38:え?
次回は4/29土曜日、16時ごろ更新予定です。
よろしくお願いします。
数日かけて無事森を抜けると、フブキを貯蔵庫へ。
さすがに上位のウルフ系モンスターを連れては人里に出られないもんねぇ。
二人乗りができそうな騎乗アイテムって言うと、トライコーン(三本角の軍馬)だけど、男二人で馬に乗るってどうよ?
いや、見た目的には親子で通るか?
通るかもしれないけどなんかやだ。
まぁ、ここまで来たんだ。のんびり歩こうか。
ってことで、森の中と変わらず徒歩の旅。
違うのは、ほぼ魔物と遭遇しないってところ。
平和っていいなぁ。
森から街道まではそんなに距離は無いはずなんだよね、ひょっとするとキャンプ地が近いかも。
あ、テント!死んだときに無くなってたんだ!
キャンプ地で簡易拠点は出せないよなぁ、寒空に毛皮だけで野宿かぁ、雨降ったらアウトだな。
どこか村にでもついたら、素材を売ってテントと馬車か何かを手に入れよう。
魔導地図を見ながらのんびり北へ、ウシオとの二人旅。
すっかり打ち解けて、気兼ねも無くなり快適。
森を抜ける間、魔物との戦闘を何度も経験したことで頼もしくもなった。
戦闘能力は無いけどね。
スパイという設定のおかげ(現実のスパイは拳銃なんて使わないけど)か、拳銃もそこそこ使いこなしてサポートしてくれる。
二人とも実年齢は大人だし、ウシオがレトロゲーマニアということもあって、リアルタイムに近い形でレトロゲーを嗜んでいた自分とは会話も合った。
本業というだけあって畜産の知識も豊富だし、若い頃は興味本位で養鶏場に勤めていたこともあったらしいのでとても勉強になる。
森の中と違って、魔物への警戒を数段下げられるので会話も弾み、あっという間に時間が過ぎてゆく。
夕方には、左右に延びる道に出ることができた。
感では右手がサンサテ方向のはずだ。
なに、俺の感は危険だと?
方向音痴?
違う、全て必然だったのだ。
だいたい、今では強運アイテム”異世界のお守り”を肌身離さず身に着けているのだ。
もう不運なんて起こるはずもないのさ?
無いよね?
いやいや、元々不運なんかじゃなかったんだよ、うん、グレートベアに遭遇したことも、洞窟にたどり着いた上、事故っぽく中に入っちゃったことも、全てノエルさん家で癒される、いやいや、腑にに落ちない点の多かった謎を解明するための布石だったのさ。
そうに違いない。
そうなんだったらそうなんだい!
その上今は異世界のお守りまで装備して確変フィーバー中なんだから、感を信じていいのさ。ドンとこいだよ。
暗くなり始めたころ、とうとうトライコーンを出して乗っていくことにした。
もう街道をゆく人もいないだろうし、疲れた、恥ずかしがる必要も無いし、疲れたし。
疲れたし。
おまけに暇だし。
平和すぎるのに耐えられない体になってしまったようだ。
騎乗馬系最上位のトライコーンだけあって、二人乗せての長距離でも楽に走る走る。あっという間に町が見えてきた。
町に入る少し手前で降りて、手綱を引きながら入る。
馬車を買うなら馬はしまわずに出しておいた方が良いだろう。
三本角は・・・おしゃれだと言い張ろう。
見たことがある街並み、やっぱりサンサテだ。
もうすっかり日が落ちているけど、今は一文無しだ、食事代と宿代くらいは換金しないとな。
真っすぐに魔石の買い取り店へ向かう。
高額品も取り扱う都合で、魔石の買取店は深夜まで営業している。
高額の魔石を持ち込む人ほど、人目の多い時間帯を避けるからだそうだ。
店へ入ると、マッチョな警備員さんに武器を預けて木札を受け取る。
そのまま奥の買い取り部屋へ。
数はそこそこあるけど、大物はないのですんなり終了。グレートベアは使っちゃったしね。
さて、ひとまず現金が手に入ったから落ち着こうか。
「知ってる酒場があるから、そこで軽く食事してから宿を探そうか。」
ウシオにそう言って、ベリッサの酒場へ向かう。
「あれ?」
酒場の扉は塞がれ、売り店舗の立て札が。
「ウソだろ。」
みどり村に支店を出すんだと張り切っていたのに。
何があったんだろう。
仕方がないので近場の宿を取ることにした。
そう言えば、ちゃんとした宿に泊まるのって初めてだな。
旅人用の安宿に入ると、カウンターにいる不愛想な店員に代金を支払って部屋の鍵を受け取る。
個室一泊素泊まり5000セイルを2部屋。
なんか、微妙に高いな。
いや、かなり高いな。
個室って言ってもかなり狭い。小さめのベッドが置かれていて、それ以外にはベッドと同じ程度のスペースしかない。当然風呂もシャワーも無い。
別料金で頼めば桶にお湯をくれるそうだけど、1桶1000セイルと強気なお値段。
食事も食堂も無し。
この世界の一般的な宿屋は、基本的にこういうスタイル。
食事は近隣の食堂や酒場へ行けってことらしい。合理的だよね、保存技術の無い世界での食材って、かなり無駄が出ちゃうし。
食事・・・さすがに見知らぬ店に入る気もしなかったので、部屋で貯蔵庫からサンドイッチを取り出して二人で食べた。
しかしなぁ・・・。
なんか、ショックだな。
あんなにやる気になってたのに。
旦那さんの腰、想像以上に悪かったのかな。
どうしても気になったし、夜も更けてから一人、情報収集がてら適当に賑わっている酒場に入った。
開いている席に座ると、ミードを頼んで一口。
う~ん、甘くてエグい。
この世界でデフォルトのミードだ。
アルコールで下をバカにすれば何とか・・・その前にギブだな。
周囲を見回すと、痩せた男二人が、不味そうに干し肉を齧っている。
そういえば、この世界って、おデブちゃんどころか、ふくよか、ぽっちゃり、とか、そう言った人いないんだよなぁ。
食事情がこんなだから、必要最低限しか食わないんだろうなぁ。
「まったくよう、なんだって閉めちまったんだ?ベリッサのところはよぅ。」
小声で話す言葉に気になっていた人物の名前が混じっていたので、こっそり聞き耳を立てる。
「なんだ、知らねぇのか?なんでも、森の奥に引っ越したらしいぞ。」
「あの、英雄の村か?良く許可が降りたなぁ。隣のババァはダメだったって、ブンむくれてたぞ。」
「コネでもあったんだろうよ。あそこで出してた干し肉とか、英雄の村の物だったらしいからな。」
なるほど、支店を出すんじゃなく移転したのか。
ちょっと、いやかなり安心した。
旦那さんの腰がダメだったとか、あの肉のせいでトラブルにでも巻き込まれたのかとか、いろいろ心配しちゃったよ。
それにしても、英雄の村って・・・みどり村のこと?
どうしても気になったので、話しかけてみた。
「森の中の村って、いまじゃあ英雄の村なんて呼ばれてるのかい?」
「なんだぁ?知らねぇのかよ。どこの田舎もんだぁ?」
めんどくさそうに睨まれちゃった。
う~ん、仕方ない。エイルヴァーン産だけどいいか。
「まぁまぁ、この街に来たのは半年ぶりくらいなんだよ。前はそこまで騒がれてなかったろ?」
そう言って、こっそりと干し肉を数切れ渡す。
「おま、これって!まさか!」
魔素に汚染されていない干し肉だ。味付けも本格的だし、以前卸していたものよりも美味いはずだ。
「仕方ねぇなぁ。久しぶりに来たんじゃぁ知らねぇはずだ。」
そういって、男たちはなぜ、みどり村が英雄の村と呼ばれるようになったのかを語りだした。
・・・
・・
・
なるほどぉ。
まず、大きな被害を出した氾濫の元凶ともいわれるデモンエイプの討伐、これは知ってる。
デモンエイプの群れとの攻防に完全勝利。え?これってどこから話が漏れたの?
次に、何十年もの間、興行団に扮して各地を荒らしていた犯罪集団。悪事の限りを尽くしてきた団体の罪を暴いて解体へ。なにそれ?いつの間にか正義の味方?
さらに、つい最近は、コリント伯爵領で起こったごく小規模の氾濫。通常ではありえないほど規模が小さかったのは、英雄の村が裏で解決したからに違いないと・・・ん?違いない?
「あぁ、全部噂だよ。でも、事実だろ。興行犯罪団の解体の時は、あの村の幹部連中がここに集結してたしよ。」
なぜか誇らしげに語る男。
なにそれ?自分が死んだり生き帰ったり穴に落ちたりしてる間に何があったの?
あ、最後のコリント領のって、ひょっとして、土砂降りで遭遇したグレートベアのせいだったり?
時期的にも位置的にもそれっぽい。
あの時はかなり奥深くに迷い込んだと思ってたけど、後で魔導地図見て確認したら、意外とコリント領に近い場所だった。
土砂降りだったし、自分が始末しちゃったから大きな影響が出る前に解決しちゃってたのか。
とはいえそれは村とは関係ないとも言えないし。
う~ん。
ま、いいか。
「スゴイスネ~。イッテミタイナァ~。」
「そうだろそうだろ!移住するには厳しい試験があるらしくてなぁ。俺も文字くらいは読めるように勉強しておくんだったぜ。」
「だよなぁ。さすがに今からじゃぁなぁ。」
はぁ~っと大きなため息を吐く二人。
文字読めることなんて条件付けたっけ?
ま、いいか。
この後も雑談増し増しだったけど、周辺事情とか色々聞けた。
ここからはかなり離れているけど、隣国のファーランでは、革命が起こって、英雄王と呼ばれる若い王が即位したらしい。
後継問題で揺れていたらしいけど、毒殺された王女を蘇らせ、全軍の8割にも登る正規軍を打ち破った平民の青年が、王女と結婚して即位したそうだ。
部下も超人揃いらしくて、槍の一振りで数十人の重騎士を薙ぎ払ったとか、巨大な術式杖を無尽蔵に使う少女だとかが、10人ほどいるらしい。バカバカしい作り話だと笑っていたけど、たぶん事実なんだろうなぁ。
槍使いは無双系のゲームかな、術式杖ってのは重火器っぽいしFPS系か。
別の大陸では、空に浮かぶ城が現れたとか、魔物の軍団が侵攻を開始したとか、世界中で様々な異変が起こっている。というウワサ話が後を絶たない。
うん、めんどうだから忘れよう。
ベリッサは村へお引越し。と。
これだけでいいや。
面倒事につながりそうな情報はスルーして、宿に帰った。
とっとと寝るぞ~。




