30:突入
少し余裕ができてきました。
水曜日16時ごろ更新予定です。
よろしくお願いします。
あたりがうっすらと明るくなり始めた。
全員配置について、突入の合図を今か今かと待っていた。
スロークが隠密で潜入して、奴隷たちが活動を止めて部屋へ戻るのを待っている。
内部調査と救出対象からの情報で、奴隷たちは夜中に雑用や魔獣の世話を済ませ、朝日が昇る前に部屋へ戻るのを確認していた。
活動中に突入すると、間違いなく邪魔になる。
部屋に入ったのを確認後、出てこれないようにアオイ特製の接着剤でドアを固めてから突入することになっている。
狭い通路で潜むのはなかなか骨が折れるが、万が一にもしくじるわけにはいかない。
天井に張り付いて息をひそめる。
やがて奴隷たちが部屋に入っていくのを確認すると、慎重にドアの隙間に接着剤を塗り込んでいく。
固まるのを待って、念のため開かないのを確認すると、入り口付近まで移動して隠密を解いてユーシン達に合図を送り、踵を返した。
まずは2階にある小屋へ、囚われたワタリビトの開放がスロークの役割だ。
ユーシン達は入り口から一番近い階段を降りると、派手に音を立てながら奥へ、ユーキと合流してから、幹部連中のいるポイントを目指す。
とにかく派手に暴れて目立ちながら進む。
注意を引き付けて2階のスロークや、ユーキ達から目をそらせつつ、幹部連中を捕まえる。のが無理でも、逃げ出すように誘導するのが目的。
下っ端らしい強面軍団がワラワラと湧いてきたけど、ユーシン達の相手になるはずも無く、狭い通路の床は下っ端で見えなくなった。
「狭いなぁ。燃やしちゃダメかな。」
ライアーが下っ端を蹴り飛ばしながらイライラを募らせる。
「仲良く黒焦げなんて冗談じゃねぇッスよ。」
バールを振り回すユーシンも、狭さと暗さ、足場の悪さでまともに動けない。
「その前に一酸化炭素中毒か、熱で気道と肺がダメになって窒息死。」
ユーシンの拒否発言を冷静にマナが訂正した。
一応内部構造は記憶していたつもりだけど、実際に入ってみると想像以上に暗く狭い。しかも下っ端~ズがあとからあとから湧いてきて、程なく方向感覚が狂って自分の位置を見失ってしまった。
「ちくしょう!どこだここはぁ~!」
ユーシンの叫びが、狭い通路にむなしく響く。
ユーシン達が突入した音を聞いたユーキとユーコも行動を開始した。
アオンとクマ、ゴンを呼び出して、ドアを破るとさらわれた子供たちをアオンに乗せて脱出する。
子供たちは、強面どもの目を盗んであらかじめアオンたちに慣れさせていた。
おかげでアオンに怖がることも無く、スムーズに脱出できた。
あとは真っすぐ入り口を目指す。
ユーキの指先に乗ったクモタが指す方向へ。
飛び出してくる強面をゴンとユーコがバッタバッタとなぎ倒す。
進化してブラックキャップ(中距離戦闘に特化したゴブリン)になったゴンは、全身に巻き付けた投げナイフで、トゲを生やして戦闘モードになったユーコもトゲを投げつけて次々に処理していく。
この世界の住人に対しては、すでに戦力過多だなぁ。
絶賛無双中のゴンとユーコに守られながら、どこかウズウズしているアオンをなだめる。
「アオン、だめだからね。子供たち乗せてるんだし、お前が暴れたら天井ごと崩れちゃうから。」
(それにしても、やたらと下っ端強面~ズが多いなぁ。)
奴隷は隔離してくれたはずだけど、なかなか進めずにいいかげんウザったい。
これも幹部連中が逃げるための時間稼ぎ、ってことなのだろう。
それにしても・・・明らかに多すぎる。
確かに大きな興行団体だけど、雑用とかは隔離している奴隷がやっているのに、こんなに人数いらないだろ?
倒れた下っ端~ズが通路をふさいで思うように進めない。
(ひょっとして、肉の壁役?)
そう思うと哀れに感じてしまう。
(そんなに給料良いのかなぁ。それとも弱み握られてるとか?)
なんて余計なことを考えてしまう。
子供たちは教えたとおり、アオンの上にしっかりしがみついて目をギュッとつぶっている。けど、怒号の飛び交うこの状況は良くない。気持ち的に限界が来たら、一斉にパニックになりかねない。
(どうしたものかな)
いっそ、アオンに暴れてもらって上に逃げるか?
さすがのユーキもイラつきを抑えられなくなりそうだった。
目的の檻の前に着くや否や、ツールを使って鍵を開ける。
当然、鍵開けのスキルはMAXまで上げてあるので秒で空いた。
「もう大丈夫だ。下でも仲間が騒ぎを起こしているから、今のうちに脱出しよう。」
その声に、檻の奥から影が出てくる。
かつてのアオイを彷彿とさせる独特のフォルムが二人。
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
よほどつらい生活だったのか、すでに涙でグシャグシャになっている二人を連れだす。
他の檻は魔獣だけしか入っていないのも確認済みなので、もう一人の救出対象を開放するために歌劇場へ向かう。
ユーシン達が派手に暴れまわってくれているおかげですんなり歌劇場にたどり着くと、舞台裏の小屋へ。
難なくカギを開けると、中から飛び出してきた少女がスロークに抱き着いた。
「落ち着け!まだ脱出できたわけじゃないんだ。」
泣きじゃくる少女を引きはがして、小屋にとらわれていた他の被害者たちに事情を説明する。
「朝には衛兵が来る。帰りたい場所があるならそれを待つんだ。帰る場所が無いなら自分たちと来ればいい。」
そう言ってスッとその場を後にした。
もたもたしている時間は無い。少しでも悩むなら残って衛兵に任せた方がいいだろう。
2階は人気も無く、すんなりと脱出。ユーシン達が頑張って敵を引き付けてくれているようだ。
真っすぐベリッサの食堂へ向かうと裏口から元厨房に。そこに隠れているように指示をした。
一人で待機しているアオイの元へ急がなければならない。
かなり無駄な時間を使ってしまった気もするが、ようやくユーシン達と合流できたユーキ達。
マナとユーコが交代して、マナの案内でユーキと子供たちが外へ、ユーシン、ライアーはユーコの案内で奥へと別れた。
すでに抵抗もほとんど無くなっていてズンズン進んでいくと、突然広い通路に。ようやく幹部連中の居住スペースにたどり着いた。
「こりゃ、時間かかりすぎたな。」
頭をかきながら、開け放たれたドアの並ぶ通路を見渡すライアー。
その通路には、鎖でつながれたグレイウルフが4頭。
「あんなんよく捕まえられたな。結構強い狼だったけど。」
グレイウルフとの戦闘経験があるユーシンが感心しながら、シゲシゲと狼たちを見た。
アオンは元々グレイウルフで、シンとユーシン、ユーキにゴン、クマで苦労して倒していた。その後ユーキに封印されて、今では欠かせない戦力になっている。
「ワンちゃんも捕まっちゃったのねぇ。」
ユーコはもう戦闘態勢を解いていた。憎いのは興行団の関係者だけ、つながれた魔獣に罪は無い。
「どうせ、子供のウルフを盗んだか買ったりして慣らしたんじゃない?」
「なるほど、そんな手もあったっスね。」
そう言って警戒するでもなく通路を進むユーシン。
ウルフたちは、ユーシンにガンを飛ばされてすっかり縮こまっている。
ガン飛ばしも牽制技の一つではあるが、グレイウルフがここまで怯えるとは。
飼育されたウルフは野生よりかなり臆病なようだ。
「アオンちゃんのお友達によさそうだねぇ。」
ユーコはすでに普段ののんびりモードか。
(連れ帰るとか言い出さないよな)
縮こまっているウルフの頭をなでているユーコに一抹の不安を覚えるライアーだった。
ユーシンはためらわずに通路を進み、開かれた脱出口から外をのぞいた。
脱出口からすぐに開いた大穴の先には、呆然と穴の底をのぞき込むスロークと、ドヤ顔で仁王立ちのアオイがいた。
こちらに気が付くと、アオイがブンブンと手を振ってきた。いい笑顔だ。
下、穴の底には、壊れた木箱とピクリともしない幹部連中。
木箱からは盗品と思われる財宝が漏れ出ていた。
「深すぎだろ・・・。」
開いた口が塞がらない。
たぶん、目測で15m近くあるんじゃないか。
「死んで無いよね?あれ。」
横からのぞき込んできたライアーもあきれ顔だ。
「とどめ指す?」
後ろから、両手にとげを持った猫の声。
女性陣が怖すぎる。
衛兵が駆けつけて来たのか、再び入口の方が騒がしくなってきた。
カチ合わないように、裏から遠回りでベリッサの食堂に向かう。
当たり前のようにグレイウルフ4頭の鎖を引くユーコには誰もつっこまない。
抵抗されたら引きずられるのはユーコの方だろうけど、すっかり脅え切ったウルフたちはなすがままだ。
(猫が立って狼を散歩させてる・・・シュールだ)
不安が的中したライアーだが、何も言わない。
ユーキとアオンに押しつ・・・お任せだ。
裏口から食堂に入ると、先に戻ったユーキとマナが待っていた。
子供たちは、疲れて寝ているところを衛兵に引き渡していた。
興行小屋の方から走ってくるのを保護したけど、支離滅裂で何を言ってるのか分からないので引き取ってくれ、とか言って引き渡したそうだ。
冷たい気もするけど、親元に帰るには衛兵にまかせた方が早いだろうし、救出したとなると後々面倒そうなので、あくまで保護しただけってことにした。
救出した3人は、先に裏口でスロークが持ってきた外見変更の鏡台を使用させる。
なんせ、見世物小屋から救出した二人は、多少丸みがあるとはいえアスクラをプレイしていたアオイのように、ほぼ四角い箱をつなげたような外見だ。そのままベリッサと対面させるわけにはいかない。
二人がプレイしていたゲームは、アスクラの大ヒットを受けて登場した数多のパチモノゲームの中でも、秀作として生き残ったゲーム、 ビルダーズ~まったりのんびり工房記~ だった。
外見変更を終えた二人は兄妹だった。
カイト(斎藤海斗14歳)とアカネ(斎藤茜12歳)。当時、二人で協力プレイをしていたという。
二人とも元の自分に近い姿を想像して作ったそうで、年相応の少年と少女の姿になった。
もう一人、歌劇場で歌い手だった少女はミサ、本名はダサいから言いたくないと言っていた。20代で、アルバイトで暮らしていたという。
スマホでプレイするソーシャルゲーム、シンデレラアイドルという、アイドルになって成長していくゲームだ。
外見は気に入っているからそのままでいいというので、鏡台を貯蔵庫にしまうと皆の元へ。
歌劇場からついてきたのは3人。飢饉の年に人減らしで親に売られた、ということで帰る場所が無いのだそうだ。村への移住を承諾してくれたので連れていくことにした。
3人とも楽器の演奏ができるそうなので、将来歌劇場を作るのもいいかもしれない。
全員の体面を済ませると、ちょうどベリッサが起きてきた。
グレイウルフに目を白黒させていたけど、こちらもあらかじめアオンと対面させていたので叫ばれずに済んだ。
外が騒がしくなってきた。
興行小屋の騒動で目を覚ました野次馬が増えて来たんだろう。
主犯連中は証拠ごと深い穴の底なので、後は衛兵たちにお任せ。面倒事はノーサンキューだ。
次の問題はサンサテからの脱出。
意外と大事になってしまったので、というか、素知らぬ顔でくつろぐ猫がグレイウルフを4頭もつれてきてしまったので、隠れてこっそり脱出が難しくなってしまった。
ちなみに4頭は、アオンの一睨みで完全服従。おとなしいものである。
さてどうしようか、と考えながら、食事をしていると、オズオズとミサが手を挙げた。
「あの、ゲームでの話なんですけど、アイテムというか持ち物というか、そういったものはみんなカードみたいになってるんです。それで、その中にはペットもいたんですけど・・・。」
自身なさげに言って、両手の平を胸の前で上に向けると、その手に乗るように手提げのポーチが現れた。なんともアイドル物のゲームらしい鮮やかな色のポーチだ。
その中から、数枚のカードを取り出した。
カードにはマイクと口紅、セーラー服が描かれていた。
「ゲームで最初に持ってる所持品なんですけど。」
そう言って、マイクが描かれたカードを手に取り、目の前で軽く振ると、次の瞬間カードはマイクに変わっていた。
「まだ試したのはこの3つだけなんですけど。ゲームと同じにいろいろなものをカードにできるなら、このワンちゃんたちもひょっとしたら・・・。」
その能力についていろいろ話を聞いていくと、ゲーム中は食べ物を入れることもあったそうで、傷んだりすることも無かったそうだ。
「試してみる価値はあるんじゃない?」
ということで、いきなり生きているグレイウルフを、は冒険しすぎなので、食堂に残っていた椅子やテーブル、干し肉などで試してみたが、問題無くカード化と解除ができた。
カイトたちのアイテム欄でも試してみたら、問題無く出し入れすることができた。ただ、ゲームでは生き物を入れることが無かったそうなので、今回は除外。
続いて、急遽外で捕まえて来た蝶のような虫を。
カード化はできた。
問題は、生きたまま解除できるのかだ。
緊張しながら解除・・・。
蝶もどきは元気に飛び立った。
こうして、グレイウルフはカード化されてポーチの中へ。
おとなしくカード化されたけど、尻尾は足の間にピッタリと・・・完全に丸まってたね。ごめんよ。
目立たないように少人数ずつ町から脱出して、森の街道方向に1時間ほどの場所で合流した。
スロークが貯蔵庫からバイクを2台出し、ユーシンは軽トラを召喚。
この世界で初めて見る近代的な乗り物に、救出した3人はいたく感動、ついてきた3人はビックリしていた。
一路森へ、そして完成している街道を通って村へ。
道中確認した広場もすっかり片付けられ、いつでも受け入れOKな状態。さすがオヤカタ達だ。仕事が早い。
途中食事もしながら村へ。
村に着くと、早速ワタリビト全員で集まる。
同行の3人は、さすがにワタリビトの話を聞かせるわけにいかないので、移住先行組のクブロフ(ベリッサの旦那さん)に、食事と休息、村の案内を頼んだ。
疲れているだろうからと、それぞれが簡単に自己紹介を済ませると村を案内、ゴブリンやオークにも紹介を済ませた。
夜は、同行3人娘も含めてマスターの料理で歓迎会となった。ソンチョー宅だったからちょっと狭かったけどね。
道中サンドイッチもどきを食べた時も涙ぐんでいたけど、歓迎会に用意された料理はマスター渾身の数々。みんなはちきれんばかりに平らげた。
そうそう、4頭のグレイウルフはカード化を解除され、現在はアオンの管理下に入っている。
いずれは警備に同行させるつもりで鍛えてもらおう。
翌朝、再びワタリビト全員で集まって朝食。
そして、ある話を始めた。
同じワタリビトの襲撃と、それによって死んだオッサンの話。
復活を試みることが、今の目標となっていること。
そのために遺体を保管していること。
試みるには、スロークが転職しなければならないこと。
遺体を保管しているスキルが長期間使えなくなるうえ、その状態で問題無く保管されるか不明なため、別の保管場所を求めていること。
いきなりヘビーな話で申し訳なく思いつつも、どうしても伝えなければならなかった。
なぜなら、
「申し訳ないんだけど、ミサさんのカード化できる能力でシンさんの遺体を保存してもらえないだろうか。」
そう言って、スロークは深々と頭を下げた。
「あ、や、私で役に立てるならやらせてください。あ、でもその、ご遺体に触れるのは初めてなんで・・・その、少しだけ覚悟を決める時間を・・・あっ!覚悟なんて言っちゃってすいません。」
こうして翌日、数か月ぶりにシンの体が貯蔵庫から出された。
震える手でミサがシンに触れようとした時、シンの遺体がまばゆい光を放ち、そのまま忽然と消えてしまった。
呆然とするスロークたちを残して。




