0:罰の始まり
次回は4/30(日)16:00更新予定です。
GW期間5/7までは、連日16:00更新します。
よろしくお願いいたします。
豪華、という言葉では表せないほど贅を尽くされた広間。
中央の床には、10mを超える大きな黒い円が描かれている。
真っ黒、というより、まだらに色の薄いところもあるそれは、肉眼では判別できないほど微細な模様の集合体だ。
円の周りには、黒いローブで全身を包んだ10の人影と、豪華な白いローブ姿の男が。
白ローブの男が、手に持った錫杖を掲げると、10の黒ローブから、うなり声のような音が漏れだした。
ただの唸り声、というよりは微かに抑揚やリズムを感じる。
白ローブが錫杖を目の前の床に打ち付けると、右隣の黒ローブが小刻みに震えだし、膝をつくように崩折れた。
一瞬、床の黒い円が光ったように思えた。
2度、3度と錫杖が打ち付けられるたびに、黒ローブが倒れ、その瞬間だけ、円が光る。
5度目を超えた時、初めて白ローブが苛立ったような反応をした。
6度、7度と続くが、円の反応は変わらず、代わりに白ローブの苛立ちは強くなった。
とうとう十度、黒ローブは皆倒れ、広い空間に立つのは白ローブの男ただ一人。
「我が盟友、最古の十師の魂をも拒むか! !」
白ローブの男が叫ぶと、続けて不快な雑音のような音を叫んだ。
「応えよ! !!」
錫杖を頭上に掲げて、先程の雑音を叫ぶ。
雑音にしか聞こえないそれは、どうやら相手の名前らしい。
「「なぜ私を?」」
音ではなく、頭の中に直接伝えられた返事は、酷く冷たかった。
「貴様以外に誰がおるというのだ!」
激高する白ローブの男。錫杖の先を円の中心に向け、血走る相貌で錫杖が指す場所を睨みつける。
「貴様が取り込んだのだ。貴様以外に消せるものはおるまい。」
「「無理ですね。」」
頭に響く声はにべもない。
「「だいたい、不老を望んだのはあなたでしょう。その後も変化を無視し続けてきたのも、逃げ出したのもあなた。」」
いつの間に現れたのか、魔法陣の中心には白い影が。
「「すでに浸透しきった魔素を奇麗に無くすなど不可能ですよ。」」
「我が民100万の魂では足りぬと申すか!」
激昂する男は、錫杖を白い影に突き付けながら喚く。
「かつて与えた贄のような愚民どもとは違う!古より国に仕え、わが血脈でもある臣民の魂ぞ!」
整っていたであろう顔が狂気に歪み、血走った眼が、白い影を射抜くように見据えるが、白い影は意にも返さない。
「「100万?」」
白い影がおどけるように両手を広げる。
「「ザンネンながら、あなたの民は10万程度ですよ。」」
「じゅうまん、だと?」
錫杖を取り落とし、膝をつく男。
「「すでに元あなたの民90万は魔物に食されたか、魔物と変り果てました。残る方々も数日のうちには・・・聞こえるでしょう?残されたあなたの民の声が。」」
聞こえるはずがない。
この広間には、大規模術式のため外部からの干渉を完全に遮断してある。
にもかかわらず、男の耳には、阿鼻叫喚が絶えず聞こえていた。
人々の恐怖と怒りの怨嗟は、数か月前から聞こえ続けていた。
それらから逃げるためにこの広場に入ったのに防ぐことはできず、さすがの王もついに悪魔召還を行ったのだ。
震える手で頭をかきむしる。
頭皮が裂け、血が流れ出るもの構わずにかきむしる。
「なんでもいい・・・何とかしてくれ。」
ふり絞ったのは、隣にいても聞き取れないような声。
「「しかたありません。10万の魂で、できる限りのご提案をさせていただきましょう。」」
ベラベラとしゃべる白い影の言葉は、何一つ頭に入ってこなかった。
王は理解できぬまま契約を交わした。
その瞬間、彼を悩ませ続けて来た阿鼻叫喚がピタリと収まった。
男はその場に倒れると、数か月ぶりの睡眠に沈んだ。
「「おやすみなさいませ王よ。こちらの準備が整いましたら再びお目にかかりましょう。長い年月をかけて、ゆっくりと苦しんでいただけることでしょう。」」
タイトルにあるように0話、召喚される前のお話です。




