58:会談
次話は6/10(土)16時更新予定です。
初日の晩さん会、二日目の視察と無事に乗り切り、いよいよ会談である。
迎賓館の一室、会議室に集まった一同。
室内には豪華な調度品ではなく、村の特殊性を強調した物を飾ってある。
その一つが、グリフォンのエースに乗って空撮した村の全景を、スクショDe絵画を使って掲示したものだ。スクショだからリアルだし、絶対見ることのできない風景だし。
他にも機織り機、大物を仕留めたハンターたちの写真などを掲示してある。
写真の無いこの世界では驚愕のリアルさ。
驚きを隠そうともしない伯爵家御一同。
バッチリ掴みはOKだね。
さっそく機織り機に興味を示して、3台のご発注。
この世界では、まだ多くが原始機という単純な手織り機を発展させたものが主流で、台座に前後に稼働する椅子などを組み合わせた程度。
対するこちらの機織り機は、手織り脱却一歩手前の足踏み機というもの、効率が段違いだし、より繊細な生地が織れる。ガッツリもうけさせてもらいました。
ってことでいよいよ会談。
伯爵側は、カルケール伯爵、長男ノイド、次男ハルベルト、領都での会談でもいた執事さんと、騎士が二名。おそらく同じ人だろうから、片方はレインか。
村からは、代表スローク、副代表ソンチョー、商業代表、というより、伯爵家と面識があり事情を知っているという意味でノブロフ、技術面担当で俺と、護衛としてユーシンとライアーだ。
「久しいな、ノブロフよ。領都の番頭から移動になったと聞いた時は何をやらかしたのかと思っておったが・・・。ノイラードも味な人事をしよる。」
ノイラードとは、ノブロフが所属するノイラード商会の会長のことだ。
いや、ほんとうにね。彼がいなかったら、何度不敬罪になっていたことか、会ったことないけど感謝しとかないとね。
「恐縮です。」
恭しく頭を下げるノブロフ。
それぞれが挨拶を済ませ席に着いた。
さて、まずはやっておかなければならないことがある。
「先日お約束していたものです。お納めいただければ幸いです。」
そう言ってさしだしたのは、イミテーションじゃない本物の硬貨を並べた額だ。
「ほう・・・これは素晴らしい、やはり土産用の安物とは違うな。」
お土産用のイミテーションもしっかりリサーチ済みですね、やっぱり調査員でも紛れ込ませてたか・・・スパイダーシルク製品を店頭から引き揚げさせて正解だった。
普通に売ってたなんて知られたら・・・オソロシヤ。
「して、これをもう一枚用意することは可能か。」
可能かって、これは質問じゃないんだよね。
「はい、すでに用意してあります。」
よかった、もう一枚よこせとかせびられた時用に準備しといて。
「結構だ。先だって、王より書状が届いた。この村のことについて、詳細を調べて報告するようにとな。」
え、もうですか?
もうちょっと先になると思ってたんだけどなぁ。
ソンチョーたちにも緊張がにじむ。
「私の得た情報では、王はこの村を直轄領にして第三親王閣下に治めさせるつもりのようだ。」
しんのう?誰?
あ、そうだった、第三王子のことね。
それは困る。
部外者が来てガチャガチャにされるのは何とか阻止しないと。
「私としてはこのままどこにも属さぬ方が都合が良いと思っておる。が、継承の見込みの低い親王にどこかの領地を与えたいという王の気持ちも分からないでもない。」
政治に親心は挟んでほしくないけど、まぁ、無理だよね。
「今回免れたとしても、王都から遠く離れているがゆえに、この村の情報は届きにくいだろう、いずれ確実に同じ問題が起こる。となると、いくつかの道を選ばねばなるまい。」
思い当たるのは四つ・・・
とはいえ選べるのは一択か。
「一つは、王の指示に従い親王を受け入れる。二つは、献上などで王の機嫌を取り今回はやり過ごす。三つは、どこかの領地の一部に入る。四つは、国に反旗を翻して独立する。」
三つめがまだましな案だな。というか、最悪そこに落ち着くしかないと以前の村会で結論が出ていた。
「五つ目、スロークと言ったか、お前が伯爵となり領地として治める。」
・・・え?
「それはさすがに・・・。男爵位までは可能かもしれませんが、子爵位ですら、3代にわたり男爵を勤め上げ、その上で功績を挙げねばなりません。伯爵位はそのさらに先です。」
ノブロフが思わず伯爵の提案を否定してしまった。
まずくない?
執事さんの雰囲気が変わった。
「フ、さすがはノブロフ。良く分かっておるな。だが、必ずそうとも言い切れんのだよ。特にこの村ならばな。」
大丈夫だった。
ノブロフも自分の発言に気が付いて相当ビビったようだ。小さくため息を吐くと座りなおした。
執事さんの雰囲気はまだ変わらないけど。イエローカード一枚ってか?
「親王を送り込もうとするほど王の関心は高い。それは、良い意味でも悪い意味でもだ。」
悪い意味でも、のところで村側の緊張が高まった。
「過剰戦力なのだよ、ここは。反乱を企てているのではないかと恐れられているのだ。」
だよねぇ。
さらにドラゴンまでいるって知られたら・・・あかん、戦争一直線だ。
「お前に覚悟があるのなら、旗爵を与えてやろう。」
「は?」
さすがにスロークも驚いたみたいだね。
レインの時はもうちょっと格式張ってたけど、旗爵ってこんな感じで与えられちゃうんだよね。
「先ほどの額はもちろん、魔石、毛皮、織物、食材、酒、献上できるものは片っ端からかき集めろ。できるだけ早急に王都へ献上に向かうぞ。戦力もできる限りそろえて護衛につかせろ。いや、ゴブリンやオークは控えた方が良いな。王都ではまだ嫌悪の対象だ。例の狼やグリフォンなどが良かろう。他の貴族どもがグゥの音も出せないほどの献上品と、戦っても勝ち目は無いと思わせられるだけの戦力で伯爵位を勝ち取り領地として賜ってしまえ。お前が領主として治める限り、王家にとって他に比類ないほどの益があるのだと分からせてやればよい。」
伯爵がかつてないほど頼もしい。
惚れちゃいそうだわよ。
「それと、南への街道整備を約束しろ。複数の領地と懇意にすることで派閥化の懸念を薄めねばならんし、南のコリント伯爵の協力も得られれば心強い。いずれは森を囲む他の領との街道も計画している、と、これは話だけで良いが、匂わせることでそれらからの協力も得られるかもしれん。」
追加が・・・とんでもない大事を乗せて来たよ。
最初に提示されてたら普通はドン引きだろうな。
先に実現可能な案件出してその気にさせて、その勢いのまま大事出して押し切ろうってか。
これだから腹芸巧者は。
まぁ、南への街道整備は村会の議題に上がってたからできるんだけどね。
<どうする?シンさん。>
スロークからの”密談”が届いた。
<スローク次第だよ、貴族になる覚悟があるかどうかだね。いやなら全面抗争でもカルケール伯爵の頼子でもって、それも貴族になっちゃうか。うん、どれを選んでも受け入れるよ。>
密談が解放されたので双方向の会話ができる。やっぱいいよね、密談。
自分だったら・・・抗争を選んじゃうかなぁ。貴族としての生活なんて御免だし、抗争と言っても、ドラゴン前面に出せば勝手に相手が諦めるだろうし。
交易できなくなるのはつらいけど。
だからスロークにも貴族になることを勧めはしない。
<大丈夫、ドラゴン1頭で確実にビビって逃げ出すから。>
<いやいや、それダメだろ。>
安心させようと思って付け足したけど、逆効果だったみたい。
「この御提案を受け入れたいと思う。」
あ、言っちゃった・・・。
これって、俺のせいじゃないよね。
<シンさんのせいじゃないよ>
察してくれちゃった・・・。
<村会では言えなかったけど、立地的にも経済的にもサンザ王国の庇護下に入るべきだと思ってる。まさか自分が貴族に、とは思ってなかったけどね。>
「良かろう。では今この時より、スローク・グリンウェル旗爵を名乗るがよい。」
座ったまま、声音だけ取り繕って叙爵しちゃったよ。しかも、また家名安直だし、みどり村だからグリンウェルって・・・。
経験済みの俺と伯爵側意外の一同がポカンと・・・あ、いかん。
<受ける口上言って。>
ハッとしたスロークは立ち上がって深々と頭を下げて
「謹んで拝命いたします。」
うん、ちょっと違うけどいいよね、与える方も座ったままだし。
「で、何を出せる。」
と、即行で実務的な話になってゆく。
感傷もへったくれも無いわな。
う~ん、俺がかかわっていて出せるもの・・・思いつく限りだと硬貨セット、はもう準備済み、酒は、マスターの作る本格的なものはまだ外に出さない方が良いだろうから、趣味で作ってる魔素抜きミードに果実酒を出すか。ある程度数がいるだろうからラサの実と野ブドウまでかな。馬車は・・・同じものを何台も造らなきゃならないからパス。
あとは・・・やっぱり生地か。
領都訪問後、オリヒメ達にスレッドスパイダーの生地増産を頼んでいる。反物のまま献上するなら十分な量があるだろう。
ソンチョーからも、まずは定番の干し肉、魔獣の肉中心だけど少量ならと牛や鶏の干し肉も出せるとのこと。他に根菜などを中心とした、日持ちのする野菜類や穀物、マスターが調理した瓶詰の保存食、素麺のように細い乾麺が提案された。
スロークも、街道警備で討伐した魔獣の魔石や毛皮など。特に、グレートベアやデモンエイプなど、換金せずに保管していた大物の魔石も放出することとなった。
「あきれるほどの品数だな。」
提案した伯爵自身も、これだけ種類も量も多いとは思っていなかったみたいだ。
「ふむ・・・ミード以外の酒と、瓶詰、乾麺は極少量とせよ。それらは研究中だのと誤魔化し、実際に叙爵され、領地として認可されたのち完成したとして改めて献上した方が良かろう。」
「なるほど、腹芸もちゃんと学ばないとな。」
ガタッ
ノブロフが真っ青な顔で立ち上がっていた・・・あ!
声に出てた?
室内の雰囲気が一気に悪化する。
「まぁ良い。この度は不問にしよう。が、王都ではくれぐれも用心せよ。」
え?
キョトンとしていたら、
「お前も来るんだ!グリンウェルでは腹芸で太刀打ちできまい。実直さは美徳だが、王宮では敵に付け込まれるだけぞ。貴様のようなハラグロがおらんでは話にならん。」
だってさ、失礼しちゃうよね、誰がハラグロなのさ。
と助けを求めようとしたのに、みんな納得顔。
理不尽です。
「出立は今日より一月後、わが城まで来い。謁見の手続きは済ませておいてやる。」
会談の終わりにこう宣言したのだった。
そのあとこそっと、「ベアードを残してゆく、ついでに何か献上させて、できれば上爵させようと思うのだが。」
なんて言って来た。
ベアード?あ、レインのことか、将来の婿だからって・・・オヤバカめ。
仕方ない、適当に連れまわして大物を狩らせるか。
夕食後の会談で俺の従魔たちのことを話したら、さすがの伯爵も口を開けてポカンとしてたよ。
ん?ドラゴン?みんな話したよ。
もう、こうなったら一蓮托生、ヤバいことも共有してもらおうってね。
そのあと実際に拠点に移動してみんなを紹介したら、まじめな顔で「マリアナのことはどう思っとる。」なんて言って来たよ。いや、マリアナ嬢ってまだ12歳でしょ?犯罪よ犯罪。
「まったく、規格外もいいところだな。この一日で一生分驚いたぞ。」
「まったくです。まさか伝説のドラゴンをこの目にする日が来るなんて。」
とはいえドラゴンを連れて行ったら、それこそ王の脅威と捉えられてしまいかねない。
相談の結果、
ハクアの配下、シルバーウルフから5頭、ハクア自身も伝説上の存在なので却下された。
クロウの配下、ゼビルをはじめとした執事、メイドから5名。
騎乗用魔獣からフブキ、ハヤテ、エースを連れていくことになった。
「王都の住民は大丈夫でしょうか。」
「事前に連絡はおこなっておけ、必ず形の残る方法でな。後は警備担当の責任よ。」
「なるほど、登城する月はアレの担当でしたな。」
「では、確実に残る方法で、もみ消されても良いように複数へ連絡を入れましょう。」
聞いてない聞いてない!
何にも聞いてなぁ~い!
三日目、午前中は自由散策だったけど、スロークと俺は伯爵たち男性陣と会議室で王宮での立ち振る舞いとか、対応の仕方とかの作戦会議になった。
もうね、ゲロゲロですよ。
キゾク ゲスメンドクセェ。
まじめに取り組んでいるスロークがかわいそうになってきちゃったよ。
って、イカンイカン、自分も当事者にされてしまったんだった。
ひたすら貴族間のゲスいやり口を聞かされ続けて、すっかりヤサグレ気分だよ。
おいらぁ、すっかり汚れちまったぜ。
こうして目まぐるしかった伯爵家御招待は無事完了、お見送りでは、残されるレイン以外が護衛のユーキとライアー、警備兵らに守られて旅立っていった。
それにしても、さすが伯爵家の女性陣、短い時間でも相当な経済効果を発揮してくれたようだよ。
それを見越して早くから仕入れと在庫調整していたカブロの店とノイラード商会みどり村支店は、ガッツリ儲けたみたい。
中でも驚いたのが、アカネデザインのドレスをセレスティーン嬢の結婚式で使いたいと、スレッドスパイダーの生地で特注依頼されていったこと。
おおぅ・・・な金額だったけど、ポンと払っていったそうだよ。
キゾクハンパネェ。
あ、レース場・・・頑張って仕上げたけど、観戦の予定をしていた3日目の予定が急遽変更になっちゃって使わなかった。
スマン。
俺のせいじゃないけど。




