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51:洞窟探訪

次回は5/24の16時更新予定です。

 いよいよノエルさんの引っ越しだ。

 準備万端、一睡もしておりません、はい。

 渡しておいた魔道具もしっかりノエルさんの魔素を吸収してくれていたので、移動による魔物化の心配はない。

 が、俺自身のセンスが皆無だったことは想定外だった。

 腕時計すらつけなかった俺が、アクセサリーのデザインなんて無理ゲーだったんだよ。

 ノエルさんに似合う魔道具を、と思ったんだけどなぁ。下手に加工スキルがMAXなもんだから、デザインの悪さが際立つ。結局市販品を元に無難なものになってしまった。

 この魔道具から誤作動防止措置を取り除いて大型化した、空気中魔素吸着装置、「充魔素くん壱号」が引っ越し先周辺に複数設置してある。

 駅なんかによくある、ペットボトル用のごみ箱みたいな形状の装置で、周辺の魔素を吸入することで周囲は魔素濃度が薄くなり、内部は超高濃度になるよう調整してある。もちろん、魔物が発生しないようにリミッターもつけてあるよ。

 空になった魔石を入れることで強制充填する仕組みだ。いずれ町中に設置して、使い切った魔石は自分たちで充魔素くん一号に投棄してもらうようにルールを周知しよう。

 充填後は卸売市場で販売される。村の収入源として期待のシステムだ。

 ちなみに、空の魔石も子供のお小遣い程度の額だけど買取している。空の魔石は食料の魔素抜きにも、魔導具の作成にも必要だからたくさん確保しないとね。

 で、引っ越しはというと、建物をそのままアイテム化できるカイトとアカネの能力でサクッと簡単に済んでしまった。

 さすがにノエルさんも驚いていたけど、ほんとに便利だよね。

 道中ノエルさんにアカネが、子供ゆえの無邪気さというか、見かけた花や小動物(小魔獣?)のことを聞いたり、逆にノエルさんが向こうの世界の事を聞いたりと楽しそうだ。

 一方、、、ガンバレお兄ちゃん、恥ずかしがってちゃ仲良くなれないぞ。

 そんな感じのお引越しもあっという間に完了。

 家も庭もそっくりそのまま、畑に近い住宅予備地に移築できた。

 予備地の一つをそのまま使うことになったけど、広い庭もそのまま移築したのは庭に植えられていた貴重な薬草等も持ってくるためだ。

 村とノエルさんとは、伯爵令嬢襲撃(?)の後、俺が拠点づくりに引きこもっている間にも交流があったようで、誰かしらがちょくちょくお邪魔していたみたい。

 村から出られないソンチョー以外のワタリビトとはすでに面識ができており、気を遣うことも少ないだろう。

 引っ越しで問題があるとすれば、近隣がライアーとマナになってしまったことか・・・あの二人に毒されないといいんだが。


 うん、気を取り直そう。レベルアップだレベルアップ!

 オヤカタとトウリョー、オリヒメを伴って例の洞窟へ行くぞ。

 オヤカタ達を進化させて配下を持てるようにさせれば、貨幣や、蜘蛛糸の機織物生産の担い手が増える。しっかり準備して、狩りまくるとしよう。

 なんて、装備品の確認をしていると、不愉快な存在が愉快にやって来た。

 

 「「さすがです!素晴らしい!あなたを選んだ私が!!」」

 

 妙なハイテンションで現れたクソ悪魔は、くるくると回りながら自画自賛している。

 ウザったい。

 

 「「まさか!あの方を招き入れるとは!あなたの発想は素晴らしいの一言です!そのあなたを選んだ私を褒めたたえても良いのですよ!!」」

 

 「アホか。」

 なんかヤバい薬でもやったのか?悪魔に効くのか知らんけど。

 あの方ってのはノエルさんのことだろうな。なんかあったのか?


 「「ずっと探し続け、ついに見つけることができぬままだった存在。自らの秘密を知る、王にとって無視できない存在が、魔物化の恐怖から王を救い、さらに王自信を害する可能性を持つこの村に現れた。

 それを知った時の、王の恐怖、焦燥、怒り、憎しみ、そして、かけらほどの愛。全てが混沌と混ざり、浸食されていく。  

 これほど甘美な心は初めて経験しました。」」

 

 ハイハイヨカッタデスネー。

 こっちはドン引きだよ、ちくしょうめ。

 「で、攻めてくるとか? 面倒事は御免なんだが。」

 

 「「いえいえ、王にそのような手ごまは存在しません。彼自身が動くにはまだまだ時間がかかるでしょうし、そうなったとしても限定的。おそらく地上には数分しか滞在できないでしょう。」」

 

 うんうん、王に渡した魔道具は、ワザと王の魔素を吸い過ぎないように効率を悪く調整してあった。

 世界を大混乱に落としておいて、いまだに反省とは無縁のアホ王には、一万分の一グラムも情けはかけん。

 それほど大きくない魔石だけど、魔道具の魔石がフル充填されるには数年かかるだろう。そのくらい非効率化したからね。

 たとえフル充填されても、地上に数分もいれば水の泡、程度の量しか吸着できない。

 つまり、アホ王はこの村無しでは魔物化を阻止できないのだ。今のところ。

 他に同じ魔道具を作れる奴が出てくれば別の話だけど、王に配下がいないのであれば問題あるまい。

 その村に、存在を消したくて仕方がなかった娘がいる。

 ザマァミロ。

 という状況になったんだな。

 しかし、まだ執着してたのか。

 もうすっかりノエルさんのことは忘れてると思ってたんだが。危なかったんだな。

 あの時はただの嫌がらせだったけど、質の良い魔道具を渡さなくてよかったよ。

 何がうまくつながるか分からないものだ。

 「で、結局何をしに来たんだ?・・・いねぇし!」

 迷惑な悪魔め。

 ん?

 なんだ、この本。魔導印?

 おお!

 なるほど、これを"落とし"に来たのか。

 シン ハ トテモヨイ ホン ヲ テニイレタ。


 拠点の建造に大量の資材を使ったし、残った資材も倉庫に保管してきたし、有用なアイテムはリストアップしてきたし、ガッツリレベルアップに励もう、と思ったのに、何故かユーキがついてきた。

 「洞窟の魔獣?封印できたらいいなって思うんだ。なんでよろしくお願いします。」

 そういえば、彼の最初の封印、リルベアのクマを封印したときもこの二人だったな。

 メンツはずいぶん豪華になったけど。

 まぁ確かに、洞窟のオオトカゲは中々トリッキーで強かった。

 今回は、前回脱出した大穴から入って、オオトカゲと戦った広間を拠点に狩りをする。

 ウシオの記憶を辿って作ってもらった地図を元に、泊まり込みでの強化合宿だ。

 前回からそこそこ時間が立っているけど、オオトカゲが復活してたりは、、、。

 「残念、空か。」

 オオトカゲの魔素は還元されずに経験値としていただいてしまったからな。

 中央の比較的平らな場所に簡易拠点を設置すると、装備の確認をしていざ、内部へ。

 ガスの心配はない。

 なんせ、ウシオが活動していた場所が中心だ。

 その中でも、戦いやすい広い場所をピックアップしてある。

 ライトの魔法で周囲を照らしながら奥へ。

 いるいる。

 前回肝を冷やした、バカでかいカマドウマもどきがウジャウジャと。

 幅が10mはありそうな通路に20~30匹はいそうだ。

 「うへぇ。トリハダ!」

 ユーキが小声ながらも心底嫌そうにつぶやいた。

 ふむ、苦手かね。ただのコオロギっぽい虫じゃないか。

 デカいけど。

 前は狭い場所でコンニチワしたんで肝を冷やしたけど、強かったイメージは無い。魔法でサクッと倒していたよな。

 とりあえず戦闘は自分とアオン、ゴン、クマでいいかな。ユーキも鍛えているようだけど、ゲームシステムとは無関係、ここではあまり戦力にならない。あくまでもマジモンのバトルはモンスターが主役だ。

 オヤカタ達には援護を頼んで、とりあえず突っ込む。

 これがイカンかった。

 30匹の、1mを超える巨大なカマドウマが縦横無尽に、統率も無くでたらめに飛び交う悪夢。

 まさに惨劇。

 「うわぁあぁあ!キモい!こっち来るなぁ~!。」

 ユーキの悲鳴がコダマする・・・ナム。

 とにかく剣を振り回す。

 高熱の刃先が振れただけで、デカマドウマはあっけなく切り裂かれ、香ばしい臭いが。

 いかん、ちょっと食べてみても、なんか思わないぞ。

 どうせこいつら霧散するし。

 霧散してよかった。

 ち、ちがうぞ!

 昆虫食ブームなんて向こうの世界の話だからな!

 しかし、こいつら痛覚無いのか?足2~3本切ってもお構いなしに飛びまくる。

 ちょくちょくぶつかってくるけど、ダメージは無い。鎧のおかげかこいつらが弱いのか。

 ようやく始末を終えると、ユーキは隅っこで丸まっていた。

 「ムシキモイムシキモイムシキモイムシキモイ・・・。」

 いかん、トラウマを植え付けてしまったか、頑張って克服してくれ。陰ながら応援だけしよう。

 ふと周りを見ると、オヤカタ達もアオンたちも、それなりにダメージをおっている。

 ふむ、デカマドウマが弱いんじゃなくて俺の鎧が優秀だったのか。

 小休止して回復。いやぁ、死体が残らないっていいよね。

 ユーキも何とか落ち着いて復帰。

 そう言えば、光の玉出なかったな。

 洞窟の魔物は封印できないのか?

 なんてことを考えながらも、ユーキの復活をまったけど無理そうなので一度拠点に戻った。

 ゆっくり養生しておくれ。

 で、俺とオヤカタ達は再び奥へ。

 ウシオの地図と魔導地図を見比べながら、虫だらけの洞窟内をめぐる。

 オオトカゲどこ行った?

 ゲジゲジにクモにダニに・・・フナムシ?とにかくメートル超えのデカ虫がやたらと湧いてくる。

 予想外にフナムシが強かったけど、後は大きな問題も無・・・くはなかった。

 ポーションかき集めといてよかった。

 貧乏性の俺にとってはかなりの決断だったよ。

 材料の確保が確認できて、調薬のスキルが解放されれば作れるようになるってわかったからの決断だけどね。

 未知の空間を踏破することにロマンを感じる人たちなら楽しめるのかもしれないけど、真っ暗な洞窟の中でひたすらレベルアップって飽きるな。

 素材も宝箱も何にも無いんだもんな。

 初日の締めとして、ウシオ地図で最も広い場所へ。

 なんでも地底湖があるらしい。

 とてもエグくて飲めなかったって言ってたけど。

 まぁ、一応ウシオ地図を魔導地図に写し終わるし、一日の締めにはいいだろう。

 地底湖だと魔物もいないだろうし、ほんとに地図埋めだなぁ。


 すいません、自分がバカでした。

 不覚だ。

 まさか、俺が風景ごときで涙を流すとは。

 すぐ横に浮かぶライトの弱々しい光が、地底湖を照らす。

 濡れた鍾乳石が光を反射してキラキラと光ってる。

 水深は深そうだけど、底まではっきり見える。

 波一つない水面は、光の反射が無ければ水が無いように見えただろう。

 ボートを浮かべて、離れた場所から写真を取ってみたいな。

 きっと、向こうの世界にいた時ネットで見た海外の有名な湖、ボートが空中に浮かんでいるように見える不思議な写真、あれみたいになることだろう。

 奥には、大きさの違う盃のような岩が幾重にも重なっていて、透明な結晶がこびりついているのかキラキラと輝いている。

 ウシオは知らないんだな、この光景を。

 彼のサングラスは、暗闇でも何となく見える程度の性能だと言っていた。

 スクショを・・・やめとこう。たぶん、いや、絶対に伝わらない。


 洞窟にこもって1週間ほど、巡回ルートでは虫系すら湧かなくなってきた。

 いかに魔素の濃い洞窟内、繁殖ではなく魔素から生まれる魔獣とはいえ、倒した時大半の魔素を経験値として俺たちが吸収してしまうので、周囲の魔素は薄くなり続ける。

 時間がたてば外から入り込んでくるだろうけど、このルートでのレベリングは当分難しいだろう。

 ユーキも何とか虫を克服したようだけど、さすがにこの暗い洞窟内での生活は限界が来ているようだ。

 まぁ、魔法で作ったかぼそい明かりしかないからね。

 領都に行くときに発見したスクショ機能の副産物、時刻表示機能のおかげで時間の感覚を確認できるようになったけど、やっぱりちゃんとした光は恋しいだろうし、ここでは陰鬱とした雰囲気が気力を削り続けただろう。

 「本当に残るんですか?もう魔物出てこないのに。」

 何度も聞き直してくるけど、俺のレベルアップは普通の何倍も稼がなきゃならんのよ。

 「とりあえず、ウシオの地図以外にも戦闘に問題なさそうなところがあるみたいだし、もうちょっと頑張ってみるよ。」

 親指を立ててアピールしてみたけど、不安そうなユーキ。

 「せめて、オヤカタたちは一緒の方がよくない?」

 あくまで一人(と一匹)にさせたくないようだ。

 しかし、親方達はレベリングの目標、オークロード、ゴブリンロード、ゴブリンクイーンへの進化を果たしている。これ以上レベルを上げるより、村へ戻って配下を召還、それぞれの役割を全うしてほしい。

 「まぁ、前科があるけどもう無茶はしないよ、アオイのグーパンは嫌だからね。」

 アオイだけじゃなく、あれ以来は女性陣からの反応がなんだか冷たい。

 「いや、シンさん残して帰ったら僕もグーパンの餌食になりかねないんだけど。」

 苦笑いを浮かべたユーキは、いったんでも戻らないか、とかなんとか、一応説得を試みたようだけど「もう少しで第二弾の従魔を呼び出せるようになるしね。」という俺の言葉であきらめたようだ。「絶対連絡忘れないでよ、ぜったいだからね。」と念押ししてオヤカタ達と帰途に就いた。

 魔導地図を開くと、まだ記載されていない通路への入り口を確認する。

 「フブキも通れるところは10本くらいか、近い所からしらみつぶしにしていこうか。」

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