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72:101=1?

 再び巨大な火柱が上がった。

 4度目の火柱。

 残るはナレハテ本体とごくわずかになった黒蜘蛛だけだ。

 「だいぶ小さくなったけど、行けるか?」

 「問題無いと申しております。」

 たった今到着したばかりのクロウだ。

 隣で浮いている物体、シンはトールと呼んでいた物との通訳をしてくれている。

 「しかし、時間がかかります。魔道具は最終手段として、建設は進めつつこのままフレイアたちの火焔に任せるべきでしょう。」

 そう提言があった時には、すでにトールは行動を開始している。

 シンの従魔はみんな優秀だ。

 うらやましくなるとはいえ、いまさらクラスチェンジする気はない。

 暗殺者としてレベル100に達したスロークは、レベルが1からやり直しになるクラスチェンジは現実的ではない。

 (これがゲームなら即決なんだがな。)

 「了解だ。現状維持ってことでいいのかな?」

 「蠅の王よ、報告を。」

 クロウの声と同時に、クロウの傍らに跪いていた人影がムクリと立ち上がった。

 「は・・・フレイア様、デストーム様は、ナレハテへの牽制を行いつつ力をためておいでです。牽制が不要となれば発動までの時間を短縮可能です。

 ナレハテの攻撃手段は現在確認できたものでは、驚異的な速度で飛び出すトゲによるものですが、同時に発動できるのは最大で50本まで、多角的に仕掛けることでトゲは分散し、脅威度を下げることが可能です。

 問題が一点、蜘蛛の数が合いません。」

 「蜘蛛の数?」

 「はい、白蜘蛛と焼却した遺体の数を比べると100程蜘蛛が足りません。黒、特異個体は死体を食らって変異している以上、まだあのナレハテの中には100の蜘蛛がいるとみて間違いないでしょう。」

 老人のような姿の蠅の王は、両肩が大きくえぐれている。戦いが始まるよりずっと前から、この国で蠅として分かれて諜報活動を続けていた。今は最小限を残してこの地に結集して、戦場のあらゆる情報を集合体のもとへと届けている。

 (まだ100・・・いや、死体は全て処理した。もう変異はできないから、大した戦力にはならない、それをわざわざ温存するか?)

 漠然とした不安がスロークに決意させた。

 「ユーキを呼んでくれ。」

  

 6度目の火柱が上がった直後、だいぶ小さくなった大福が突然動き出した。 

 急激にしぼんでいくと、グネグネと動き出し、白蜘蛛の姿に、今までの白蜘蛛より3倍ほど大きいが、一匹の白い蜘蛛になった。

 胸部が起き上がり、前脚が軽く湾曲したブレードに、前中脚が太く、スパイク付きのシールドのように変化している。

 後中脚、後脚は太く、まるで鎧をつけた馬の脚のようだ。

 変化している間もリタの銃弾やアキヒロの矢が絶え間なく攻撃を続けたが、傷一つつけることができない。

 「弾無駄。」

 リタが攻撃をあきらめたとき、巨大な蜘蛛は動き出した。

 ぎこちなさを感じるのに、恐るべき速度で迫る巨体。

 振り上げたブレードがリタを両断しようと振り下ろされた。

 「うっげ!欠けたぁ!!」

 間一髪でリタを救ったのはユーシンだった。

 「かてぇっスよこいつ!くそ!」

 

 ユーシンの叫び声が聞こえる。

 どうやら彼の刀でも切れないようだ。

 「まずいな。」

 漠然とした不安が現実のものになろうとしている。

 100人分の魂を使っての強化、ということだろうか。

 動きも早い。まともに対応できているのはライアーとユーシン、ゲイルくらいか、他は、かろうじて直撃を受けないようにするのが精いっぱいといった状態。

 シンの従魔たちは残る黒蜘蛛の殲滅のため、まだここには合流していない。

 魔道具の建設も一時中断してしまった。

 隠密スキルで姿を消して関節などを攻撃するつもりでいたスロークも手をこまねいていた。

 すでに分体とは合流済みだが、スロークの速度ではとりつくどころでは無い。

 「「無理ゲー。」」

 ライアーとリタの声がシンクロした。

 散々苦労してきて、最後にこれって、何げーのラスボスだよって話だ。

 「スロークが直接参加して来たから何かあるとは思ったけどなぁ。」

 フレイアとデストームも上空から隙を窺っているが、とにかく動きまくるせいで同士討ちになりかねないブレス攻撃ができないでいる。

 「ダメだな、あれは。」

 姿を消していたスロークがボロボロになったナイフ片手に現れた。

 「いちおう関節を狙ってみたが、早すぎて入らん。」

 「硬すぎっスよねぇ。あれ、どうにもなんないっスよ。」

 そう言うユーシンの刀も刃こぼれがひどい。

 そんな状況ではあるが、不思議と絶望感や悲壮感が無い。

 これまでの蜘蛛のような、明確な殺意を感じないせいか。

 ただ暴れているだけ、攻撃も大振りで予想しやすくぎこちない。

 何というか、ちぐはぐなのだ。

 (まさかとは思うが・・・)

 ナレハテ本体を含めると、101の意識があるってことなのか?それがうまく連携していないのでは?と思えてしまうのだ。

 今も、ライアーめがけてブレードが振り下ろされたが、体は右へと移動、結局何もない地面を削っただけに終わった。

 驚異的な速度と破壊力、頑丈さはあるものの、行動は子供の癇癪?みたいな。

 「これは長期戦になるな。」

 まずは、何か有効打を見つけ出さなければ。

 

 「この服カッコいい~。」 「黒いのにキラキラ~。」

 最後の微調整にてこずっているわけだが、いつの間にか戻ってきた双子に菓子を強奪され、あれ何これ何とうるさいので仕方なくプチメタライブを見せている。

 これって、噂に聞くダメな子育ての典型では?

 黒を基調とした鎧っぽさとゴスロリっぽさを兼ね備えた衣装が双子に刺さったようで、食い入るように見ている。

 服をちょこっとだけ破かれて怒った双子は、全力で大福に特攻したらしいんだけど、何をやってもすぐ回復されてしまって、それが逆に面白くなって散々遊んだ後、飽きて戻って来たのだった。

 ほんとガキはこれだよ・・・。

 シャドウデーモンを通じて報告される話からすると、ここで作業三昧になっててホント、良かったと思うのよ、たぶんだけど、黒い蜘蛛の中でも強い方の個体には敵わなかっただろう。特殊個体なんて、レベル100超えて超越者専用スキル使えるようになってなんとか、って感じっぽかったよね。

 命拾いしたな。

 今なんて、とんでもボスに進化したっていうし。

 ユーシンでも切れないって、これもう無理ゲーじゃないの?

 あ、無理ゲークラッシャーがここに二人もいたんだった。

 「お~い、なんか、すごく面白そうな蜘蛛の化け物出たみたいだよ。」

 と言ってみるも、

 「まだ見てる~。」 「バンバンババン♪」

 これだよ。

 安易に動画見せるんじゃなかった。

 いや、これは悪魔にも布教活動が成功しているんだと喜ぶべきか?

 「どうしましょうか。」

 「どうしましょうかじゃなくて、お前も援軍に行けよ。邪魔だし。」

 オロオロするロン毛に、何度目かも忘れた「出て行け」宣告。

 マジ邪魔。

 ついでに双子も一緒に連れて行ってくれ。

 「行くぞ!イェン、お前の従魔も戦わせるべきだろ。」

 ガタイの大きなおっさんがロン毛の肩にガっと腕を回した。

 「行くぞって、タロマルさんは戦えないじゃないですか。」

 「戦うのはお前だろうが!それに今の俺でもサポートくらいできる。」

 そう言ってロン毛を引きずっていく。

 グッジョブだ、おっさん。

 「レンとユイも、手伝ってやってよ。その衣装作ってもらえるようにアカネに頼むからさぁ。」

 「マジかー。」 「ヨロコンデー。」

 どこで覚えたんだ、それ?

 と思ったときには双子はすでにいない。

 弱体化させてるとはいえ、やっぱり最終兵器なんだよな。

 

 突然蜘蛛の腕が弾かれた。

 弾かれた腕に引っ張られるようにバランスを崩す蜘蛛。

 弾かれた、スパイク付きシールドと化していた前中足に、大きな亀裂が入っていた。

 「硬~い。」 「もっと強くいこう」

 双子の姿がゆがむと、直後にバキンッという音が。

 巨大なブレードが宙を舞う。

 「シンさんの腹つぶしたって話はマジだったんスね。」

 「自分は、悪魔の首を引っこ抜いたって聞いたぞ。」

 顔を見合わせるスロークとユーシン。

 まさに最終兵器だ。

 無邪気に破壊活動を続ける二人の幼児・・・シュールな光景だ。

 それでもやはり、勝ちの目は見えてこない。

 破砕された外殻も、切断されたブレードも、すでに回復されている。

 「レン、ユイ、足を切断して、遠くに投げたら離れてくれ!フレイアとデストームはタイミングを合わせて動けなくなったやつを焼き払ってくれ!」

 スロークが叫んだ。

 やはり、焼き尽くすか溶かし尽くす以外に倒す方法はなさそうだ。

 「リョウ~。」 「カ~イ。」

 バキベキ、メキメキと破壊音が続くと、

 4本の足が宙を舞う。

 同時に、巨大な炎の竜巻が蜘蛛を包み込んだ。

 バキン、メキメキ、硬い外殻が悲鳴を上げる。

 炎が消えた直後には、ダメ押しとばかりにスラりんの押しつぶし、からの取り込み消化。

 ようやく、長い戦いに終止符が・・・うたれなかった。

 シャドウデーモンから、動きを封じるために飛ばした4本の足が、細かく分裂しだしたと連絡が入ったのだ。

 慌てて処理しようにも、双子のパワーで飛ばされた足まではかるく1Km以上、しかも、無造作に飛ばされたためバラバラ。

 付近には、戦力外となり戦場から離れていた負傷兵、一般兵がいるだけだ。

 分裂した足は、それぞれが二十数匹の白蜘蛛になり、ワラワラと動き出した。

 黒蜘蛛の殲滅を終えたばかりの従魔達の方がまだ近いと、分裂した白蜘蛛約100匹の殲滅に向かってもらったが白蜘蛛は戦闘を放棄してバラバラに逃げ出した。

 もともとが離れた場所だっただけに、大半を取り逃すという大失態を犯してしまった。

 「くそっ!最後に油断した。」

 スロークから全体の指揮を代わり、黒蜘蛛の殲滅指揮を問題なく完了したユーキだったが、最後の悪あがきにハマってしまった。

 悔しさを隠そうともしない。

 「ご安心を、あれらにはハエを取りつかせておりますので、居場所の特定は可能でしょう。

 それに、いまシン様から、あの者たちの居場所を確保するためにもあの程度の脅威は必要だろうから、これ以上の深追いは不要ではないか、とのことです。」

 そう言って指さした先には黒い炎型の氷に固められたヒノモトのリーダーが置かれていた。

 まさか、この短時間でそこまで考えているとは。

 「はぁ・・・やっぱり敵わないなぁ。」

 ドッと疲れが出てきた気がする。

 「全くだな、スタートを無茶したからこそ完勝といきたかったが、それをしてしまうと彼らの立場が無くなってしまうか、そこまではとても思い至らなかった。」

 (戦いにおいても、彼らの協力を過大気味に報告するべきなのか、シンさんと相談して決めた方がよさそうだ。)

 長い戦いだったが、ようやく終息を宣言できそうだ。

 

 「さぁやぁ・・・」

 二人の少女が、抱き合って涙を流している。

 ヒノモト所属全員、というわけにはいかないが、突然のひらめきがうまくいったようで何よりだ。

 双子を通じて丸悪魔と交渉できたのも大きかった。

 最初、村に対して高圧的な対応だったこと、ユーキから聞いた馬鹿リーダーの感じから、ヒノモトのメンバーの中に、ワタリビトを殺害している者がいる可能性に気が付いた。

 ここの状況から、魂が大福に取り込まれている可能性もあったわけで、肉体さえあればワンチャン復活させられるかも?と考えたわけだ。

 まぁ、肉体は食われたか焼かれたか、餞別するのも大変なわけで、さらにここではなく初期地での復活になってしまうのは不味い。

 そこで、大福アタックに飽きて戻って来た双子にたのんで丸悪魔と交渉、魔石だけでゴーレムを作るから、それを肉体代わりにして、この場に復活させてもらうことにしたのだ。

 俺たちの体は最初、魔素だけで作られていた。ならば、魔素の結晶である魔石を加工して作った人型ならば代用できるのではないか、と思いついた。

 丸悪魔から出た対価の要求は、今後ワタリビトの命を奪うことになった場合は、全て丸悪魔に差し出すこと、つまり、俺の復活チャンスを放棄することだったのだが、即決で決定した。

 十分楽しんでるから、あまり未練は無いんだよね。

 残念で意外だったのは、汚れ役はリーダーに嫌われていたらしいたった一人の少年に押し付けられていたってこと。

 つまり、ワタリビトの魂を確保していたのは彼一人。復活できるのも彼一人。と丸悪魔から伝えられた。

 しかし彼は、復活を希望しなかった。

 自らが奪ってしまった命を悔いており、仲間たちに譲ってしまったのだという。

 丸悪魔も、普段ならそんな交渉には応じない。利が無いからね。応じてくれたのは、こちらに双子がいたから。

 丸悪魔も双子は怖いらしく、忖度してくれたらしい。もう双子を通じて声をかけるなってさ。

 マサニ サイシュウヘイキ ダネ。

 「もう、疲れちゃったんだ。」

 彼の最後の言葉だそうだ。

 こうして、大福によって取り込まれていたヒノモトのワタリビトたちは、一人を除いて復活させることができた。

 もちろん、レベル1にリセットされてたけど。

 とりあえず、消費した魔石はしっかりと利息つけて返してもらおう。

 ちなみに、馬鹿リーダーからの魅了効果は死亡と同時に解除されていた。

 「とりあえず殺すか。」

 まぁ、野蛮ですこと。

 「まぁまて、こちらにいるシンさんの話では。魅了はパッシブスキルで無自覚だというし、いきなり殺すはないだろう。」

 ゴツイ外見のわりに穏やかな性格らしいタロマルが、激昂する青髪の美少女、マルチナをなだめる。

 どうやら彼女も、元のユーキと同じく性転換してしまった組らしい。

 ゲイルも、ついさっきイェンから精神防御用のアイテムを渡されて、真実を知ったばかりで危なっかしい。目が完全に座っている。

 「どうしましょう・・・」

 相変わらずおろおろしているロン毛。

 ただ、どうもうさんくさい。

 こいつのことだから、こうやってこっちを巻き込んで、しれっとみどり村に移籍でも狙っていそうだ。

 「知るか。部外者が口出す問題じゃないだろうが。昼夜問わずみんなが折り合いつくまで徹底的に話し合えよ。結論が出るまで氷漬けのままにしとくから。」

 そう、一番の問題は、魅了が無自覚だったってことだ。

 故意に精神操作されていたのなら話は簡単だった。みんなの怒りをそのままぶつけられる。

 「あ、あとロン毛! パッシブスキル封印する愚者の腕輪持ってるだろ、奴に付けとくからよこせ。」

 もちろん俺も持ってるけど、それを使うのはイヤ。

 「あぁ、そうでしたね、あれを付けていればもう魅了されなくて済むかもしてません。呪い付きだからはずせなくなるし。」

 そう、それは自分でつけるための物ではない、パッシブスキルだらけの厄介な敵に付けて弱体化させるための物だ。

 まぁ、暗殺者クラスでもなければ、戦闘中にそんな器用なことはできないけれど。

 そうしてアイテムを分捕ると、さっさと簡易拠点を撤収してその場を離れた。これ以上巻き込まれるのはごめんだ。

 さぁ、やることやったからとっとと帰ろう。

 

次回は7/8(土)16:00更新予定です。

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