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27:新車

土曜日、16時ごろ更新予定です。

よろしくお願いします。

 「さすがにきつくなってきたっスね。」

 食堂で遅い夕食を取るユーシンが思わず愚痴ってしまった。

 振る雪は、量こそ多くないものの一晩で10cmほど積もる。しかもかなりの頻度で。

 オヤカタとトウリョー、オークたちが総出で雪を掻き出して軽トラへ、掻き出した雪を邪魔にならない場所まで輸送の繰り返し。

 移動と雪処理で半日がつぶれてしまう。

 夕食が遅くなるのも、雪処理と凍結した路面での移動に時間を食うためだ。

 「スタッドレスもチェーンも無いからなぁ。」

 慎重に走っても、ノーマルタイヤではどうしてもスリップしてしまう。そのたびに総出で軽トラを押すことになる。

 「寒さデ、ケガするもノ、増えてマス。」

 オヤカタも現状の厳しさを痛感しているようだ。

 シンがいなくなってから言葉の流暢さが消え、スキルも機能しなくなった従魔たちだが、パワーと知識、経験による技術はしみついている。超絶な精密さや作業速度は失われたものの、ベテラン職人並みの働きをしてくれている。

 それでも、木を切り倒し根を抜き整地する、その作業はかなりの時間を要する。雪処理のロスは肉体的にも精神的にも大きな負担になってきた。

 「それはちょうどいいタイミングだ。」

 声をかけて来たのはクリフトだった。

 「ようやく村のインフラが終わったんで、明日から街道整備に加わるよ。」

 そう言ってテーブルの開いている椅子に座る。

 「実は、将来のことも考えて街道はこうしたいんだ。」

 広げられた図面に、ユーシンなこういわずにいられなかった。

 「マジスか?これ。」

 

 翌朝からアオイとクリフトが街道整備に加わった。

 サンドボックスゲームの金字塔、アースクラフトをプレイしていたアオイと、建築ゲームの新鋭(?)ビーバータイクーンをプレイしていたうえ、ゼネコン勤務で街づくりのプロ、クリフトが参加したのだ。

 そうなるともう、雪もなんのその、工事が一気に加速する。

 平らに整地しただけの街道は、村長宅から1Kmほどの地点からリスタートとなった。

 クリフト発案による、将来を見越した街道整備が始まったためだ。

 雪処理も、アオイが行うとひとすくいで数m四方の雪が消滅(ストレージに収納される)してしまう。

 すでに木も根も取り除かれた地面は、アオイの手によってすいすいと掘り進められる。

 ユーシンが運び込んだり、ストレージに収められた素材で資材を次々に作りだし、オークたちが設置、クリフトが調整してゆく。

 ユーシン達が整備した地点までは、まさに瞬く間に進行していった。

 それ以降は、木を切り倒し根を掘る作業が発生するため速度は落ちたが、ついに全行程の半分ほどまでが完成した。

 

 中央には幅5mの歩行者用の道。

 徒歩での来訪が無いとは言えない。節約したい人や馬車のつてが無い人、資金的余裕が無い人など、来られる手段は作っておいた方がいいからだ。馬車と歩行者が同じ場所を通るのは、事故の面や衛生面(馬とかの”んち”とか”しっこ”とかね)から、避けた方がいいだろうというクリフトの発案だ。

 5km毎に休憩用のベンチとトイレを設置してある。歩行者の衛生面とかも忘れてはいない。

 現状はボットンだけど、将来は水洗にするために排水管などの仕込みは終わっている。現状はまだ給水手段が確保できていない。

 地下には緊急避難用のシェルターも確保してある。1kmごとにシェルターに入る階段を設置して、魔物の流入や自然災害時に逃げ込めるようにした。もっとも、完全水没するような事態になったら意味は無いが。

 一般的な大雨程度の水害対策には対応できる排水路も整備済み、そういった細かで重要な設備は、クリフトがいなければ誰も気が付かなかっただろう。

 歩行路の両サイドには、一段下がって馬車専用の車道。

 両方とも、幅4mほど取ってある。大型の荷馬車でも幅は3mを少し超えるくらいだから問題ないだろう。両サイドに分けたのは、一方通行にして往路と復路を分けるように運用するためだ。

 往来が増えたら乗り合い馬車の運行を考えてもいいかもしれない。

 さらに、両車道の外側には幅5mのメンテナンス兼警備用の通行帯を設置。

 開通後は、トラブル回避と魔獣駆除のため定期的に巡回することになる。故障などで動けない馬車が出たときは、迂回路としても使うことになるので少し広めにしてある。

 将来的には魔物除けを設置して安全を確保する予定だが、今は所々にデモンエイプの毛皮を入れた籠を置いて代わりにしている。設置型の魔物除けは高いし大きいし、数も手に入らないのでまだまだ先の話。

 村から40km地点には、街道の周りを大きく切り崩して広場を作ってある。今は工事用の資材置き場だが、街道が完成した後は利用者が宿泊するための設備を建設することになる。80Km地点と120Km地点にも一か所づつ作る予定だ。

 カブロの話から、道が整備されれば森の入り口から村まで4日ほどでたどり着けるだろうという話だった。

 馬車での移動と言っても、長距離の旅では重い荷物や人を乗せて一日中移動し続けられるわけではない。休憩をはさみながらトコトコと、速度という意味では歩行者とさして変わりない。時速にして5~6Kmほどだ。実際、商隊などの護衛は、荷馬車を囲んで徒歩で移動することが多い。

 日の長い夏場なら、休憩をはさみながら、大体50Kmほどは移動できる。

 一応日が短くなった時期や、徒歩の移動者のことを考えて40km毎に宿泊地があれば問題ないだろうと、村から40Km、80Km、120Km地点に宿泊のための広場を建設することになっている。

 この広場の位置については紆余曲折があった。

 30Km毎にして、宿を作って宿泊客から料金を取ったら稼げるのでは?という意見も出た。

 ただ、30Kmだとかなり早く宿泊地についてしまうので、もったいないと先を急いで無理をしかねない。結果、危険や病気、馬車などの故障といったトラブルにつながりかねないと却下された。

 逆に、50Km毎でもいいのでは?との意見には、徒歩の往来がいないとは言えないし、荷物を持っての移動ならやはり無理が来て問題が起こるだろうということで40Kmに落ち着いた。

 途中、10km毎に道幅を広げて休憩できるようにもしてある。こういったルールは入り口の料金所で説明するようにしないといけないだろう。

 宿泊地へ入ろうとする歩行者は、車道を横切らなければならないので事故防止のため歩道橋も作られた。

 冬の雪対策はなかなかに難しいため、冬は往来がほぼなくなる可能性がある。ソリという手段があるそうだけれど、雪対策も考えていく必要がある。

 ようやく折り返し地点だけど、展望は明るい。

 その分現場の雰囲気も明るい。

 夕方には、スロークがマスター特製弁当を積んでバイクでやってくる。

 軽く食事をとってからは、村をゴールにしたレースの開幕だ。

 乗り心地が最悪だと、軽トラの同乗者たちからは非難の嵐だが、ユーシンのランクアップのためにも手は抜けない。ガチのバトルは連日絶賛開催中なのだ。

 とはいえ、距離的にもそろそろ日帰りは難しくなってきている。冬に泊りでの作業も困難なので、やむなく街道整備は中断することになった。

 雪が解けたら、少し先の80km地点の広場に簡単な宿泊所を作る予定になっている。

 アオイが風呂が無きゃヤダとか言ってるけど、とりあえずはスルーだ。

 

 街道整備を中断して程なく、ハンターたちが森で奇妙なものを見つけたと騒ぎになった。

 ハンターから場所の説明を受けて、スロークとユーシン、ユーキが確認に行く。

 そこには4台のバイクと、迷彩柄のリュックが4つ。同じく迷彩柄の大きな箱が一つ。

 「逃走手段のつもりだったんだろうな。」

 スロークがつぶやいた。苦虫を噛み潰したような表情が、彼の感情をうかがわせる。

 とりあえず危険物が無いかを含めてリュックなどを確認する。

 中には、携帯用の魔物除けや魔石、携帯食料などが入っていた。

 バイクはスロークが使っているものと同じ、つまり、迷彩男の能力で作ったものなのだろう。ありがたく利用させてもらうとして、とりあえずはスロークの貯蔵庫に押し込んだ。

 そして、頑丈そうな迷彩柄の箱・・・中には、やはりというかなんというか・・・小銃や拳銃、弾丸が詰まっていた。

 「これ持ってこられてたらやばかったスね。」

 そう言ったのはユーシン。銃弾を全身に受けた経験のある彼は、その恐ろしさもよく知っていた。

 「なんで持ってこなかったんだろう?」

 ユーキが対峙した相手はかなり間の抜けた男だったらしい。そんな男には持たせておいてよさそうにも思える。

 「舐めてたんじゃないっスか?迷彩男の能力で作ったなら、もう作れないじゃないスか。舐めてケチって全滅したんスよ。」

 吐き捨てるように言った。

 真相は土の中。すでに骨になっているので聞きようがないが、的を射ている気がした。

 「とにかくこれは封印だな。プレ・・・ワタリビトが攻めてくることが無い限りしまっておいた方がいいだろう。」

 自分たちで決めたはいいが、まだワタリビトと言うのに若干の違和感がある。

 封印予定の銃器類は、バイク同様スロークの貯蔵庫に放り込まれた。

 戦利品を手に入れた、という高揚感とは程遠いモヤモヤを抱えての帰宅となった。

 村に帰っての報告は夕食後。ソンチョー宅で行われた。

 もちろん参加者はワタリビト全員だ。

 リュックやその中身など、使える物は使って、銃に関しては封印、バイクはとりあえず、経験のあるマスター、クリフトと、原付なら経験ありというマナに渡された。あと1台は興味津々のユーキが練習するようだ。心なしかアオンが不満気だった。

 

 雪が解け始め、移住者の受け入れ態勢も十分整った頃、バラバラになった仲間を捜索に出ていたオーグルたちが、18名のオークたちを引き連れて戻ってきた。 

 ソンチョーの許可を得てから村の中へ。

 7名の兵士が、5名の母親と6名の子供を守って放浪していたそうだ。

 子供が多かったこともあって、捜索を一時中断して戻って来たのだ。

 パラミドとの対面を終えた後、彼らも村に合流することに。というか、元から村に合流するためにやって来た18名だ。

 まずはソンチョーの授業を受けるところから村に慣れていってもらおう。

 数日はオーグルたちも村で休息し、再び仲間の探索へと旅立っていった。

 晩冬の森は危険だ。冬眠から目覚めた、飢えた魔獣が増えてくる。

 春になるのをまったらどうかとソンチョーが声をかけたが、一人でも多く救いたいというオーグルの意思は変わらず、旅立っていった。

 無事仲間とともに戻ってくれることを祈るしかない。

 人々の移住は春から、のはずだったのに、カブロが来訪するたびに数人ずつ入居者が増えている。

 もちろん、事前にソンチョーへ早期入居者がいることの連絡があっての入居だけど、いつの間にか村の中にカブロの商店ができていた。

 マスターの負担軽減のために、先行して酒場と食堂ができるとは聞いていたけど、シレっと自分の店まで開いているあたり、抜け目ない。

 今のところ、魔素抜きはスロークの簡易貯蔵庫で行っている。2倍の速度で時間が経過するので効率が良い。ただ、住民も増えてきたし、この分だと第一貯蔵庫を使わなければ間に合わなくなりそうだ。が、そうなるとなおさらレベル1からやり直しになる転職がしにくくなってくる。

 いっそのこと、蘇生魔法の使えるワタリビトを探した方が早いんじゃないかって思えてきてしまうが、先の件からも簡単にワタリビトを招き寄せるようなことは躊躇われた。

 本当に復活させられるのか?という不安も、スロークの決断を鈍らせていた。

 そんな中、村の中で流行り出したのが、ユーシンのランクアップに向けたレース。を、利用した賭けだった。

 バイクが増えたことで、ユーシン、スロークと、新たにマスター、クリフト、たまにマナが加わって、街道を使ったレースが連日のように行われるようになった。村の入り口から2Kmのところに目印を設置して、そこで折り返しの4kmレース。

 参加台数が多いほどユーシンが獲得するポイントが増えるということで始まったのだが、いつの間にかギャラリーが増え、ハンターたちが賭けだし、職人たちが加わり、それに目を付けたカブロが仕切ろうとしだしたのでソンチョーが慌ててストップをかけた。

 元々ユーシンをランクアップさせるためのレースだ、ランクアップの必要が無くなればやめてしまうし、賭け事は村の娯楽としてはダークな部分もあって、借金など後のトラブルにつながりかねないので面倒だ。治安悪化の原因は早めに対処しておいた方が良い。ということで、ソンチョーから レース賭け禁止令 が発令された。のだが、さすがに不満も出た。なんせ、この村にはまだ娯楽がほとんどない。折衷案で、直接金銭を賭けるのは禁止、数人の仲間内で食事代や飲み代を賭ける程度ならと許可したことで落ち着きを取り戻した。

 やれやれだ。

 なにか、娯楽関係も早めに手を付けないといけなくなってしまった。

 残念なことに、ソンチョーは娯楽関係に明るくない。ポスドクは貧乏暇なし(ソンチョーの実体験からの偏見)なのだ。スロークをはじめゲーマーが、ゲーム・アニメ以外の娯楽に明るいはずも無く・・・。困った問題が浮上してしまった。


 そんな中、ちょうど10レース目に、ついにユーシンのクラッシュレーサーがランク2に上がった。

 ランクが上がると、ランダムで新しい車種が追加される。

 運次第だけど、ランク2で解放可能な5車種のうち、解放されたのはパッカー車、いわゆるゴミ回収の、あれだった。

 残念。

 実のところ、期待していたのはミキサー車かショベルカーだったのだ。

 ミキサー車は、ゲーム中他の車の妨害にセメントをまき散らす攻撃があったので、ひょっとしたらセメントを使えるようになるかも、という期待があったからだ。

 ショベルカーは穴を掘るのに使えるし、土砂などの移動にも役に立つ。

 パッカー車は、ここではあまり使い道が無いような車に思えた。

 が、工事再開前にと始めた機能調査の結果は驚きの高性能だった。

 パッカー車は投入物の圧縮方式で、プレス式、ロータリー式、巻き込み式があるが、フォームチェンジでどのタイプにも対応できたのだ。

 しかも、フォームチェンジで圧縮タイプを交換しても、そこに詰め込んだものは保存されることが分かったのだ。つまり、フォームチェンジを利用すれば一度に3倍の量を運べるってこと。どのタイプでも積載量は10トンと大型なのもいい。

 ただ、軽トラとのチェンジや、パッカー車の使用をやめて格納してしまうと、中身がすべてパッカー車のあった場所に放り出されてしまった。軽トラにチェンジした時などは、軽トラが土砂に埋もれてしまって大変なことになってしまったりもした。

 プレス式は圧縮力が強く、大きなものも粉砕して取り込み、ギュウギュウギチギチに圧縮されてしまうのが難点ではあるけれど、目いっぱい詰め込むとブロック状になって排出されるので取り扱いが楽そうだ。

 ロータリー式は逆に圧縮力が弱く、入れたものがほぼ原形のまま出てくる。

 巻き込み式も圧縮力は弱めだが、ロータリー式よりは強い。長物などは折りながら取り込むため原形をとどめることができない。

 どのタイプも現実の方式を踏襲しつつも若干仕様が異なるが、まぁスキルだし、むしろこの方が利用価値が高いのと受け入れた。

 街道整備が再開したら活躍してくれそうだ。


 クラッシュレーサーのランクアップはまだ必要だし、他の娯楽も思い浮かばない以上、当面はレースが娯楽の頂点になりそうである。

 それならばいっそのこと、村の中にコースを作って、定番でレースを開催してもいいかもしれない。

 村の特産品を賞品にしてイベント化すれば収入になりそうだな。なんて思ったのは一人や二人じゃないようだ。ユーシンがソンチョーに話を持ち掛けると、すでにクリフトとスロークからも言われたと苦笑いされた。

 「本当は車が2~3台ほしいんスよね。クラッシュレーサーは車同士のレースだし。パッカー車の妨害技も相手がバイクだと使えないっスから。」

 ユーシンの話ではパッカー車はゴミをまき散らすという妨害技があるらしい。

 相手はバイクだと大事故になってしまう危険性もあるし、壊れてしまったら直すこともできない。さらには、クラッシュレーサーの醍醐味である建物破壊。これが加われば、もっとポイントを稼げる気がする。というのだ。

 確かに、ゲームに沿った行動程、効果が高まるという実感はある。

 今は無理でも、レース場が現実となって、安全が確保できるなら、ハリボテの家などを障害物にしたレースも人気になるかもしれない。

 結局賭け事頼みかぁ。

 普通の娯楽に明るい人材を熱望。

挿絵(By みてみん)

ユーシンの新車種(パッカー車)イメージ

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