、レース場などの観光も安定した収入になっており、まさに安泰と言えるのだが、かねてよりシンから別の収入源を考えてほしいと言われていた。

 バブルは弾けるからと。

 まさか、こんなに早く、しかも自ら壊しにかかるとはだれも思っていなかったが。


  

 不定期に解される村会は、みどり村の運営に関して問題が提起された時に開催される。

 今回は珍しく、というか、初めてシンからの提案で開催された。

 

 提案者:シン・サンザド・グリプス子爵

 議 長:スローク・グリンウェル伯爵

 副議長:ソンチョー・タナカ男爵

 ユーキ・カトリ男爵 マスター・ケンスケ男爵 マナ・サクラ男爵

 ノブロフ・ノイル旗爵 カブロ・カブル旗爵 アオイ ユーコ

 

 今回は急遽ということで集合できなかったメンバーも多かったが、提案内容の話し合いに必要と要請した面子が揃うタイミングでの開催となった。

 (さて、なんとしても、金が無いからなんてバレないようにしないとな。)

 食材のエグみ抜き、魔石の加工、畜産動物を魔素から守る技術、などなど、みんなからは幾度となく利用料なりなんなりを出すから受け取れと言われてきたんだけど、一生遊んで暮らせるだけ持ってるからと大見えを切って権利を突っぱねておいて、今更金が無いからください、とは言えないのである。

 バレないために、クロウとも綿密な打ち合わせを繰り返したのだ、きっと大丈夫。

 「あ~、ここ最近、村で多発している食材問題の解決策を思いついたので提案しようと思いまして。」

 なるべく平静を装って発言を始める。

 菓子店のプチキャットを経営、プロデュースしているアオイとユーコを呼ばざるを得なかったのが最大の障害だ。

 この二人、最初から俺を疑ってる気がするんだよなぁ。

 「そもそも、この村でしかエグみを減らす技術が無く、長期間かけて買い出しに来なければならないというのが一番の問題だと思うんですよね。だから、食材の加工代行業を始めようと思うんです。」

 みんなポカンである。

 もっともだ、そんなことはすでに村でやっている。

 「まずは王都に一店舗、簡易版の食材加工魔道具を設置した店舗を開きます。持ち込まれた食材のエグみを取る加工をして返却します。簡易版の魔道具なので、この村で買えるものに比べたらエグみは残りますが、犯罪行為を犯してまで遠いこの村まで来て、違法を承知で大量に買い付けようとする連中を多少は落ち着かせられると思います。最大で10店舗ほど、村から離れた地域に展開しよかと。」

 今まで使ってこなかった、スキル”商店”の本来の機能を使う時が来たのだ。

 熟練MAXなので最大10店舗の支店を開くことができる。

 各店舗には従業員の他にクロウの配下を店長兼用心棒として送り込めば防犯対策もバッチリだろう。

 設置する魔道具には、魔素を直接使って稼働する物にしたうえ魔導印の一部に見えるように無関係な図形を書き込んだので、もしスパイに魔導印を見られたとしても理解はできないし、コピーしたとしても動きはしない。

 スキルによってつくられた支店には小型の時間停止機能付き貯蔵庫があり、商品管理機能でどこでも出し入れ可能。それを利用して各地の特産品とかを購入してこの村で転売してもいいし、サンザ王国内ならそのまま資金を送ってもらってベルに換金してもいい。

 王都店が順調なら、次々に出店して双子の食費を稼がなければ・・・俺が飢える。

 「味次第ではありますが、確かに現状を打破するきっかけにはなりそうですな。これでファーレンと共同開発しているという食材輸送用魔道具が成功すれば、無茶をする連中はぐっと減るでしょう。」

 ノブロフは賛成してくれた。

 最初の一店舗を王都にしたからね、彼はスロークの頼子になったけど、あくまでも王都に本店を構えるノイラード商会のみどり村支店長だ、王都に店舗ができるとなれば、本店や各支店への食材輸送を取り仕切る彼の負担も減るし、賛成してくれると思っていた。

 「最大10店舗とのことですが、どういった地域にお出しになられるのでしょうか?」

 カブロは行商人として、各地を移動しながら商いを行ってきた。今でもみどり村を拠点として、カルケール伯爵領やコリント伯爵領の小さな村や遠く離れた町を巡る商隊をまとめ上げる立場だ。出店する場所は彼の商いにも影響を与える可能性があるから当然の疑問だ。

 「今考えてるのは、ファーレン王都かな。サンザ王家と懇意にしているところなら安心だし。他はまだ考えていないけど、村への影響を考えると遠い方が良いだろうと思ってるよ。出店に関しては、王家に相談してもいいかと思ってる。」

 何なら、第三親王を通じて第一、第二親王へアプローチしてもいい。出店候補地を紹介してほしいと言えば、喜んで紹介(利用)してくれるだろうし、多少は好印象を持ってもらえるだろう。

 収入も増えれば国も安定する。国の安定は村の安定につながる。

 たぶん。

 「なるほど、そう言うことであれば、私も何も言うことはありません。最近では恐喝まがいに買い付けようとする者もいるようですし、味そのものが村で売られるものより落ちるのであれば、村の価値も落ちることは無いでしょう。」

 カブロ対策もうまくいったようだ。

 「ファーレンに関しては、できるだけ早く出店できるようにしたいな。王家だけじゃなくヒノモトの連中に仲介頼んでもいいと思うんだよね、数ミリ程度心証が良くなるかもしれないし。海の魚介類を仕入れさせてスカイドラゴンに直送させたいんだよね、そのための足掛かりに店を出したい。」

 リタとアキヒロが持ち込んだ魚介類は美味かった。

 久しぶりの刺身にすし、焼き魚に酒蒸しにと、ワタリビトのみんなで心ゆくまで楽しんだら、あっという間に無くなってしまった。

 カブロたちがいる手前スカイドラゴンに運ばせるって言ったけど、店の小型倉庫に入れさせればいつでもどこでも取り出し自由だからね。

 あ、だとすると、ファーレンは王都じゃなくて漁港に近い場所に出店したいな。

 「魚介類が定期的に手に入るのはいいな。さすがに生は難しいかもしれないけど、干物や煮物、焼き魚に練り物と食のバリエーションがさらに広がる。」

 マスター対策もバッチリなのだよフフフのフだ。

 これでもう、文句を言うものは・・・いるな。

 アオイとユーコ、この二人は要注意なのだ。

 絶対何か感づかれている。

 俺にとっては天敵と言ってもいい。

 んだけど・・・何も言ってこないんだよな。

 むしろ怖いんですけど。

 「実際、様子見で王都とファーレン王都に、というのはいいかもしれないな。とはいえ、そう簡単に出店なんてできるものなのか?」

 スロークも乗り気になってくれているが。

 「王都に関しては、会頭に話を持ち込んでみましょう。商会で保有している空き物件なども利用できるかもしれませんし、手続きなどはお任せください。」

 ノブロフからの頼もしい一言。

 「直接現地に作るというのであれば文句は無いけど、食中毒への注意喚起はしっかりしてね。傷みやすいものを加工しないとか。」

 衛生担当からもOKいただきました。

 ユーキもソンチョーも、乗り気だし、後は・・・

 「ま、いいんじゃない。」

 「外国のお菓子とかぁ、見つけてくれたらいいなぁ。」

 へ?

 なんか、警戒していたのにあっさりOKされちゃった。

 肩透かし?

 マジで?

 若干の不安を感じながらも、承認を得たので拠点へと戻った。

 とりあえずは準備しないとね。

 

 

 「ほんと、バカ。」

 「それがシンさんなのですぅ。」

 店で働いているわけではないが、一応経営者だ、店のことで店長たちとはよく話をしている。

 連日のようにやって来る双子の食べっぷりを聞く限り、食費はとんでもないことになっていそうだ。

 それも、プチキャットのみならずマスターのレストランや、他の飲食店でもかなりの暴飲暴食を繰り返しているらしいし。

 今回の発案者がシンで、参加要請のあったメンツを見れば一目瞭然だった。

 一言相談してくれればシンへの請求額を格安に修正するくらい容易いことなのに。

 村会開催で相談してくれるのかと思ったのに、相変わらずそういったそぶりを見せようとしない。

 だから二人はあえて会議では何も言わなかったのだった。

 プチキャットの請求分だけ減らしてもスズメの目に涙かもしれないし。

 「ほんとバカ。」

 大事なことなので二回言うアオイだった。

 仕事が繁忙期に入ったこととストック無くなっているため次回更新予告やめました。

 できるだけ今まで通り更新できるように頑張ってみますので、よろしくお願いします。

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