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68:交戦(前編)

明日7/2(日)16:00頃次話更新予定です。


誤字のご指摘ありがとうございます。

 「シンさまぁ~、助けに来ていただけると信じてましたぁ~。」

 いきなり抱き着こうとしてきたロン毛の頭を左手で掴んでガード、なんで野郎に抱き着かれなきゃいかんのだ。

 「あのなぁ、俺、いちおう子爵だから!しかも王の頼子だから!向こうでこんな態度取ったら即首ちょんぱだからな。」

 そう言って軽く蹴り飛ばすと、

 「お前、これ持ってないのか?」

 そう聞いて一つの指輪を見せた。

 エイルヴァーンプレイヤーならみんな知っている、精神系状態異常耐性アップの指輪だ。

 「いくつか持ってますけど、それがどうかしたんですか?」

 蹴られたのもご褒美だとでも言わんばかりな態度なんですけど・・・相変わらず引く。

 「ならつけとけ、そして仲間にもつけさせろ。足りない分はやるから。」

 いぶかしげな顔をしつつも俺が見せた指輪をもぎ取って付けた。

 「おま、持ってるんだろうが。」

 「でもこの世界で状態異常なんて・・・あれ?この世界にも魔法はあるし、そう言った魔法を使う異世界人もいるはず・・・なんで使わなかったんだ?・・・」

 見る間に顔が青ざめたロン毛。

 さすがに察したか。

 「まさか・・・ずっと精神攻撃を?」

 まぁ、ショックだよな。

 「攻撃かは分からんけどな。パッシブスキルだったりすると天然で影響与えてる可能性もある。

 で、なんでお前がここにいるんだよ。」

 何となく想像はつくけど。

 「あぁ、そうでした、ドワーフですよ!ドワーフ!初めて見ましたぁ!!」

 うん、そういうのもう見飽きたから。

 興奮しきったロン毛だったけど、流石に無表情な俺に気が付いて察したようだ。

 「失礼しました、ドワーフ戦士団の見事な戦いによって、化け物は消滅しました。残念ながらあの手法は一体にしか使えないそうですが、彼らは他の戦地の救援に向かわれました。私は

、シン様がいらっしゃると伺っていてもたってもいられず・・・もとい、ご報告と今後の方針のご相談に。」

 ドン引いてたのに、さらにその上があるとは初めて知ったよ。

 しかしさすがドワーフ、スキルもチートも使わずにアレを始末したんだ、あぁ、見に行きたかった、参加したかったぁ~。

 「ならとっととお前も援護に行けよ!邪魔だ。ついでに耐性装備配るの忘れるなよ。」

 甘い顔するとこっちのテンションが下がるので早々に追い出した。

 

 いきなりドラゴンで乗り付けて国境を騒然とさせた後、各地の状況と略地図(非常に簡易なもの。この世界での詳細な地図は軍事機密扱いだから、詳細な地図は期待してなかったけど。)を受け取るのに一日無駄にした。

 まぁ、こんなに早く来るなんて誰も思わんわな。

 常識外れに早すぎる到着とドラゴンで国境警備の度肝を抜いた勢いで、スロークはそのまま王都へスカイドラゴンの一頭に乗って向かうと、ここでも王宮中の度肝を抜くことに成功、強引に対ナレハテ戦での裁量権をもぎ取った。

 ヒノモト所属の人員を少しでも削ぎたい、できるなら全滅させたい王家側だ、下手するとダラダラと参戦を引き延ばされるかもしれんしね、こっちはこっちで勝手にやるから支援はいらないけど口出しも無用って突きつけてきたみたいだよ。

 ま、ドラゴンにビビりまくって反対なんかできなかったんだろうけどね。

 4つの戦場との位置関係や地形から魔道具の設置場所を決めると、早速移動して建設開始、作動までは2日かかるので、遠い戦地から順に、第一から第四まで別れた。

 従魔兵団はこの地に留まって、ナレハテを誘導してきた部隊と代わって魔道具へと追い込む役目と、危機に陥った部隊への増援が任務だ。

 

 

 一番近い戦地に、第四部隊に割り当てられたドワーフ戦士団がいた。

 「あれがそうか、しかし、トカゲと聞いてたが、何だ、あれは。」

 目の前に見えるものは、首の無い胴体に人間の足や腕が10本、配置もでたらめに生えた奇妙な化け物だった。

 それが、四つん這い、いや、十這いとでもいうのか、そんな姿勢で暴れている。

 姿は全く違うが、大きさは聞いていたものとそう変わらない。

 「とにかくやってみるしかあるまい、配置につけぃ!」

 ゴンドーフの号令一過、ドワーフたちは巨大な両刃のバトルアクスに拳大ほどの魔石をはめ込むと、扇状に広がる隊列を組んだ。

 「よし、100足で入れ替わる!進めぃい!」

 100足とは、ドワーフたちの距離の単位で約50m、1足は約50cmだ。ドワーフたちの歩幅が基準になっているんだそうだ。

 彼らは50m、100足の位置まで一気に駆けると、高らかに角笛が鳴らされた。

 「のけい!わしらが後を継ぐ!!」

 戦場中に響くゴンドーフの声が、疲弊し、希望を失っていた兵たちに、逃げるだけの活力を与えた。

 「かかれぇえええ!」

 号令とともに、前方を向いた斧の刃が、燃えるような赤に、後方を向いた刃が淡い青に輝いた。

 同時に隊列が一気に広がり、あっという間にナレハテをグルリと2重に囲む。

 見事としか言いようがない動きだ。

 内側の一団が一斉に赤い刃で切りつけた。

 じゅっという音がすると、切り口が燃えた。

 すかさず返す刃、青い方の刃で切りつけると、火は炎となり、大きく巻き上がった。

 20本の斧が、一斉に切りつけ炎を巻き上げる。

 2手、3手と斧を振るうたびに炎は巨大になり、暴れるナレハテは激しくのたうつ。

 やがて炎はナレハテの回復速度をわずかながら超えはじめ、ジワジワと削れてゆく。

 10本の腕が、足が、彼らを押しつぶそうと叩きつけられ、弾き飛ばそうと薙ぎ払われる。

 ドワーフ達はそれを搔い潜り、飛び越え、転がって避けつつ切りつける。

 赤い刃で着火し、青い刃で威力と勢いを増す。

 間断なく切り続けて燃やし尽くす。

 それが彼らのナレハテ対策だった。

 スカイドラゴンも、上空から一気に下降すると鋭い爪でナレハテの背中を切りつけ、掴まれる前に離脱して上昇してゆく。

 炎をまとわない傷口はあっという間にふさがっていく、が、スカイドラゴンの存在がナレハテの気を引き、4本の腕がスカイドラゴンをとらえようと頭上へと振り上げられた。

 互いにけん制しあうことで、地上への攻撃が鋭さを失い、戦況はドワーフに傾き始めた。

 負傷したり疲弊したドワーフは、後列のドワーフと入れ替わり、常に20本の斧が切り続けた。

 下がったものは、みどり村から供与されたポーションで傷をいやし、疲労を回復させると後列の輪に加わる。

 それでも火力が足らない。

 ポーションを使い切り、ドワーフたちのスタミナも限界が近くなりとうとう、20人の斧が欠けた。

 斧を振るう握力も無くなり、振りぬくと同時にすっぽ抜けて後ろへと転がった。

 それでも諦めず、斧を取ろうと振り返ったドワーフ兵士の目に、自分が落とした斧を拾い上げる人間がいた。

 「私にも戦わせてください!」

 明らかに細身の青年が、軽々と斧を振り上げた。

 この地へ派遣されていたロン毛の異世界人、ヒノモトのイェンだ。

 「斧は専門外なんだがな。代わるぜ、だれか斧貸してくれ。」

 そう言った真っ赤な髪の青年は、派手な槍を地面に突き刺すと弾き飛ばされたドワーフを受け止めた。

 「ちょうどいい、休んでな。」

 その青年も軽々と斧を振り上げると、一足飛びにナレハテに飛び掛かると斧を叩きつけた。

 二人ともヒトとは思えない膂力(リョリョク)だ。

 その二人に触発されたファーレンの兵士たちも、再び戦闘に復帰する。

 さすがに斧を持ち上げられたものは100人にも満たなかったが、負傷者を救出し、弓や槍で牽制し、暴れる腕や足に縄をかけて拘束しようとするなど、総出で斧を振るうものたちを援護した。

 日も完全に落ちた頃、ついにナレハテは再生をやめた。

 大きな魔石を残して燃え尽きた時、どこからともなく雄たけびが上がった。

 それは瞬く間に広がり、大きな勝利の声となって響き渡った。

 「全く、想定以上の化け物だわい。2~3匹は始末するつもりだったが、もう無理だな。」

 斧に取り付けられていた魔石はほぼ透明に近くなっていた。炎を使えるのはあと1~2回がいいところだろう。

 「飯と休息を済ませたら他の援護に向かうぞ!しっかり休め!」

 (誰一人死ぬことは許さんと言われたが・・・まぁ、わしらは死んどらんしな。)

 疲弊した兵たちによって運ばれるファーレン軍の死者は、ドワーフ戦士団と共闘し始めてからも100名を超えていた。。

 この地に配備された1000人の兵のうち、総死者数は半分を超えていた。

 

 

 「ユーシン様、誘導開始の合図です。」

 影の中から声がした。

 連絡用のシャドウデーモンが潜んでいるのだ。

 「早っ!ドワーフたちが頑張ったのか、負けてらんねぇスね。」

 そういうと、出発前にアオイから手渡された刀で迫る触手をスパッと切り落とすと、身をかがめて手近の足に切りつけ、そのまま離れた。

 (前のも十分いい出来だと思うんだけどなぁ。)

 アオイから渡された刀はこれで5本目になる。

 何が気に入らないのか、アオイはいまだ刀の出来に納得していないようだ。

 「みんな乗るっスよぉ~。」

 そう言ったユーシンの隣には最大積載量10tの大型ダンプカーが現れた。

 その荷台に飛び乗ると、

 「運転よろっス。」

 運転席に乗り込む青年に声をかけた。

 「任せてください!」

 ユーシンが乗ってさえいれば、ユーシン以外でも運転できることはわかっていたので、かねてから警備や巡回で仲良くなった数人の仲間に運転を教えていた。

 その中でも今運転席に乗ったラオットは、トールが作った車に乗って、ユーシンのランクを上げるために開催しているレースに出場するほどの腕前だ。

 負傷者を含む第三部隊全員が乗り込み出発しようとすると、

 「乗せて、射撃主いた方がいいでしょ。」

 そう言って、抱くようにライフルを持った少女と派手な弓を持った青年が同乗を求めてきた。

 一人は、以前村に来たリタだ。術式杖へのカモフラージュはやめたらしい。

 「お、そりゃ助かるっス。」

 振動が激しくなる。

 切られた足をつないだナレハテが近付いてきた。

 「それにしてもキモイっスね。」

 四足獣の様な下半身に、前後左右に一本ずつ太く長い触手を持った胴体の化け物だった。しかも、その上半身はいわゆるケンタウロスなどとは違い、前足と後ろ足の中央から生えている。

 「走りながらだとやりにくいだろうけど、負傷者はしっかり治療っスよ~。」

 ダンプが動き出す。重量があるだけにスピードが乗るのに少しかかる。

 パァーン

 乾いた破裂音がして迫るナレハテの足に命中した。

 ガクンと体勢を崩しかけたが、すぐに走り出したナレハテ。

 「相性最悪、全然効いてない。」

 ムスッとして座り込んでしまった。

 「グレネードランチャーとかバズーカとかがあればよかったんですけどねぇ。」

 矢を反対の足に命中させた青年もあきらめ顔だ。右手を背中に、矢筒から矢を取るようにかざすと、スゥっと矢が現れる。続けざまに3発、どれも多少速度を落とさせた程度だ。

 「かわいくないもん。」

 プイッと横を向いてしまった。

 やれやれと新たな矢を取り出す青年はアキヒロという。

 両耳の上側が切り取られている。

 この世界に降りた先の地が、凶悪な人間至上主義のカルト教団に支配された町で、エルフの彼はすぐにとらえられ、耳を切り取られたうえ奴隷として劣悪な環境で重労働につかされていたという。

 「イェンさんに見つけてもらって、ヒノモトに入れてもらったおかげで教団も壊滅させられましたし、リーダーには感謝しています。まぁ、これが戻るわけでは無いんですけどね。」

 そう言って切られた耳に触れるアキヒロ。

 (なるほど、なんとなくシンさんから聞いてはいたけど、確かに違和感っスね。感謝するべきはイェンにじゃねぇのかよ。)

 いぶかしく思いつつも、ふと思い出した。

 「あのロン毛、キャラメイクやり直せる鏡台持ってないんスか?うちらはシンさんが持っていて、問題ある連中はみんな使ってるっスよ。」

 撃ち続けていた矢がピタリと止まった。

 「マジですか?」

 首がもげそうな勢いで振り向いたアキヒロは、なんだか非常に怖かった。

 なんか、泣いてない?

 「一生のお願いです、紹介してください!」

 「ついでに申請。」

 どさくさにリタまで・・・

 「分かったからしっかり邪魔しろよ、もう追いつきそうだぞ。」

 振り上げた触手が、今まさに振り下ろされようとしていた。ギリギリ射程距離内だ。

 「お任せを。」

 「ガッテン承知。」

 振り下ろされる触手に雷をまとった矢が突き刺さり、ビクンとうねって一瞬動きが止まった。

 バシュッ

 次の瞬間、短い発射音と共に放たれた弾頭が、爆発とともに触手を吹き飛ばした。

 「持ってんじゃねぇスか!」

 発射後のロケットランチャーをよっこらせと下ろすリタ。

 「コスパ激渋。」

 そう言って、爆破した触手を指さす。

 「しかも効果無し。」

 ちぎれた触手から、無数の細い触手が伸びてつながろうとしていた。

 迫る触手を炸裂する矢とロケット弾が打ち落とす。

 ユーシンは、ダンプに届きそうな触手は片っ端から切り飛ばしていくつもりだったからかなり楽ができてはいる。

 その気のゆるみが、目的地の魔道具が見えて来た時、油断に変わった。

 スッと沈むナレハテ。

 その異変に、一瞬反応が遅れた。

 「ラオット!ブレーキだ!!」

 そう叫んだときには、ナレハテははるか頭上にいた。

 急ブレーキでスリップした車体が転げ、荷台に乗っていた兵たちが投げ出された。

 激しい衝撃と土煙。

 視界を完全に奪われた中、ユーシンの声だけが響いた。

 「特急でシンさんに知らせろ!俺が足止めする!」

 その声に逆らうものはいなかった。

 今回の作戦を決めた時からの取り決めだったからだが、全員が躊躇なく動いたのはユーシンへの信頼の証か。

 激しい横転だったが、とっさに能力を解除してダンプカーを消したことで押しつぶされる者も無く、確実な受け身でダメージを殺した、スロークやコクエンに鍛え抜かれた精鋭たちだ。

 土煙が晴れると、そこにはナレハテとユーシン、リタとアキヒロだけが残っていた。

 頭上から振り下ろされる触手をかわしざまに切り落とし、その勢いで足にも切りつける。

 負傷者もいる以上、兵たちが安全圏に逃げ切るまでは足止めしなければならない。

 スタミナを温存して、長期戦のための戦い方を心掛けた。

 二度とあの時の失敗を繰り返さないために、コンボも大技も捨てた。

 ひたすら触手をかわし切りつける。

 リタとアキヒロの援護もあって、少しずつ魔道具方面へと誘導するだけの余裕もでてきた。

 そんな中、切りつけた刀に違和感を感じた。

 切れ味は変わらないが、刀身が深く入った時、軽く引かれるような感覚。

 それが、だんだん強くなっていく感じがする。

 (こいつ、まさか刀を奪うつもり?)

 そう感じたユーシンは即座に戦い方を変えた。

 浅く切りつける代わりに手数を増やす。

 それでも対応されたら、刀から予備に持ってきたバールにチェンジする。

 以前のユーシンなら、ムキになって刀を失っていたかもしれない。

 切りつけが浅くなった分ナレハテの再生が早くなり動きも激しくなるが、リタとアキヒロが確実にサポートする。

 即席のパーティでも対応できる柔軟性は、街道警備で多種多様な仲間とともに培ったものだ。

 こうして三人は、援軍が到着するまでナレハテの猛攻をしのぎ切った。

 「今すぐ離れろ!」

 頭上からの声に素早く反応するユーシン達。

 直後、すさまじい衝撃音。

 振り返ると、目の前は土砂降りの雨。

 一瞬でやんだ雨の先には、ナレハテを包み込んだスラりんがいた。

 「えげつな。」

 頭上にはスカイドラゴンが旋回している。

 その首元にはシンが。

 先ほどの声は、スラりんを運んできた彼の物だった。

 どれだけ暴れてもスラりんから抜け出すことができず、ジワジワと溶かされてゆくナレハテ。

 「最初から使ってほしかった。散財。」

 隣にやって来たリタは不満げだ。

 「スラりんは最終手段っスよ。一体しかいないっスからね、他の対抗策を模索しとかないと、これからきつくなるってシンさんが言ってたっス。」

 「これから?!」

 「あぁ、なんか、こんなんがドンドン落ちてくるらしいっスよ。」

 がっくりとしゃがみ込んでしまったリタ。

 「無理ゲー。」

 複数の足音が近づいてきた。

 先に逃がしたラオットたちだ。

 「遅く、なりました・・・グリプス、子爵の話では・・・カトリ男爵の、第二、部隊で・・・問題が発生した、ようです・・・従魔兵団の多くが、その対策、に、出ておりまして。」

 荒い息のまま報告するラオット。

 「かしこまんなくたって、いつも通りでいいっスよ。グリプスだのカトリだのは他に貴族がいる時だけで。あ、こいつらは気にしなくていいっスからね。」

 そう言って息も絶え絶えなラオットの頭をポンポンと叩いた。

 「いや・・・いざってときに・・ボロが、でそうで。」

 よほど全力で走って来たのだろう、呼吸が荒く聞き取りにくい。

 「さて、そんじゃあ、ライアーんとこでも応援に行くっスかね、休憩は移動中ってことで。二人はどうするんスか?」

 ナレハテを溶かし尽くして、満足そうにプルプルしているスラリンを見上げた。

 「無理、残弾ゼロ。」

 「同じく。まぁ作れますけど、十分戦える量を作るなら2日は欲しいですね。」

 「了解っス、じゃ、二人にはシンさんとこ行ってもらって、俺らはライアーんとこにでも行くっスかね。」

 そう言うと、ユーシンはマイクロバスを呼び出した。

 「何でもありですね。」

 「それに乗りたかった。」

 呆れる二人を残して、ユーシン達はマイクロバスでコンテナの元へと引き返し、ライアーの援護に出発した。

 

 

 ユーキ達が戦地へ降り立った時、現地の部隊はすでに壊滅状態だった。

 確認できたナレハテはシンプルな人型、ただし5体、話が違う。

 大きさこそ人の倍程度と、聞いていた話よりはずっと小さいけれど。

 「シャドウデーモン、すぐに救援の要請を。」

 「承知」

 連絡用に影に潜ませていたシャドウデーモンに命じると、呼び出すモンスターを耐久力重視に変更、兵たちも急遽4つのチームに再編した。

 「くれぐれも無理しないように、増援が来るまで時間を稼ぐんだ。」

 (ナレハテは5体だけど、1つはあそこで暴れてる奴に任せればいいな。ってか、あれ、たぶんリーダーとかいうやつだよな。)

 シンから、リーダーに関する考察を聞いていたユーキは、暴れる人物を見た瞬間直感した。

 ヒノモトのリーダーは、魅了か何かのスキル、もしくは魔法を所持している可能性がある。

 理由は、知っているヒノモト勢の、リーダーに対する不可解なまでの忠誠心だ。

 ついて行きたいと思える人物像にはとても思えないのに、悪い感情を抱いているように感じられなかった、どう考えても腑に落ちないとシンは言っていた。

 最初は知っている数が少ないから特別な例なのかととも思ったそうだが、調査報告によって確信に変わったらしい。

 ただし、スキルか魔法という形でゲームに存在したとしても、ゲームでは魅了系の状態異常は長時間持続しはない。

 短時間で効果が切れたり、ランダム発動だったり、抵抗されやすかったりするはずなので、そう言ったスキル・魔法が存在するゲームだとは考えにくい。

 考えられるのは、使用していたキャラクターに、他者を引き付ける体質だとか、カリスマ性があるだとか、そんな設定がつけられていて、本人すら気が付かないうちにパッシブスキルのような状態で発動されている可能性が高いということ。

 そうなると、キャラクターに様々な設定が存在する原作付きか、主人公固定のゲームだろうとも。

 まさに、その考察にピッタリのキャラクターが暴れている。

 魔闘学園。

 Web小説、ノベル化、コミカライズ、アニメ化、映画化、ゲーム化と、素人投稿小説からシンデレラストーリーを駆けのぼった作品で、ユーキも愛読していたしゲームもプレイした。

 ゲームでは隠しキャラとして登場した、作中最強の敵キャラ、西さいおんまことだ。

 彼は、冷静沈着、文武両道、優雅で圧倒的カリスマ性を持つ巨大企業の御曹司と設定されている。

 残念ながら、中身がキャラとは似ても似つかないほどの馬鹿らしいのだが、外見だけは遠目にもわかる派手な白髪ロン毛に、特徴的な白ラン(白く裾の長い学生服)を身にまとっている。

 「戦い方もキャラに合わなすぎ。野蛮だなぁ・・・ん?」

 切り飛ばしたナレハテの腕が、地に落ちる前に変形、人型に変化した。

 「うそだろ。」

 背筋が冷たくなった。

 漫画ではよく見る能力だ。

 分断されると2体に増える。切り離されるほどに増えていく敵。

 厄介でも、対処法はすぐに思いつく。

 問題なのはあの馬鹿リーダーだ。

 これだけの被害を出しておきながら、敵を5体に増やしておきながら、まだ理解できていないのか。

 「指一本でも切り離しちゃだめだ!打撃だけで押し返せ!ロープ状の物で拘束するのも禁止!引きちぎれる可能性がある。」

 手早く指示を出すと、サポートのための準備を始めた。

 変形した新たな人型は人間大のサイズだが、元になった腕よりも明らかに体積が大きい。

 ひょっとすると、あれ以上小さくならないかもしれない。

 すでにリーダーの状況は無視することに決めた。こちらに害が及ばないようにだけ注意を払う。

 彼がもう少しまともな判断のできる人物であれば。

 聞いた話では、この地に派遣された軍は1500名、そのほとんどがすでに死んでいる。

 無能な指揮官は優秀な敵将に勝る脅威だ。

 (誘導するどころじゃない、スラりんかフレイアが来てくれればいいけど。)

 ユーキが一度に呼び出せるモンスターは3体まで、さらに、回復などのサポート魔法が効果を発揮するのも呼び出したモンスターに対してだけなので、特に人や魔者たちだけの部隊には細心の注意を払わなければならない。

 4部隊を同時に指揮し、さらにもう一か所、注意を払わなければならない。

 明らかにキャパオーバーだ。

 シャドウデーモンを通じて、クロウへは念話で援軍要請は通っているはずだ。スカイドラゴンでここまで1時間ほど、援軍の選出、準備にかかる時間も考えて、1時間半~2時間ほど耐え抜けばどうにかなる。

 問題は・・・。

 チラリと見て、すぐ後悔した。

 3体に増えている。

 無理をすれば、数名援護に向かわせることはできる。

 今は。

 今はだ、このままおよそ2時間、戦い続けられるはずがない。

 本来ならば、1体のナレハテに対して3組に分かれて、ファーランの兵、討伐が完了して駆けつける予定の仲間たちと協力して、交代で予定の7日間を耐え忍ぶはずだった。

 それが、一人の馬鹿のせいで早々に破綻してしまった。

 (他のワタリビトはどうしたんだよ、あいつだけなのか?)

 かろうじて動けるファーラン兵は、すでに敗走しており協力はあおげそうもない。

 (何か手は無いのか、考えろ・・・このままじゃ援軍が付くまでもたない。)

 「突然失礼します!リョータと申します!まさかとは思いますが、あなた様のゲームはマジモンでしょうか?」

 話しかけられはしたものの、周囲に人影は無い。

 「あ、ここです!私、非常に小さいものですいません。」

 ようやく見つけた声の主は、コメ粒ほどの大きさだった。

 (あぁ、シンさんから聞いたスパイか。)

 「実はですね、我々の仲間にもマジモンプレイヤーがおりまして。パソコンへの移植版なので最新作ではないのですが、MODとかいうチートが使えるとかって言ってましてですね、10体まで同時に使うことができるアイテムを使っていたんです。」

 ほとんど見えないけれど、足元にいるのは間違いなさそうだ。

 しかしMODか、シンさんやスロークさんから聞いてはいたけれど、うらやましい限りだ。

 「で、その人はどこにいるの?すぐにでも手伝ってほしいんだけど。」

 辺りを見回すが、それらしい人物はいない。

 「実は、すでにお亡くなりになっておりまして・・・でも、彼のアイテムが残っているんです。ひょっとしたら、あなたなら使えるのではないでしょうか。

 あそこの、窪みになったあたりにあります。私ではとても持ち上げられなくて、すいません。」

 たぶん指さしているんだろうけれど、じっくり見ている余裕はない。

 窪みなんてそこら中にある。

 「その人の形見みたいなもんでしょ?僕なんかが使っていいの?」

 「そんなこと言ってる場合じゃないですから、使ってください!彼もきっと、使っていただけることを望んでいるはずです!」

 ずいぶんご都合主義な考えだけど、たしかに使えるなら、多少は状況を改善できるだろう。

 問題は・・・どこの窪みか分からない。

 「あれです!あの青い旗があるところ!アレの下にあるんです。」

 聞くが早いか、ユーキは青い旗目指して駆けだした。

 直前に眼に入った状況が、躊躇いを捨てさせた。

 リーダーとやらはとうとう、漫画の定番よろしくナレハテを細切れにしたのだ。

 「再生できなくなるまで切り刻んでやる」と叫んで。

 たいていの場合、さらなる窮地に立たされるのに。

 勢いよく旗を剥がすと、下には革鎧をつけた青年が。

 右半身が潰され、すでに事切れていた。

 手を合わせて軽く目を閉じる。

 次の瞬間、青年の胸の上にあった装飾された板を手に取った。

 「これって、ブックカバー?」

 「そうです、それを魔本に付けてください!」

 リュータはいつの間にか肩に乗っていた。

 剥がした旗を青年にかけ直すと、一瞬の躊躇の後、ブックカバーを本につける。

 もし、これで何か問題が発生したら戦線は一気に崩壊してしまう。その懸念がチラついてしまった。

 それでもこれにかけるしかない。

 振動が伝わってきた。

 ユーキ目指して、10体を超える人間大のナレハテが迫ってきていた。

 そのナレハテに、矢が突き刺さる。

 黒い巨体が体当たり、頭上高くへと弾き飛ばす。

 無数の小石が穿つ。

 アイテムは正常に機能した。

 新たに7体のモンスターが呼び出され、迫るナレハテに対応する。

 が、敵が増えすぎた。

 これでは、呼び出せるモンスターが増えたところでそれ以上に増えた敵に対応しきれない。

 ユーキは即座に戦場の再構築を始めた。

 苦労してバラバラだったナレハテを一か所に追い込むと、モンスターたちでグルリと囲む。もちろん、リーダーからは極力離れてだ。これ以上敵を増やされたらたまらない。

 モンスターたちでナレハテを一か所に押し込み、兵たちはサポートに徹することで長期戦に備えた。

 疲弊したモンスターは即座に回収し、別のモンスターを呼び出して抜けた穴を埋めさせた。

 コツコツと封印、育成を行ってきた成果がここに来ていかんなく発揮された。

 戦法としてはドワーフたちの戦い方に近いが、こちらは複数対複数で、殲滅ではなく時間稼ぎが目的、しかも、これ以上増やさないために攻撃手段が限定されてしまう分困難と言えた。

 その困難を、ユーキの指揮でかろうじて耐え抜いた。

 ユーキに影がさしかかる。

 頭上には、コンテナをつるしたスカイドラゴンが。

 援軍の到着だ。

 コンテナから白銀と黒い影が飛び出した。

 白銀の影、フェンリルのハクアは、地に着くより早くナレハテに雷の雨を降らせた。

 黒い影、ヘルナイトのカムイは少し離れた場所に降り立つと、影を広げた。

 半径10mにも及ぶ影からは、10体のデスナイトが浮かび上がってくる。

 「気を付けて!一部でも切りはなすと増える!」

 「承知」

 ユーキの忠告に短く答えると、盾を構えた10体のデスナイトがナレハテの集団に向けて飛び上がった。

 器用にモンスターとナレハテの隙間に入り込むと、盾で殴りつけ、押し込み、押しつぶした。

 「今のうちに休息を。」

 カムイはそう言うと剣を、敵に押され始めているリーダーへ向けた。

 「あちらは?」

 「はぁ・・・元凶だよ、ヒノモトのリーダー。何も考えずに増やし続けてるんだ。いい加減どうにかしないと。」

 離脱してきたモンスターたちをいったん回収しつつ、考えたくない問題に頭を抱えた。

 「とのことである。ヤミ殿、マガちゃん殿、お願いできるか。」

 ユーキの脇を、黒い二つの影が駆け抜けた。

 「しかし難問ですな。これだけの数をどう誘導すべきか。」

 (どこから声を出してるんだろう。)

 カムイを見るたびに思う疑問を飲み込んで、何とかひとまとめにできないか、新たな難問に頭を悩ませることになった。

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