57:こけら
次話は6/7(水)16時更新予定です。
朝から村中が物々しい雰囲気に包まれている。
隣接するカルケール伯爵領から、伯爵家御一行がやって来るのだ。
本当はもっと後にしたかったんだけどね、セレスティーン嬢の結婚が近く、その前にどうしても、ということで伯爵からの催促に根負けしてしまったのだ。
オヤバカメ。
土方ぁ~ず(ドカタァ~ズ)が再結成されて、歌劇場に迎賓館、レース場が急ピッチで建造された。
まぁ、オヤカタやトウリョーの配下に加えてトールやコクエン達も建設に加わってくれたので間に合ったよ。
迎賓館の内装は、まだ居座っているガディオン指導の下、職人軍団が頑張ってくれた。
どうやらガディオンは国内でも五本の指に入る有名設計士で、そのもとで腕を振るうのは職人のあこがれらしい。結構な無茶も嫌な顔一つせず取り組んでくれた。
ここに至るまではなかなか大変だっただけに、なんとしても成功させなければならない。
特に劇場で演じる歌劇団は、直前まで紆余曲折があった。
迎賓館やレース場の建設が急ピッチで進む中、一足先に完成した劇場では、ミサたちが連日稽古に汗を流している。
ここで問題が一つ。
「演目が足りない。」
大衆向けならともかく、伯爵一家をもてなすとなると5人ではどうにもならないという。
メインボーカルはミサ、コーラスにアカネとマリア、セレイア、ソリスラの三人娘。
三人娘は弦楽器による演奏も行うが、弦楽器だけでは貴族に聞かせるような音楽はとても無理だ。
演奏経験のある人員を募集したけれど、期間も短いし、村には演奏レベルで扱えるものは誰一人いなかった。
「あぁ、せっかく頑張って作ってくれたのに、どうしたらいいの。」
練習後マスターのレストランで遅い夕食を取りながら頭を抱えるミサ。
「私も何か楽器ができればよかったですね。」
うつむくアカネ。
「そんなことないよ、参加してくれるだけでもすごく心強いよ。」
ミサは、恥ずかしがるアカネを、無理言って参加させたのに責任を感じさせてしまうような言動をしてしまった自分を恥じた。
「どうすればいいと思うぅ?」
そう言うユーコは、いつの間にかシンの手首をガッチリつかんで参加していた。
「いや、俺も君も部外者なんだけど。」
なんか、このレストランに来るとよくユーコに拉致されるんだが・・・。
「楽器なんかできんぞ。音楽1をなめんな。」
胸を張って言ってやったわ。
「それ、自慢じゃないからね。」
なんで後ろからアオイの声がするんだよ。
って、マナまでいるじゃないか。
「プチメタのライブを流すわけにもいかんからなぁ。マジで俺には何もできんよ。」
頭をかきながら、クロウえもんに相談してみるかなぁ、とか思ってると、
「何よこれ、すんげぇ美味いじゃないのよ。」
なんて叫び声が響き渡った。
「え?」
「今の声って・・・。」
?
声の主を目で追うと、筋骨隆々、大柄な女性?が立ち上がって樽ジョッキをあおっていた。
「ママ!」
そう叫ぶと、ミサが推定女性に向けて走り出した。
三人娘も後を追うように走りだす。
ママ?なんか聞いたことがあるような・・・。
「たしかぁ、捕まってた時にミサちゃんたちをかばってくれていた恩人だと思いますぅ。」
あぁ、そう言えば、ママと姉御って言ってたな。
「なのでぇ、役立たずのシンさんはもういいですぅ。」
オイ!
とっととミサたちの方へ行ってしまった。
やめて!憐れみを込めた目で見ないで!
アオイとマナの視線から逃げるようにレストランから逃走するのだった。
「ママ、姉御、それにみんな、いったいどうしてここに?」
そこには、丸い大テーブルを囲むように5人の顔見知りがいた。
涙が止まらない。もう二度と会えないかもしれないと覚悟していたからだ。
「なによぉ、あなたが誘ったんじゃないのよぉ。森の奥の村に行かないかって。」
野太い低音ボイスで告げた人物は、女性にしては大柄で胸も控えめだが、かなりの美女だ。
「え、でも、みんなを送り返す責任があるからって。」
興行小屋から脱出するときに、確かにそう言って同行を断られていた。
「そう。やっと、みんなを送り届けたからここに来たの。あなたたちの居場所を見にね。」
そう、やさしくささやく筋骨隆々の女性?
ミサの頭をポンポンとやさしくなでるとにっこりと笑った。
「私たちは帰る場所なんて無いんだけどね、どこまでも二人と一緒にいるつもりだったからあなたたちとは来なかったのよ。」
そう言うと、奥に座っていた女性はジョッキを掲げてからグビグビとあおった。
「劇場、もうすぐこけら落としなんでしょう?楽しみに見させてもらうわ。」
大柄な美女の声に、ミサはテーブルをバンと叩くと、
「見るんじゃなくて出て!緊急事態なの!」
と、テーブルの女性たちを唖然とさせた。
「すごいじゃないの、こんな立派な舞台なんて。子供の頃に見た領都の歌劇場より立派よ。」
姉御と呼ば手れた美女が、客席からステージを見上げて感嘆のため息を吐いた。
「本当にこんなところで演奏できるの?」
感動に涙ぐんでいる女性は、テーブルの奥で二人についてきたといった女性だ。
「あ~、とりあえず楽器はこんなもんでいいのかな。」
レストランからの帰途、再びユーコに拉致されたシンだ。
貯蔵庫に入っている楽器、ゲーム中で吟遊詩人の武器として使っていたものと、拠点の装飾用として持っていたものを接収されたのだ。
三人娘の弦楽器としてギター、ベース、バイオリンを提供済み、この世界の楽器とはずいぶん違っていたようだけど、特訓で三人ともものにしていた。
さらに、ピアノ、トランペット、ドラムセットを接収された。
ピアノとトランペットはまだしも、この世界にドラムセットは無い。
とはいえ、普通の打楽器なんて持ってないので習得してもらうしかないのだ。
教えられる人いないんだけどね。
ウイキネットでドラムの使い方を検索、スクショDe絵画で見てもらう。
動画はさすがに無理だろうと思ったけど、最近流行りのゲーム実況用に画面を動画で記録できる機能が追加されていて、めでたく動画でのテクニック集まで閲覧可能となった。
最初は驚いていたみんなも、この村じゃこんなこと当たり前だから、というミサの一言で切り替えたようだ。というか、時間が無いので気にしないことにしたようだ。
効果があるかは怪しかったけど、ソンチョーのカテキョーチートを信じてドラムの特訓に付き添ってもらった。弦楽器の時は、チート効果のおかげか本人の努力と才能のおかげか、無事習得できていたからね。
しかしだな、これでは完全に使いッパシリである。
さすがに文句の一つや十個は言ってやりたいのだが、みんなの真剣な取り組みに気おされて何も言えないチキンハートな俺だった。
ちなみに、ママと呼ばれていた筋骨隆々のおかまちゃん?。
実は本物の女性で、ユーセリアというらしい。高音の、外見では想像もつかないような済んだ歌声が人気だったとか。
で、姉御、大柄だけど美女。
が、おかまちゃんだった。声も野太かったし、胸も控えめ・・・だったけど、衝撃の事実だよ。マチルダ、本名ガストンは、ハスキーな低音が魅力のボーカルで、激しいダンスも得意だとか。
そしてピアノ担当のマリンカ、トランペット担当のエミリーに、苦戦中のドラム担当リンザ。
楽曲は、興行小屋でもよく演奏していたもの中心にして、ミサがメイン、ユーセリアがメイン、マチルダがメイン、ユーセリア&マチルダ二人がメイン、三人娘がメイン、全員参加と、わけることで単調さをごまかすことになった。
ちょっと待て、なんだこの幕間の奇術ショーって、なんで俺が出演することになってるのさ。
「シンさんならできるでしょお。」
できるでしょお、じゃない!
勝手に決めるなっての。
即却下、危うく大恥をかくところだった。
そうこうしての今日である。
スケジュールとしては、村の入り口で村会メンバーによるお出迎え、伯爵側の希望により守護神像への拝謁ののち迎賓館へ、そこで軽めの昼食を取ったあと劇場へ、こけら落とし公演を観劇後、貸し切りにしたマスターのレストランで晩さん会を行って迎賓館へ。
二日目は、女性陣は果樹園や商店、学校などを散策、男性陣は役所や警備本部、訓練施設を視察ののちマスターのレストランで昼食。
午後は女性陣は自由に散策。男性陣はソンチョーたち、村の中心人物との会談。これになぜか俺も組み込まれているんだが、と抗議したけど、伯爵を呼んだのはシンさんなので責任取ってくださいと言われた。理不尽だ。
マスターのレストランで夕食後、女性陣は貸し切りの公衆浴場へ、男性陣は会談の続き、という名の飲み会。
で、3日目は全員自由散策、昼食後に帰途へ。
これは、なかなかのハードスケジュールだ。
舐められてはいかんとフル装備で出ようとしたら、久しぶりにユーコの膝カックンチョップを受けた。
「戦うんじゃないんだからぁ、ちゃんとしないとだめでしょぉ。」
ごもっともです。
とは言っても、まともな服なんて持ってないので領都へ行った時の服装にした。
ユーコは不満げだったけど、持ってない物は仕方ないので~す。
ユーキとライアーは、警備隊を引き連れて伯爵一行を護衛している。
連絡からすると、もうすぐ到着する予定だ。
ずらりと村会メンバーが、その後ろには住人たちが道の両脇に並んで一行を待つ。
程なくすると、アオンにまたがったユーキと、警備兵たちの姿が見えてきた。
「カルケール伯爵御一行をお連れしました。」
ユーキが大きな声で告げると、警備兵たちはすうっと左右に分かれた。続いてユーキも脇に移動する。
伯爵の騎士が先頭になり、歩を進めると同時に出迎えの一同は頭を下げた。
「出迎えありがたく思う。われはカルケール伯爵家正騎士団団長、バステール・ワイド騎士爵である。」
その声が終わると同時に、頭を下げていた村会メンバーは頭を上げた。
「遠き地よりよくぞおいでくださいました。みどり村代表を務めます、スロークと申します。ご案内いたしますので、お進みください。」
そして、スロークを除くメンバーは左右に分かれる。
ノブロフに叩きこまれた歓迎の作法は、今のところ合格点だ。たぶん。
メインの大通りを通って広場へ向かう。この間、道の左右に分かれた村会メンバーは一行の左右を歩いて同行する。
住民たちは、通り過ぎるまで頭を下げ続けなければならない。
しょせんまだ、みどり村のレベルではあっという間に広場についてしまう。
広場に馬車を乗り入れると、伯爵一行が馬車を降りてきた。
「おお、あれが守護神像か。」
そう、みんな初見で驚くんだよね。
なんせ、見た目だけは超精巧なうえ、オーラのエフェクト付きなんだから。
回復効果は微々たるもので、エイルヴァーン三大ガッカリと称される天使像も、魔法が一般的ではないこの世界では偉大な守護神像に早変わりだ。
像に近寄る一行。
すると、突然長男ノイドが、左手を上げて手のひらを見つめだした。
「信じられない。」
何度も握ったり開いたりを繰り返す。
「どうなさったの?」
そう聞く母親に、
「痺れが、無くなりました。」
ノイド氏は、幼い頃馬の事故で大怪我をして、それ以来左手の軽い痺れに悩まされていたんだそうだ。
あ~、まぁ、弱いけど回復効果はあるにはあるからね。
「やはりか、私も腰の張りが薄れた。」
伯爵も驚いたとばかり、腰に手をやった。
「なんとも素晴らしき・・・いや、崇め奉るのは嫌っておいでだったな。感謝します、守護神像様。」
そう言うと、深く頭を下げた伯爵。続くように一行も頭を下げた。
特にノイドは、よほど悩まされてきたのか涙ぐんでいた。
迎賓館に入った一行は、しばしの休息ののちホールで軽い昼食、マスターが作ったサンドイッチに舌鼓を打った。
この日に向けて、マスターが食パンの量産化を完成させていたのだ。
護衛の騎士含めて50人からなる一行に出すのだから量も必要だった。
初めて食べるパンに、手で食べるのかと驚きつつも、その柔らかさと味に皆虜になっていた。
「これは素晴らしいな。手軽に食べられるのもいい。」
「ふむ、手で食べるなど野蛮と思ったが、理にかなっておる。」
と、賞賛の嵐となった。
そして問題の劇場こけら落としである。
元々野外でのステージしかしてこなかったみんなの声量はすさまじいの一言で、それがガディオン設計による緻密な音響効果によって信じられないほどの迫力で伝わってきた。
特に筋肉だるま、もといユーセリアの澄んだ高音は、伯爵家御一行の涙を誘わずにはいられなかったようだ。
目新しい楽器による演奏にも驚かれていたし、マチルダの見た目とは真逆の低音の歌声にも驚き、ミサのアイドルらしいポップス曲は笑顔で受け入れられていた。
結果、大成功である。
演者たちもたいそう楽しんだようで感無量だね。
ほんと、俺の奇術ショーなんて潰しといてよかったよ。




