29:興行
日曜日、16時ごろ更新予定です。
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サンサテの中ほどにある食堂で、カブロの親であり女将のベリッサが荷造りに精を出していた。
すでに食堂は売りに出し、みどり村への移住を決めている。
旦那で料理人のクブロフが先行して村に入っており、開店の準備を進めている。食器やら生活用品はすでに運んであるので、あとは細々としたものを詰めるだけだ。
思えば、クブロフの腰痛悪化でメイン食材の干し肉ができなくなった時、タイミングよく売り込みに来た青年を追い返さなくてよかった。その場しのぎにでもと半ば自棄になって試した干し肉の、なんと美味かったことか。
それ以来、自分達の生活は目まぐるしく変わっていった。もちろん良い方にだ。
とうとう慣れ親しんだ店を売り、この歳で新天地に店を開こうというのだから。世の中どう変わるか分からないものだ。
移住してしばらくは、美味い食材は扱えないと聞いている。急激な発展に、生産量が足りないのだという。
が、干し肉は今まで通り、新たにエグみの無い美味いミードを卸してくれると約束をもらっているので気合も入る。
しかも、すぐ近くには村で取れた美味い食材を使った食堂が営業しているという。うまい食材が自分たちまで回ってくるまでに、旦那にはしっかり味を盗んで研究しておいてもらわなければ。
「おや、久しぶりだね。大勢でどうしたんだい。」
そう言ったベリッサの視線の先には、食堂に入って来たユーシン達がいた。
「わりぃっス、おばちゃん、ちょっと場所貸して。」
そう言って、ユーシン達は食堂で一番大きなテーブルをぐるりと囲んだ。
集合したはいいが、相談できる場所が見つからなかった。
ここならもう営業していないし、知らない間でもないしとユーシンが勝手に決めて乗り込んできたのだ。
「今度来るっていう興行団じゃないの。あんたたちも見に来たのかい?」
テーブルに置かれたチラシを見たベリッサが、のんきに輪に入ってきた。
「やめときな、そこのは評判良くないよ。」
チラシに書かれていた興行主を見た途端に顔をしかめた。
「マジスか?こんなチラシ配るくらいだから人気なんじゃないんスか?」
貴重品の紙で作ったチラシを配るなんて、相当な資金が必要になる。
「だいぶ前にも一度来たことがあるんだけどね。とにかく問題が起こるんだよ。行方不明が何人も出たり、盗難騒ぎに人死にもね。だからあんた、獣人は狙われるから気を付けるんだよ。」
そう言って、腰をかがめて目線をユーコに合わせて頭をなでた。
「それでよく捕まりませんね。」
「騒ぎになり始めるといなくなっちまうのさ。領堺を超えると手出しできないからね。証拠も無いってんでお手上げなのさ。周りの領主と協力してくれりゃいいんだけどね。お貴族様ってのは体面を気にするからね。」
以前サンサテに件の工業団が来たのは、ベリッサが働き始めたころ、もう二十年も前の話だ。その頃のことを覚えているのは、実際に被害を受けたものくらいだろうと言っていた。その当時は、ベリッサの務めていた酒場も被害にあったのだそうだ。
派手な告知で人々の目を出し物に引き付けて、その裏で悪事を働きサッといなくなってしまう。そんなことを繰り返す犯罪集団だが、出し物の人気も高く、確たる証拠も無しに手出しができないらしい。
娯楽に飢えているからこそ、多少のいかがわしさも目に入らなくなってしまうということか。
「じゃぁやっぱりぃ、ユーコちゃんの魅力でぇ、悪い人をメロメロにしてやっつければいいんですぅ。」
「いや、魅力でメロメロて・・・。」
「興行小屋の周辺とか、人気のない路地とかをウロウロして、うまく攫われたら潜入捜査、みたいな感じで行ければいいんでしょうけどね。かなり不安です。」
と、ジト目でユーコを見ながらユーキがつぶやく。
「メロメロの方が自信あるのにぃ。でも潜入捜査も面白そう~。」
「ね、やめときましょうよ、キャスティングミスですって。」
そう詰め寄られたスローク。
ユーキの不安ももっともだけど、ユーコは意外にしっかりしている。
むしろ、ちゃんと理解した上でユーキをからかっているような気がした。
「まぁ、一人に任せるのは危険だからな。ユーキの魔物も含めて、ユーコも使役しているってことにしたらどうだ?」
アイテムで不自然ではない程度に身長を伸ばしているとはいえ、まだユーキは13~14歳に見える。しかも、元々女の子キャラということもあって美少年だ。連中にとって、十分魅力的にうつってくれるだろう。
アオン、クマ、ゴンは強力すぎるほどに進化したので無理だけど、最近封印した、ユーキの趣味全開のモフモフ系魔獣と、珍しい猫獣人のユーコを侍らせていれば、確実に狙ってくると思える。いざとなっら召喚をアオン達にチェンジすればいいし、ユーキ自身も訓練でだいぶ腕を上げている。
「うぅ、なんか、釈然としないけどそれが一番いいですね。」
自分ではかなり男っぽく、外見的にも強そうになってきていると思っていたユーキは不満げだ。が、ユーコを一人で潜入させるのは不安だった。
「そうなると、ユーキはお父さんのスロークと一緒に興行を見に来たけど、はぐれてしまって不安げにウロウロしている。って感じで演技した方がそれっぽくない?」
ライアーが悪戯っぽい笑みで提案した。
「おとぅ・・・さん?」
スロークとユーキが、微妙な表情で互いを見る。
「それならむしろ、ライアーの方が子供っぽくない?」
あわててそう反論したユーキ。
確かに見た目的には確かにライアーの方が小さいが、魔物を使役するという、今回のターゲットへのアピール力はライアーでは足りないだろう。
ということで、興行初日はスロークとユーキが仲良く観覧してアピール。2日目は観覧しつつ途中でユーキがはぐれウロウロ、空ぶったら夜に無事再開できた体を装って、3日目はスロークが仕事の体で、興行小屋前でユーキに小遣いを渡して分かれユーキは観覧。それでもだめならスロークが隠密で潜入。という3段構えの攫ってアピールを決行することになった。
興行期間は5日間なので、それで何とか糸口を見つけなければならない。最悪は、ワタリビトと思わしき人物の確認と救出だけで離脱ということもあるだろう。
「なるほどね。あんたたちの仲間かもしれない子が見世物にされてるなんて、絶対に許せないね。あんたたち、この店を自由に使いな。寝泊まりも上の部屋でするといいさ。売りに出して引っ越しの準備をしているここなら、客も来ないし人が出入りしてても不自然じゃないだろ。知り合いが手伝いに来てるって言えばいいだけだしね。」
打ち合わせに場所を借りただけのつもりが、ベリッサはすでに仲間のつもりだ。
「ああ、周りをだますために、片づけを手伝ってくれてもいいんだよ。信憑性も増すし、あたしも助かるしね。」
と思ったが、さすがカブロの母親だ。シッカリしてる。と、妙に納得してしまった。
興行小屋の建設は10日ほど前から始まっていたが、先行していたスロークが隠密を使って観察した様子では、村に隣接するように2階構造の小屋を建設していた。
1階に当たる部分は土台のようで、200m四方の大きな建物。
内部は細かく仕切られ、関係者の待機所や住まいに充てられているように感じられた。
2階部分には様々な大きさの小屋がたてられ、観覧者は2階部分を見て楽しむ構造のようだ。
ずいぶん無駄が多いように感じられたので調べてみたが、興行を行う団体の施設でも、かなり珍しい仕組み。おそらく、関係者しか入れない1階部分にはいろいろと仕掛けがあるのは間違いなさそうだ。
興行自体は一般的なようで、曲芸や奇術を見せる小屋、檻に入れた珍しい魔物を見せる小屋、酒や飲食ができる小屋に子供が遊ぶアスレチック的な施設まである。
この世界では遊園地や動物(魔物)園などは無く、劇場なども領都、王都レベルの大都市にしかない。最高の娯楽が、数年に一度訪れる興行団なのだ。住人のガス抜きでもあるため、多少きな臭い程度は見て見ぬふりをせざるを得ないほど影響力があるようだ。
事が起こったのは、興行開始2日目だった。
初日に一日かけてくまなく回り、従えているユーコとモフモフの毛玉ウサギ(モルラビ)の"毬"をアピールしていた。あちこちでにぎやかに奏でられる音楽が少々騒々しかったけれど、目的の人物の場所特定も忘れない。
アピールのおかげか、2日目の昼過ぎに予定通りスロークとはぐれて程なく、不自然に人気のない通路に入り込んだところで、突然床が開いた。
落ちた先は薄暗い部屋の中。
(うわぁ、雑だなぁ。おかげですんなり捕まれたけど。)
いろいろ攫われ方を想定していたけれど、まさかこれほど雑で大掛かりだとは思わなかった。
2階構造の理由の一端がこれってことか。
上では、絶えず音楽が奏でられていた。落とされた被害者が泣き叫んでも、上には声が届かないようにしているのだろう。
壁のドアが開くと、強面の男が入ってきた。
眼帯に禿げ頭、顔中に傷痕と、絵にかいたような悪党だ。
「痛い目見たくなけりゃぁ、おとなしくしてろ。腕の一本や二本無くても使い道はあるんだからな。」
そう言うと、ユーキ達の近くまで来て拳で壁を強くたたいた。
大きな音を出して怖がらせる目的なのは一目瞭然だ。
それっぽく怖がって見せるユーキとユーコ。毬は最初から隅で小さくなっている。
満足したのか、男は部屋を出ていった。ガチャリと鍵をかける音がしたから、このまま閉じ込められるのだろう。
予定では、スロークが隠密で姿を消して、ここに一緒に落ちたはずだ。さっきの男の隙をついて部屋を出ているだろうから、周囲の安全が確保できたら鍵を開けてくれるだろう。
ユーキは、数日前に捕獲したばかりの新鋭、親指サイズの蜘蛛型の魔物、スティルダーのクモタをドアの隙間から外に出して偵察に向かわせた。
「う~ん、とりあえずこれでやることなくなっちゃった。まさか移動も無く捕まったままになるなんてなぁ。」
ユーキは床に座り込むと、そのままごろりと横になった。
「ざぁんねん。悪者を颯爽とじぇのさいどするつもりだったのにぃ。」
ユーコは床に丸まって、欠伸をしながらサラリと恐ろしいことを言ってのけた。
隠密で姿を消したまま1階を探ると、すぐに子供の泣き声が聞こえてきた。
声の方を探ると、ユーキ達が囚われたようなドアがあり、薄く開いたその中では、先ほどの男が小さな女の子に凄んでいた。
精一杯のおしゃれをしてきたのだろう、明るい色の服は、泥で汚れていた。
スロークのスキル、オートマッピングで1階の構造を把握するために、できる限り動き回って記録しなければならない。熟練をMAXまで上げているため、屋内では視野に入る範囲、直径10mの地図が自動的に記録される。魔法で隠蔽されていなければ、隠し扉なども自動記載される。
確実な証拠として突き出すためにも、漏れがあってはいけない。
隠密とはいえ、触れられてしまえばバレてしまう。狭く、こまごましたもので足の踏み場もないような通路での探索は、相当な時間と気力を消耗させられた。
広めの部屋には、奴隷と思わしき人影がすし詰め状態になっていた。
うずくまるようにして詰め込まれた人影達は、その姿で眠っていのかピクリともしない。
他にも、体中血だらけの獣人や、傷だらけの魔獣が檻に入れられていた。
入り組んだ作りで、行き止まりも多く迷路状になっている。
建てられてまだ日が浅いはずなのに、ニオイもひどくまるで地獄絵図のようだ。
きれいな区画もある。
各部屋が広めに設定されているので、おそらく関係者の居住区画だと思われる。
小屋の入り口とは逆に配置されていることから、衛兵などの手入れが入った時のため、逃走路が確保されているとみていいだろう。迷路で時間を食っている隙に逃げ出せるような配置だ。
案の定、奥にドアが一つ。位置的に、ここを出ると外につながっているはずだ。
頭上からの喧騒が落ち着いてきた。
今日の営業は終了か。
結局地図の作成に午後いっぱいかかってしまったが、この状況で気づかれることなく進められたのだから上出来だろう。
とりあえず、営業が終わって落ち着いたら2階へ上がって目的の人物との接触を試みてみよう。
営業が終わってしばらくすると、捕まった子供たちが集められた。
ユーキ達も昼間とは違う強面に連れられて、中央付近の割と広い部屋に押し込まれた。
ユーキ達のほかに、女の子が2人、男の子が4人いる。
「多すぎじゃねぇのか?まだ2日目だぞ。」
神経質そうな男が、一口かじっただけの肉の塊を不味そうに放り捨てると、横にいる強面を睨みつけた。
「すいやせん、控えるように言っときやす。」
ペコペコと頭を下げて、愛想笑いを浮かべる強面がひどく滑稽に見える。
「ガキィさらうのはリスクもデカいってんだろうが!本番前に余計な面倒ごと増やしてんじゃねぇぞ!」
言うが早いか、強面の下げた頭を酒瓶で殴りつけた。
派手に割れて、粉砕された瓶が飛び散る。
子供たちはその様子におびえ、ガタガタと震えている。
泣き出す子供がいないのが意外だったが、それだけ昼間怖い目に合って、脅されたのかもしれない。「泣いたらひどい目にあうぞ」とか。
ユーキも一応怯える演技をしているが、瓶の割れ方がおかしいことに気が付いていた。
昔テレビ番組で見た、芝居用に作られた飴細工の瓶、それの割れ方にそっくりだった。
(確か、本物の瓶を割った時はあんなに細かく砕けなかったよな。)
同じ番組の中で本物の瓶を割った時の様子も見たので、間違いないだろう。
(子供を怯えさせるためのお芝居ってやつか。)
神経質そうな男は、並んでいた食事ごとテーブルをひっくり返した。
パンや干し肉が床に散乱する。
それを指さし、
「それがお前らの夕食だ。」
と言うと、強面を伴って部屋を出て行った。
(床に落ちた食べ物を食べさせることで心をくじこうってことかな?)
初日からなんとも徹底したことだ。
本当なら、ギリギリまで情報収集に徹して我慢するつもりだったけど。
(ちょっと、無理そうだよね。特にユーコが。)
この部屋に入ってから、ユーコはかすかにふるえるだけで微動だにしていない。
恐怖に、ではなく怒りで震えているのが分かる。
(ユーコは子供大好きだからなぁ。)
とはいえ、今爆発するわけにはいかない。
幸い、今ここには子供たちしかいない。
もしものためにとスロークから借りて服の中に張り付けていたトートバック(エイルヴァーンのアイテムで、20個のアイテムを入れられる)を取り出す。
中には、マスターお手製のホーンボアのハムや、完熟ラサの実で作ったジャムを試作中のナンに似たパンに挟んだ、なんちゃってサンドイッチとクッキーもどきが入っている。
小声で子供たちに、静かに食べるように話してから配る。
恐怖が張り付いていた子供たちの顔が、みるみる笑顔に。
(さすがマスター。)
ユーコが子供たちの相手をしている間に、床に散乱した食べ物を半分ほど拾って、空になったバックに詰める。ある程度でも食べたと思わせた方が都合がいいだろう。
と、子供たちはすっかり眠っていた。
体も心も限界だったのだろう。
「我慢できそうにない。」
ユーコがぼそりとつぶやいた。
(やれやれ、我慢できそうにないのは自分もなんだけど、止めなきゃいけないんだよなぁ。)
「遅くなった。」
どこからともなくスロークの声が。
(あれ?ドア開いてないけど。いつからいたんだ?)
「やはり囚われていたよ。見世物小屋に二人、歌劇場に一人だ。三人とも戦闘系のゲームじゃなくて逆らえなかったそうだ。これからユーシン達に伝えに一度脱出するが、突入は奴らが盗みを働いた直後でないと。ここで被害者を救い出せたとしても、別の街で同じことを繰り返すだけになる。もう少しだけ我慢してくれ。」
そう声が聞こえると、床の食べ物を入れたトートバッグが消えて、新しいトートバッグがユーキの目の前に現れた。
「同じでスマンが、食料とポーションを入れておいた。辛いだろうが、耐えてくれ。」
そのまま声は聞こえなくなった。
(どこから出入りしてるんだろう。)
恐る恐るユーコを見てみる。
目が合った。
「うん、大丈夫。頑張る。」
心配するユーキにこういうと、ごろりと寝ころんだ。
(明日からはちょっと反抗して、あいつらの気を引こうか。はぁ、損な役だよなぁ。)
新しく渡されたトートバッグを念入りに服の中に張り付けると、ユーキも横になった。
スロークが食堂に戻ったのは深夜を少し回った頃だった。
昼間、微動だにしていなかった奴隷たちが一斉に動き出したために脱出にかなりの時間を要してしまった。
夜中に雑用や魔獣の世話などをやらせるための奴隷だったのだろう。狭い通路をせわしなく動き回る奴隷たちを躱すのはなかなか骨が折れた。
深夜にもかかわらず、ベリッサ以外はみんな起きていたので、さっそく大テーブルに集まった。
オートマップで記録した図面をもとに、作戦を打ち合わせる。
「売られていない強奪品と思われる装飾品が保管されていた。」
そう言って、図面の一番奥、大きめの部屋を指で叩いた。
「事前調査で確認していたんだけど、普通には捌けないヤバイ盗品は専門の闇オークションにかけるらしい。ってことなんで、保管されている盗品は奴らにとってヤバイ物の可能性が高い。」
「でも、それなら何十年も捕まらずに続けてこれるのかな。」
椅子の上に胡坐をかいて、天井を見ながらライアーが疑問を口にした。
「かなり慎重な連中なのは間違いないな。保管してある場所もそうだけど、主だった幹部の居室は入り口と最も離れた場所にある。その手前は迷路のように複雑で狭いうえ、そこら中に金属製の小物を散乱させている。」
「させている?」
「ああ、音をたてないように移動するのが難しいほどにな。」
「なるほど、警笛替わりか。」
「2階部分はそこら中落とし穴になっていて、その下は施錠された個室になっている。攫われた子供たちも迷路の中の一か所に集められていたし、奴隷が詰め込まれた部屋もあった。そこでも足止めされることになるだろうし、たどり着く前にヤバイものを持ち出して幹部連中には逃げられるだろうな。」
改めて図面を見ると、確かに入り口から複雑で雑多な構造が続いていた。初見でこれは、なかなか奥に進めないだろう。静かに移動しようにも、暗く狭い通路には大きな音の出る金物が散乱している。
「奴隷も見世物に出ている連中も捨て駒ってことだろうな。幹部と保管されている強奪品だけ無事なら再起できるってことだろう。」
「でもさ、逃げられないように裏口で待ち伏せすればいいんじゃないの?」
「中身が分かってればそうだよね。」
そう、中身が分かっていれば簡単だ。
「確認してきたが、逃走用の出口は外からはわからないように、壁の一部のような加工がされていた。」
そう言って、脱出口の隠し扉を指で出した。
「現状だと、盗みを働いてもらわないと叩き潰す証拠が弱い。明日、自分が小屋の中で息子がいなくなったと騒ぎを起こしてみる。影響が出るか分からないけど、ユーコがヤバそうなんで少しでも早めたい。」
危険な状態なのかと慌てるアオイに中の状況を説明して落ち着かせると、夜が明けるまで作戦を話し合った。
スロークは予定通り、興行小屋の前で騒ぎを起こした。
一緒に来ていた息子が突然いなくなった。関係者にさらわれたに違いないと大げさに騒ぎ、息子を返せと叫びまくる大芝居をうった。
さすがに小屋の関係者が火消しに出てきたが、それでも騒ぎ続けたスロークは、駆け付けた衛兵に引きずられていった。
ライアーはマナと姉弟のフリをして見世物小屋を見て回ると、スロークの騒ぎに乗じて目的の人物達が入る檻の前へ。
なるほど、確かにチラシの絵は嘘ではなかった。
日本語で作戦を書いた紙を渡すと、歌劇場へ向かった。
歌劇場で目的の人物は歌い手としてソロで舞台に立つ中の一人。
気に入った歌い手には、貨幣や花などを投げ入れる。貨幣は取り上げられるが、花はそのまま渡されるそうなので、花束を包む布に模様のように崩した日本語で作戦を書いて投げ入れた。
(う~ん・・・マナと来たのは失敗だったなぁ。)
男女問わず目を引きまくっている。
アオイは作戦のための資材確保に出ているし、ユーシンは問題起こしそうだし、ということでマナと来たけど、外見の影響を失念していた。
地図で記憶した落とし穴を避けて、速やかに興行小屋を離脱した。自分たちまで拉致されたら突撃できなくなってしまう。
その夜、期待通り興行小屋から10の人影が人目を避けるように出ていった。
予定どおりか早めたかは分からないけれど、とにかく動いた。
それを合図に、それぞれが打ち合わせ通り配置について準備を始めた。
ユーキ達にも、クモタを通じて作戦は伝えてある。突入と同時に中でも暴れてもらう予定だ。
決行は連中が盗みから帰って落ち着いたころ。
早朝になるだろう。
突入組のユーシン、ライアー、マナは、食堂1階で連絡を待っている。
迫真の演技で衛兵からの同情を買うことに成功したスロークは、釈放後隠密で興行小屋を監視している。
盗みを行った確認が取れ次第、ユーシン達に連絡することになっている。
そんな中、アオイは一人、逃げ出す幹部連中を一網打尽にするためのトラップ作りに出ている。
逃走用隠し扉の外に大きな落とし穴を作るだけだが、穴の側面を平らでつるつるした石板で補強して、逃げられないようにしている。
幹部連中が盗みに出ている間に仕上げなければならない。
アオイの能力ならあっという間なので、早々に終わらせてマスター特製のなんちゃってサンドイッチに舌鼓を打っていた。
(子供にひどいことする奴は許さない。一人も逃がさない。必ず罰を受けさせてやる。)
出来は完璧。カモフラージュも、すぐには落ちないように調整もバッチリ。




