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52:音信不通

次回は5月27日(土曜日)16:00公開予定です。


よろしくお願いします。

 シンと共に洞窟へ鍛錬に向かったユーキとオヤカタ達が戻って1か月、約束していたシンからの連絡が来ない。

 少なくとも7日に一度は、と何度もくぎを刺していたのに、やっぱりというかなんというか・・・もう半月ほど音沙汰がない。

 一緒に残ったフブキがかなり優秀だとユーキから聞いているし、オヤカタ達のスキルも健在なので無事なのだろう。

 つまり報告をサボっているのだ。

 誰か確認に向かえれば良いのだけれど、タイミング悪が悪いことに、商人を中心に来訪者が急増、みんな対応に追われてそれどころじゃなくなっていた。

 急増した原因の一端は、ミレーユ嬢と共に来訪した騎士たちだ。

 彼らがこの村での食事を領都で広めているようで、干し肉とナンモドキを求めて領都の商人がやって来た、と思ったら、あっという間に行商や周辺の町村を拠点にする商人達へと拡大し、今では領外からの商隊までやってきている。

 この世界の情報網を考えれば、異常なほどの速さだ。

 それだけ食事のエグみは大きな問題だったんだろう。

 それを解決した張本人がいない。

 誇っていいことだと思う。

 (移住者を受け入れたときもそうだけど、なんであの人はいるべき時にいないんだろうな。)

 こういった場を経験すれば、もう少し自分の重要性を理解してくれるんじゃないかと思うんだけど。

 「ソンチョー、ベルが足りません。」

 感慨にふける間もなく新たな問題が発生した。

 騎士たちによる宣伝は、本来なら大歓迎、大感謝なんだけれど、いかんせんタイミングが悪すぎた。 

 

 村独自の通貨、ベルの運用は本来ならまだ先のはずだった。

 それが、商人の来訪が急増するに至って干し肉の在庫が不足、狩猟による確保分だけではいずれ賄いきれなくなることが明白になったことで、畜産を一気に加速させる必要に迫られた。

 つまり、牛や羊、ニワトリなどを仕入れるために金が要る。

 この世界の通貨を使うのは経済情勢上良くないと、村独自の通貨、ベルの運用を計画していたけれど、前倒しで始めないとならなくなった。

 その結果、ライアーやユーシン、ユーキにミサ、ユーコに至るまでが臨時で両替商に常駐することになってしまった。

 運用はまだ先のことだろうと、職員教育が間に合ってないのだ。

 オークロードに進化したオヤカタの配下として新たに加わった20名のハイオークたちがベルの量産を進めてくれている。うち10名はオヤカタのスキルを7割ほど受け継ぎ、残り10名は5割ほどを受け継いでいるのだが、その能力を発揮するのはまだ先になりそうだ。

 超速で量産されていくベル貨幣に、当初は十分対応可能だと安心していたのもつかの間、足りないと来た。

 いそいで両替商に駆けつけたソンチョー。

 「え?マジで?」

 現状を聴いたソンチョーは、自分の耳を疑った。

 「はい、元々生産の少なかった5万ベル、10万ベル貨幣が全て出てしまいました。さらに両替を迫られているようでして、比率を変えるべきか判断を仰ぎたいとご足労願いました。」

 5万ベル、10万ベルは、大金貨を想定して作ったもの、小規模の取引が中心の現状では必要性は低いだろうと、生産数を少なく割り当てていたのだ。

 「取引って言っても、まだ出してるのは干し肉位でしょ?ナンモドキは需要があってもそんなに出せないはずだし、ミードも村で消費する分くらいしかできてないはずだけど。」

 「はぁ、そうなんですが、その、なんといいますか・・・。」

 対応しているゴブリンの歯切れが悪い。

 「どうも、コレクション化してるっぽいよ。」

 空の木箱を片手で担いだライアーがやって来て助け船を出してきた。

 「あれ、すごく凝ってるでしょ。美術品じゃないけど、そんなレベルだっていうんでお貴族様が全種類を額に入れて飾るんだってさ。」

 あぁ、確かに江戸時代の小判とか小銭のレプリカとか、古い時代のお札とかを額に並べて飾っていたのを見たことがある。子供のころ、家族で行ってた小さな小料理屋さんや居酒屋さんに良く掲げられていた。

 あれがこの世界でも起こってるの?しかも、新しい通貨で。

 元々ベルは、みどり村の機能で仕入れをするための疑似通貨だ。

 悪魔の設置した両替機によってセイルを換金できるようになったけれど、とにかく仕入れの価格が高く、使い続ければこの国の貨幣が無くなる通貨危機に陥ることもあるだろうと心配したシンが、悪魔との取引で疑似通貨だったベルを実物の貨幣として作り、使うことを認めさせた物だ。

 両替商で交換されたセイルは、この村では手に入らないものを購入するために使う。

 金属や鉱石はシンとスロークの所持品でしばらくはもつだろうけれど、いずれは底をつくだろうし、食材や素材など生活に必要な物の中には、この森では手に入らない物も少なくない。

 村の機能での仕入れにお金を必要とするのは、お金にまとわりつく欲望とかの感情が悪魔にとっての娯楽みたいなものだから、ということなので、みどり村の機能で仕入れをするには、ただ作るだけではなく、ベルに価値が無ければならない。

 なので、村限定で流通させて、セイルと同価値になるように流通量を調整さえすれば、仕入れに使う分のベルは別財布でいくらでも作って使えるという、詐欺的手法なのだ。

 悪魔にとっては娯楽の一環、ベルに人々の欲が集まる限りは出どころその他には興味ないらしいので、村での流通量さえ注意していればいくらでも使える打ち出の小づち的なシステムになっていた。

 それが、あっけなくも破綻しそうになっている。

 まさか、美術品として外に持ち出されているとは。

 「とりあえず、正規の流通でないなら増産しなくていいよ。たぶん、その方が良いはずだから。」

 正直、経済に明るくないソンチョーには何が正解なのか分からない。ならば計画通りに進めた方がいいだろうと、判断した。

 (あぁ!なんで居ないんだよオッサン!)

 

 マスターは、多発する問題に頭を抱えていた。

 干し肉の需要が急増している。

 ナンモドキも問い合わせが殺到している。

 それ以前に、エグみが無くなったことに感動していた人々が、エグみのない食事に慣れたことで感じるようになった新たな感覚に悩まされていた。

 これまでエグみをごまかすための濃すぎる味付けに慣れた人々の味覚。そう、この世界の人々は、とにかく濃い味付けに慣れすぎてしまっていたのだ。

 そして、魔獣肉独特の硬い肉質とクセにも悩まされた。エグみでごまかされていた雑味や臭いが気になりだしたのだ。

 マスターは連日、夜遅くまで試行錯誤を続けてきた。

 エグみのない食事に慣れていない来訪者たちになら、ワタリビトと同じ味付けでも十分感動してもらえる。しかし、移住し、日常的にマスターのレストランで食事のできる、生活に余裕のある人々にとっては薄味で物足りなく感じるようなのだ。

 マスターが営んでいたのは、和洋中がミックスしたザ・定食屋さん。決して薄味では無かったが、それでもこの世界の住人にとっては、エグみを誤魔化すことが料理だという世界に支配されてきた人々にとっては薄味なのだ。

 岩塩屈の発見によって塩が、砂糖の木の移植によって砂糖が潤沢に手に入るようになったけれど、香辛料はまだ少なく、外から買うにしても高価すぎる。臭み消しに使える牛乳も十分に流通されていない。

 「速い、安い、美味いが信条の定食屋なんだけどなぁ。」

 この世界の食材で作る料理で、味に満足できる料理は、採算度外視の手間とコストがかかってしまう。かといって、美味いを犠牲にすることはマスターのプライドが許さなかった。

 ソンチョーたちから魔素抜きの食材が潤沢に流通できるまでは、ちょっとしたご褒美にマスターの店で食事をって価格帯で営業してほしいと頼まれていたけれど、現状は高級料亭並みのコストがかかってしまっている。村で採れた野菜や、ユーシンやスロークが狩って来た肉などを無償で利用できているから何とかなっているが、由々しき問題だ。

 そういった問題から、酒の製造も思ったようにいっていない。

 そこにきての干し肉不足とナンモドキ特需だ。

 「外に出せる食材がもっと多様になればいいんだけどねぇ。」

 閉店後の食堂で、うかつにも魔獣肉を差し入れに来たスロークに愚痴ってしまった。

 「長持ちか。確か、何か月ももつパンとかなかったかな、シュなんとかって、昔漫画で見た記憶があるんだけど。あとは缶詰とかフリーズドライとか?無理だよな、さすがに。」

 苦笑いしながら「役に立てなくてすまんな。」というスロークに感謝を伝えたが、パンは完全に専門外だ。イースト菌も仕入れることができるようになったと聞いたが、食パン程度なら作れるだろうけど、長持ちするパンなどは知識に無い。

 「あ!」

 うぃきネットが自由に使えるようになったんだった。

 かすかな希望にすがりつくようにソンチョー宅へと足を運んだ。

 「それにしても・・・シンさんがいれば缶詰もできそうな気がするんだけどな。」

 そう一人愚痴りながらも、慣れないマウスとキーボードでうぃきネットを使う。

 長期保存できるパン

 で検索をかけると、いわゆる災害対策用の缶詰とか、乾パンばかりが表示された。

 なので、 

 長期保存できるパン 中世

 と追加してみる。

 結果として、大航海時代船に詰め込まれたという、2度焼きしたカチカチのビスケット、の原型が出てきた。

 う~ん、これじゃあなぁ。

 スロークの言っていたシュ何とかってのは何だろう。

 長期保存できるパン 中世 シュ

 さすがにこれじゃ出ないよなぁ・・・あ、シュトーレン?

 ドイツのパンか・・・う~ん、現状再現は無理かな、バターが大量に必要になりそうだ。

 「あ!」

 なんで気が付かなかったんだろう。

 シュトーレンに大量に使うものは、バターともう一つ、ドライフルーツ。

 完熟ラサの実をドライフルーツにすればいいじゃないか!

 甘味は貴重だし、高価に設定しても売れる。

 あとドライと言えば、乾麺も売れるんじゃないか?この世界では麺のようなものが主食って話だし、材料のセパ粉を魔素抜きしてウドンか素麺を作って、乾燥させれば長期保存も輸送もできるじゃないか。

 気が良くなったので、さらに缶詰の歴史で検索してみたら、缶詰の起源は瓶詰だったことを知った。

 「真空にして加熱すればいいんだから、缶にこだわることも無いのか。」

 缶は無理でも、瓶なら作れるし、湯銭加熱で殺菌した瓶に過熱した具材とスープで満たして密封できれば、輸送にかかる日数ぐらいは十分もたせられる。

 瓶は、アオイやカイトがスキルでフラスコのようなものを作れると言っていたから、明日にでも相談してみよう。

 「あぁ、シンさんがいれば、瓶か蓋に浄化の刻印を入れてもらってもいいな。」

 本当に、肝心な時にいないんだなぁ、あの人は。

 ソンチョーやスロークのボヤキを実感したマスターだった。

 

 「はぁ、胃が痛い。」

 来訪者の急増は、インフラ整備を終えて一息ついたばかりのクリフトにも影響を及ぼしていた。

 魔者が共存していることを受け入れたうえで移住してきた人々とは違い、今来訪する人々は魔者に対する恐怖心や感情を、利益で無理矢理蓋をして来ている。

 そのため気性も荒く、護衛も荒くれ者が多いだけあってあちこちで、特に街道の宿泊地で問題を起こすのだ。

 ただでさえ問題が多発しているのに、両替商にユーシンやユーキ、ライアーを取られてしまい、スロークも現場に出ることになったため全体の配置や統括にとクリフトが招集された。

 ゴブリンロードに進化したトウリョーが、部下として率いて来た20名のホブゴブリンと共に急ピッチで街道の宿泊施設を増設しているが、当分はテントの場所取りなどといったいざこざが絶えないだろう。

 

 「もう大丈夫ですからおかえりください。」

 にっこりとほほ笑むマナは怒っていた。

 マナに会うために、適当な理由をつけてやってくる連中が後を絶たない。

 移住受け入れ直後からしばらくは同じような状態だったけど、それも落ち着いてしっかり患者を診ることができるようになった、と思ったら、今度は外からくる荒くれ者共が押しかけて来た。しかも、住人でない分質が悪い。

 「そんなに痛いなら切ってしまいましょうか。」

 「二度とお誘いいただけない体になってみますか。」

 それらの言葉が何度口を突こうとしたことか。

 手伝いに来ているアカネをこいつらの前に出すわけにはいかないので事務仕事を任せているが、早々に他の仕事に回ってもらった方がいいかもしれない。こいつらは小学生のアカネには悪影響しか無い。

 ソンチョーたちは、アカネをいずれ服飾系のデザイナーにしたいらしい。

 絵はまだつたないながらもデザインのセンスが良く、それを元にオリヒメが縫製すると、動きやすい上に派手過ぎず垢ぬけたデザインが大好評。

 で、多くのワタリビトたちが普段着に着用していたが、最近では住人にも愛用者が増えてきている。

 現状はまだ素材が少なくデザインの仕事自体ほとんどないが、スレッドスパイダーの繁殖も順調で、うぃきネットで図面を引き出し、木工職人に依頼した機織り機が完成したら村専属デザイナーとして活動してもらうつもりのようだ。

 そう言えば、オリヒメの変貌にはかなり驚いた。

 聞いてはいたけれど、恰幅のいいおばちゃんだったオリヒメが、スタイル抜群の美女になっていたのだ。トウリョーも筋骨隆々で身長も2m近くあるマッチョになってたし、オヤカタも筋肉の塊みたいになってた。ゲーム上の姿に近いってスロークも言ってたけど、まるで別人のようになっていて惑ってしまった。

 夕方にはアカネを帰し、ようやく最後の一人を追い出したころにはすっかり日も暮れて辺りは真っ暗だった。

 「もう、鏡で外見変えちゃおうかな。」

 面倒だからと、顔やスタイルはゲームキャラのままで、ブレードやむき出しの機械パーツを消しただけで済ませてしまった自分を後悔するマナだった。

 

 レインは今日も、森で魔獣を狩る。

 干し肉のための肉確保が急務となったからだ。

 魔獣の活動が活発になる夕方から、オークやゴブリンのハンターたちとチームを組んで、大物狙いで魔獣を狩り、日中は短時間だがマナの診療所に用心棒がてら手伝いに行っている。やはりあの連中はアカネには毒だ。

 本心としては、城に戻りたかった。

 すでにスロークから独り立ちのお墨付きをもらい、マナーや貴族の常識に関してもノブロフから合格をもらっている。ここに滞在する目的は達成されているのだ。なのに、シンが帰ってこない。

 帰るときは同行を命じられているのに片割れがいないのでは、いつまでたっても城へ戻れないのだ。

 「まさか、忘れてなんかいないよな。」

 一刻も早くミレーユに会いたい。それに、伯爵にも成長した姿を見せつけてやりたいのに。

 

 そんな多忙な日々を過ごすうち、急遽「ワタリビト密談会議」通称ワタ会が開催された。

 「多忙の中お集まりいただいてありがとうございます。」

 いつになく神妙な面持ちのソンチョー心なしかやつれている。

 この日の打ち合わせで、密かに組織された一団が翌朝、日も開けぬうちに村から出発していったのだった。 

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