62:謁見
次回更新は6/18(日)です。
よろしくお願いします。
めんどくせぇ。
平民である俺は謁見の間へは入ることができないため控室にいる。
控室ったって、ここだけで有名芸能人がテレビカメラ入れて盛大にやる結婚式場くらいの広さとゴテ感、もとい豪華さがある。
ここで待機を命じられてから、ひっきりなしに○○貴族家の執事やら何やらが接触してくるのだ。
分かるけどめんどくせぇよ。
順番も階級順とかって暗黙のルールがあるみたいで、親王、公爵、侯爵家、伯爵家と終わりが見えない。
何といっても、侯爵家以上の、いわゆる上級貴族の執事は子爵以下の下級貴族だったりするし、そうでなくても貴族家の執事ともなれば、旗爵がほとんどだし、たとえ平民であったとしても立場上は平民の俺よりずっと上、なので作法だのなんだのと気を付けないといけない点が多すぎるのだ。
しかし、並んでるわけでもないのにちゃんと序列順に接触してくるってことは、ちゃんと記憶してるってことだよな、この人たち。
同じ侯爵でも序列があるんだもんなぁ・・・功績だったり、年月だったり、献上品の差だったり、頼子の数や功績だったり、いろいろなものが複雑に絡み合ってできた序列をしっかり把握しとかないと大変なことになるらしいんだから・・・萎えるんですけど。
もっかい言ッとこう。
萎えるんですけど。
とても仕える家名に執事の名前と顔と序列までを覚える自信が無いから、こっそりスクショ取りまくり。キーボード打たなくても、考えるだけでタイトルつけられてよかった。
ただ、序列は結構頻繁に変わるらしいから意味ないかもしれん。
長ったらしいけど、家名と名前をタイトルにして、作った貴族フォルダーに放り込んでゆく。
量が多いけど、今回は顔見世程度ということでサクサク進んでゆく、それだけはありがたい。
しかし、これだけ顔見世にやって来るってことは、スロークの伯爵は間違いないんだろうな。でなければ、たかだか旗爵の献上にこれだけの貴族家執事は集まらない。ってか、普通準男爵以下は寄親を通して献上するので登城はしない。
ようやく子爵家までの顔見せが終わり、さて、終わりが見えて来たぞ、と思って警戒の応用で室内を探知してみたら・・・今までの倍以上いるんですけど。
旗爵はこの場にはいないから、男爵と準男爵の執事だけでこれまでの倍・・・萎える。
いちおう伯爵から聞いていた、警戒した方がいい貴族家、懇意にできそうな貴族家のチェックもやってるけど、終わりが見えないって萎えるよね。
マジ萎える。
と、萎えがコンボを決めて来たところで声がかかった。
「シン殿、国王陛下より出頭命令である。ついてまいられよ。」
え?
周辺もざわつく。
そりゃそうだ、王型平民にお呼びがかかるなんてことはありえない。
何事?
移動中簡単に作法などの説明があり、そのついでにスロークが伯爵になったことを聞かされた。
いや、ついでって。
緊張しつつも後に続いて謁見の間へ続く大扉の前に。
ぴっちりと閉じられた大きな両開きの扉には、白地に金細工の豪華な模様が描かれている。
マジ?入っちゃうの?
深く頭を下げると同時に
「召命によりグリンウェル伯爵従者、シンをお連れいたしました。」
その声があって数秒、大扉が開いた。
控室までの道中に言われた作法のとおり、頭を下げたまま謁見の間へ、まっすぐに進むと、豪華な絨毯の、指定された模様の場所で止まって片膝をつく。
「ご召命により参上仕りました。グリンウェル伯爵従者、シンでございます。」
<何?何事なの。>
斜め前で片膝立ちのスロークに密談で状況説明を求めたけど、
<わからん。突然のことでさっぱりだ。>
そんなぁ~。
しんと静まり返った謁見の間、平民は王からの召命が無い限り入室を許されない。
要するに異例の事態。
このことは誰もが予想外らしくて、視線がチクチク痛い。
目線は自分の足元なのに何でわかるかって?この場に来てみろ、刺されるような殺気がヒシヒシと伝わってくるから。
いやな予感がする。
非常にまずいのではないか。
「シンよ、貴様を叙する。シン・サンザド・グリプス子爵を名乗るがよい。」
?
はい?
一気にザワつく謁見の間。
平民からいきなり子爵?
ナニイッテルノカワカンナイヨ。
「貴様!陛下のお言葉に応えぬとは不敬な!」
なんて声が聞こえたりした気もするけど、頭が追い付カナイヨ~。
プスン・・・
「オイ、いい加減シャキッとせんか!」
そう言う声と同時に背中をバンと叩かれた。
ココハドコ?
ワタシハダアレ?
途中の記憶があいまいだ。
「しかし、まさか陛下があのような手段に出るとは思いもせなんだ。」
苦虫をかみつぶした顔でソファに腰を下ろすカルケール伯爵。
ここはどうやら王城内。休憩にと与えられた室内らしい。
あの後何とか体裁は取り繕ったものの、あわや牢屋直行もありえた程度にまずかったみたい。
「陛下が直接不問に処す、と言わなければ今頃牢屋だったぞ。」
なんて小言を言われたけど、
「おそらく目論見通りだろうが。」
と、ボソリとつぶやいた。
今室内には、俺の他にカルケール伯爵、グリンウェル伯爵となったスローク、ベアード男爵となったレインがいる。
そう、レインは男爵になっていた。
準男爵を飛び越えての男爵だ。
カルケール伯爵も、今回で準男爵、その後の積み重ねて、ミレーユ嬢との婚約までには男爵に、と思っていたそうなのでとても喜んだ。
昨日はね。
そんなことがあって、俺に件には口が出せなかったらしい。というか、そのためにレインを一気に男爵にしたのだろうとムスッとしていた。
俺は、平民から王に叙爵されて一気に子爵へ。
つまり、王の頼子ということになる。
名前にミドルネームがあるのがその証で、しかもサンザの文字が入っているということは、王が認めたという証明なんだと。
いらねぇ。
「王の頼子ともなれば、位階は子爵だが実権的には伯爵にも相当する。名を汚すでないぞ。」
いらないですぅ~。
のしつけてお返ししますぅ~。
「だからお前は、顔に出過ぎだと何度注意したら・・・はぁ。」
どういう思惑かまでは知らんけど、きな臭さプンプンの子爵位ですもの、マジイラネー。
領地問題の方も想定外で、結局王の直轄領とされてしまった。
ただし、王の名代としてグリンウェル伯爵が推挙され、広大なノスランザ大森林の西側1/3くらいを王領グリンウェル地区としてスロークが采配することになった。
「おそらく、お前のところはこの先たびたび大きな功績を上げる可能性が高いからな、これ以上爵位を上げるわけにはいかん。1/3なんて中途半端な措置はそのためだろう。」
褒美としては頼子の上爵か、領地の拡大、税の免除などが一般的らしいけど、残りの森を褒美代わりに拡大させていく気ってことか。これなら他の貴族たちの反発も少なくて最良の手だろう、と伯爵も言ってるけど、なんともまぁ・・・であるな。
そして、王の頼子にされてしまった俺はというと、スロークの補佐としてグリンウェル地区に赴任するようにと命じられた。
まぁ、要するに独立ではなかったけど、実質的にはこちらの目論見に近い結果にはなった。
「見誤ったわ。こちらの想定以上に陛下は貴様らを買っておるということか。」
仏頂面を隠そうともしない。
カルケール伯爵も、スロークを推挙した功績により今年の納税を免除されたらしい。昨年も魔物の氾濫による復興支援ということで免除されているので、2年連続となる。
それでもやはり不満なのだろう。
「後の問題にならないといいのですが。」
不安そうなスローク。
王の直轄領である以上は、首のすげ替えは王の心ひとつだ。
さらに、王の頼子にされてしまった俺を命令一つで村から切り離すこともできる。
今はこちらの目論見に近くても、いつ問題が再燃するか分からない、という厄介な状況になってしまった。
う~ん、と考え込んでしまったところに、突然ドアがノックされた。
入室してきたのはグリュートワ第三親王だ。
ソファから立ち上がり片膝をついて首を垂れた。
「今回は陛下のお言葉を伝えに参っただけだ、楽にせよ。」
そう言うと、手近のソファにどっかりと座り込んでしまった。
こちらも、それに続くようにソファに腰を下ろす。
ええと、確か王の勅命とか重要毎を伝えに来た場合は王勅であるって宣告から始まるはずだから、今回はもっとフランクなお話ってことだよね?伯爵も座ってるからいいんだよね。
「そう不安そうな顔をするな。今回の措置は、グリンウェル地区を守るためでもある。」
そう言うと、右手をひらひらと落ち着か投げに動かす。
はいはい、分かりましたって。
パンパンと手を叩くと、入室してきた執事(クロウの配下)に
「閣下に飲み物をお出しするように。」
と伝えた。
<ミードでいいからね。>
密談での追加指示も忘れない。果実酒はもう無い設定だからね。
「うむ、気が利くな。ん?ミードか・・・」
と少し残念そうなそぶりも、毒見の後一口、そのまま一気に飲みつくした。
「これがミードなのか?信じられん。」
おかわりも一息に飲み干すと、
「献上しろなどというケチな真似はせん。月に一度、買いにやらせるから樽で10用意せよ。」
ときた。
月に樽10って、どんだけ飲む気だよ。
「して、閣下、グリンウェルを守るため、とのことですが。」
完全に脱線してしまった話をカルケール伯爵が引き戻す。
「おお、そうであった、実はな、あの周辺でファーレンを簒奪した無法者どもの一味らしきものが確認されたのだ。」
あ!
あいつら、見つかってたのか。
マヌケどもめ。
「なんと、わが領に彼奴らの一味がですと。」
席を立つカルケール伯爵。気が気ではないだろう。
「確定ではない。が、おそらく間違いないであろう。ファーレン王家より秘密裏に伝えられた簒奪者の容姿と酷似した者を見かけた、という程度のことだ。グリンウェルの村から、ファーレン方面へ向かったと連絡を受けておる。」
王家の情報網すげぇな。侮れん。
「なるほど、我々が出立する直前、周辺を観察するような不審な行動をする者がいたので監視と警備を強化させたことがあったのですが、特に問題を起こすことなく出ていったので深追いはしませんでした。あれがそうだったのですね。」
と、スロークが親王の話に合わせた。
「気が付いておったか。で、彼奴等はどのような行動をとっていたのか。」
「村の施設などばかりを観察していたようです。こちらが警備を強化したこともあって施設内への侵入はありませんでしたが、数人の者たちと合流して村を出ていきました。のちの聞き取り調査で、合流した者たちは大量の食料品を購入していったとのことです。」
スロークの返答に、満足そうにうなずいた。
「早急に対処できたのは重畳。
陛下が直轄領としたのには、その件があってのことだ。内外に広く王家の物と公言することで手出しさせにくくするためだな。もしもの時には王家の騎士を直接派遣することもできる。あの地の重要性と特殊性は良くご説明差し上げたからな、陛下も十重承知しておられる。」
と、自分の口添えのおかげだぞ、ってアピールも忘れない。
しかし、ホント迷惑な客だったな、あいつら。
あの件が無ければすんなり独立できてただろうに。
「グリプスを王の頼子としたのも、この後グリンウェルが旗爵を与えたとして、それから上爵させていくのでは時間がかかりすぎるとのご判断だ。陛下の頼子ならば王家との連絡も余計な手続きなしで取れるからな。情報のやり取りも素早くできよう。」
なんて言ってるけど、直接のつながりを作りたかったんだろう、まぁ、一応気を使ってくれたんだなってことで、ここは飲み込むこととします。
「帰省後はできるだけ早く、最低5人は旗爵を指名し献上品と共に報告に登城せよ。陛下の頼子と5人の準男爵ともなれば、それなりにハクが付く。下手な横槍を入れる馬鹿どもも出まい。
本来なら大森林全てを、というつもりでおられたのだがな、反対が根強く押し通せなんだ。」
と、いうことなんだってさ。
森の東側はさらに危険な魔物が多いということで下手に手出しすべきではないというド正論で来られると、流石に無視できなかったらしい。
個体が強すぎることで、不思議なほど安定しているというのも東側の特徴で、森へ立ち入る馬鹿者が出ない限りは、記録上氾濫がおこったことが無いんだそうだ。
まぁ、理由の半分なんだろうけどね。
残りはこちらの想像通りじゃないかな。反対されるのも計算のうちで反対派の顔も立てたって演出だよね。
って、それが分かっちゃうようになった自分に呆れてしまう。
すっかりヨゴレチマッタゼ。
「最後に、昨夜のことだがな、その、なんだ、今後の我への献上については満足しておるがな、それは、当然のこととは思うのだがな、陛下にも、ということで良いのであろうな?いや、陛下の頼子であるグリプスがおる以上は疑いようもないことではあるが、な。」
・・・結局それかい!
緊張したり悩んで損した!
酒がほしぃんか~い!
なんて口にはできない。
「は、もちろんでございます。」
とだけ答えた。
親王は上機嫌で帰っていったよ。
すんげぇ~疲れた。
くそ、散々悩まされて着地はそれかよ。
あ、これ、他の親王からもむしられる予感。
帰ったら仕込み増やさなきゃ。
この日はグッスリ爆睡しました。明日はとっとと帰るぞ~。
帰れなかった。
その後、お披露目のパーティーだのなんだので一週間近く拘束されて身も心も憔悴してからの帰宅となったよ。
通常は、上爵した貴族や寄親の貴族が主催しての晩さん会ってことになるんだけど、今回はスロークの補佐官になる俺の寄親が国王、ってことで、主催が王家になってしまった。
今度は執事じゃなく貴族様ご本人との挨拶ラッシュ、まずは主催してくれた王家一堂に感謝のご挨拶に伺い、公爵、侯爵への挨拶、が終わると、後はやって来る貴族様との挨拶リレーだ。
俺は子爵なので、本来はこちらから伯爵へ挨拶に伺うのがルールなのだけれど、王の頼子という立場なので逆転したわけ。ややこしい。
これが、スロークや俺が主催となると、嫌がらせや嫌味を言ってくる連中が出てくるのだろうけど、王家主催のパーティーでそんな命知らずがいるはずも無く・・・一応配慮してくれたって思うことにしたよ。
しかし疲れた。
魂的な何かが。
もう十年くらいは王都に来たくなぁ~い。




