64:米男とクソ悪魔
次回は6/24日(土)16:00頃更新予定です。
よろしくお願いします。
それは唐突に訪れた。
拠点内に入り込んだ一羽の鳥。
この森に生息しないはずの鳥なのでクロウの配下が撃ち落としたそうなのだけれど、背に手紙のようなものがつけられていた、ということで持ってきたのだ。
差出人が誰か、何となくわかってしまった。
あまりいい思い出は無いけれど、例の鳥かごを使って片道切符の伝書鳥に仕立て上げたのだろう。
つまり、エイルヴァーンのプレイヤー、あのロン毛だ。
読みたくないなぁ~。
よし、放っておこう。
「「あなた、ほんとにひどい人ですね。」」
こいつも久しぶりだな。
もう用事無いんだけど。
「どうせヒノモトとかいう痛い名前の連中からだろ? 迷惑しかかけられてないんだからわざわざ読む義理は無いね。」
「「でもねぇ、いずれこの村、というか国にも影響する気がしますよ。」」
「なにが、気がしますよ、だよ。どうせギリギリのタイミングまで放置してたんだろうが。」
こいつがわざわざ出てきたのなら、間違いなく大事になりかねない事案だろう。
仕方ない、心の底から破り捨てたいけど読むしかないか。
拝啓シン様
新緑の候御多忙なこととは存じますがいかがお過ごしでしょうか。
ペシン
いい音がしたな。
「「あなた、いくら何でも一目で手紙を叩きつけることないじゃ無いですか。」」
「書き出しがもうふざけてるだろこれ。緊急事態じゃないのかよ!」
「「ああ、あの方もたいがいズレてますからねぇ。」」
良く知ってる口ぶりだな、やっぱり接触してるのか。
現在、ヒノモトは正体不明の魔物により蹂躙されております。
数は4体、共通点は、突然空より飛来したという点と、切りつけても出血せず、短時間でつながってしまう点、恐ろしくタフで、スタミナ切れというものを感じられません。さらに、我々の魔法が通じない点。
強さ自体はさほどでもなく、現地の軍でもかろうじて足止めできるレベルではありますが、日を追うごとに消耗が激しくなり、戦闘特化の転生者総がかりによる特攻も失敗に終わりました。
最後の賭けにと、国内に存在する洞窟内にてスライムの捕獲を試みましたが、残念ながらこちらも不発、国内の洞窟ではスライムを発見できませんでした。
もはや、デモンスライムをテイムするあなた様に頼るしか道はありません。
恥を忍んで申し上げます。
ヒノモトをお救いください。
イェン
「なるほどね。じゃぁ、その化け物がこの国に来た時のために防衛強化しとけばいいわけね。」
手紙を雑に放り投げると、クロウを呼んでこの国の地図を持ってくるように指示した。
「「あぁ、それもありですね。あっさり見捨てられたと知った時のあの方がたの心は、なかなかおいしそうです。」」
キモいぞ。
「だいたい、まだ全然余裕だろ?こいつら。
この期に及んで手紙はあくまでも、あのロン毛の個人的なものじゃないか。
まがりなりにも国を名乗っておきながら、国の代表でもなく役職すら告げずに個人名で送りつけて来たんだぞ。
ただの手紙で他国の貴族と戦力を動かそうなんて、舐めるにもほどがある。
どうせ、あわよくばこっちの戦力を削った上情報収集までして、個人的な話だから国としての謝礼も恩も無し、なんてつもりだろうよ。」
正直なところ、ヒノモトとやらには警戒心しかないので今回はパスだ。
可能なら占領しちゃえ、なんてノリで部下を送り込んできたような奴が仕切る国なんて、むしろ無くなってくれた方がこの村にとっては良いと思う。
「やっぱり信用してくれないですよねぇ。」
椅子をなぎ倒して立ち上がった俺は、この時初めて声の主、テーブルの上にいた米粒ほどの人影に気が付いた。
すかさずガラスコップを逆さまにかぶせて米粒男をとらえる。
「え、ちょっと、話を聞いてくださいよぉ~。」
慌てる米男を無視してクロウを呼ぶ。
「申し訳ありません。我々に危害を加える可能性のある強者への警戒しか考えておりませんでした。このようなゴミムシの侵入を許してしまうとは。直ちに処分し、防衛網の再構築をしたく存じます。」
「ぎゃー!ちょ、僕は説明に来ただけなんですぅ~。イェンさんに頼まれて、手紙に必死にしがみついてきただけなんですぅ~。処分しないでください~。」
ちょっと脅すつもりだったのに泣き出しちゃったよ。
うっとおしいなぁ。
「それにしてもキモいなぁ。なんでそのサイズで、しかもコップの中に閉じ込めてるのに一般サイズの人と普通に話してるみたいに聞こえるんだ? 物理法則無視かよ。」
「分かんないです。最初からこうなんで、気にも留めなかったです。」
「「スパイには便利そうですね。」」
「ひぃっ、何なんです?この人。ヒト?なんかすごく怖いんですけどっ。」
こいつ、クソ悪魔のこと知らないのか?
「「誰にでも姿を見せるわけじゃないですからね。」」
頭の中読むなよ。
「自分はッ!深山良太と申します!仲間からはリョータと呼ばれてます!ミクロンマンをプレイしていました!!」
ミクロンマン?
知らん。
なんて顔をしていたら、
「あ、ミクロンマンっていうのはですね、子供向けのギャグマンガでして。必殺技も何もなくて、ただ小さいだけの落ちこぼれヒーローが主人公なんです。それのゲーム化した物なんですけど、やっぱり小さいだけで何も無いんですよね・・・。イェンさんに気が付いていただかなければ今頃とっくに・・・。」
またシクシクやり出した。
「小さいって、使いようによっては無茶苦茶有能だろうが、実際今ここに入り込んでるんだし。」
って言ったら、ポカンとしちゃったよ。
こいつ、本気で気が付いてなかったのかよ。
気が付かせないようにしてたのか?ロン毛が?それともリーダーとやらが?
だとしたら、さらに一段階警戒レベルを上げた方がいいな。
有能なはずの仲間を故意にそう思わせないってことは、使いつぶす気だからとしか思えない、そんな連中なら策略、謀略を仕掛けてくるのにためらいは無いだろう。
違うとすると、とんでもない無能ってことだから何してくるか分からないって意味でも、やっぱり危険だ。
「イェンさんは、もっと前から助けを求めるべきだって言ってたんですよ。でもリーダーが・・・その、本当はいい人なんですよ!でも、その・・・たまに理不尽というか、イケイケな人というか、とにかく頭を下げることが嫌いな人だったりしてですね、自分たちの国を自分たちで守れなくてどうするんだ~って感じでですね、その、この手紙は、折衷案なんです!」
まぁ、ようするに企み事とかがあるわけじゃなく、本当にやばい状態なんだと、なのに、頑固なクズリーダーは、頭を下げたくなくて駄々をこねていると、ロン毛は焦って、個人で出すならいいだろうとこんな手段に出た。でも、最悪ちゃんと伝わらなかった時のためにリョータをつけて来たってことを言いたいんだろうけど、そんな言葉だけで信用できるほど奴らへの印象は良くない。
「なるほど、事情は分かった。御領主様から命じられたなら、前向きに検討しよう。ご苦労様。」
「え?」
「え?じゃないだろ。
俺は、グリンウェル伯爵の補佐官だぞ、頼み事ならまず国に、サンザ王国にするのが当たり前だろうが、最低限筋は通せよ。
だいたいだな、俺を引き抜こうとしてるとか、俺を罠にかけようとしてるとか、そうとられてもおかしくないことをしてるんだぞ。
国を自称するならそこら辺のことまでしっかり考えて行動しろよ。
そんなんだから、いまだにどこの国からも認められてないんだろうが。
ちゃんと伝えろよ!正式な手順にのとって筋を通すなら手を貸してやってもいい。」
と、しめた。
事実、周辺諸国はいまだにヒノモトのことを国家としては承認しておらず、ファーラン王国の氾濫組織として国交その他断絶状態になっている。
とはいえ、国境閉鎖まではいっていないので個人的な商人が小規模な取引をする程度は容認されている。通行税とかかなりガツンと取っているみたいだけどね。
いくら同郷のよしみとはいえ、国を無視して動くことはできない。
友好国内反乱分子に手を貸すとなれば、それこそサンザ王国への謀反と捉えられても仕方がない行為だからね。ここは心を鬼にしても・・・あまりしてないけれど・・・筋を通させなければ。
たぶん、それでも間に合うギリギリのタイミングなんだろう。こちらが慌てて手を貸してサンザ王国ともめた後、ニヤニヤと「「選択を間違えましたね。」」なんて姿が想像できる。
だって、クソ悪魔だしね。
「分かりました。ちゃんと伝えます。けどですね、その・・・。」
もじもじしだす米粒。
「私はどうやって帰ればいいんでしょう・・・。」
・・・知るか!
悪魔は素知らぬ顔だし米男はオタオタするだけだしで、うっとうしいことこの上ない。
無視してやろうとも思ったけど、あまりに陰鬱な雰囲気をまき散らすので仕方なく、洞窟での反省を活かして確保してあった伝書鳥をくれてやった。
しかしなぁ、ほんとに国として機能してるのか?ただの山賊集団じゃないか?
「で、お前の目的は何さ。」
米男を帰した後も、いつまでもウロウロしているクソ悪魔。
無視し続けて来たけど、いい加減邪魔だ。
「「あれ、何か興味はありませんか?」」
あぁ、そう言うことね。
「どうせ、アホ王の関係だろ?天空の国だっけか、そこから嫌がらせに落としてきたってところじゃないのか?」
ドワーフたちの時も今回も、共通するのは空から降ってきたこと、空と言えば、アホ王の国だ。
「「半分正解です。」」
イラッ
「もったいつけるならもう知らん。とっとと帰れ。」
「「そんなまた、知らない仲でもないでしょうに・・・はぁ、久しぶりなんだからちょっとくらいつきあってくれても・・・」」
シカトである。
「「つまらなくなりましたねぇ、あなた。
正解しているのは、王の国からというところです。不正解は、王が派遣しているわけじゃないってことですね。
あの地での覇権争いの結果、勝ち残ることのできない弱い個体が排除され始めたのです。」」
「あんなのがまだ落ちてくるってのかよ。」
うんざりだ、もう、ガゼンやる気が失せて来た。
「「はい。あの地には100万の市民がおりましたから。」」
どうせ、大半が殺し合ってるだろうからずっと少ないだろうけど、万単位は覚悟しないといかんのだろうな。
しかも、弱者から落ちてくるんだからだんだん強くなっていくわけだ。
テンプレかよ。
「「つまらない人ですねえ、もうちょっと、リアクションを勉強された方がよろしいかと。」」
知ったことか。
現状あれを始末できるのはスラりんだけだ。
全身を包み込んで、強酸で溶かし続けて数分かかった。
ん?なんで俺たちの魔法が効かなかったんだ?
スラりんの酸もスキルの一部、魔法と同じく魔素由来のはずだ。
ってことは、魔法もすぐ回復されただけで効いてはいたのか?
あれを包み込むほどの広範囲で、長時間持続する魔法やスキルはゲームでは記憶にない、大抵は一瞬で終わる。
いや、戦略系のゲームなら火計とかの戦術スキルがあるか、イェンは戦術ゲーじゃなかったのかよ、気が付いてないのか、効かなかったのか。効かなかったとしたら、威力の問題か?
高威力で広範囲を攻撃、しかも、消滅させるような攻撃となると、酸か炎か。
魔法では無理だ、となると・・・
クソ悪魔が笑ってやがる。
魔導具か。
クソっ。
またいいように使われるのか。
ムカつくイラつく腹がたつ。
ん?ちょっとまてよ。
「おい、今まで落ちてきてなかったわけじゃないよな、」
3年間も何もなかったとは思えない。
「「おっしゃる通りです。ただ、この地域からは遠く情報はほとんど届いていないでしょう。これまで32体が落ちてきました。うち2体は落ちた場所が悪く死んでおります。さらにあなた様が倒した1体、残り29体中半数が処理され、残りは現在も活動中でございます。」」
半数も処理済みか、よかった、倒せる奴がいるってことなら、慌てることもなさそうだ。
「「そう思います?」」
「だから、頭の中をのぞくなよ。」
「「多くが、火口へ落として焼き尽くすという方法でした。活火山帯の地域では最初に思い付いた手法でしたね。
ただ、誘導するまでに相当な犠牲を払っております。国家が傾いてしまったほどの犠牲を出した地域もいくつかありました。
火山の無い地域では、洞窟からスライムを誘導して食わせるという手法を取った地域も少なくありません。ただ、スライムの誘導にも大きな犠牲を払い、さらには対処後のスライム処理にも甚大な被害を出していましたね。
貴方方のように異世界人の多い地域では、建築系の方がいれば溶鉱炉などを作ってそこに落とす、破壊しきれないほど強固な壁で囲って閉じ込めるなどの対策を取られる方が多いようです。
ただ、溶鉱炉は暴れる魔物に壊されてしまうこともあって決定打にかける様子ですよ。
戦闘特化の方が多い地域では、お隣のように戦い続けている地域も多いですね。
最長は半年、ちなみにお隣です。
わかりますか?
無傷で倒したのはあなただけです。」」
「そんな褒められ方してもうれしくねぇよ。だいいち、倒したのはスラりんだ。」
「「あなたの従魔でしょう?」」
くそ、ムカつく。
結局こいつの思い通りになるんだ。
いいように動かされる。
それも、俺の意思で。
最初からそうだった。
「「それは、買い被りでございます。
むしろ逆、あなたは、私の予測を楽々と超えてしまう。
ぶっちゃけてしまいましょう、私としては、この地上の住人がどうなろうと知ったこっちゃないんですよ。
停滞し続け、よどんだ感情に支配されたこの世界になど、かけらも興味ありませんでした。
むしろ、異形の魔物への恐怖と絶望、親しきものが死んでいく悲しみ、怒り、それら最後の爆発を堪能できるなら、魔物の落下を速めてでも滅んでもらって差し支えないとさえ思っておりました。
貴方方の誰か一人が生き残り、わずかずつでも魔素を消費し続けてくれれば、契約は続行中ですので、私としては何も言うことが無いのです。そのための保険もかけてあります。
考えが変わったのは、あなたのせいです。
偶然とはいえ、食べ物が魔素に汚染されていること、その除去法を見つけ出した。
それは、ほんの少しでしたが、停滞していたこの世界を動かし始めました。
食事という、生きる上で最も重要な要素に人々が希望を持ち始めた。その広がりはすさまじいほどでしたよ。
ご存じではないでしょうが、この村の食材は遠く離れた地域にまで運ばれ、数十倍の金銭で取引されているのですよ。
欲望の心は我々にとって至福のスパイスです。
貴方の見つけた偶然と、それを当然にしてしまうほどの行動によって、私の考えを変えたのです。
この世界をもう少しだけ永らえさせてもいいと。
私があなたを使っている?全くの逆です。
さらに異界より魔素を取り込んで物を作る?魔道具のエネルギー源にする?そんなこと、私では絶対思いつきもしない!
他の誰だったとしても思い付きはしないでしょう。たとえ真相を知っても、王を殺そうとする者が出る程度、長く苦しめるために魔素をできるだけ消費しないようにするなど、私の考えに賛同する者が現れるはずがない。
貴方は、私に近い。それでいて全く正反対でもある。
だからこそ理解できない。貴方の望む先を見てみたい!」」
衝撃の告白?はいいとして、あの化け物が落ちてくるのは確定事項だったみたいだ。
なんでもっと早く言ってこなかったのか、の、理由が分かってしまうあたりがこいつに気に入られてしまった理由なんだろうな。
はぁ~、自己嫌悪。
「「そのつれなさも癖になりそうです」」
キモ!
仕方ない、準備だけはするとしようか。
まずはトールに構想を説明しないとな。




