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45:籠る

明日も16時ごろ更新予定です。

よろしくお願いします。

 村に戻ってすぐ、調査結果の報告を済ませると確保してきた植物の植え付けなどをソンチョーたちに丸投げして、自分は簡易拠点に籠ることになった。

 魔素の無い空間。

 それを作るための魔道具開発が急務となったのだ。

 ノエルさんのため、というのもあるが、村でも大変な問題が発生していた。

 牧場や飼育小屋が完成し、まずは数羽の鶏から、とみどり村の機能で10羽の鶏を仕入れると、わずか4日ほどで魔獣化してしまったのだ。

 魔獣化した鶏は卵を産まず、狭い鶏舎内で互いに共食いを始めてしまったという。

 忘れていた。

 この世界にも動物はいるけれど、極端に魔素の少ないが所にしかおらず、魔素の高い場所へ移動すると魔獣化してしまうんだった。

 動物の肉は超の付く高級品なのだ。

 残っていたデモンエイプの魔石に、新しく確保した大きめの魔石を大量に受け取り、拠点に籠ること10日。

 かけらも進展しねぇ。

 思いつく限りいろいろ試してみたけれど、何一つうまくいかず。さすがに行き詰ってしまった。

 こんな時は気分転換。

 カブロの店で魔道具を見てインスピレーションを・・・得られなかった。

 閉店まで粘ったのに。

 さて困った、と店を出ると、ハンターのマルクが走ってきたところだった。

 「間に合わなかったか。」

 ゼェゼェと息を切らせて悔しがる髭のオッサン。

 「買い物ですか?」

 社交辞令で一応聞いてみる。

 「いや、術式杖の魔素か切れたんで、充填を頼もうと思ってな。」

 ほう。そう言えば、術式杖ってちゃんと見たことなかったな。

 「そんな簡単に充填できるもんなんです?」

 「じゃないのか?10日くらい預けると充填されて戻ってくるぞ。安くは無いが、買うよりいいしな。」

 よほど急いできたのか、まだ息が荒い。

 「まいった。明日はかなり早いんだ。4~5日は帰れないから、ロスは痛いな。」

 む。嫌な予感。

 「じゃ、がんばってくだ」

 「前に助けた借しがあったよな。」

 ・・・どうしこう、自分の周りには食い気味にかぶせてくる連中が多いんだ。

 「はぁ・・・まぁ・・・。」

 「頼む!明日中でいいんだ。これの最充填、出してくれ。俺の名前出せば通じるから。」

 だろうと思ったよ。

 でもまぁ、この際だからじっくり術式杖を調べさせてもらおうか。

 「わかりました。お預かりします。」

 まぁ、命の恩人?ではあるしね。こっちにもメリットあるし。

 こうしてマルクの術式杖を預かり簡易拠点へ。

 うへへへへ。

 どんな構造なのかな・・・・な?

 あ~、なるほどね。

 何のことはない。魔石を長方形にカットして、磨いた表面に魔導印を掘り、反対側には別の魔導印が掘られたミスリルの板が付けられていると。ふむふむ。

 で、射出部にあたるところには、ミスリル板から伸びたのアンテナ?っぽいものが突き出ている。

 見ようによっては確かに杖だ。

 で、魔石に掘られた印が、人の魔力を使って魔素を大量の魔力に変換してミスリルの板に押し出す。で、ミスリルの板に刻まれた印は、魔石から流れ込む強い魔力で魔法を発動すると。

 ナルホドナルホド。

 あ、そうか・・・なにも、魔素の無い空間を作らなくても良いのでは?

 うん、術式杖、これいいかもしれない。

 人や動物にしみ込んだ魔素を取り出すってことはできないのか?

 通常だと、生きている限り吸収し続けちゃうんだったよな。

 死んだ後なら、周辺の魔素濃度が低ければ抜けていくけれど、これでは全く意味がない。

 生きていても魔素を吸い出して、放出してくれれば良いのではないか。

 常時身に着けるタイプの魔道具、アクセサリーとか。

 体に触れている部分から体内の魔素を吸収し、逆側から放出、もしくは貯める。これができれば、ひょっとするとノエルさんの問題は解決するかも。

 牛や鶏は・・・まぁ、吸出し量を増やせば何とかなるかも。

 明日店に行って、どうやって魔素を充填するのか確認せねば。

 これは、光明が見えてきたかもしれないぞ。

 

 ダメでした。

 術式杖への充填は、魔素が漏れない頑丈な容器の中に高濃度の魔石か大量の魔石をぶち込んで、魔素が移動するのを待つだけというものでした。

 術式杖の10倍濃度の魔素に10日間。たったそれだけ。フル充填されないこともあるらしいけれど。

 何か、特別な印でもあるのかと期待してしまった。

 仕方ない。自分でなんとかしよう。

 幸い、魔素を魔石に封じる魔導印は既に存在する。

 とてつもなく大きくて実用的ではないってだけの問題だ。

 カブロ商店に発注して、魔導印を取り寄せてもらう。

 通常魔導印は公開されない。

 それこそ魔導師にとって、研究している魔導印は秘匿事項だ。

 そんな中でも、基礎的なものや放棄したものが稀に公開されることがある。

 今回の魔導印もその一つ。高齢の魔導師が長年の研究をついに諦め、小さくできるもんならやってみろ!的な、半ば自棄っぱちで10年ほど前に公開されたものだ。

 もちろん自分が簡単に小型化できるとは思っていない。

 魔導印を描く線の太さは約1mm。彫り込むときは更に太くなる。

 そう、スキルによる超精密作業で、無理矢理小さくしてしまえばいい。

 目指せミクロ作業!だ。

 魔導印が届くまでに、作業用の機材を作る。

 顕微鏡を取り出す。

 ゲームではただのお飾りアイテムだったけど、しっかり実用できている。

 アダマンタイトで、魔導印を彫るための、極細針を作る。

 まずは普通の針を作って、それを慎重に削っていく。

 細く、ほそあ!

 折れた。

 クソ難しい。

 丸一日かけてようやく一本。

 これはいかん。

 翌日はオリハルコンで挑戦。

 丸一日かけてできたのは3本。ちょっとは良いか。

 更に翌日からは、実際に彫り込む練習を始める。

 マルクの術式杖に彫られていた、魔素を魔力に変換する印をクズ魔石に彫り込んでみる。

 直径5cmの印を1/10サイズ、直径5mmにする。

 慎重に。

 あっ!

 模様と模様の間が欠けた。

 あっ!

 直線が曲がった。

 あっ!

 あっ!

 結局、稼働する印が彫れるまで4日かかってしまった。

 本番はさらに小さく、1/20にしないといかんのに。

 この後、さらなる沼にハマってゆく。1/20の世界は異次元だった。

 と、玄関のドアがけたたましい音を立てて叩かれた。

 何んぞ?

 騒がしいのう。

 こわばる節々を伸ばしながら出ると、真っ青な顔をしたユーシンがいた。

 「シンさん! よかった。」

 はえ?

 ポカンとしていると、何故かアオイの声がした。

 「だから言ったでしょ。心配するだけ無駄だって。」

 あ、ユーシンの後ろにいたのか。

 「6日も何してたんスか! 食事にも来ないって、マスターが。皆も心配してたんスよ。」

 「私してない。」

 はいはい、アオイさんは通常営業ね。

 「あ~、ごめん。集中しすぎちゃってたよ。全然うまく行かなくてね。」

 それにしても、6日もたっちゃってたかぁ。

 一応貯蔵庫からパンをたまに食べてた気がするんだけどなぁ。

 「そんな状態でうまくいくはずないでしょうが! メシ! 行くッスよ!」

 強制的にレストランに連行されてしまった。

 レストランに入ると、なんとも懐かしい香り。

 「まさかトリカラ!」

 そうだ! 油の取れる種を木ごと持ってきてたんだった。

 「シンさんにはこれです。」

 ?

 「トリカラ・・・。」

 「消化にいいセパ粥ですよ。」

 NOoooooo!!

  

 ついに魔導印が届いた。

 未だに成功していないけど、これからはこの印で完成を目指す。

 とはいえ、クズ魔石では練習にすらならない。

 魔道印は直径1mもあるのだ。

 1/20にしても5cm。

 肌身離さず身につけるにはこれが限界だろう。

 つまり、本番である。

 サイズ的に効果のある空の魔石は3つ。

 なに、一筆入魂を延々続ければいいだけさ。

 ・・・

 ・・

 ・ 

 魔石、ラス一です。

 用意した針も使いつくして追加で作成。現在10本目です。

 ちなみにあの後2回ほどレストランに強制連行されました。集中すると忘れるよね~。食事と睡眠って。

 毎回セパ粥。いまだトリカラは食せていませぬ。

 

 完全に行き詰ってしまった。

 残り1個の魔石を無駄にはできない。

 とはいえ、成功する気配すらない。

 いいかげん、この方法は諦めるか。

 

 「「それは残念ですね。」」

 

 不快な声が聞こえる。

 無視だ。

 久しぶりに掃除しよう。練習したクズ魔石からなにからが一面に散乱していて、さすがに足の踏み場も無くなってきた。

 (ほうきとちり取りどこやったかな。)

 

 「「あ~、そのね。無視はいけないと思うんですよ。とても傷ついてしまいます。」」

 

 (あ、あった。)

 ほうきとちり取りを手に、床のクズ魔石を掃く。

 

 「「ふぅ・・・契約しましょう。ヒントを差し上げます。対価は完成品を一つ。」」

 

 (完成品?・・・なるほど、ガイゼルヘルグも限界が来たか。対価として完成品を指定してきたってことは、この魔道具で魔物化を防ぐって考え方は正解ってことだな。後は製法か。ヒント程度で解決するなら対価はもったいなさすぎる。)

 ちり取りいっぱいになったクズ魔石をゴミ箱に放り込む。思った以上に多いな。

  

 「「あぁ~もう!なにをお支払いすればいいんで?」」

 

 「こちらの質問に可能な限り迅速に、嘘偽りなく正確に答えろ。期限は対価が完成するまで。」

 クソ悪魔を見もせずに告げた。

 

 「「・・・承知しました。契約成立でございます。」」

 

 そう言うと、悪魔の前に紙のようなものが浮かび上がる。と、黒い靄が噴き出した。

 黒い靄が紙を覆いつくすと、次の瞬間には紙毎霧散した。

 「こっちで死んだら向こうも死ぬ。じゃぁ、向こうで死んだらこっちはどうなる?」

 いい機会だし、さっそく質問攻めにしてやろう。


 「「・・・え?・・・なんでそれなんです?製法のヒントとかじゃぁ無いんで?」」

 

 さすがにあっけにとられたようだが、そんなことは知ったことでは無い。先に気になってることは全部聞いちゃろ。

 「どうせこっちがある程度把握してるってことは知ってるんだろ? だったら胡麻化さずにちゃっちゃと答えろよ。気になるだろ。

 こっちで死んだら向こうでも死ぬ。なら、向こうで死んだ場合、こっちも死ぬはずだろ? でも、そうなると不老の意味が無いじゃぁないか。だから、向こうで死んだ場合は何かしらの対策がされてると思うわけだけど、そこんとこどうなの?」

 

 「「はぁ・・・そのとおりです。向こうでお亡くなりになった場合でも、こちらの皆様に影響はございません。その差は、こちらには魔素があり、向こうには無い。ということでございます。」」

 

 「魔素が魂の不足分を補うってことなのか?」


 「「ザックリと申しますと、その通りです。現状は向こうの世界での生存を確保するためにこちらの魂と向こうの魂がつながった状態にあります。そのため、こちらでお亡くなりになれば向こうでも、という状態なのですが、向こうでお亡くなりになられた場合は魂をこちらに引き込んだうえで、移動によるロスは魔素で補います。もちろん、引き込むのには魔素が必要ですので、逆はできないのです。」」


 なるほど、若干魔素だよりで言いくるめられた感もあるけど納得はできた。

 そう言えば自分たちの体も魔素でできているんだったっけ。

 「あ~、それだと、自分たちは今作ってるものを持ってない方がいいのかな。」

 体内の魔素を吸収してしまう魔道具を身に着けていたら、体が魔素でできている自分たちに悪影響が出るかもしれないな。

 

 「「かまいませんよ。魔物化しないので皆様にそれは必要は無いですが。

 最初、実体を形成するために魔素を利用しましたが、その後この世界の食物を取られたことで肉体も完全に定着しております。ですので、たとえ魔素が完全に無くなってしまったとしても、ゲーム依存の能力が使えなくなるだけです。あ、あと、不老でもなくなりますね。」」

 

 「そういえば、魂を殺した相手の中に保管してるって話だけど、なんで拡散させたくないんだ?それも魔素が関係してるのか?」

 

 「「ええ、私としては拡散しちゃっても問題無かったんですが、魂に含まれる魔素は膨大ですので、放置した場合は王との契約に反してしまうのですよ。まぁ、この世界の生物や山、事故などで無くなった場合は保管場所が無いので拡散してしまいますが。

 苦し紛れの対処ではありますが、蘇生という副産物ができたので結果としては良かったと思っております。」」

 

 (自分が生き帰れたのって、苦し紛れの副産物だったんだ・・・。)

 なんか、ちょっとショック。

 「で、ガイゼルヘルグは今やばいってことでいいの?」

 一応想像はできてるけど、確認はしておこう。

 

 「「そうですね。すでに意識も混濁し始めております。」」

 

 「もっと早く言えよ。アホ王が狂っちゃったら反省させられないじゃないか。」

 自分の想像よりヤバい状態のようだ。いつ魔物化してもおかしくないレベルかよ。

 反省というか、今までの犠牲者の分存分に苦しんでもらわなきゃ割に合わない。

 それがこのクソ悪魔を喜ばせることになるとしてもだ・・・う~ん、それもなんか嫌だな。

 

 「「そう言っていただけると思っておりましたが。やはりあなたにしてよかった。」」

 

 なんかうれしそうなのが分かってしまってトリハダ!

 

 「「そんな奴どうなろうと知らねぇ!なんて言われてしまうのではないかと不安で不安で。」」

 

 「なんで自分で作らないんだ?」

 

 「「我々は、魔石に触れると完全に吸収してしまうのです。」」

 

 そう言って、クソ悪魔は床のクズ魔石を拾う。と、見る間に魔石の色が薄く、透明になったと思うと、そのまま無くなってしまった。

 

 「なるほどね。じゃあ次の質問だけど、ソンチョーの仕入れとか、ガチャとかウィキネットとか、金が必要っての嘘だよね。」

 

 「「・・・ここでその質問です? 本当に? 」」

 

 ムフフ、してやったりだ。あの流れなら早々にヒントを聞いてくると思っただろう。

 「魔素を消費するのがアホ王との契約なら、全部魔素で片付ければ良いはずだろ?向こうから現物を召喚ってわけではなさそうだから、魔素で実体化してるんだろうし。

  使ってほしいなんて言っておいて使わせたくない理由は想像がつくけど、ぶっちゃけそこまで影響が出るほどなのか?」

 正直、金を消費し続けるのはこの先大きな問題になる可能性があるんだよ。貨幣なんて有限なんだし、サンザ王国の貨幣を食わせまくったら、経済に大きな打撃を与えることになるかもしれない。

 

 「「はぁ・・・全く面倒な方ですねぇ。

 ウィキネットに関しては、あなたのおっしゃる通りですよ。

 こちらでお亡くなりになった方が、連動するように向こうでも無くなられた記事などを見せたくないからでした。ウィキネットでも、自由に検索出来てしまえばそれほど時間を置かずにたどり着くだろうと思いましたので大きな制限をかけさせていただきました。

 すべて禁止にしてしまえば楽だったんですがね。その場合あなたはもっと面倒を起こす可能性もありましたから。」」

 

 「じゃぁ、ネット解禁でいいんじゃね? どうせみんなにばらすし。」

 

 「「ウイキネットだけ解禁にします。動画を流され続けられでもしたら困りますので。」」

 

 「だから、その程度でそんなに影響出るのか?」


 「「でません。」」


 この野郎・・・言い切りやがった。


 「「今は、という意味ですが。

 みどり村が発展した後や、その話題が広まって他の方も、ということになると問題になるのです。

 私の見込みでは、問題無いレベルまで魔素が薄れるのにおよそ500年と見込んでおりましたが、すでに想定外の問題も多く現状のままで行きますと480年ほどです。

 おわかりですか?まだ1年もたってないのに、20年も縮んじゃったんですよ!

 この上さらにあれやこれやを解禁してしまったら、最悪100年程度で終わっちゃうじゃあ無いですか!」」

 

 「ないですか!ぢゃねぇだろ。」

 想像の斜め上をいくほど下らない理由だった。

 「融通しろ。」

 

 「「はい?」」

 

 「要するに、お前の望みは魔素を減らしつつ、できる限り引き延ばしたいんだろ?でも、契約があるから大っぴらに引き延ばそうとはできない。そうだな?」

 クソ悪魔は答えない。

 嘘はつかない契約だからな。かといって肯定するとアホ王との契約に違反するんだろう。

 「魔素をこの世界に引き込んだのはお前だろ?だったら、さらに引き込むことはできるのか?で、引き込んだらそっちの世界で異変があるのか?」

 

 「「引き込むことは可能です。えぇ、可能ですね。ただ、契約上新たに引き込むとなると、魔素を無くすという契約に違反してしまうので難しいですね。さらなる異変を引き起こすことにもなるのでやるべきではありませんね。まぁ、引き込んだとしてもあちらの世界への影響は、すでに何もありませんので問題なしです。物質もエネルギーも、あらゆる存在が魔素に分解されてしまった後。いわゆる、終焉後の世界ですので。」」

 

 「じゃぁ、ソンチョーの能力で購入する製品とかを、そっちの世界からの魔素で作ることはできるのか?」

 これなら、この世界の魔素を増やすことなく、減らすことも無い。

 

 「「・・・あなた、ずいぶんと酷いことを考えつきますね。」」

 

 「お前に言われたくないぞ。で、できるのか?」

 聞くまでも無いけどね。できないならあんな言い方してこない。

 

 「「そのとおりでございます。」」

 

 「なら契約だ。対価は今回渡す完成品と同じ物。カイゼルヘルグが魔物化しそうになったら、無償で用意する。期間はこの世界から魔素が消滅するまで。

 こちらが求めるのは、

 一、ガチャを無くして種や調味料を普通に仕入れられるようにしろ。種類も増やしてくれ。麹菌とかイースト菌とかの菌類も欲しいし、他にもほしいものはいろいろあるから内容は応相談で。実体化させるための魔素の出どころは問わない。

 二、みどり村で消費する通貨ベルを実体のある貨幣にするから、みどり村の仕入れは全てそれを使えるようにしてくれ。もちろん、村の中だけで通用する通貨として両替商を作ってちゃんと機能させる。」

 これならこの世界の貨幣を消してしまうことが無い。

 金銭が嗜好品って話が嘘じゃなければだけれど、将来的に価値が高まる可能性の高い、新しい通貨だ。価値が高くなればそれだけ欲望の対象になるはずだ。

 数秒の沈黙の後、悪魔は条件を受け入れた。

 まぁ、奴にとって悪い条件じゃないはずだからね。

 「で、どうやったらいい?ヒントくれ。」

 

 「「ようやくですね。はい、いくつか行程が必要なのですが、まずこちらの印を・・・

 

 こうして三日後、ついに完成した魔道具。

 魔石に刻まれた印が魔素を吸収して魔石にため込むもの。

 印を体に密着させることで、体内の魔素を吸収する。

 極微弱の魔力で起動するように、と、印が何かに密着していないと魔素を吸収しないように、魔導印そのものを改良することで誤作動防止にも成功した。

 大気中の魔素を吸収する方が効率良いので誤作動防止機能をつける前は、魔道具がより吸収しやすい方に動こうとして、体から勝手に離れて(浮いて)しまうという問題が起こったのだ。

 魔素の吸収量は、人が生存できるギリギリの魔素濃度の中で吸収してしまう最大量より若干多い程度まで高めることができたので、どんな場所で生活していても、生きていける限りは魔素をため込んでしまうことは無いだろう。

 しかも、一般的な人の生活圏ならば、すでにため込んだ分も少しずつ減らしていける。

 それは、ひときわ魔素の薄い中で暮らしているアホ王なら特に効果的だろう。

 ちなみに悪魔からのヒントは、魔導印に関する研究資料と、魔石の加工方法の提供だった。

 資料のおかげで魔導印の改良もできた。

 魔石は粉末状にして、高温で加熱することで成形できることが分かった。ただ、粉末にする際に発火、破裂する危険があるため、空に近い状態の魔石しか使えない。

 魔道具で使い切ったクズ魔石はすべて回収しないとな。

 魔石の加工技術を得たことで、熱に強く加工しやすいミスリルで反転させた魔導印を浮き上がらせた金型を作り、粉末状の魔石を入れて過熱。こうすることで量産が可能になった。

 ということで、完成品一つを渡して契約も完了。

 とっととお引き取り願った。


 魔物化するほど長生きしない人にはあまり必要性は無さそうだけど、首輪か何かに加工すれば牛や羊に使えるだろう。

 魔道具は鶏には大きすぎるので、鶏舎そのものを魔素の無い空間にすることにした。

 魔導印の一種で、印同士を連結させて巨大な印に仕立てていく鎖印(サイン)という技法がある。これを使って、鶏舎の外壁中に模様のように印を連鎖させていく。

 これで、魔素を通さない壁ができるのだ。

 窓には魔素を吸収する魔道具を設置して、開けたときに魔素が入り込むのを防ぐ。

 出入口には、外へ2mくらいの通路を増設、両端には魔道具付きのドアを2セット設置して、出入りの時の魔素流入もガッチリガード。

 ここら辺の作業は手順だけ説明して丸投げ。

 俺は魔道具作成だ。

 魔素吸収の魔道具を大量設置して中の残った魔素を抜き取ればOK。

 同様の方法で食料の魔素抜き場も整備できるし、効率化もはたせるだろう。

 牛や羊用の魔道具を作り、ようやくこれで長いひきこも路から解放・・・はされない。

 ノエルさん用の特別版を作るのだ!

挿絵(By みてみん)

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