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55:大仕事

切りどころがつかめず長くなってしまいました。


次回は6/3日(土)16:00更新予定です。

 さて、とっととレインを返品してしまおう。

 帰還の報告は出してあるからとっとと済ませて、設計士を連れてこなきゃね。

 今回の行程では部外者がいないので速度重視でガンガン行きましょう。

 とはいえ、俺が一人で馬車を操作ってのはあまりにも大変そうだから、御者として誰か連れて行こう、なんて探していたら、クロウが配下を召喚すると言ってきた。

 ゲームでそんな設定あったかな?

 いや、クロウのランク的に配下とかいても全然有りなんだけどさ、デモンロードだもんね。

 ま、いいか。

 手間が省けるのはいいことだ。

 そうして召喚されたアークデーモンのゼビルに御者を任せて、ハヤテに引かせた馬車が街道をゆく。

 どこからどう見ても立派な執事だよ。戦闘力よりもそっちを重視して選んだってクロウが言ってただけはある。

 馬車の乗り心地は上々。苦労して加工しただけあって、通販リクライニングソファーも取って付けた感は一切なく調和している。

 うむ、快適じゃ。

 リクライニングをガッツリ倒してリラックスモードで速攻爆睡。

 村の街道ではもう、揺れなんか微塵も感じないね。

 街道を出ると、速度テストも兼ねてめいっぱい急いでもらったりもしたけど、自分でもびっくりなくらいの安定性だ。

 間違いなくスキルのチートが働いてるんだろうなぁ。

 構造とか素材を考えたら、こんなに安定するはずがないし、そもそも道はガッタガタだから、向こうの世界の超高級車持ってきたとしてもここまで安定するはずが無いんだよね。

 チートすげぇ。

 前回はチンタラ7日もかけた領都への行程だったけど、睡眠が不要だという悪魔の特性を頼って昼夜問わずに移動を続けて、わずか3日で領都に到着した。

 自重を無視すればもっと早く着けたんだけどねぇ、さすがに他の馬車が行きかう日中は速度を落としたから。

 非常に快適な旅でございました。

 最終日はスクショDe絵画を利用してプチメタのライブ鑑賞までしてしまいました。あ、その時レインは勉強のためと称して御者やらせてました。娯楽は教えん。

 ゼビルがプチメタに興味を持ったみたいなのが意外だったねぇ。

 領都に入って、まずは上流街への門を目指す。

 やっぱり中心部に近づくほどに臭ぇ。

 下水道が完備されてない町だもんねぇ。人口が多い分臭いも強い。

 サンサテくらいの密度ならそれほど気にならないんだけどね。

 しかし、ガンガン注目を集めてるな。

 この世界の馬車とはずいぶん趣が違うし、馬車を引くハヤテは街を行く他の馬とは比較にならないくらい立派だ。

 装飾をつけて飾りっぽく擬態させた額の三本角も注目を集めている。

 ちょっとスキルで聞き耳を立ててみると、

 「まさかあれ、ユニコーンの角じゃないよな?」

 「さすがに無いだろ。一本で城が建つって話だぞ。それを三本も馬の飾りに使うなんて。」

 なんて会話が聞こえてきた。

 ユニコーンの角か・・・確か99本あったな。

 激レアモンスターのトライコーンを騎乗馬にするのに、ユニコーン1000頭は狩ったからなぁ。

 スタック限界で200本は消滅したけど、エリクサーもカンストしてたからスルーしたんだった。

 レアモンスターのユニコーンは、純潔の女性しか背に乗せず、バイコーンはその逆の女性しか乗せない。

 ゲームでのバイコーンはユニコーンとほぼ同じ扱いで、亜種って感じだった。つまり、どちらも騎乗にできるのは女性キャラ限定なので俺にとってはただの経験値。

 同じ生息地でまずお目にかかれないのがトライコーンで、性能はユニコーン、バイコーンと同じでも、騎乗馬にできれば性別の制限なく乗れるのでむきになって探しまくったのだ。

 現実ならユニコーン絶滅してたかもな・・・。

 上流街への門で警備の騎士に城へ向かうと告げると、身元の確認だのが始まった。

 ナルホド、一応ちゃんとお仕事してるんだねぇ。

 と、思ったけど、「レイン殿?」騎士の一人が馬車に乗るレインを見た途端に、態度が急変した。

 なんでも、レインがミレーユ嬢を救出した時と、大けがした時共に戦った仲だという。

 涙を流して回復を喜ぶ騎士。

 オイ、仮病男、生涯反省しろよ。

 彼が身元保証をしたことで、というか、門にいた騎士たちはみんなレインをよく知っていたのですんなりと通ることができた。一人駆け出して行ったから、城に伝えに言ってくれたのかな。

 彼の行為を無駄にしないためにも、少しのんびり行こうとゼビルに声をかける。

 相変わらずの芳香剤工場のような臭い道を進んでゆく。

 香しいとかいうんだよな、ここの連中は。

 閉じられている城門前には騎士がズラリと。

 前回と違って歓迎ムードだな。

 直前まで来て馬車が止まると、ゆっくりと門が開いてゆく。なんか作為的、厳かな雰囲気でも演出してるのかな?

 門が完全に開くと、門の前にいた騎士たちがサッと左右に分かれて中へと招き入れた。

 「これ、ノブロフさんから教えてもらったんだけど、かなり上ランクの歓迎ですよ。この上って、あらかじめ門を開けて出迎える上流貴族向けと、門の前に領内の貴族が並ぶ王族出迎えの作法しかないはずです。」

 あ~、こんなのにも作法とかあるんだぁ。キゾクメンドクセェ。

 城の正面玄関に案内される。

 やっぱりそこにも騎士や執事さん、メイドさんがズラリと。

 「長旅お疲れ様でございます。まずは、医師団による診察を受けるようにと仰せつかっておりますので、レイン様、シン様はこちらへ。御者の方は厩へとご案内いたします。」

 一番偉そうな執事に連れられて例の部屋、レインが仮病で寝込んでいた部屋へ行くと、おお、睨んでる睨んでる。

 髭爺と取り巻きの医師?がズラリと並んでいた。

 睨みつけてくるのは髭爺と・・・意外と少ないな、半分くらいか。

 髭爺から問診を受けるレイン、長いなぁ。

 いい加減イラついてきたとき、とうとう髭爺の口から、「間違いなくご快復されているようです。」と、苦虫を噛み潰した、という表現がぴったりな声がでた。

 タイミングを見計らったようにドアが開き、御領主登場、同時に全員が膝をついて頭を下げる。

 ってか、ドアの前で待ってたよね、バッチリタイミング計ってたよね。

 警戒スキルは誤魔化せませんぜ。

 「レインよ、よく無事に戻った。かの村の力は事実であったな。」

 茶番乙。

 「ありがとうございます、カルケール伯爵閣下。格段のご厚意により、再び生きる術を取り戻すことができました。不肖ではございますが、身命をかけてお返しさせていただければと存じます。」

 ノブロフに叩きこまれた口上の一つだな。要するに、あなたの配下に加わりたい、忠誠を誓いたいけどどうですか?ってことを言ってるわけだ。

 忠誠を誓う、と言い切ってしまうのも不敬になるんだそうだ。何勝手に決めてるんだよって、選ぶ権利は目上の方にあるってことなんだと。

 「我が忠誠の証として、こちらをお納めいただければと存じます。」

 そう言って、村で作ったちょっと豪華な木箱を差し出す。

 執事さんが受け取ると、その場で中身を確認して、伯爵の元へで、箱を開けると。

 おぉ~。

 他の執事さんたちから感嘆の声が漏れた。

 中に入れてあったのは、レインが狩ったグレートベアの魔石だ。

 「見事だ。お前の忠誠を受け取ろう。レインよ、今この時より、レイン・ベアート旗爵キシャクを名乗るがよい。」

 苗字は、爵位を与えた人が自由につけられる。グレートベアの魔石だからベアートか?意外と安直だな。

 「ありがたき幸せにございます。」

 そう言うと、レインは片膝のまま器用に横へ移動、伯爵の正面から外れると立ち上がって、執事たちの端、末席に当たる位置に直立した。

 一応彼も、すでに貴族なのだ。肩書だけだけど。

 「シンと言ったか、大儀であった。部屋を取らせるので、今宵はゆっくり休むとよかろう。」

 そう言うと、伯爵はさっさと部屋を出て行ってしまった。

 それだけかよ!

 と、つっこみたくなるけど想定内。

 前回の対応からして、部屋に医師たちがいる以上、こちらに何かアクションを起こすとは思えないと、相談したノブロフからも忠告を受けている。

 城への滞在を認められたんだから、本番は今夜だね。

 城の中では質素な方の、俺にとっては豪華すぎる部屋に案内されて夕食までボーっとしてた。さすがにプチメタライブは見られんなぁ、暇だ。

 こういうときって、ラノベだと領主と晩餐を共にしてうちとけてって流れなんだろうけど、当然のように使用人たちと同じ食堂に案内されましたっと。

 うん、わかってた。

 とはいえいい気はしないな。

 具だくさん、濃すぎる味付けのうどん?もどき、懐かしいな、ランザ砦でも食べたやつだ。

 エグみはまぁまぁ、味は濃すぎ。それでもこの世界での食事情を考えれば美味い料理なんだろう。

 ん?すでに干し肉は持ち込まれてたんじゃなかったかな?

 月一で注文が入って大量の干し肉を運んでるってノブロフが言っていた。ナンモドキは日持ちしないからと断るのに苦労してるとも。

 食べてるのは貴族だけか。

 うむ・・・なんかムカついた、メシテロでもしてやろうか?

 ちょうどドライフルーツもあるし宣伝にもなるかもな。

 うどんもどきを流し込むと、おもむろにドライフルーツを取り出してかじる。

 なるべく周りから見えるように、うまそうに。

 「変わったもの食べてるねぇ。なんだい?それ。」

 早速、隣に座っていた若い使用人が興味を持ったようだ。

 「食べてみればわかるよ。」

 そう言って、1枚渡す。

 渡された方は、見たことも無い食べ物におっかなびっくりといった様子。

 臭いをかいでみたりしていたけど、意を決したように一口。

 「!」

 目を見開いた使用人の表情がすべてを物語っていた。

 「ワッツ、そんなにうまいのか?」

 正面に座っていた使用人が身を乗り出してきた。

 いや、周囲の使用人がみんなこちらを注目している。

 無言で、ドライフルーツを口にくわえたまま顔を上下に振る若い使用人と、一斉に俺に集まる視線。

 無言の圧力。

 思うつぼだよ、君たち。

 食堂にいた全員プラス厨房から出てきた料理人ををしっかり餌付けした後、これから村で売り出す新商品だとしっかりアピールしておいたよ。

 魔素抜きミード酒は・・・まだ早いな、この後大仕事が控えているので。

 食堂から出ると、メイドさんが控えていた。

 メイド服のイメージも、向こうにいた時とはずいぶんと変わったよ。

 上物の素材で仕立ても良いのだろうけど、スカートの裾はくるぶしのちょい上くらいまで、すでに初夏を過ぎているけど長袖だし、胸を強調するようなデザインも、ヒラヒラな飾りも無い地味な服。まぁ、作業服なんだし当然ではあるよね。でもなんか、ちょっとガッカリ。

 案内されるままに歩くと、あてがわれた部屋とは別の部屋へ、さて、本番だな。

 部屋へはいると、こじんまりとした部屋に伯爵と、今日最初に案内してくれた偉そうな執事、甲冑姿の騎士が一人。

 片膝をつこうとすると、

 「よい。今はそのような場ではない。かけたまえ。」

 手順を飛ばしたってことは、やっぱり内々のお話ってことだ。と、ノブロフからのアドバイス通りだ。貴族の内情などについては、”常識”さんは全く役に立たない。

 勧められた席に座る。

 「公的な場ではない。堅苦しい作法は忘れよ。」

 おぉ、テンプレ展開?

 んなわけ無いんだよ。これでラノベの主人公みたいにフランクに話し始めたら即不敬罪だからね、何となくわかってたけど、ノブロフからしっかり釘を刺されてますよ。

 この場合の「作法は忘れよ」とは、いわゆる片膝ついて頭を下げる、許可なく発言しないなどのルールのことを指すんだって。

 「感謝いたします。」

 そう言って頭を下げ、数秒待ってから上げる。まぁ、目上の人に対するごく一般的な作法と敬語をちゃんと使ってればいいってことなんだよね、オッサンで良かった、長年の労働によってここら辺は一応身についている。

 「単刀直入に言おう、そなたらは国でも興す気か?」

 おう、直球。

 ってか、どこまで知ってるんだろうな、国なんて言葉が出たってことは、ベルのことも知ってるんだろう。まぁ、貴族のコレクションアイテムとして持ち出されてるみたいだし。

 「元々は避難所でした。

 森への調査中、魔物に追われる中偶然見つけた古めかしい像の神々しさに、最後の時を覚悟したそうです。せめてもと、半分埋まった像を掘り出して汚れをぬぐうと、像からあたたかな波動のようなものを感じ、以降魔物が寄り付かないことに気が付いたそうです。

 普段我々は守護神像様とお呼びしていますが、元々はこの世界とは違う世界のお方で、邪神との戦いののちこと世界に飛ばされ石像になってしまったそうです。

 守護神像様の加護によって安全圏が確保されたため、とりあえず生き延びることができていたのですが、森の奥深くは強力な魔獣、我々は守護神像様のお言葉にならって、魔物のことを、交流可能な知性を持ち人に近い姿の魔者と、それ以外の魔獣と呼び分けているのですが、それらによって食料の確保も困難な状態でした。

 そんな中、デモンエイプからの襲撃を受けたのです。

 すでに手負いだったのですが、それでも人の手でどうにかできるとは思えない脅威でした。

 我々も全滅を覚悟した時、守護神像様が我々に戦うために力を授けてくれたのです。

 それでも、デモンエイプを仕留めるには仲間を失うことになりましたが・・・」

 村であらかじめ決めていた村の成り立ちを話してゆく。

 「・・・と、自分たちの生活基盤を何とかしようとやってきたのですが、我々の想像を超えて多くの人々が集まり、困惑もしております。

 しかしながら、森の外との交易は村の存続にとって必須です。元々、冬越えのための交易に切り開いた道を、安全に通行できるように拡張した物が森の街道です。

 村の中で使う特殊な魔道具などは守護神像様を通して異世界から召喚するのですが、対価としてお金を要求されるのです。キンを、というわけでなくお金を、ということなので、何か特別な条件があるのかもしれません。しかし、要求される額も大きく、セイルを投入し続けることでサンザ王国の通貨危機を引き起こしてしまうのではないか、との懸念から村独自の通貨を作り、村の中で流通させることで価値を持たせることにしました。」

 あぁ、疲れた。

 言い忘れは無いよな。

 たぶん、村で起こって住民も知ってることは全部知られているかもってことを踏まえて作ってあった作文だけど。

 「では、国を興す気は無いということだな。」

 これまで黙って話を聞いていた伯爵の一声。

 「はい。ただ、村の存在は非常に特殊です。場所的にもですが、守護神像様の存在がです。

 守護神像様の加護無くしては村は存続できません。しかも、あの地を離れることを嫌っているようなのです。

 それに、元々が異世界のお方だからかもしれませんが、我々の常識とはだいぶ齟齬ソゴがございます。」

 「齟齬とは?」

 「最初、我々は守護神像様を神の御使いとして敬い、奉りました。しかし、そのような扱うを好まれませんようで、村の守護範囲は狭まり、加護の力も弱まってしまったのです。

 守護神像様は、敬わられるより親しみを込めて、普段の生活の一部として触れ合える存在であることを望まれておりまして、村でも皆が集う広場に、誰もが触れ合えるように祀らせていただいております。

 魔者に対しても好意的で、村での共同生活を望まれております。その影響なのか、村で教育を受けたゴブリンやオークは、瞬く間に我々の言葉を習得し、多くが読み書きなどもマスターしております。」

 「なんと、ゴブリンやオークがか。」

 一般人の識字率が低いこの世界では、魔物が人の言葉を話すってだけでも驚きなのに、読み書きできるなんて驚愕の事実だろう。

 「まれに神託と申しましょうか、助言をいただけたり、私のように特殊な力を授けていただけたりもしますが、その基準も全く不明、と申しますか、気まぐれとも思えるのです。

 それらの特殊性をご理解いただけるか、なども懸念材料となり、村の開拓の忙しさにかまけてご報告を怠ってしまっていたのでございます。」

 ふぅ、長話はつかれる。

 ゴブリンたちの読み書きがよほどショックだったのか、目を固く閉じて黙ってしまった伯爵。

 う~ん、居心地悪し。

 しばしの沈黙。

 「国を興す気は無い、特異性を容認できるならだれかの下に入ることもいとわぬ、ということだな。」

 沈黙の間に何か区切りをつけたのだろう、本題に戻してきた。

 「そのとおりでございます。」

 ここが落としどころと、村会での結論だった。

 ただ、ノブロフの見解では、おそらく王の直轄領って名目で独立させるか、このまま放置するのではないか、と言っていた。それほどこの森は特異で脅威なのだ、何かあった時、誰も責任を取りたくない。

 「しかし、ずいぶんと精巧な貨幣を作ったものだな。」

 声のトーンが変わった。

 最重要問題は解決って思っていいのかな?

 執事さんが傍らの台に乗せてあった小箱を伯爵の前のテーブルに置くと、箱を開ける。

 中にはベルが詰まっていた。

 「出入りしている商人が献上してきたものでな。」

 そう言って一つ、10万ベル硬貨をつまみ上げた。

 「あぁ、かなり困難でした。村で作った通貨はですね、元々は守護神像になられる前のお方が暮らしていたという世界の通貨に似せて作った装飾品でして、守護神像様がとても懐かしがられ、お喜びになられたのです。どうせならと、そのために作った金型を利用しました。」

 あせった。

 ここに話題が及ぶとは思わなかったから、何も考えてなかった。言葉遣い変じゃなかったかな?

 「ふむ、だからこそか、見事だ。献上されたときは、これが通貨などとは信じられなかったものだが。献上した商人には褒美を取らせなければな。」

 やたらと献上献上いうなぁ、分かってますって。

 「僭越ではありますが、すでに流通されている硬貨と共に、守護神像様の世界で使われていた勲章を元にした2種の硬貨が完成次第、額に収めて献上させていただくつもりでおりました。我々の硬貨が美術的価値を持つなどとは思いもせず、遅れてしまったことをお詫びいたします。」

 お土産用のイミテーション渡すつもりで持ってきてたけど、本物使ったやつ渡した方がいい感じだよね。帰ったら特急で仕上げなきゃ。

 「殊勝な心掛け、感謝する。しかし、な、食堂ではなかなか盛況だったようではないか。」

 ぬ?

 もう知ってるのかよ。

 いかんな、献上できるような形で持ってきてないぞ。

 「これから村で売り出そうと模索しているものでして、まだ形も不格好で、献上に値するほどの出来には程遠く・・・」

 「使用人には出せてもか?」

 ぬお、食い気味に来たぞ。そんなにか?

 そっちが求めて来たんだからね、気に食わないとかで文句言うなよ!

 懐からきんちゃく袋を取リ出すと、意外なことにそれにも食いついてきた。

 「それは!まさか、スレッドスパイダーの生地では!」

 あ、そうだ、ドライフルーツが布にくっついて台無しになったりしないように、強くて糖分とかがベットリつきにくいサラサラ素材、スレッドスパイダーの糸で織った生地の端切れで巾着造ってもらって入れて来たんだった。

 無着色だけど、スレッドスパイダーの生地は独特の光沢があって目の肥えた人が見ると一発で分かるんだってカブロもノブロフもうらやましそうに見てたな。

 「これも、いずれは村の特産品にしようと研究中なんです。まだこの程度の物しかできなくて。」

 言えない。

 すでに村で下着としてヒット中だとは・・・。

 帰ったらすぐ店頭から回収せねば。まずは献上しないとまずい流れだよね。

 「完成しましたら一番に献上させていただきま」

 「いや、これは王家に献上すべきものだ。」

 言い終わらないうちにって、王家?

 「そ、それほどの物・・・ですか?」

 「スレッドスパイダーの生地ともなれば、下手な防護服よりも強く軽い。しかも肌触りなども快適だと聞く。常に暗殺を警戒しなければならない王宮内では重宝されるのだ。しかも、これほど綿密で細やかな生地とは。グレートベアの魔石にも匹敵するほどの献上品となろう。」

 「マジすか・・・。」

 ゴホン

 執事さんの咳払い、ヤベ、声に出てた。

 「ご指導ありがとうございます。しかし、王家の方々とは接点もありません、献上の際にはお力添えいただければ幸いです。もちろん、その際には伯爵様にも同じものを進呈させていただければと存じます。」

 で、良かったんだっけ?なんか言葉遣いも自信無くなって来たぞ。

 「うむ、そう言うことであれば取り計ろう。して、この中に入っているのだな。」

 はいはい、せかしなさんなって。

 袋からラサの実のドライフルーツを取り出す。魔素抜きして、完熟させたものを薄切りにして干しただけのものだ。

 「ほう、変わった見た目ではあるな。」

 スッと騎士が前に出て、兜の面ほおを上げる。

 ほう、なかなかのイケオジだ。

 ドライフルーツを取ると、取り出したナイフで一部を切り取って口へ、毒見か。

 一瞬顔がほころびかけて、慌てたように平静を装うと、切り取った残りを伯爵へ。

 「問題ございません。」

 こういうときって、毒見は執事じゃないんかな?戦力が毒で倒れちゃったら守る人がいなくなっちゃうのに。それとも、この騎士は毒に耐性でもあるのか?

 なんて考えてたら、伯爵の反応を見落とした。

 「これも、村で販売されるのだな。今持ち込んでいるということは、日持ちもするということで良いな。」

 見落としてても問題無かったね。

 「はい、ドライフルーツと名付けたのですが、現在このラサの実以外にも複数の果実で研究を進めております。」

 こうして、酒も進められたりしながら深夜遅くまでいろいろと話し合った、いや、ほんとに疲れたよ。

 アルコールの効果か、だんだんとぶっちゃけた話も出るようになって面白かったけどね。

 髭爺に関しては、以前からどうにかしたいと思ってたらしいんだけど、子爵位を持っているらしくて弟子も多いだけに無下にすると他の医師たちも反旗を翻しかねない、しかも、医師以外の貴族たちも懇意にしている者が少なくないため、あのような対応しかできなかったのだと。

 今回の件で、伯爵は髭爺をかばったけど、現実として髭爺の完全敗北、というのが周知されてしまった。もう自ら隠居するしか無いだろうとのこと、それ、完全に思惑通りってことね。

 まぁ、子飼いの弟子が残るから即健全化とはいかないだろうけど、一線にいなければ権力を削るのは大したことも無いと・・・貴族怖いわぁ。

 レインに関しては、大体こちらの想像通り、ただ、レインの感が悪すぎて頭を抱えていたらしい。あげく仮病を使って引き籠り、仕方なく事情を説明しようとしたら、察知した髭爺が治療のためと24時間体制で張り付いてしまった。どうやら、自分の孫をミレーユ嬢の夫に、とか考えていたらしい。

 そうこうしているうちに、レインと会ってからおとなしくなっていたミレーユ嬢が暴走、俺を連れて戻ってきたと。

 レイン帰還に合わせて俺も呼びつけたのは、完治させたのは実は自分だと髭爺が吹聴しないように、と、あの時の俺の反応から、早々に事情を察知したらしいと感じたため会談、この場を希望したからなんだってさ。

 スカウトまでされたけど、守護神像様への忠誠は捨てられないと丁重にお断りしたよ。

 ああ、レインに関しては、自らを鍛えなおすため真摯に打ち込む姿が気に入られて、守護神像様から力を授けられたと伝えたよ。

 おおっぴらには喜ばなかったけど、嬉しそうだったな。

 

 翌日は食堂で料理人たちから質問攻めにあったよ。

 「やはり、英雄の村でなければエグみを完全に取り除くことはできんのだな。」

 悔しそうに言う料理長。

 「根菜類なら何とか運べそうですけどねぇ。」

 後ろに立つ料理人が天井を見上げながらあれはだめだな、これならいけるか、などとつぶやいている。

 「麺に関しては、近いうちに何とかなるかもしれませんよ。乾麺っていう手法があるらしくて、今村で研究してるんです。麺を傷ませずに乾燥させたもので、茹でることで柔らかく戻るんです。」

 おぉ~、と歓声が上がる。

 しっかり売り込みもやっといたよ。

 午後は医師団、髭爺とは距離を取っていた若手やらからお招きいただいた。

 マナ医師の助手って肩書だったんだったね、忘れるところだった。

 詳しい話は分からないんで、ボロが出ないように衛生面とかの当たり障りのないことを話すくらいしかできなかったけど、それでもこの世界の医療には画期的なことっぽくて感心されまくってしまった。

 夕食後は昨日と同じく、メイドさんに案内されて、あれ?昨日とは別の部屋へ。

 広めで豪華な部屋の中には・・・ひょっとして、伯爵家御一同?

 伯爵に、見た目的にご婦人、と、青年2人、少女3人。

 片膝をつこうとすると、昨夜と同じく止められて椅子に掛けるよう勧められた。

 「みどり村のシンと申します。失礼します。」

 そう言ってから腰掛ける。

 伯爵の家族がいるから、昨夜よりは一段高めの作法がいる。

 キゾクメンドクセェ。

 伯爵側も紹介された。

 ご婦人がメリーナ、長男ノイド、次男ハルベルド、長女セレスティーン、次女ミレーユ、三女マリアナと。

 他に室内には昨夜の執事とメイドさんが7人、騎士が二人。

 ミレーユ嬢の態度から、たぶん一人はレインだろうな。

 メイドさんたちは一人ずつ、伯爵たちの後ろに控えているから毒見役なのかもしれん。

 「まだ試作品なものですので、お目汚しになるかもしれませんが。」

 そう前置きしてから、用意されていた大皿にドライフルーツを出した。もちろん、スレッドスパイダーの巾着袋から取り出すところを見せるようにしてね。

 そう、これは打ち合わせ済みのプレゼンなのだ。

 巾着を見た途端奥方からため息が出た。

 この世界にとってのシルクとでも言うのか、それくらい女性からあこがれの素材なんだそうだ。

 ただ、防御性能の高さから鎧の内張や下に着る服として使われることが多く、ただでさえ希少な素材なので女性にはめったに出回らないんだとか。

 ドライフルーツを毒見するメイドさんたち、いやな役割だと思ったけど、小さいとはいえ食べ物を切るためのナイフを持って主人の後ろに立つってことは、それだけ主人から信頼されている証、とても名誉なことでメイドさんたちのあこがれなんだって。死んじゃうかもしれないのにね。

 昨夜の騎士さんとのやり取りを再現したみたいになったけど、ほころぶ表情をぐっと耐える仕草がほほえましいねぇ。

 ドライフルーツは皆さん非常に高評価でした。

 さらに今宵は村産のミード酒に、ラサの実で造った果実酒も持参したよ。

 サンザ王国では10歳から飲酒OKなんだってさ。

 「この酒は素晴らしい。本当にラサの実で?」

 酒豪だというハルベルド氏もいたくお気に召したようだ。

 「はい、これも複数の果実で研究中の物です。その中でも完成した物がこのラサワインでして。現在量産に向けての研究を進めています。」

 「ふむ、昔、一度だけ王都の晩さん会でいただいた酒に似ている。こちらの方がずっとうまいが。」

 ほう・・・やっぱり果実酒の製法はあるのか。伯爵が一度だけっていうことは、ほんとにごくわずかしか作られていないみたいだけど。

 「完成したらぜひ、王家にも献上すべきだな。」

 なんて話しながら夜も更けると。

 「やっぱり、本当においしいものはみどり村に行かないと食べることはできないのね。」

 手に持ったドライフルーツを残念そうに見つめながら、セレスティーン嬢がつぶやいた。

 すでに結婚間近で、嫁いでしまったら当分食べられそうにないと嘆いている。

 「じゃぁ、みんなで行きましょうよ。お肉料理も、とてもおいしかったのよ。」

 と、ミレーユ嬢。

 「食事のために半月も領をお出になるのはいささか問題があるかと。」

 と、執事にたしなめられたが見逃さなかったぞ、残念そうな顔をしたのはセレスティーン嬢とミレーユ嬢だけではなかった。

 ここはひとつ、もうちょっと懇意にしておいた方がいいかもね。

 「実は今、村の娯楽のために劇場を建設しようと計画しているのですが、設計士が見つからないのです。こちらにいらっしゃると聞きつけて依頼したのですが、ご高齢で村までの旅に耐えられないと断られてしまいまして。快適な旅をご提供できるよう馬車を改造してきたのですが、それでも断られたらと心配しております。完成のこけら落としには是非ご招待させていただきたいと思っていたのですが。」

 食事以外で目的を作る、しかも、招待なので滞在費なんかはかかりません。で、どう?

 「ほう、あの者か。腕はいいが無精者だからな、どうせ面倒だからと適当な理由をつけて断ったのだろう、明日にでも城へ呼べ。」

 意外なことに、伯爵本人が食いついてきた。

 「で、どの程度でできる。」

 そう、執事さんに目配せをする。

 「規模にもよりますが、通常ですと半年から1年はかかるかと。」

 執事の回答に、大きくため息を吐くセレスティーン嬢。

 「絶対間に合わない。結婚やめようかしら。」

 おいおい。

 「馬鹿なこと言わないの。今更破談になんかできるわけないでしょ。」

 ご婦人にもたしなめられていたけど、なおふてくされるお嬢様。

 「我々の村には、建築関連の加護を授かったものも何名かおります。ゴブリンとオークも含めてですが。図面さえでき上れば、彼らなら1か月ほどで完成させられるでしょう。」

 本当はもっと早くできるだろうけどね。

 「本当!」

 思わず立ち上がって、ご婦人にたしなめられるセレスティーン嬢。

 うん、さすが姉妹、根本は同じなんだね。

 「頼子レインの恩人からの招待ならば受けねばな。」

 そう言ってチラリと執事さんを見る伯爵。一方執事さんは、肯定も否定もせずに憮然としている。

 ってことは、賛成ではないけど反対しないってことだね。

 めでたしめでたしっと。


 翌日、登城した設計士のガディオンは村への出張を命じられた。

 領主からの命令を断れるはずも無く、渋々ながらといった感じで引き受けたてたけど、あんたも高齢で長旅に耐えられないってほど年寄りじゃねぇじゃん。

 ベテラン感はあるけどまだまだ現役バリバリじゃん。

 翌日の出発直前までブツブツ文句を言ってたよ。

 直前までね。

 「なんだこれは!我が家のソファーより快適じゃないか!」

 「もう出発してるだと?なんでこんなに揺れんのだ!?」

 なんて驚きまくって、1時間後には

 「これはいったいいくらで手に入るんだ?」

 に変わってたよ。

 さすが俺様作だ。

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