33:移住
4/12水曜日16時ごろ更新予定です。
よろしくお願いします。
シンの遺体が消えて数日、理解できない事態にどう対処すればいいかもわからず、ただやみくもに周囲を捜索してみたり、悪魔を呼び出そうと、かつてのシンを真似て両替機を蹴ってみたりもしたが、どれも不発に終わった。
シンの遺体が光の中に消えた時、その場にアオイがいなかったことが幸いだった。
不測の事態を想定して、あの日遺体を移す予定だったことはソンチョー、スローク、ミサの三人だけしか知らない。
ミサには申し訳ないが、シンの安否がはっきりするまでは気持ちの整理がまだつかないことにして時間を稼がせてもらうしかない。
「すまない。まさかこんなことになるなんて。ミサさんにはきつい役割をさせてしまうけど。」
何が起こったのか、今どういう状態なのかが全く分からない。
「いえ、その、私が何かやらかしちゃったわけではない・・・ですよね?」
おどおどと答えるミサは、あの後も自分のせいではと泣き出して大変だった。
「それは100%無いです。そもそも、遺体が消えること自体あり得ないんです。」
今はまだいい。しかし、彼女の気持ちだけでシン復活の試みが遠のいていると言っているようなものなので、周囲からの風当たりが強くなってしまいかねない。
信頼できる仲間には事情を説明しておいた方がいいだろうが、早急に何らかの対策を考え出さなければならない。
そんな思いも空しく、原因すら特定できぬまま移住者たちが森の入り口、整備した街道に到着する日となってしまった。
案内と護衛のため、早朝からスロークはユーシン、ユーキの軽トラやバイクで村を出発しなければならなかった。
道中が100%安全ではない以上、気持ちを切り替えなければならない。移住者から犠牲者を出すわけにはいかないのだ。
整備された街道なら、昼前には余裕で着けるだろう。
オークやゴブリンの兵士、狩人は先発して120Km地点の広場で待機している。
一応デモンエイプの毛皮で簡易的に魔物除けを行っているが、完全ではない以上しっかり護衛をしないといけない。
護衛にゴブリンやオークを使うのは、魔者と共存することになるのだから慣れてもらいたいからだ。
一応移住者全員に、魔物との共存について意思を確認しているけど、その真偽はわからない。
移住したいために無理をしていたり、平気なつもりだったけど暮らしてみたらやっぱり無理ってこともあるだろう。
だから、まずは護衛という立場、一線ある状況で移住者たちに魔者と接してもらって、少しでも慣れてもらえたら、という思惑だ。
合流場所である街道のカルケール伯爵領側出口まで爆走する一行。
複数で街道を走るときの常としておこなっているガチレース。ユーシンの軽トラとスローク、ユーキのバイクと、3台でのレースだ。
助手席と荷台に乗るアオイたちのハンデがありながらも、ユーシンが優勝した。
直線とはいえ、まだ刺すような寒さの中、150Kmの長丁場はバイクにとっては辛かったようだ。
荷台に乗ったライアーとマナは完全にグロッキー状態。二度と乗らないと憤慨していた。
ユーキがさっそくアオン、クマ、ゴンを召喚する。
アオンがどこか不満そうなのは、ユーキを乗せるという座をバイクに奪われたからだろう。
短距離なら圧倒的にアオンの方が早いが、さすがに150Kmもの長距離を休まず走り続けられはしない。封印してしばらくは、ただ命令に従うだけ、という印象だったアオンたちが、少しづつ自分を出してくれるようになってきたことが、ユーキにとって何より好ましい変化だった。
「ごめんって。期限直してよ。」
ふてくされてそっぽを向くアオンの背中をなでながらご機嫌を取るユーキ。
できることなら、一度に3体までという制限を取り払って、みんな出しっぱなしにしたいと願っている。
今回は、まずアオン、クマ、ゴンで魔物との初対面を経験してもらって、120Km地点の宿泊所へ向かい、そこでオーク、ゴブリンの護衛と合流して、寝食を共にしてもらう。
休憩所の配置位置とかが適切かのテストも兼ねている。150人程の大移動になるので、護衛隊との合流までワタリビト組は結構忙しくなるだろう。
昼を少し回ったところで、カブロを先頭に移住団が到着した。
とりあえず小休止ということで、村産の魔素抜き完熟ラサの実をゴンたちに配らせる。ファーストコンタクトだ。
おっかなびっくり、堅い作り笑顔で実を受け取った移住者たちも、一口でオドロキの表情に、二口で、心からの笑顔に変わる。
甘味の無いこの世界で、エグみが無く甘い果実は経験したことないほどの幸福感を与えたようだ。
その間にカブロとスローク、ユーシンが軽い打ち合わせをしている。
移住者の代表格数名とも顔合わせをしいていたようだ。
いよいよ街道を出発。
今回は移住のための大移動なので、馬車も歩行者も一緒に往路側の車道を進むことになっている。
実は、馬から出る糞尿がどの程度影響するかの調査も兼ねているので、空いているから復路側の車道も使って、とはしなかったのだ。
歩道を使わないのは護衛の都合。
一応隊列を組む時に、携帯用の魔物除けを所持しているハンターや商人、移住者が連れて来た護衛をバラけて配置し、バランスを整えたりはしてある。
ただどちらも、いやな気配や臭いがするから近づくのやめよう、と思わせるだけの物なので完全ではないうえに、長期間使用し続けると慣れられてしまう。それに強力な魔物は、獲物がいると分かれば歯牙にもかけずに飛び込んでくる。
アオンたちや街道整備の魔者たちがデモンエイプの毛皮のそばで作業していても平気だったのは、単純に、臭いに慣れたことと、それがただの毛皮で、安全であると理解しているからだ。
常に同じ場所で動かない設置型のデモンエイプの毛皮も、いずれは危険じゃないと認識されて効果が無くなるだろう。
設置型の魔物除けは不定期に波長が変わって慣れにくくする工夫がされている。とはいえそれでも完全ではないし、安全であると分かっていても、村に住む魔者たちにも影響が出るかもしれないので目下悩みの種になっている。
今回の移住では、毛皮設置からまだ日も浅いことで問題も起こらず目的地の120Km地点宿泊地に到着した。
護衛なので仕方がないとはいえ、武装したオークやゴブリンを見て移住者たちに若干緊張が走った。
簡単な紹介を済ませて、双方のハンターや護衛たちは移動中の打ち合わせをした。
そのおかげか、移住者の護衛やハンターたちは早々に打ち解けたようだ。魔者たちは言葉も通じるし、護衛隊は先行して移住している傭兵やハンターから、護衛や狩りの方法や流儀を教えられていたのも大きいだろう。
仲間が殺されたとか、嫌悪感や拒絶意識の強い者は参加していないので、思っていたよりすんなり馴染めそうだ。
商人達も、まだぎこちなさがうかがえるが交流しようと積極的に見える。移住後は商売相手だ。必死にもなるだろう。
それ以外の一般人は、まだまだおっかなびっくりといった様子。獣人すら珍しい街からの移住者だ。魔物を見たのも初めて、なんて者も少なくない。
野営の準備を進める中、手伝うオークやゴブリンンと触れ合うことで少しずつ緊張感がほぐれていくとことを願う。
なんて思ってたけど、翌日からの道中、毛皮の効果を乗り越えて入り込んできた魔獣との戦いが何度か起こり、その時にとったオークやゴブリンたちの活躍に、安心感や頼もしさを感じてくれたようだ。40Km地点の宿泊地に着いた時には、最初の頃のぎこちなさはすっかり消え、中には軽口をたたきあうほど打ち解けたものも出るほど。
吊り橋効果って、人と魔者との間でも有効なんだね。
毛皮が足りなくて、魔物除けが所々途切れてたのはナイショだ。結果良ければすべてよし。
馬などの糞尿も、思ったほどひどい影響はなかった。
80頭もの馬が一斉に移動するなんてことはそうそう無いだろうから、通常運用での指標に良いだろうと様子を見ていたけど、数日に一回の清掃と警備巡回のついででも十分対応できそうだ。回収した馬糞は肥料にもなるしね。
街道には、両端に通行料などを徴収したり、街道の説明、乗合馬車の運行などを行う管理事務所を設置、人員が確保できて需要があれば街道専用の護衛を雇えるように調整中だ。
さらに、20Km毎に警備隊の駐屯所を作り、警備巡回や、有償で故障した馬車などのメンテナンス、怪我や体調を崩した者に簡単な診療などができるように準備を進めている。が、どちらもまだまだ人手不足だし教育もいるので将来のお話。
当分の間人の出入りは多くないだろうから何とかなるだろう。
サンサテから5日間に及ぶ大移動。
始めてサンサテから出る、という人もいる中、大きなトラブルも無く順調に村に到着できた。
その後が大変だったけど。
「ようこそ”みどり村”へ。私が代表を務めさせていただいています。ソンチョーです。」
未開発の空き地に集合した移住者たちを前に、歓迎のあいさつをするソンチョー。
「お疲れでしょうが、もう少し頑張ってください。」
まず、移住者の名簿作り。
一人ひとり確認を取って、用意しておいた表に記入していく。戸籍の第一歩だ。
次に、村でのルールの説明。すでにサンサテを出る前に済ませているけど、勘違いとかは後々面倒なので再度告知したうえで、一応書面でも手渡す。
書面でもルール周知を徹底したかったので、初回の移住は個人、もしくは家族、集団に最低一人以上文字読み書きができる人がいること、という条件を付けていた。
そして、先売りで住宅を購入済み(大半がそうだったけど)の移住者は、それぞれの家の確認と引っ越し作業。
購入していない移住者は畑の予定地に案内してテント生活をしてもらうことになる。
実は住宅には少し空きがあったし、この場で買えないかとの問い合わせもあったのだけれど、先行で購入した人との差別化はしっかりとしておかないと、せっかく先行で購入したのに、といった不満になるだろうからキッチリ断った。
購入希望者には、受け入れ後の整理もあるので、一週間ほどしてから抽選で販売しますと伝えた。
夕方には一度引っ越しの手を止めてもらって、畜産用地、今はただの広い更地で歓迎会。
手もかからず大人数で、ということでBBQ。
大量の肉と野菜、マスター特製のタレに、ミード酒、子供にはアルコールを飛ばしたものを用意、もちろんすべて魔素抜きだ。
深夜遅くまでにぎやかに騒いだ歓迎会。
あと数日で、この世界の新年。5日間はライフラインや警備に携わる最低限の職種以外は仕事を休まなければならないので、引っ越し後の荷ほどきには都合が良いだろう。
うまくやっていける。そんな実感を持たせてくれた。
(ここにシンさんもいてくれたらな。)
ソンチョーは、突然光に包まれて消えてしまったシンが無事であることを祈るしかできない自分に歯がゆさを感じながら賑やかに食事を楽しむ人々を見ていた。




