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47:嵐

次は13日土曜日16時頃更新予定です。

 結局、村会の会議もその後の練習その他もほぼ無駄骨だった。

 誰もが予想だにしていなかった来訪者は、うら若き令嬢だったのだ。

 しかも、挨拶も早々令嬢は、(おそらく知った顔という理由で)ノブロフにすがりついた。

 「お願いです!レインを。私の恩人を助けてください!!」

 「はい?」

 村側出席者による、合唱のような声が響き渡ったのだった。

 

 とりあえず落ち着きましょう、ということで、レストランの個室(3つあるうちの一番大きい部屋)へ案内した。

 ミレーユ嬢は、カルケール伯爵の次女、つまり伯爵令嬢だった。

 レストランへの移動中、お付きのメイドさんにそれとなく聞いたところ、昼夜問わず馬が潰れないギリギリの速度とスケジュールで飛ばしてきたらしい。

 護衛の騎士も一緒に来ていたものの、村が近づくと令嬢を載せた馬車が一気に加速、置き去りにしてきたらしい。

 騎士たちはフル装備での訓練中だった。

 突然村へ向かえと言い出した令嬢に気がついた数名が、取るものもとりあえず護衛として同行してきたのだという。

 流石にフル装備、馬も金属の防具をつけたうえ、フルプレートで武装した騎士を乗せた上、無理な強行軍を越えてきたのだ、6頭立て馬車のダッシュ力には敵わなかったようだ。

 けど、それでいいのか?騎士たちよ。忠誠心と根性が足りんのではないか? 一人くらい装備を捨ててでもついてこようって騎士は居なかったものかね。

 まぁ、次女だし、どうも伯爵に無断で出て来たっぽいしな。この世界の騎士ってたしか、家督を継ぐ見込みのない貴族の3男4男とかがなるんだよな。しかも、伯爵次女の護衛ってことなら親も下位貴族だろうし、心からの忠誠心なんかないか。

 実際、レストランへ向かうためにその場を後にするまで影も形も見えなかったしね。

 サボってんじゃないだろうな?

 

 で、問題の来訪の目的。

 令嬢が救ってくれと懇願したレインという人物は、馬車での移動中魔物に襲われたミレーユ嬢を助けたという青年で、現在城に滞在中らしい。

 城への滞在を許可されたってのは、それなりに伯爵からも気に入られたのだろう。

 じゃあなんで治療が必要なのかというと、自分たちがこの世界に落とされたときに起こっていた魔物の氾濫、あれの後始末がまだ終わってなかったからなんだと。

 砦が一つ壊滅するほどの被害をもたらした氾濫も、俺が知った時にはすでに討伐も終わっていたわけだけど、討ち漏らしていた魔物が時折問題を起こすそうだ。

 令嬢が襲われたのもそのうちの一匹とされているらしい。

 で、新たに問題が発生したので、騎士の小隊と一緒に討伐に参加して、瀕死の重傷を負ってしまったと。

 手を尽くして治療を続けるが一向に回復する気配も無く、日に日に弱っていく様子に令嬢はいてもたってもいられず、村のうわさに藁をもすがる思いで飛び出してきたという。

 なるほど。

 マジ、会議無駄だったじゃん。

 出てないけどさ。

 癒しの時間もそこそこに連れ戻されたってのに。

 「どうしよう、シンさん。」

 ソンチョーが小声で聞いてきたけど・・・なぜ自分に? 医療関係はマナさんに聞いておくれよ。

 って、まぁ、安請け合いして簡単に医療ポッドで治すってわけにはいかんよな。

 貴族に恩を売っておきたいけれど、簡単に重体患者がが治るなんて広まっても困る。

 下手したら、死者を蘇生しろなんて無理難題を吹っ掛けられるかもしれないし。

 どうしたものか。

 とりあえず、ゆっくり考える時間稼げないかな。

 「その方は、この村にお越しいただくことはできないでしょうか。」

 往復する時間くらい稼げないかな、という軽い気持ちで言ってみたけど。

 「無理です。絶対安静の状態で動かすことなどできません。」

 お付きのメイドさんが食い気味に返してきた。

 「なぜいらしてくださらないの!わたくしの恩人など、どうなっても良いとでも?!」

 あぁ~。お嬢がヒートアップしてきちゃったよ。

 「いや、そもそもですね、ここのうわさを聞いていらしたそうですが、どのようなウワサなのでしょう?」

 あ、ソンチョーナイス。

 「こちらには神々の加護を受けた医師がいらっしゃると聞きました。その方の御業で、死も間際のお方が完全に回復されたと。」

 「は?」

 思わず声が出ちゃったよ。

 うん、ちょっと、非常に尾ヒレってるよね。

 「それは、デマです。」

 冷たいようでもハッキリと言ってしまった方がいいだろう。

 想像通りだけれど、令嬢の顔からスゥっと赤みが消え、グラリとくずおれ、その場にへたり込んでしまった。

 「お嬢様!」

 令嬢を支えながらも、こちらをキッと睨みつけるメイドさん。

 そりゃ八つ当たりってもんですぜ。

 「マナ先生でもなんとかならないのでしょうか。」

 パラミドが令嬢を心配そうに見ながら、しかし決して近づこうとはせず気遣う。

 「まず、ハッキリさせておくことがあります。レインさんを治すことは、可能かもしれませんが、不可能かもしれません。それは、彼の状態を見ていない以上、いい加減な発言はできないからです。

 次に、先ほどデマだと断言したのは、神の加護だという話、死の間際でも回復したという話、この2点です。

 詳しい話はこの場ではできませんが、この村に優れた医師はおりますし、神の御業と勘違いしてしまうほどの高い治療技術があります。

 ただし、その力は万能ではありません。

 そして、その力はこの村の中でしか使えません。

 なぜなら、この村の環境でしか使うことのできない特殊な医療機器を使うからです。」

 片膝ついて、令嬢の目を、見るのは不敬らしいので、視線を顎先あたりに合わせてゆっくりと、ハッキリと告げた。

 今の俺のレベルではおそらく、重体患者を魔法で回復、は無理だろうし、ポーション類は表に出すのはまずい。一番ちゃんとした治療っぽく見えて、回復させられる可能性があるのはマナの医療ポッドだ。けど、それが移動可能だと知られるのはやっぱりまずい。

 村で定着している守護神像による特殊な能力云々って話は、やっぱり神の加護だとか言い出されそうで面倒なので、この場では控えて、特殊な医療機器だと説明するにとどめた。

 こちらの意図を察して黙っていてくれたノブロフには感謝だ。さすが上に立つ商人はちがう。

 「では、ここにお連れしなければ、その治療も受けることはできないという事ですのね。」

 冷静さを取り戻した令嬢は椅子に座り直すと、顔を伏せ黙り込んでしまった。

 <シンさん、ひょっとしてなんだけど、ワタリビトってことないかな。>

 スロークが、指定した対象以外誰にも聞こえない”密談”のスキルで話しかけてきた。

 首を小さくかしげることで、「わからない」と伝えたつもりだけどどうだろう。自分はまだ、”密談”のスキルが解放されていないので返信できない。

 確かに、出会い方がラノベのテンプレすぎるとは思うんだよねぇ。

 同じ仲間、ワタリビトなら助けたいとは思うけれど。

 とかいろいろ考えていると、

 「では、応急で治療ができるものを派遣しましょう。様態を見て、回復可能か判断させます。ただ、その段階で手の打ちようがない、という判断となってしまう可能性もあります。治療が可能であれば、道中の延命措置も行わせます。」

 スロークがそう提案すると、令嬢はパッと顔を上げ、涙で目を潤ませながらスロークの手を握った。

 「感謝します・・・あ、申し訳ありません。わたくし、ご挨拶もないままに。」

 あぁ、そういえばそうだったね。

 顔を真っ赤にしながら、改めて挨拶とそれぞれの紹介を済ませた。

 「では、こちらのシンがご同行いたします。」

 にゃにぃ!

 「彼は技術開発関連の専門家ですが、医術においてもマナ医師の助手を務められる逸材ですので、ご安心ください。」

 ちょっと待て、なんでそうなるのさ。

 と念を込めてスロークを見るけど、伝わっている気配はない。無念。

 

 「なんで自分が。」

 後で恨めしく言ったら、

 「え?だって、ワタリビトかもって言ったら、そうかもって首を縦に振ったじゃん。なら、確かめた方がいいだろ?自分は応急処置以外は自己回復専門だし、ポーション以外で他人の治療ができるのはシンさんだけだろ。」だってさ。

 伝わってなかった!

 縦に振ってないよ!傾げたんだよ!気づかれないように小さくだったけどさ。

 くぅ、はやく"密談"を解放せねば。

 結局とんでもない面倒事を押し付けられてしまった。

 まぁ、スロークの言うこともさ。

 確かにそうなんだけどさ。

 なんか釈然としないよね~。

 しかも、「一刻の猶予もないのです。」なんてご令嬢が言い出すんだもの。

 さすがに馬がもたないと、総出でなだめすかして、なんとか一泊をもぎ取ったよ。

 マスターの料理も相まって、上機嫌なご令嬢を村一番の宿泊所に案内すると、嵐のような一日が終わった。

 翌朝は日の出と同時に出発だってさ。トホホだよ。

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