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3:待望の

サブタイトル 黒2 でも良かったかな。

日が傾くころ、遠くに石造りの建物が見えた。

体が重い。

少しでも早く進みたいと思っても、疲れ切った体がいうことを聞かない。

建物が石造りの巨大な壁だと分かるころには真夜中になっていた。

中央付近に大きな両開きの門があり、道はそこへと続いている。

壁の上には、何か所かに光が見える。松明だろうか。

壁の高さは6m以上あるだろうか。

人影のような動くものが見える。

「そこで止まれ!」

門まで20mほどの位置まで近づいたところで、壁の上から大声がふってきた。

明らかに日本語ではない言葉の意味が分かった。

“常識”さん、初めてちゃんと役に立ったな。

ヨタヨタと数歩歩くと、ガクリと膝から崩れ落ちた。

やっと人に会えた。

何か話さなければ。そう思う頭とは裏腹に、口からは言葉ではなく嗚咽だけが漏れた。

「え?・・・ちょ、ちょっと待て。動くなよ。」

少しして門が薄く開くと、鎧姿の男が松明片手に駆け寄ってくる。

「うわ、おいおい、何があったんだ?」

涙と鼻水でグシャグシャになった顔を見た男が、顔を引きつらせながら聞いてきた。

すでに、嗚咽どころか声を上げて泣きじゃくっていた。

「あぁ、わかったわかった。まぁ、なんとなくだけどな。」

男はやれやれといった様子でしゃがむ。

「取り決めだからよ。身元がはっきりせんと中に入れることはできんのだわ。でもまぁ、ちょっと話せる様子じゃないやな。お前さんみたいなのが来た時用の小屋があるから、落ち着くまで休め。」

そう言うと、門から少し離れた場所にある小屋へと連れていかれた。

「外だけどな、魔物は上からちゃんと見張ってるから、安心して安め。落ち着いたら話を聞かせてもらうからな。」

やさしく言うと、男は小屋を出ていった。

中には4つの簡素なベッドと小さな暖炉があるだけの簡単な作りだった。

他に人はおらず、手近なベッドに倒れこむと、そのまま意識を失った。


目覚めはそれほど良いものではなかった。

体中が痛い。

あ!

鎧も何も着たままで寝ていた。

久しぶりのちゃんとした寝床なのに、なんてもったいない。

それだけ疲れ切っていたってことだけど。

肉体的にも精神的にも。

泣きじゃくっていた自分を思い出す。

恥ずかし!

いや無理!50手前のおっさんが泣きじゃくるって、無理無理!

ああ、あの兵隊さん(?)、もう顔見れない。

などとウダウダやっていると、当の本人がやってきた。

「おぅ、起きとったか。って、おまえさん、そのまま寝たんか?」

あぁ、呆れられてるんだろうなぁ。顔が熱くなる。

「あ、そうみたいで。いや、全然覚えてないんですけど。」

慌てて鎧を脱ぎながら、そう言うのが精いっぱいだった。

男は隣のベッドに腰を下ろす。

「俺はこの砦で衛士長を任されとるデンケンだ。お前さんは?」

まずい、この世界の住人に不審に見られないようにいろいろ考えておこう、と思っていたのに。いろいろありすぎて何も準備していない。

「シンです。」

とっさにゲームのキャラ名を名乗った。

“常識”さん情報では、この世界では基本的に苗字は無い。

苗字を持つのは、王族、貴族の家長や特別な功績によって王から苗字を与えられたものだけだ。たとえ貴族であっても、妻や子供たちは苗字を持たず、名乗ることも許されない。

貴族の子は、○○(家長の苗字)△△(家長の爵位)の第〇子○○○○(名前)といった風に、家長である爵位を持った貴族の妻、子という立場で名乗る。

市民は、親が苗字を持っていれば、○○○○(苗字を持つ親のフルネーム)の子〇〇〇〇(名前)と名乗るが、通常苗字もちの市民は存在しないので、○○(親の名前)の子○○○(名前)。もしくは△△(住んでいる村・町の名前か地方名)の○○○○(名前)。もしくは名前だけを名乗る。

なんかどうでもいいことまで思い出したけど、まぁ一応仕事はしているようなので“常識”さんと、さん付けで呼ぶことにしてやろう。

「まぁ、どんな目にあったのかはシンが森から来た事とその恰好を見ればなんとなくわかるけどなぁ。一応取り決めなんでな。どこから来て何があったのか、詳しく話してくれるか。」

いかん。ここがどこだかの情報がない。

適当な地名を言って、抗争中の相手だったりしたら目も当てられない。下手したらスパイだと疑われたり。

ゼッタイイカン。

「あ、あの、分からないんです。」

ここはもう、嘘はつかずに説明できなさそうなところは分からないでいくことにした。後は野となれ山となれ。

「気が付いたら森の中にいて。さまよって、リルベアに襲われて、逃げてさまよって道に出て、やっとの思いでたどり着いたんです。でも、ここがどこなのかわからないんです。」

「剣はどうした?」

デンケンが指さす先には、何も入っていない剣の鞘が。

「あ、これは、リルベアに切りつけたんですけど、まったく切れずに落としてしまって。そのまま逃げたんで、そのまま・・・。無くしました。」

デンケンの口があんぐりと開く。そしてため息を吐くと、

「おまえ、リルベアが切れるわけないだろうが。ありゃぁ、腹と喉以外硬すぎて剣なんぞじゃ刃が立たないんだから。腹を切ろうにも重くてひっくり返せんし、奴の爪は伸び縮みするは、鉄も簡単に切り裂くはで手に負えん。足をやられでもしたら、逃げられずに生きたままハラワタ食われるんだぞ。そんなことも知らんでやりあったのか?森に入るなら絶対知っとかにゃぁならんだろう。」

当たり前なんだ。

“常識”さん、どういうことなんかな。と思っても答えは返らず。

「いや、ほんとに、なんで森なんでしょう。」

あの悪魔だからなんだろうけどね。生き残らせる気なんてなかったに違いない。

しかし、やっぱりあれは奇跡だったんだね。

腹と喉が弱点なんて。

奇跡的にリルベアが仰向けに落ちて、そこに自分が落ちて腹に命中。そのままの姿勢で顔めがけて殴りつけたから、何発かが喉にヒットしたんだろう。本当に運が良かった。

「しかし、あまりに酷い経験をすると前後の記憶をなくすとは聞いたことがあるが。実際目にするのは初めてだわ。・・・まぁ、あったんだろうなぁ。あれは演技には思えんし。」

腕組みをして考え込むデンケン。

再び顔が熱くなる。めでたく(?)記憶から消したい黒歴史ランキング1位として登録された。マジ忘れたい。誰か記憶を消してくれ。できれば目の前のおっさんごと。

その後雑談を交えながら事情聴取を受けた。

で、かろうじて拾ったワードからざっくりと“常識”さんが思い出してくれた。


ここはサンザ王国の北方にあるコリント伯爵領の北の端、ランザ砦。

北には広大な森があり、魔物が多数生息することから手つかずになっており、ノスサンザ大森林と呼ばれる。自分はそこに落とされたわけね。

で、自分が来た道、この砦から北に延びた道をそのまま進むと、森を通過して反対側へ、隣領カルケール伯爵領になる。そこにも砦があって、森からあふれる魔物を監視しているわけだけど、10日ほど前に魔物の氾濫があり、砦が壊滅したらしい。と、これはデンケンから聞いた情報。

氾濫はカルケール伯爵領の騎士、兵士と急募された傭兵によって沈静化したけど、かなりの被害が出たようだ。ちなみに、魔物とあまり出くわさなかったのは氾濫で北へと大移動して、多くが討伐されたためだったようだ。普段なら10分も歩けば何らかの魔物に必ず遭遇するほどの密集地帯なんだそうだ。

数日前に逃げて来た傭兵がいたため、自分もそうなのだと思われたらしい。

監視員がそれでいいのか?とも思ったけど、人間じゃなく魔物への警戒が仕事だからそんなもんでいいのかもしれない。たまに、森で狩りをしていたハンターが手痛いしっぺ返しを食らって逃げ込んでくることがあるらしい。

数日前に逃げて来た傭兵は怪我がひどく、今も予断を許さない状況らしい。

デンケンの態度がやたらと同情的だったのはそのためか。

一応知り合いじゃないか特徴を聞かれたけど、知ってるはずもないし、知らないと返答した。

自分が通ってきた道は、カルケール伯爵領との緊急連絡用に作られた道で、通常は馬の早駆けで走り抜けるため、休憩用の小屋もあまり無いんだそうだ。

とりあえず自分のことは、カルケール伯爵領の村とも言えないような集落出身で、出稼ぎに傭兵として出てきて、今回は初めての仕事だった。倒れていく仲間に怖気づいて逃げ回り、気が付くと森の中、右も左もわからずさまよった挙句ここにたどり着いた。ということにした。もちろん、少しずつ思い出してきた風を装ったけど。


一通り聴取が済むと、ふいにかけられた意外過ぎる一言に衝撃を受けた。

「しかし、お前さんも苦労したんだなぁ。その若さであの森をさまようなんて。」

ん?

その若さで?

いやいや、あんたの方が若いでしょう。

デンケンはせいぜい30代、いってても40そこそこに見える。50手前の自分より若いはずだ。

きょとんとしてると、

「ん?15~6だと思っとったが、意外といってるのか?」

なんですと~~!

ひょっとして、外見ゲームのままなんか?

そういえば、腹が出て無いな。

「あ、いや、よく老けて見られるもので。」

ってことにした。ごまかせた?どうだろう、怪しまれたらまずい。

「もう何日も、森をさまよって、リルベアにゴブリンに、とにかくいろいろ追い掛け回されまして。何とか見つけた赤い実と丸い実で食いつないだんですけど、まともに眠ることもできなくて、悪夢と現実がゴッチャになってしまって。」

慌てて取り繕おうとしたけど、デンケンは意外なところに食いついてきた。

「おま、赤い実?まさか森のラサを生で食ったのか?」

“ラサ”という名前で思い出した。割とポピュラーな果実で、知らない人はいない。けど、生のまま目にすることはまずない。“常識”さんによると、知っているのは長時間煮込んだ後干した状態の、赤い干し柿に似た姿のものだ。もちろん生で食べるものじゃない。

「あれ、ラサだったんですね。すさまじくエグくて、一口入れるたびに決死の覚悟でした。」

「ああ、森のは格別にエグいからなぁ。加工しても食えんほどのを、生で食ったか。丸い方は家畜の餌にしかならんのに。良く食ったなぁ。」

しみじみと言われてしまった。

「とりあえず聴取は問題なしだ。来い、飯にしよう。と、その前に体拭け。」

と言って濡れたタオルを渡された。冷たいけどありがたい。

メシ。確かに腹は減ってるけど、あまり期待できないんだよなぁ。

デンケンに連れられて砦の中へ、数人の衛兵とすれ違ったけど、励ましの言葉をかけられた。壊滅した砦はよほどひどい戦況だったんだな。たぶん昨夜の醜態も見られてるか広まってる。

できる限り早くこの砦を出よう。

外壁の中は広場になっていて、多くの兵士たちが訓練している。

その先に大きな建物があって、中へ。

途中ガラス窓に映った自分をチラリと見た。

やっぱり、ゲームで使ってた容姿に近いようだ。

デフォルトにちょっと手を加えただけのさわやか系美少年。自分の顔になじむのに時間がかかりそうだ。なんせ中身はくたびれたおっさんだからなぁ。

長テーブルでびっしりと埋め尽くされた大部屋に入る。食堂だ。

さすがに誰も食事していなかったが、奥の厨房からは良いにおいが漂ってくる。

「ほれ、そこに座れ。」

厨房に近い席を指定され従うと、すぐに食事が運ばれてきた。

「今日は特別だ。普段は自分で取りに来い。」

食事を運んできた大柄な男が、目の前にどんぶりのような木の器に入った、具だくさんの煮物?のような料理を置いて帰っていく。言葉はつっけんどんだが、表情が生ぬるい。うん、しっかり広まってるね。昨夜誕生したての我が黒歴史は。

自分の微妙な表情で察したのか、あわててデンケンが

「俺は何も言っとらんぞ。ただな、その、一緒に監視してたのがな・・・。まぁ、気にすんな、食え食え。」

はい、了解です。スピーカー野郎に見られたんですね。くそぅ。

食事は、肉やイモ類?をごった煮にしたようなもので、ほのかなエグみと濃いめの味付け。空腹のおかげもあってで難なく完食。エグみがこの程度って、あのおっさんって、ひょっとしてかなり腕の良い料理人なのでは?と“常識”さんが訴えてくる。

「なかなかうめぇだろう。あいつは見た目も口も悪いが、元々は御領主邸の料理人だったんだ。」

デンケンがニッと笑って料理人を讃辞(?)する。

「デカすぎて邪魔だってんでここに飛ばされたんだよ。」

「聞こえてんぞ!テメェは今日から生で食え。」

厨房の奥から反撃の声。

「な、口悪いだろ。」

悪い顔したデンケンが小声で〆る。


食事を終えると、デンケンの案内で砦の責任者、ランザ砦総長の部屋へ。

顔色の悪い痩せた男は、コリント伯爵第四子のクラッツだと名乗った。

こちらの返答も待たずに、デンケンに聴取の報告を求めると、後は一言もしゃべらず、終わると手で退室を促された。

自分、一言もしゃべってないけど。

「悪いな。御領主の四男坊なんだが、形だけの功績づくりで赴任したとたんに反対側で氾濫があったからな。ブルっちまって何も手についとらんのだ。いまの報告も形だけ、何も頭に入っとらんよ。」

心底疲れきったようなジェスチャーでおどけるデンケン。大変だな。

「これでやらなきゃいかんことは終わりだ。」

「え?」

「あっけなかったろ?これが国境沿いなら別なんだろうが、この砦はあくまでも森から出てくる魔物の監視が任務だからな。人間用の対応なんてほとんど決まってないんだよ。それでもまぁ、一応形だけでもってな。」

ぶっちゃけたデンケン。

そのまま建物を出ると、振り返って腕を組む。

「さて、これでお前は自由だ。とりあえず2~3日は南門の脇にある宿泊所を使わせてやるし、飯も食堂を使っていい。ただ、兵士が優先だから時間帯はズラしてくれ。その間に、今後どうするか考えるんだ。兵士になりたいなら俺に言え。傭兵を続けるなら出ていけばいい。南門から出てそのまま進めばリソン村につく。右に曲がれば、ぐるっと森を迂回する遠回りになるが、カルケール公爵領のゼノ村だ。カルケールに行くにしてもまさか北にはいかんだろ?」

もちろん森には近づきたくない。けど魔物を倒さなきゃレベルが上がらんなぁ。ゲームの時みたいにクエスト攻略でボーナス経験値が入るんならいいけど、そもそもクエストってあるのか?

「他に質問はあるか?」

「いえ、ありがとうございます。よく考えて答えを出そうと思います。」

そう言って深々と頭を下げた。

「おう。」

というと、デンケンは建物の中に消えていった。

言われた宿泊所は昨夜泊まった外の小屋と同じような作りだった。

大きな部屋に6台の二段ベッドが設置されていて、ほかに暖炉とちょっとしたテーブルがある。

親切なことに、今朝脱いでそのまま置いてきた装備が運ばれてテーブルの上に置かれていた。すっかり忘れていたから感謝だ。

ベッドに腰掛けて今後のことを考えることにした。”常識”さんとの情報すり合わせも必要だし。

まず、今の自分はいわゆる一文無しである。

所持品同様消されてしまっていた。所持金欄には上限ぎりぎりの99999枚の金貨があったはずなのに、見事に0である。

正確には、レベル30で使えるようになる第一貯蔵庫に相当な量の金貨があるはずだ。この世界とは金貨の形状とかが違って使えないかもしれないけど、金としての価値はあるだろう。なんで貯蔵庫に?というと、実はこれもMODで導入した、持ちきれない分の金貨を入れておける金庫を使っていたからだ。ゲームではカンストした後の金貨は消滅しちゃう仕様だったからね。

ゲームではお金は金貨オンリーだったけど、この世界は違う。

自分が今いるサンザ王国では、通貨の単位は1つでセイルという。

小銅貨1枚       1セイル

銅貨1枚       10セイル

小銀貨1枚     100セイル

銀貨1枚     1,000セイル

小金貨1枚    5,000セイル

金貨1枚    10,000セイル

大金貨1枚  100,000セイル

星金貨1枚 1,000,000セイル

 発行されている貨幣は結構多い。

ただ、大金貨や星金貨は一般的に使われることは無い。

商人間の大きな取引で大金貨が、他国との大きな取引や、褒章として使われるのが星金貨だ。

ゲームでの金貨が小金貨に当たるのか金貨に当たるのかは取り出して実際に見てみないと分からないけど、小金貨だったとしてもまぁ、それなりの額にはなると思う。

とはいえ今は完全な無一文だ。

簡易貯蔵庫に入れてある、使わない装備品を売れば路銀くらいにはなるだろうか。

レベルも上げたいところだけど、魔物を倒さなきゃならない。となると、ここで兵士になるのも結構良いんじゃないか、とも思えるけど。うん、絶対に無理だ。確実にみんな知ってるもんな。アラフィフのオッサン魂を持つ自分には耐えられない。

それに、レベルアップもスキルも無くて、魔法も一般的でない世界では一か所に留まるのは危険だと思う。

ああ、でも強さの基準が分からないな。気が進まないけど、ゴブリンあたりと接近戦も経験しとかないと、いざというとき怖いな。

魔物は、大きな都市の周辺以外では割と存在しているみたいだ。

村や集落では、定期的にハンターを中心とした有志で間引きを行い、手に負えないほど魔物が増えると傭兵を雇う。町などでは普段は衛兵が町の周辺を巡回、魔物が増えてくると傭兵を雇って討伐する。大きな都市になると常に衛兵や騎士が巡回と討伐を行っている。

傭兵はいわゆる冒険者に当たるのかな。討伐や抗争などの仕事がない時は、薬草や森の恵み、魔物の素材なんかを売って暮らすことも多いみたいだ。ただギルドのような組織は無く、仕事は自分たちで探す。魔物の討伐など大きめの仕事は町村の広場などに立札が掲げられたり、近隣の町村の酒場などに張り紙が出されたりする。

傭兵たちは自分でそういった募集を探さなくてはならないわけで、そのため多くの傭兵が数人から数十人でチームを組む。大きなチームでは仕事を探して契約をとる専門の人員がいることも珍しくない。大所帯になれば仕事は奪い合いになるので重要な役割だ。

チームの成果によっては、依頼主から指名されるケースもあり、指名されるには常に大きな仕事を受け続けなければならず、成功させ続けなければならない。仕事を探すだけでなく、チームで達成できるかの見極めも必要になる難しい仕事だ。

優れた傭兵をスカウトする専門要員がいるチームまである。

資格などがあるわけでもなく誰でも傭兵を名乗ることができる。そのためゴロツキや犯罪者までおり、一般人からのイメージは良くない。特に単独や少人数のチームは煙たがれることが多いようだ。

衛兵は町や、領主、貴族、商会など毎に雇われている専門の兵士で、町中や周辺の巡回を行い治安維持や魔物への警戒を行っている。個々の能力はそれほど高くないが、連携しての対応能力は専業ならではのものがある。

騎士には貴族しかなることができない。家督を継ぐことのできない立場の子供たちのための職といった存在で、衛兵などの上官に当たり各地の街や砦に駐留して実績を積む。先ほど会った総長も領主の4男って言ってたから騎士なのかな。見た限りお飾りといった感じか。もちろんまじめな騎士も少なくない。騎士として功績を積めば、1代限りの騎士爵を与えられ、騎士爵でさらに功績を積めば準男爵に格上げされることもある。

ハンターとは、素材回収を目的として魔物を狩る者たちの総称だ。ほとんどがチームを組んで森などに入り、魔物を狩って素材を回収し、売って生活している。効率重視で、場所や狩る魔物を数種に絞って専門的に狩る者たちが多い。

自分の選択肢としては傭兵かハンターってところか。でも、どちらも単独では生きにくそうだな。チームに入るのもレベルやスキルのことを考えたら落ち着けない。この世界の人からしたら、急激に強くなっていくように見えるだろうし、何の脈略もなくいきなり専門的な技術を使いだしたら確実に不審がられるよね。

こうなると、当面は旅人ってことで適当に魔物を狩って素材を売りながら転々としつつ、運良く傭兵の仕事があったら混ざりつつレベル30を目指すのが堅実かな。

カルケール伯爵領へ行ってみるか。

一応出身地ってことになってるし、砦が壊滅したなら傭兵としての仕事もありそうだ。カルノトス砦、だったか。

南門から出て左へ、森を迂回してカルケール伯爵領ゼノ村へ。道中できれば森へ寄って実戦経験とレベルアップ、あと素材集めか。の前に、旅支度をしないと。

保存食とか売ってもらえるかな。って、一文無しだった!手持ちで売れるものを探さないと。

誰も来ませんように!

祈りながら簡易貯蔵庫を使う。

と、扉が目の前に現れた。

中に入ると、売れそうな物を探す。昨夜の状態で持っていても不自然じゃなくて、旅支度ができる程度の価値があるもの。

ポーション、は、ここに入ってるランクの物は新人の出稼ぎ傭兵が持てるようなものじゃない。ゲームじゃ初心者に毛が生えた程度の時に使うランクの物だけど、時間経過で使えなくなる簡易ポーションですらこの世界じゃ貴重品。大都市でもなければ手に入らない。一般的には薬草をすりつぶして湿布のように貼るだけ。

薬師がいると、複数の薬草を混ぜて効果を高めたり、簡単なまじないでさらに効果を高めたりできるようだけど、詐欺師も多いのが悲しい現実。服用する薬も同じような感じで、通常は効果があると信じられている薬草や特定の木の根、実などを煮詰めた汁を飲む。薬師がいれば調合した薬を出されるけど、本職の薬師でも効果はいまいち。

ポーションを作れるのは高位の聖職者か薬師くらいで、国家に数人いるかどうかってレベルだ。それでも作れるのは劣化するポーション。劣化しないポーションは国が管理するほどの存在、使えるのはもちろん王族だ。

なので却下。

ナイフ、は、2本あったけど初級ダンジョンのドロップ品で、見た目が良いだけの効果の無いただのナイフだ。なんとなくデザインが気に入って売らなかったもの。後は銀細工の古びたアクセサリーが3個。ゲームでは売る以外に使い道のなかったもの。手に入れたときは資金に余裕があったので放置したまま忘れていたものだ。ま、このくらいなら持ってても不自然じゃないか。何なら親の形見とでも言おう。決定。

後は・・・。

汚れた金貨が1枚。この国の金貨とは違うみたいだけど、大きさ的に小金貨ではないな。金貨として通用するといいな。でもなんでこんなものが?

あ、クエストアイテムだ。ランダムで何度も発生する簡単なクエストで、だんだん面倒になって放置したんだ。

森で見つけたことにして売ろう。

他には特にめぼしいものも無かった。

とりあえず昼食後にでも頼んでみよう。

それまでの間に改めてステータスの検証を。


氏 名:シン(15)/ 元 飯田 真一(48)

性 別:男

種 族:ヒューマン

職業 :超越者

レベル:3

経験値:402  次のレベルアップまで98

生命力:15/15  肉体的ダメージを受けると減る。0になると死ぬ

魔 力:15/15  魔法を使うと減る。0になると意識を失う

気 力:15/15  スキルを使うと減る。0になると意識を失う

筋 力:15  力の強さ。攻撃力などに関係

体 力:16/16  スタミナ。持久力などに関係

敏捷性:15  動きの素早さ

器用さ:15  手先の器用さやバランス感覚など

知 識:15  記憶力と知識量。魔法の発動や威力に関係

知 恵:15  頭の良さ。計算速度などに関係

魅 力:15  高いと人を引き付けたり、友好に思われやすくなる

魔法 :ライト(MAX) マジックミサイル(MAX) マジックシールド(MAX)

スキル:強撃(MAX) 応急処置(MAX) 見立て(MAX) 警戒(MAX) 簡易貯蔵庫(MAX)

所持品:木の枝(10)

装 備:シャツ(服)・ズボン(服)・パンツ(服)・靴(服)


ぬ?

名前と年齢が。

シン(15)/ 元 飯田 真一(48)って。

う~ん、ま、いっか。

いいのか?

いいや、深く考えるのはやめよう。

もっと大きな問題が。

体力が16になっている。

ゲームではレベルアップ以外で能力値が上がることは無かった。

でもレベルアップのないこの世界の基準で考えたら、運動や学習、練習によって少しづつ向上していくことになるはずだよね。

つまり、体力が1上がったのは走りまくったから、ということなのかな。

現実とゲームのいいとこ取り?

あれだけ走りまくって体力1点ならレベルアップの方がはるかに効率良いけど。

色々と検証していかないといかんのかな。

やること多すぎない?

そう言うのにやりがいを感じる系ゲーマーじゃないんだけどなぁ。

なんだかんだと時間をつぶしてから、昼食をもらいに食堂へ。

タイミングばっちり、ちょうど食事を終えた衛兵さんたちがぞろぞろと出ていくところだった。

人がまばらになった食堂に入るとまっすぐ厨房前のカウンターへ。

「今朝はどうも。」

ごつい背中に声をかける。

「おう、しっかり食えよ。」

朝食と同じような器に、同じような煮物。汁が多め?それとうどんのような太い麺の入った器。

とにかくどんな食材でもまず大量の水で煮るのが基本なこの世界では、一般人の主食は麺類が多い。粉にせずに茹でた麦っぽい穀物を捏ねて伸ばしたシンプルな作りで、うどんとは食感がかなり違う。味付けは単純に塩のみ、エグみ隠しのためしょっぱい。だから煮物が汁多めなのかな。

美味い、とは言えないけど満足。

食べ終わる直前に入ってきたデンケンを捕まえると、カルケール伯爵領へ向かうことを伝えた。

故郷ということになっているので予想はついていたようだ。旅支度するのに砦内の店を紹介してくれた。

この砦は、魔物が多く生息し氾濫の危険もある森を監視するためのもので、村とは距離があり駐留期間も長期になることが多いので商店や酒場などが揃っているんだそうだ。紹介されたのは民間の商会が出張所として運営している店で、買取もしているということ。

さっそくその店に行く。

時間的に店内に客はいない。

ここを利用する衛兵は仕事中だ。

カウンターにいる店員に買取を頼むと、ナイフと銀細工を並べた。

「変わった形のナイフですねぇ。ここではデザインが凝ったものはあまり需要がなくて。一本1,500セイルくらいにしかなりませんが。銀細工の方はいいですねぇ。このくらいのものは人気なんですよ。」

「衛兵にですか?」

アクセサリーつけるおっさん…あまりイメージしづらいな。

「ああ、ここにはその、なんだ、酒場だけじゃなくてな、夜の店もあるわけだよ。ま、まだおめぇさんには少しばかり早い話かな。」

あぁ、なるほどね。理解しましたよ、アラフィフのおっさんなんで。見た目は少年だけど。

「指輪は15,000と20,000、ネックレスは50,000でどうだ?」

おぉ、思ってた以上の値が付いたな。確かこれ、ゲームだと1個1,000Gくらいだったよな。価値基準が違うけど、1個10,000セイルくらいじゃないかと思ってた。

「お願いします。それと、森をさまよってる時に見つけたんですけど。」

と言って、金貨を出す。

「金貨かい?見たことない形だねぇ。」

というと、カウンターの下から金貨と天秤を取り出して、大きさや重さを計測する。

「金貨とほぼ同じだね。でも見たことないデザインだし、ひょっとしたら遺跡か何かから出たものかもしれないな。」

モノクル(片眼鏡)でコインをくまなく調べると、コインをカウンターに置く。

「申し訳ないが、私では金貨1枚相当、10,000セイルの値しか付けられないな。買取ではなく交換って形だね。精巧な作りだから美術品として扱ってもいいのかもしれないけど、遺跡から出たものだとしたら資料的な価値を考えないといけなくなっちゃうからね。難しいんだよ。」

眉を寄せてうなるようにつぶやいた。

クエストアイテムではあるけど、このぶんだと倉庫に保管してある金貨も簡単に使うわけにはいかなそうだな。

「これの正体がはっきりすれば、何倍、何十倍の価値が付くかもしれないけどねぇ。それができるのは恐らく王都にでも行かないと無理じゃないかなぁ。オークションって手もあるけど、それでも大きな町に行かないとやってないからね。」

申し訳なさそうに告げる店員。

「わかりました。偶然拾ったものだし、今一文無しなんで、旅支度の足しにできればと思った程度なんで。」

まぁ、ゲームでも忘れてたようなアイテムだしね。何かと交換してもらおう。

「なるほどね。じゃあどうだろう、15,000セイル分の保存食と交換ってのは。」

「いいんですか?」

金としての価値にしかならなかったら5,000の損になるのに。

「あぁ、ま、自分の感を信じて、かな。オークションにでもかければ好事家(コウズカ)が引っかかるだろう。損はしないはずさ。」

といってニッと笑う店員。

「ありがとう。全部売るよ。それでゼノまでの旅支度を頼みたいんだけど。」

丸投げする。

一応“常識”さんのおかげで必要なものはわかるけど、プロに任せた方が確実だよね。自分でそろえると、買い忘れとか、何かしでかしそうだし。

店員さんが装備を揃えている間に商品を見て回る。

見たこともない道具類が並ぶが、“常識”さんが都度思い出させてくれる。

いいな、と思うものはやっぱり高い。

「揃ったよ。」

店員の声でカウンターに戻る。

ショートソードに大きなリュック、一人用のテント、水袋が大小2つ(小さい方は酒を入れるもの)薄手の毛布、火おこしの道具、ランタン、外套、小さな鍋、紐や針といった補修道具などなど。

大きなリュックは、正直なところ牛皮の背負い袋があるから不要なんだけど、入る容量が現実離れして違うから人前では使いづらい、ということで、自分のは破れているからと店員に頼んだものだ。頻繁に出し入れしないものは牛皮の方に入れて、そのままリュックに押し込んでおいて、頻繁に出し入れするものは隙間に突っ込んでおけばごまかせるだろう。

そして食料。

一般的な保存食は、茹ですぎた麦っぽい穀物を四角い型に入れて乾燥、その後焼き上げたもの。そのまま食べるか、鍋で煮て粥のようにして食べる。堅いし味を求めてもいけない。飢えなければいいのだ。

そして干し肉、これも一度茹で切ったものを塩漬けにして乾燥したもの。堅い。しょっぱい。煮切ってしまっているから旨味も無い。そのままかじるか軽く焙ってかじる。

忘れてはいけないのは、どちらも味はエグい。手間がかかってる分値段も高い。

10食分がまとめられていた。旅の途中は通常朝夕の2食なので、5日分か。

「ゼノまでは普通に歩いて4日だから、多少トラブっても問題ないだろう。水はすぐそこの井戸から汲んでくれ。酒は食堂で買える。で、釣りが2,500セイルな。」

“常識”さんがかなりお得だと教えてくれた。

「ありがとう。こんなに大丈夫?」

「あぁ、少しだけど餞別代りだ。ここが壊滅していてもおかしくなかったんだしな。」

氾濫のことか。

利用しているような気がして悪いけど、ここは御厚意に甘えよう。

宿泊所に戻って荷物を下ろすと、井戸で水を汲みに出る。

そういえば、揚水ポンプ無双ってのもあったな。いつかそれでウハウハできるかも。

なんて野望はあっけなく散った。

井戸にはしっかり汲み上げ機が取り付けられていたからだ。

 桶をつるしたロープが、井戸の上の屋根につけられた滑車を通って、脇に設置された巻上げ機につながっている。ハンドルを回せば軽く汲み上げられるので、ポンプほどじゃないにしても水汲みはかなり楽そうだ。よほどのド田舎でもない限り、こう言ったくみ上げ機は普通にあると“常識”さんが思い出させてくれた。

ま、そうだよね。

夕食後食堂でミード(蜂蜜酒)を買って酒袋につめてもらう。甘い酒だよな。あまり得意じゃないけど、”常識”さんはミード以外の酒を知らない。

その足でデンケンに翌朝出ることを伝えた。

「がんばれよ。」

肩をたたかれ励まされた。

なんか、涙が出そうになった。

夜、初めてちゃんとしたベッドでちゃんと寝た。

幸せを感じた瞬間、は、あっという間に睡魔に襲われ終わってしまった。


 悲惨だった森から脱出です。

 ただ、まだおっさんに楽をさせる予定はまだないので定番チートは潰しておきました。

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