28:開通
土曜日16時に更新予定しております
よろしくお願いします。
雪はまだちらほら残っているが、温かな日差しが春の訪れを告げている。
雪が減り始めたころから街道の整備は再開されており、ユーシン、クリフト、アオイをはじめ、オヤカタやオークの兵士、トウリョーやゴブリンなども含めて15名の街道整備班が組まれた。
80Km地点に仮の宿泊所がつくられて、泊まり込みで整備が進められている。
移住者の大移動までには開通させたいと、ユーシンの新車種、パッカー車が資材の運搬に活躍している。
軽トラでは積載量が250Kg程度だったので、大した量が運べなかった。
資材が足りなくなるとアオイが同乗して村に、時には川まで足を延ばして、重い素材をアオイのインベントリーにめいっぱい詰め込み、荷台には軽い木材などを積んでの往復。
時には日に数回往復せねばならず、ロスも大きく時間がかかっていた。
土砂10トン、体積にすると6立方メートル程度と大した量ではないのだが、フォームチェンジの裏技で1度に3回分、30トンまで運べるためかなりはかどっている。
食事は現地に同行しているマスターの弟子、ゴブリンのメチが担当している。基本的な家庭料理レベルならマスターからお墨付きが出ている有望株だ。
4~5日に一度ユーシンが食材の補給に帰ってくる以外は行ったっきりで、もう1か月になる。
仮の宿泊所には、石を掘っただけの浴槽に湯を入れて使う簡易的な風呂が、主にアオイの希望で取り付けられていた。まぁ、沸かした湯を入れて入るタイプなので非常に手間がかかるが、湯沸かしを担当するユーシンもクリフトも文句は言わない。
アオイは何かに没頭することで自分を保っているような、そんな危うさを感じていたからだ。少しでも気持ちが安らぐなら、大した手間でもない。
一見、いつも通りのアオイにしか見えないが、ふと気が付くとジッと、床を見たまま動かなかったり、ボーっと空を見たまま心ここにあらず、といった、彼女らしくない姿を見かける。
あの時、シンが死んだあの時、自分がポーションを使っていなければと、自分が着いて行くと言わなければ、命をつなぎ留められた。そう思い込んで自分を追いつめているようだった。
シン復活の試みがなかなか進展しないこともあって、最近は顕著に表れてきたように感じる。
現状は、とにかく一人で何もしない時間を作らない。しかなかった。
メチと同室で夜も一人にしないようにしているけれど、何か理由をつけてユーコに来てもらった方が良いかもしれない。
そんな不安の中だが、作業は続く。
むしろ作業中の方が安定している。
アオイがザックリと整地した後、建材の加工を行い、オークたちが設置、ゴブリンたちはその補佐にあたっている。
クリフトは、水路を建設していた当時は生木をかじる、という行為に臆して加工を始め、建築作業がほとんどができなかった。が、後に道具を使って、普通に加工できることが分かった。
スキルの使い方が正しくイメージできず、ビーバーなのだから、齧る、という固定観念にとらわれてしまっていたわけだ。
それは、クリフトの人としての生理的に無理だった。
だが実は、ゲームでビーバーたちは直立して、ノコギリや斧、トンカチなど道具を持って加工している様子が、ドット絵で描かれていたのだ。
ライアーがそれを思い出し、普通に作業できるのでは?と言ったことで、試しに道具を使って普通に作業してみた。
結果、驚くべき速度と正確さで作業ができたのだ。
思い込みとは恐ろしいものである。
それ以降クリフトは設計のみならず、率先して作業にも没頭するようになっていた。
浄水場に処理場、それらをつなぐパイプラインに村の中の水道網は、シンが作っていたアパートの中以外すべてクリフトの手によるものだ。
街道整備でも、設計や測量といった基礎的なこと以外に、歩行者が宿泊地に入るための歩道橋から、トイレや休憩用のベンチ、歩道と車道を分ける手すりなどといった作業、特に木工作業のほとんどが彼の手による。
アオイは、アースクラフトをやっていただけあってクラフトそのものは好きだった。
最初こそ、汚れる、疲れるなどとブーたれていたが、慣れてしまえば好きな作業。どっぷりとのめり込んでいた。特にあの事件以降は、病的なほどに集中していた。
街道の休工中も、鍜治場に籠ってついに、満足のいく刀を作り出せたが、それでも作業はやめなかった。心配したマナの提案で、作業小屋にこもりっきりになるよりはという理由で街道整備が早めに再開された。
街道整備はかつてない速度で進行し、あと1か月ほどで完成しそうなところまで来ていた。
村では、移住が完了するとランク4になることを想定して区画が仕切られ、道路やインフラ設備が完成している。
現在村の範囲外になっている場所にはグレートベアやデモンエイプの毛皮を使った仮の魔物除けを設置してある。
入居用の住宅なども、カブロの話どおりなら8割程度は受け入れできそうだ。が、増えそうな気配もあるのである程度はテント生活してもらうことになるだろう。
食料問題もある。
物資はだいぶ持ち込まれるようだけど、現地の食材なので魔素たっぷりのエグみ増し増し物だ。つまり、覚悟して食べなければならない食材だけが持ち込まれる。
当面は魔素抜き食材はマスターの食堂だけで使い、価格は高めに設定して、たまに食べる贅沢なお食事、という位置づけにすることになっている。
マスターの負担を減らすためだ。
マスターには、酒の開発という重要任務があるのだ。ミードの魔素抜きは十分作れているが、いつまでもそればかりでは、メタボだらけになってしまう。だって、蜂蜜酒だもの。
魔素抜きミードはとにかく消費が激しい。
この世界に元々あったミードは、ご多分に漏れずエグみがあるので、アルコールでそれを忘れようといった飲み方をする。エグみが無いとはいえ、飲み方はそうそう変えられない。美味い分余計に進んでいるような気すらする。
シンが作ったラサの実の果実酒もどきはまだ作れる量が少ない。なんせ、生のラサの実は流通していないので自分たちで確保するしかないのだ。
いずれはビールにウイスキー、日本酒なども欲しいが夢のまた夢、というのが現状だ。
食材についても、高級肥料チートで豊富になったら、市場を作って他の店にも魔素抜き食材を開放していく。将来的には一般人も気軽に買えるようにしたいが、みどり村の機能で買えるもの以外は種ガチャで入手するしかない。ある程度は収穫せずに種を取らなければならないので、十分に確保するにはまだ時間がかかりそうだ。
移住者側の準備もだいぶ進んでいるようで、街道の完成に合わせて一斉に出発すると連絡があった。
先行して入村した人たちを含めて180人程になる。総人口は200人を優に超えるのでランク4の条件を満たす。
移住者だけで200人を超えるのではないかとの予想は、ゴブリンやオークが共に暮らす村、という点が良いブレーキになってくれたようで、良い意味でハズレてくれた。
正直な話、全員が移住したとすると300人を超える希望者がいたのだ。
村での普段のやり取りから、カブロが機転を利かせていたようで奴隷を禁止していた。
この世界で奴隷の扱いは”言葉が通じて命令に従う物”である。
奴隷に権利は無く、主には服従、反抗すれば殺されて当たり前。
向こうの世界でも、かつて当たり前のように行われていた悪辣非道な所業だが、かつての向こうのように、今この世界ではそれが当たり前なのだ。
ラノベやアニメに慣れた者ほど、それらで描かれる奴隷という存在とのギャップに衝撃は強く、忌避感も強かった。
かといって、この世界を変えられる力も影響力も無い以上、無力感だけが募ってしまう。
普段の雑談などからそれを察したカブロが、気を利かせて先手をうっていたのだ。
少しでも不満げな者たちを徹底的に排除することで、結果程よい移住者数に落ち着いた。
奴隷を上辺だけ開放したことにして連れ込もうとする者まで出て、カブロが悪戦苦闘していたのだが、後に泥酔した本人がソンチョー相手に愚痴るまで、秘められた武勇伝だった。
泥酔して言っちゃうのがカブロらしいとはソンチョー談。
「ソンチョー。」
スロークが神妙な顔でソンチョー宅を訪れた。
「今まで気にも留めなかったんだが・・・。勝手に村作って移住者も受け入れてるけど、よかったんだよな。」
あ・・・
ソンチョーはその問いに即答できなかった。
「だいじょうぶ・・・じゃないかな。カブロさんとかも当たり前のように移住者の取りまとめしてるし・・・。」
言葉と裏腹にソンチョーの目は泳ぎまくっている。
すっかり失念していた。
ここって、どこかの国の、どこかの領地なんじゃないのか?
今更である。
「て、手続きとか・・・イルノカナ。」
イントネーションまでおかしくなってきた。
これはいかん。
ある意味デモンエイプ襲撃より大問題かもしれない。
こうして、スロークはカブロと話し合うために村を飛び出していくことになっり、ソンチョーは頭を抱えることになった。
翌日帰ってきたスローク、休憩無しでとんぼ返りしてきたのだろう。疲労の影が強い。
「で、どうだった?」
部屋に入ってきたスロークの元へ駆け寄るソンチョー。
「カブロも経験が無くて分からないらしい。」
絶望的な一言が帰ってきた。
「詳しく調べてみるとのことだけど、この森についてはどこの領地でもないはずだと言っていた。」
「それって、王の直轄領とかってことでもなくて?」
普通は、貴族の領地以外は基本的に王が直接収める直轄領とかって扱いだと聞いた記憶がある。だとすると、王の領地で勝手にやっているなんてことに・・・。
「元々はカルケール伯爵とコリント伯爵で分け合っていたらしいけど、とても管理しきれないと返上したらしい。領地持ちの貴族にとってはとんでもなく恥ずかしい行為らしいけど、ここで何か起こった時や、ここから外に被害が出たときに問われる責任や賠償に比べたら、ということで同時期に返上されたそうだ。ただ、王もそれは困ると押し付け合いが始まって、結局王も領権を放棄して現状誰も両県を保有していないってことになったみたいだ。」
あ~、なるほど~。
なるほどじゃない!
これって、下手したら村があるんだからって、今後領権とやらを押し付けられる流れでは?
村周辺だけならまだしも、森全体とか言われたらスタンピード一発で処刑されたりしないよね?これ。
あぁ、こんな時シンさんがいてくれたら。
あのひと意外と悪知恵働くんだよなぁ。
「明日にでもまたサンサテに向かうよ。自分も調べてみようと思う。」
頼もしいよスロークさん。
村を出ることのできない自分を歯がゆくも思いながら託すしかなかった。
「それと、サンサテでこんなものが配られていたんだ。」
と言って、スロークは一面に色鮮やかな文字や絵の描かれた紙を差し出した。
印刷技術も無く、紙が高級品のこの世界でチラシとは。
「興行かなにかのチラシ?って、これって・・・。」
チラシに書かれた興行は13日後、新たな問題の可能性。対策を考えなければならなくなった。
サンサテに向かうスロークが街道整備組に声をかけ、緊急にソンチョー宅で話し合いが行われることになった。
スロークはそのままサンサテに向かったので、ここにはソンチョー、ユーシン、ユーキ、マスター、クリフト、アオイ、ユーコ、マナ、ライアーの9人がいる。
「サンサテでこんなものが配られているらしいんだ。」
そう言ってテーブルにチラシを置く。
「この絵って、ワタリビト、だよね。」
興行演目の一つ、見世物小屋の紹介に描かれた絵が、全員にそれを感じさせた。
「自ら望んで、なんてことは無いよな。見世物になんて。」
「助けなきゃ。」
「助けるっても、どうやって?」
一晩かけて話し合っても結論は出なかったが、確かめなければならないことは決められた。
まず、
本当にワタリビトなのか。
自ら望んでのことなのか。
この2つは最初に確認する必要がある。
そして、ワタリビトで不当に見世物にされていることが確認できたら、当然救出だ。
その方法は、結論が出ていない。
興行まではまだ10日ある。街道も大詰めに入っているので、とにかく今は街道を完成させて、その足で確認とその後の対応のためにサンサテへ。ユーシンとアオイ、クリフトに、先行しているスロークで対処してもらうしかない。
場合によっては援軍等も必要だろう。クリフトは戦闘能力が無いため、バイクでの連絡役だ。彼の連絡次第でマナとユーコ、ユーキとライアーがバイクでサンサテへ向かう手はずだ。
救出が不要であれば、クリフトはスロークを手伝い、ユーシンとアオイはカブロとともに移住者のサポートを行う。
ここまで決まって、とりあえずは一息つくことのできたソンチョー。
ようやく眠ることができた。
最後の大詰め、残り15Kmの行程を7日で仕上げると、残りの作業をトウリョー達に任せてサンサテへ向かった。
街道そのものは完成した。
トウリョーたちに任せた残りの仕上げは、120Km地点の宿泊所の整備だ。
まだ資材などが散乱しているので、移住者たちがテントを張れるように片付けなければならない。
80Kmと40Km地点の広場もかたづけなければならないし、仮の魔物除け、毛皮のチェックもしなければならないが、ユーシン達がいなくても問題無くできる範囲だ。
サンサテでの問題が解決できる頃には完了しているだろう。
サンサテでスロークと合流すると、村で話し合ったこととスロークが調べていたことのすり合わせをした。
まず、スロークが調べていた村の問題は、とりあえずこのまま、素知らぬ顔で進めた方がいいだろう、ということに落ち着きそうだ。
こちらからアプローチすると、確実に領権を押し付けられるだろうし、その後はやれ税だ、領主の義務だと厄介ごとが発生する。
森の魔獣が問題を起こせば、賠償だなんだと責められるし、問題が起こらなければ起こらないで、危険な森を治めているという名声を欲して、訳の分からない貴族が統治者として押しかけてきかねない。
今は、誰の領地でもないから勝手に住んでたら人が集まって村になりました、難しいことはわかりません。で押し切った方がいいだろうということなのだ。
これはカブロや、町の元有力者(移住予定者)などと相談しての結論なので問題あるまい。
そういうことにしておこう。
代わりに村での決定事項を聞いたスロークは、クリフトに村への伝令を頼んだ。
「どうも、聞いた話によると興行主の評判は良くない。獣人の奴隷を多く抱えているらしいけど、どうもまっとうな手段で手に入れているわけではないようなんだ。孤児院から安く買った孤児を奴隷にしてるなんて話もあった。救出することになるだろうから、できれば早めにユーコ達に来てほしいんだ。」
「ユーコさん?」
「獣人の姿をしているユーコなら、奴らが何らかのアクションを起こしてくる可能性もあるからね。そうなれば、それをきっかけに騒ぎを起こして救出のきっかけにできるかもしれない。」
「それは・・・。危険じゃないのかい。」
クリフトはユーコの戦う姿を見たことが無い。普段の彼女の様子だけを見れば、当然の反応だった。
「信じられないかもしれないけどね。彼女はデモンエイプとも戦えるくらい強いんだよ。」
「あ~、確かに。勝てる気がしねぇ~ス。」
ユーシンの速度では、まず当たらない。特に森や狭い場所で戦うことになったら、ピンボールのように跳ねまわる彼女には誰もついていけないだろう。
「もちろんユーコに判断はゆだねるけど、戦力的にもいてもらった方が助かるんだ。」
イマイチ信じきれないクリフトだったが、二人が言うほどなら彼女は強いのだろう。
最低限の準備をすると、サンサテを発った。




