60:ヒノモト
次回6/14(水)16:00更新予定です
よろしくお願いします。
新たな問題というか、ワタリビトがやって来てトラブっているらしい、この忙しい時に迷惑な。
ソンチョー宅にいるということなので、仕方なく顔を出さざるをえなくなった。
ほんと迷惑。
「シン様。」
?
珍しいな、クロウから声かけてくるなんて。
「不穏な気配を感じます。ご注意ください。」
・・・マジ?
改修工事で広くなったソンチョー宅のリビング、新調されたばかりの大きめのソファーは、3人の来訪者がふてぶてしい態度で占領していた。
室内にはほかにスローク、ソンチョー、ユーシン、ライアー。
(ほう、ソンチョー以外武闘派をそろえたな。)
つまりそれだけ問題のある客ってことか。
来訪者は、1m近くある長い術式杖を抱くように持った少女と、派手な槍に真っ赤な髪の男、その二人に挟まれるように長髪の優男。
(ん?左右の二人、なんか引っかかるな、なんだったっけ・・・。)
いでたちというか、なんか、どこかで見たか聞いたかしたような。
「でぇ、揃ったんならソロソロ本題といきてぇんだけどなぁ。」
赤髪が周りを睨みつけながら、ドスの効いた声で威圧しながらせかしてきた。
(うわぁ~、ヤンキー漫画見過ぎ。恥っずかしいなぁ。)
中身が向こうの人間だってわかってるだけに、なんだか、とっても痛々しい。
「なに?この人たち、俺今メッチャ忙しいんだけど。」
失礼な奴には失礼な態度でいいよね。失礼なんだし。
「ああ!?」
(食い気味に来たよ!なにこの子、昭和から変わることの無い安定の不良プレイ?ここ、異世界だよ? だっさ。)
いかん、笑っちゃいかん。
「黙れ、皆さんが怯えるでしょう。」
真ん中のロン毛が赤髪を嗜めると、赤髪は不満そうにそっぽを向いた。
(いいえ、怯えてるんじゃなく笑いをこらえてるんですぅ。威圧するチンピラに嗜める兄貴分ってか?テンプレでしょソレ。どこのチンピラ映画? お芝居にしてもダメダメでしょ。)
<シンさん、堪えて。>
スロークから注意されてしまった。
チラリとみると、ユーシンもライアーも表情がぎこちない。
ほらぁ、俺だけじゃないじゃあ~ん。
「失礼しました、我々はサンザ王国の東に位置します、ヒノモト、旧ファーランより参りました。」
ロン毛が丁寧な口調で出自を明かした。
そうか!生き返ってから村に戻るときに寄ったサンサテで、酔っ払いから聞いたんだった。
隣国でたしか、後継者問題に揺れる中、暗殺されかけた王女と革命起こして乗っ取った連中がいたとか、その仲間に槍使いとバカでかい術式杖使いがいたって聞いたんだった。
「あぁ、謀反を起こして国家簒奪した連中ね、まだ正式に認可されてないはずだったけど、ヒノモトなんて名乗っちゃっていいの?ってか、なに?ヒノモトって、目論見丸見えでダサい。」
これ以上テンプレ茶番劇に付き合うのも面倒なんで、ちょっと挑発してみる。
と、同時に、ソンチョーたちにも密談を使って、
<クロウに、ヤミちゃんとマガちゃんも連れてきてるからね。>
と伝えておいた。能力の情報はすでに共有している。
「舐めてんのかゴルァ!」
立ち上がり槍の穂先を向けてくる赤髪。
「無双系は戦場では活躍するんだろうね、何十人も薙ぎ払ったんだって?雑魚相手にご苦労様。そっちの娘はFPSでしょ?見た目偽装してるのはMODかな?ってことは、公式戦には出られないから仲間内で遊ぶ素人さん。真ん中の人は・・・ちょっとわかんないけど、ここには世界大会常連のプロゲーマーもいるんだよね、君たちには過剰戦力だったかな?」
これだけ安い挑発したんだから、本気なのかお芝居なのかボロを出してくれないかな。
「そもそも、武装解除せずに案内した時点で罠か戦力差が圧倒的だって分かるはずなんだけどね。彼らには難しすぎたみたいだよ。」
ソンチョーが乗っかってくれた。
よし、この調子で挑発を・・・あ、ダメだ、ユーシンもライアーも後ろ向いて笑いをこらえてる。
君たち挑発とか得意でしょ!ツボってないで続きなさいよ!
あ、十分だった。
顔を真っ赤にしながら赤髪が槍を振り上げた。
(あぁ、絶対不便だし光熱費無駄になるからって反対したけど、リビング吹き抜けにして正解だったな、天井壊されなくてすんだよ。)
ナイス赤髪。きっかけをありがとう。
瞬間、部屋は黒一色に。
室内に闇を、ヤミちゃんに頼んでおいたことなのでのんびり構えていられるけど、相手は混乱してくれているかな?
「あ!くそ、ぶっ殺してやるからなテメェ!」
赤髪の声、くそダっさい・・・けど、あんまり驚いてない?
「ら、ライトも光らない。」
少女の声がする、ちょっと震えてる?
「これは・・・まさか真なる闇?」
あぁ、やっぱりかぁ。
分からないといったけど、ロン毛が首から下げていたネックレスには見覚えがあったんだ。でも、似てるだけかもしれないし、まさか3人目がいるとはね・・・エイルヴァーンプレイヤーが。赤髪ほ反応がいまいちだったのは聞いていたからかもしれない。
「落ち着きなさい、ゲイル、リタ。こちらから何かしなければ無害です・・・でしょ?」
そう言うと、二人とも静かになった。
なんだ?もうあっさり引くの?
つまらん、いろいろドッキリ仕込んであったのに。
<もういいよヤミちゃん、ありがとう。>
パッと元に戻ると、「ひぃっ」と赤髪の短い悲鳴が。
いや、俺もびっくりしたよ。
確かに、クロウにはビックリさせたいからお願いねって頼んだけどさ。
クロウ含め11人の悪魔が三人を取り囲んで腰を曲げ、じっと3人の顔を、至近距離で覗き込んでいた。あ、赤髪の目の前にはマガちゃんもいる。
さすがに三人とも表情が硬い。
「ありがとう、もういいよクロウ、マガちゃん。」
そう言うと、恭しくこちらに一礼して退出していく悪魔たち。
でも、クロウはドア前に、マガちゃんは俺の隣でいつものように服の袖をつかんで居座ってしまった。
それなりに脅かせることはできた・・・かな?
と思っていたけど、思わぬ反応が返ってきた。
「大変失礼いたしました。まさか、ここでお会いできるとは。光栄です、シン・ハンさん。」
ぬ?
なんでゲームで使ってた名前知ってるんだ?ロン毛。
「真なる闇に禍ツ焔を従魔にしたというブログ、感動しました。さらには炎龍たちも従魔にしたとか。ずっとファンだったんです!」
え?
確かに、ブログはやってた。
ほとんどアクセス増えないし、ほんとにたま~にしか更新してなかったんだけど。
「私も、なんとか真なる闇を従魔にしようと頑張ったんですが、断念してしまいました。」
なんて感じで、ロン毛がいかに俺のファンだったかなどを語りだしてしまった。
置いてきぼりの二人は、また始まったかと言わんばかりにソファーに戻っている。なんかごめんね。
仕方ないからクロウに密談で、ラサの実ジュースを出すように、とかお願いしたよ。
「うっま!なにこれ?」
「まじかぁ、やっぱ来てよかったぁ。」
うん、もうキャラやめたのね、二人とも。
一通りまくし立てて満足したのか、ようやくロン毛が落ち着いたので話し合いが始まった。
「目的っていうか、ここに来たのは食い物のため。正直、何喰ってもクソまずくてグロッキーなんだよね。」
相変わらず態度はデカいが、素直に話し出した赤髪のゲイル。デカい態度は素なのね。
「リーダーからは、ちょっと高圧にあたって、ビビるようなら制圧してしまえって言われてたんだよな。王家も管理放棄してるような森なんだろ?そのままヒノモトの飛び領地としてしまえ〜、なんてよ。」
うっわ、ゲスいリーダーだな。
「広場の守護神像を見たとき、エイルバーンプレイヤーがいる!もしやと期待したのですが、先にお会いしたスロークさんは明らかにアサシン系のいでたちでしたから、ガッカリしちゃったんですよ。それがまさかお会いできるとは。」
そう言うロン毛のイェン。
転生した時にプレイしていたのはエイルヴァーンではなく戦術メインのシミュレーションゲームで、エイルヴァーンはセカンドゲームとして、かなりたってから起動したのだという。
そのせいなのか、彼のエイルヴァーン能力ははバニラ(MODが導入されていないメーカー出荷のままの)状態だという。
ちなみにイェンという名前は、俺がブログへ乗せるための検証用に作ってあったサブキャラ、シン・イェンからとったのだとか。
ちょっと引くぐらい筋金入りだ。
ゲイルは予想通り、無双旅団という無双系ゲームを、少女のリタは、銃道という漫画原作のFPSをプレイしていたんだそうだ。
「で、どうするんだ?侵略か?」
そう言って怖い笑顔を見せるスローク。うん、役者が違うね、迫力満点。
「あぁ、とんでもないです。複数体のドラゴンにデモンロード、確か、フェンリルも従魔にされてましたよね、こちらの全戦力をもってしてもかないませんよ。」
と、両手を上げて降伏宣言。
嘘だな。
ヒノモト側には、ワタリビトが少なくとも10人以上はいるって聞いている。
ヒノモトだなんて名前にしたのも、ワタリビトを引き付けるためだろう。今はもっと増えていてもおかしくない。
ドラゴンたちは強力だが、あくまでも敵キャラ、シングルゲームで倒せる存在として調整されている。それに、俺のブログを見ずとも情報サイトには従魔の元であるモンスター状態の性能や攻略法が公開されていた。
ファンだって話も話半分、いや、3割程度に考えておいたほうがいいな。
「あぁ、まだ知らないようだから言っておこう、村の代表を任されていることもあって、自分は旗爵位を与えられているし、近々伯爵位を賜り正式にこの森はグリンウェル伯爵領として独立することになっている。つまり、ここを責めるならサンザ王国との全面戦争の覚悟を決めるんだな。」
スロークも何か感じとったみたいだ。
降伏宣言をする相手にもしっかり牽制。独立はまだ行動前で決定すらしてないけどね。
「いえいえ、そんな気は無くなりましたって。元々、リーダーからも絶対に、とまで言われているわけではないので。まぁ、食事が素晴らしすぎて制限なく手に入れば御の字、と思ったのは事実ですがね。」
完全否定からの、本当はちょっと思ってたってか、何かで見たことあるようなテンプレ回答だな。
やっぱり胡散臭い。
「なんだ、久しぶりに暴れられると思ったのに。」
ライアーが、右手だけ炎に包んでさぞ残念そうに、ハッキリと皆に聞こえるようにつぶやいた。
(お、とうとう部分発火できるようになったんだ。)
ゲームでは、オープニングムービーでチラリと流れるだけの部分発火。正式に映像として採用されていたなら再現できるはずだと、かなり気合を入れて特訓してたもんなぁ。
ライアーの軽い挑発で再びピリついた話し合いは、特に何も決まることなく終了。
一応、正規に来て正規に買い物する程度なら不問にするけど、余計なことをしたら潰すと警告はしたよ。
うん、良い感じで終わった。
戦争を辞さないような連中だ、できるだけ関わりたくないものだよね。
彼らが退出するときに、
「お仲間の3人にもよろしくね。」
と、お伝えしておいた。
槍使いがピクりと反応してたから正解かな。
クロウには、ジュースを出すように密談した時こっそりと、村と周辺にこいつらの仲間らしきものがいるかどうか調べてもらうよう頼んでおいた。クロウの配下10名が調査して、悪魔の固有スキル念話でクロウに報告、クロウの密談によって、今さっき俺に、侵入者は3名と伝えられた。
とりあえず、情報を掴まれている、これは侮っちゃいけない、と思わせられればOKだ。
「で、いいのかよ、何が何でも食い物の秘密手に入れろって言われただろ?なんなら関係者攫って来いって。」
街道を行く馬車の中で、不満顔のゲイルがイェンを問い詰める。
「無理ですよ、無理無理、あそこはサンザ王国も統治していない無法地帯だからって話だったでしょ。なんですか、グリンウェル領って。それにこっちの戦力も把握されてたじゃないですか。」
これが素なのか、足を投げ出しふてくされたように答えるイェン。
「チッ!でぇ、マジでいたのかよ、ドラゴン。」
ゲイルは正面に座る迷彩柄の服を着た男に視線を移した。
「あぁ、村からはかなり離れた場所だったが、要塞のような施設があった。
確認できたのは一頭。施設内に4つある塔の一つに入っていくところだった。」
「かぁ~!マジか、ドラゴン4匹?パねぇ。」
派手に声を上げるゲイル。それをうっとおしそうに見ながら迷彩服の男は続けた。
「あと、一番大きな建物のそばに、不釣り合いなものがあった。円錐状で浮いているように見えたんだが、あれは何かわからん。」
はぁ~、と大きなため息とともに、イェンが頭を抱えた。
「それ、たぶん聖域巨神ですね。従魔化できたのか・・・。たぶん、プレイヤーとしては世界中で彼だけでしょうね・・・従魔化できないが定説だったので。ほんと、とんでもない人だ。」
「それ以上は踏み込めなかった。狼の魔物が複数近づいてきたのでな。撤退した。」
「逃げたのかよ、情けなっ。」
「始末してよければ殺っていた。なんでも荒らすしか能の無いおまえとは違う。」
「あぁ?」
一触即発、剣悪なムードになりかけた時、突然車内が黒で塗りつぶされた。
「あ、てめ、やめろよな!」
「それですよ、それ。あの時はリタが機転を利かせてくれたので真なる闇を従魔化できていないと信じさせられた、と思いますけど、ちょっとは考えて発言してください。」
車内が元に戻ると、イェンは傍らに座る黒一色の人影の頭をなでた。人影は、少女のようなシルエットをしていた。
「三人とも発見されていたってことは、その従魔もだろう?嘘はバレているのではないか?」
「あ、それは大丈夫ですよ。本来真なる闇は試験官をひっくり返したような姿なんです。私はMODで従魔の外見を変えてますから。MODは反映されなかったと伝えてますし、シン様は従魔の外見を変えていないようなので興味が無いのでしょう。そう言うのは意外と気が付かないと思うので問題無いでしょう。」
「シン様て・・・」
「この子の調査結果では、農場と果樹園らしきものも発見しているそうですが、遮蔽物が無く人手も多いということで接近しての調査はできなかったそうです。その後施設関連の調査をしようとしたのですが、狼系の魔物とオーガ系の魔物が複数警備にあたっていたそうです。視覚は誤魔化せても狼の嗅覚と聴覚までは難しいということで断念したそうです。あ、ちなみに、真なる闇との念話が成立しているのもMODですので、通常真なる闇からの意思疎通はできません。つまり偵察に使うとは想像の範囲外のはずです。」
ここで一息つくと、イェンはまじめな表情で一同を見回した。
「で、私が知る限り、聖域巨神はシン様のブログには乗ってませんでした。
ドラゴンが住むらしい塔も4つ、私が知るのは3頭までです。エイルヴァーンの従魔化最大数はMOD込みで25、しかし、私が知るシン様の従魔は10です。
最新すぎてブログにアップされていない、もしくは同種を複数所持している可能性を考えても、限界の25体まで強力な従魔で揃えている可能性が高いです。
さらに、フェンリルやオーガロードなどは配下を召喚できます。
それらまで含めるとシン様の戦力は計り知れないほど脅威と言っていいでしょう。
あぁ、どうして私はこの森に転生しなかったのでしょう・・・。」
「はいはい、それはもういいから。
商店街の方はすごい活気だったよ。食料品でも売られてたのは干し肉とドライフルーツにミード酒だけだったけど、とりあえず買えるだけ確保したよ。
職人街はなんか忙しそうだった。装備品とかの質は良さそうだけど、食べ物みたいに特筆するほどじゃなかったよ。」
そう報告したのは、リタの横で足をプラプラさせている少女だ。
「あ、あと、お金がすごい奇麗だった、ほら。」
ポケットに手を突っ込むと、中から数枚のベル硬貨を取りだして見せてきた。
「これを通貨にしちゃってる辺りも恐ろしいんですよね。」
イェンは硬貨を一枚とると、まじまじと見つめながら感嘆する。
いったい、どれほどの技術があればこの硬貨を量産できるのだろうか。魔石を埋め込むなど狂気の沙汰だ。
「全種類持って帰りたかったなぁ。」
そう言う少女はうっとりと硬貨を見つめている。
「お土産用の額縁買わなかったのかよ。あれ、全種類揃ってるんだろ?」
つまらなそうに渡された硬貨を正面の迷彩男に投げるゲイル。
「アホゲイルぅ~、あれは偽物なんですぅ~。そのくせプレミアついちゃって高いんですぅ~。」
そんな、賑やかな帰途、どうやって説明しようと頭を悩ませるのはイェンだけだった。




