48:領都へ
次回は5/17水曜日16時更新予定です。
まだ真っ暗なうちから出発準備に追われて、明るくなり始めたかなって思ったとたんに出発だよ、いやんなっちゃうよね。
とりあえず、服装は白っぽいもので統一したよ。
この世界の医師がどんないでたちなのか知らないけどさ、一応ね。
貯蔵庫シリーズのことは知られたくないので、大きめのリュックに野営道具を詰め込んで、治療の道具っぽいものも腰のポーチだのなんだのに詰め込んで・・・あぁ、動きづらい。
ミレーユ嬢の乗る馬車への同乗を勧められたけれど、丁重にお断りしました。
勧めるのが社交辞令なら、断るのはマナーなんだってさ。メンドクサイナァ。
基本的に、貴族の女性と家族以外の男性が同じ馬車に乗るのはタブー。特に平民なんてもっての他なんだって。
だけど、今回は貴族側がこちらを招く立場で、他に馬車が無いから立場上同乗を勧めてきたわけね。なのに、ホイホイと乗り込んでしまうとそれは不敬になるから捕まっちゃうと。
罠かよ!
ザケンなゴルァな案件だよもう。
どのみち乗るつもりはなかったけどね。
ちょっと、あのご令嬢と道中一緒なんて気が滅入ってしまうよ。
それに、俺にはフブキがいるしね。
舐められたらいかん、って連れてきたら・・・。
おうおう、騎士どもが警戒しておるわ。
うんうん、気分が良いぞよ。
せいぜい警戒して、遠巻きにしておくれ。その方がこっちも気が楽だ。
なんて思ってたのに。
「まぁ! なんて美しい毛並みなのかしら。それにこれほど大きくたくましい狼なんて。」
と、よりにもよって、ミレーユ嬢がフブキにメロメロになってしまった。
近づいて撫でようとするのを大慌てで止めようとするメイドさんに執事さん。
お疲れ様です。
「ささ、ミレーユ様、今は一刻を争う事態ですぞ。」
そう諭す執事に、ハッと我に返って馬車へと乗り込んだご令嬢。
フブキを良く言われるのは悪い気がしない。
というか、なかなか見る目があるじゃないか。と見直してしまいそうになるが、触らぬ神に祟りなし。
自身の安寧のためにもご令嬢とは極力かかわりたくないものだ。
通常貴族の移動って、最低3台以上の同じ形式、デザインの馬車が連なるもの。一台に貴族が乗り、他に執事やメイド、荷物が別れて乗る。
万が一、トラブルでどれかがついてこれなくなったときでも貴族の世話が滞りなく行えるようにバランスよく分かれるんだそうだ。
順番はその都度バラバラ。敵対勢力や野盗に狙い撃ちされるのを防ぐためとのこと。
で、前後左右を騎士が囲むようにように隊列を組んで護衛するものなんだけれど、今回はとにかく、ミレーユ嬢の独断でいきなり飛び出して来ただけに馬車も一台、騎士も6名と全く足りない状態での来訪だった。
異例づくしの帰路、なんと自分が先導を仰せつかった、というか押し付けられた。
分からなくも無いよ。後ろにフブキがいるってのは精神的につらいんだろう。まだ前のほうがマシだと。
ナンジャクモノドモメ。
一応道案内なんて体裁を取り繕おうとしていたけど、一本道に道案内はイラネェ!
まぁいい、規定通り街道出るまで4日の行程でのんびり行こうではないか。
森を出てからは、サンサテを経由して領都まで4日ほどの行程らしいので、とんぼ返りしたとしても往復で16日。不毛だ。
治療不能とか言ってバックレちゃおうかな。
なんて考えていると、脇腹にチクンと痛みが。
振り返るとそこには、フブキと並んで歩く二足歩行の猫が。
「なんでチミがいるんだい?」
「お目付け役ですぅ。シンさんがぁ、何か悪だくみをしないようにぃ、しっかり見張るのですぅ。」
くっ。先手を打たれたか。
「案の定ぅ、今も悪い顔してましたぁ。」
まさかユーコが着いて来るとは。想定外だ。
さすがに三百Km超の行程を歩かせるわけにもいかないので、自分の前に乗せる。サイズ的には子供位だし、フブキなら大丈夫だろう。
途中魔物との遭遇もあったけれど、フブキのブレスで一蹴。途中で会った警備隊に後処理を頼んで、問題無く街道を出た。
道中の食事は、村で買い込んできたらしい魔素抜きの干し肉と、ナンモドキだった。
おや?ナンモドキはまだ販売してないんじゃ?
「マスターが根負けしたんだってぇ。」
なるほど。ご愁傷さま。
普通は専属のコックがついてくるんだろうけどね。
どんな凄腕料理人でも魔素抜き食材にはかなわんだろうけど、それでも体裁だけはちゃんとした料理に仕立て上げただろうに。
伯爵令嬢が手づかみで干し肉かじってるよ。
味に満足しているからか、それとも無理言って出てきたのだから食事位はとしおらしくしているのか、この状況にも文句は言わない。
村までの行程は、ろくに食事も取らずにかっ飛ばしてきたらしい。
せめて帰路は旨いものをと、執事さんが頑張っちゃったんだね。
休憩中は何かにつけてフブキに近寄ろうとしてくるので執事さんやメイドさんは気が休まらんだろうなぁ。
自分たちだけなら簡易拠点で快適に眠りたかったけど、流石に無理なのでテント設営。
手ぶらでついてきたユーコは、仕方ないので同じテントで。
うん、ぜんぜんドキドキとかしないよ。
だって猫だもの。
代わりにモフりたい衝動はあるけどね。
うん、自重自重。
さすがに道中の滞在地、サンサテではホテルに泊まったよ。それも最上級の。
サスガお嬢様。
勉強になりました。
中の構造とか、調度品とか食器とか、村の宿泊所でも参考にしよう。
う~ん、絵は自信が無い。
カメラが欲しい・・・カメラ?
あるじゃんカメラ!ってか、スクショだよスクショ!
ゲームではF12キーでスクリーンショットを撮影できて、その画像はメーカーの特設サイトで公開できるサービスがあったんだよね。
それを利用したMODで、装飾用アイテムの額に撮影したスクリーンショットを張り付けられる様なものがあった。その名も「スクショDe絵画」。
これを利用すれば、カメラに近いことができるのではないか?
自分に割り当てられた部屋であれやこれやと試してみる。
うん、できるじゃん。
なんでいまさら気が付くかなぁ。
スクショDe絵画のアルバム機能を開く。ここに色々保存されるわけ・・・まずい!
なんでだよ!
いや、ちょっと・・・かなり嬉しいけど。
アルバムの中には、自分のパソコンに保存されていた画像がつまっていた。
ゲーム当時に撮影してあったスクショに、ネットで見つけて拠点づくりの資料用に保存してあった風景や建築物の画像、興味で集めた武器防具の画像などなど。と、決して見られる訳にはいかないゴニョゴニョな画像。
これはフォルダー分けしてパスワードかけて封印ッと。
お、動画もあるじゃん。
好きなアーティストのライブとかを購入して、スマホとかでも見られるように保存してあったものがマルッと入ってる。これはうれしい。
「あぁ、プチメタだぁ。」
突然の声に心臓が飛び出しかけた。
「ご令嬢と同じ部屋だったんじゃないのかね?」
いつの間に入って来たんだ?この猫は。
まさか見られた?
「疲れたぁ。」
見られてなかった!
延々レインとやらの惚気話を聞かされ続けて、ようやく抜け出して来たらしい。お疲れ様です。
「ねぎらってぇ。」
ベッドの上でグデ~っと伸びをする猫。やめて、ベッドが毛だらけになるから。
仕方ない。ノエルさんを虜にした極上スイーツをふるまってやろう。
「ぷぅ~りぃ~ん~~。」
エイルヴァーンで料理スキルMAX、最高級の卵を使った至高のプリンを堪能するがよい。
各種デバフ攻撃耐性大幅アップの恩恵は・・・ここでは意味ないけどな。
「さて、探検、もとい、視察に出るとしよう。」
スクショの使い方もしっかり覚えたし、参考資料を撮影しなければ。
「さっきのプチメタわぁ~?」
見たいのか?
「どういうわけか、ゲームの機能を使ったら向こうでPCに保存してたものが見られたんでね。そのうちの一つだよ。ライブの動画が記録されてたんだ。」
「みぃ~たぁ~いぃ~~~~。」
マテコラ、なんで爪を出す!
「村に帰ったらな、ここで大音量のライブ見るわけにいかんでしょ。」
しかし、ユーコもプチメタファンだったとはな。
「じゃぁ、どこ行くのぉ~。」
あ、コッソリ一人で見に行くとでも思ったのか。
「スクショ、というか、カメラみたいな機能があるのを思い出したんでね。せっかくの高級ホテルだから、内装とか調度品とかを撮影しとこうと思って。」
シンさんがマジメなこと言ってる~。なんて失礼な猫を置き去りにして、ホテル内を散策。たっぷり500枚は撮影したったわ。うん、なんとも無駄な調度品や装飾たちよ。
シンプルイズベストな自分の価値観では理解不能でした。
平らな壁が全くないのよ!
何でここに飾りをつけるかなぁ~とか、このドア開けずれぇ~とか、そんなののてんこ盛り。
どうするんだろうと観察してたら、なるほど、お金持ちは自分で開けないのか。ドアに近づくと、ホテルの従業員か従者がサッと先回りして開けるんだね。
手動な自動ドアってやつか。
深夜遅くまでしっかり堪能させていただきました。
サンサテを出てからも、急ごうとする令嬢に生贄を差し出したり、機材が痛むからとかなんとか誤魔化して規定通りの行程を踏みましたよ。
怠慢気味な騎士どもがどうなろうとも知ったこっちゃあないけど、馬に罪はない。無理はさせないよ。
生贄の猫に随分プリンをせびられたけど、卵と砂糖と牛乳が手に入る算段がついたのだから、プリンくらいならまた作れるし安いものさ。
キャンプ地とハリドという町を通り、ようやく領都カルケイドの町並みが見えてきた。
異世界物のイメージとして、都市をぐるっと高い城壁が囲っている姿を想像していたけど。
見渡す限り畑が広がり、はるか先に平屋の家々が。
そのずっと先に、ようやく石積の外壁が見える。
8日間の小旅行。
とにかく何かにつけて急ごうとする令嬢を誤魔化しながら、馬に無理をさせない俺。
そんな俺に好感でも感じたのか、いかにも軽そうな騎士が話しかけるようになってきていた。
あくまで馬のためを思ってのことだったんだけど、なにか良いように勘違いしてくれたらしい。
その彼、グスマンの話によると、カルケイドの中央には城が。領主一族が暮らしていて高い城壁と堀に囲まれている。
その周辺はカルケール伯爵家に仕える下級貴族や領主に認められたごく一部の市民が館を構え、貴族向けの商館や劇場などが並ぶ上流街があり、その周囲には高い城壁と堀。ここから見えているのはそれね。
で、その外側が市民街。
何といっても、規模が違う。これまで通って来たサンサテやハリドはしっかり外壁に囲まれていたけど、それでもカルケイド上流街の半分ほどの面積しかない。
一地方領でしかないとはいえ、領都ともなると都市全体を外壁で覆うのは現実的ではないそうだ。
しきりに街並みのすばらしさやらをご高説いただいたけど、ぶっちゃけ見るべきものは無い。というか、町の中がなんとなく臭い。
領都とはいえ、いわゆるボットン式のトイレが一般的なので、その臭いが漂ってくるんだよね。
ユーコは町に入る前から顔しかめっぱなし。
街中では騎士、自分の乗るフブキ、馬車、騎士という隊列で、ちょっとした見世物になっている。領主の馬車に騎士ときたらそうだよね。
「なわけないだろ!みんなこのオオカミのせいだろ!」
グスマン君、そこはわかっていてもスルーするのが大人の対応ではないのかね?
やっぱり英雄の村は本当にあったんだ。とか聞こえて来たけど聞こえなぁ~い。
上流街への門は開け放たれていた。
堀にかかる橋を渡ると、門番らしき兵士が慌ただしく奥へとかけていった。
わがまま暴走お嬢の帰還を伝えに走ったかな。お疲れ様です。
上流街に入れば、臭いも少しは良くなるかなぁと思ったけど逆だった。
臭いをごまかすためだか、そこら中に香りの強い花が植えられていて、まるで芳香剤工場にいる気分だ。花の無い冬などは、わざわざお香を焚くらしい。
ユーコは・・・
シュコー、シュコー・・・。
仕方なく渡した火焔窟のマスクを装備している。
それ、そこそこレアな防毒マスクなんですけど。
上流街の町並みはさすがにきれいだったけど、中に入って程なく、十数人の騎士たちがやってくると、自分たちをガードするようにグルッと囲んだ。
「護衛じゃないからな。」
分かってるって、フブキを警戒してるんだろ。
まったく、田舎者だと舐められないようにフブキできたのに、こいつらビビリすぎぃ~。
城までピリピリしながら護送されましたとも。
おお、広い。
城壁の門からお屋敷の入り口まで軽く1Kmはあったぞ。
ずらりと並ぶ騎士と執事とメイド、に、貴族っぽいオジサンたち。
ご令嬢が馬車から降りた途端に、
「この馬鹿者がぁ!」
という怒鳴り声が響いたのだった。




