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22:決戦<第一ラウンド>

水曜日と土曜日、16時ごろ更新予定です。

よろしくお願いします。

 デモンエイプの襲撃は、かなり悪い形でやって来た。

 4匹、3匹、3匹、ヒエン集団。4か所からの侵攻。

 広域警戒のおかげで早くから対策をたてられたけど、それでも最悪一歩手前の嫌な戦術だ。

 最初に動いたのはヒエン、おとりだろうから予想はついていた。

 ハンター、ゴブリン、オーク連合に、弓の使える職人たちも加わって、障壁内の安全な場所から対処してもらう。

 対デモンエイプの割り振りはかなりもめたけど、一番西側からの3体にライアーとマナ、北側付近からの3体にはユーシンに当たってもらう。どちらも数で負けているので負担をかけてしまうけど、隠密で自由に動いてもらうスロークにサポートを託したい。

 4匹のグループには自分が対応する。当然反対されたけど、あくまで他の2組の戦闘が終わって駆け付けてもらうまでの時間稼ぎ、デモンエイプはかなり魔法を警戒するから、範囲攻撃魔法が使える自分が最適だと押し切った。

 ユーキ、アオイ、ユーコ、マスターも戦うと息巻いていたけど、諦めてもらった。

 ユーキには、療養(軟禁)中の男を監視してもらっている。どんな力を持っているか分からない以上、実戦経験も豊富なアオン、クマ、ゴン、ユーキの連携で柔軟に対処してもらわなければならない。

 アオイとマスターは、正直デモンエイプの動きについてこれるとは思えない。

 二人が弱いとかではなくて、戦闘パターンがゲームに影響されて単調すぎてしまうためだ。実戦経験も多くはないし、とてもデモンエイプの変幻自在な戦闘スタイルには対応できないだろう。

 ユーコは・・・戦っている姿を全く想像できない。普段の性格を見ても、悲惨な末路しか想像できない。

 とはとても言えないので、3人にはユーキのサポートをしてほしい、村の中で攻撃され始めたら、大変なことになる、ソンチョーやクリフトに何かあったら、全てが無駄になってしまうからと言って説得した。ある意味、これからの戦闘よりよほど困難な戦いだった。

 分かれる直前、各自に秘蔵のポーションを配る。エイルヴァーンのポーションは即効性ではなく、10秒から1分くらいかけて少しずつ回復していくタイプだから、手遅れにならないよう惜しみなく使ってほしい。

 自分は自分で、木の板を張り合わせただけの急造タワーシールドと、カブロ一押しの物を数回強化しただけの剣を持つと、戦場へ歩き出した。

 

 「へぇ、これがデモンエイプか。でっかいなぁ。」

 ライアーは緊張感無くつぶやくと、大きな欠伸をした。

 彼をよく知らなければ、虚勢だとは気が付かないほど見事な大欠伸だ。

 「早くてめんどくさいって言ってた。最短で仕留める。」

 言うが早いか、両肘から輝くブレードを顕現させて、マナが駆け出した。

 3対2、不利な状況を抜け出すには、まずは1匹倒して同数にする。

 瞬きする間に1匹のデモンエイプに肉薄すると、体を回転させブレードでエイプの胸を切り裂いた。

 はずだった。

 間合いも十分、確実にとらえたと思ったが、巨大な猿は難なく交わし、つかみかかってきた。

 「くっ!」

 間一髪、マナの腕ほどもある指を蹴って宙返り、後ろに飛びのくことで身をかわすことに成功した。

 一方ライアーも、もう一匹と交戦に入っていた。

 木々の間を飛び交っての空中戦だが、ライアーの表情には余裕が無い。

 マナをサポートして一匹は確実に、と、飛び込んでいったが、真横からもう一体の、雑に繰り出された

拳を右肩へもろに受けてしまった。

 ダメージもさることながら、殴られるまで接近に全く気が付かなかったことがライアーのプライドを傷つけていた。しかも、最後の一匹は動こうともせずにいる。

 (自分が出るまでも無いってかよ。)

 苛立つ。

 拳を食らった右腕が動かない。

 右腕が動かなければ、ほとんどの技が使えない。渡されたポーションを飲もうにも、エイプはそんな隙を与えてくれなかった。

 紙一重でエイプの攻撃をかわし、打撃を与えていくがダメージになっている様子が無い。タフだとは聞いていたけど、これだけ効果が無いように見えると、なにも通用しないんじゃないかとすら思えてしまう。

 さらに、一撃貰えば即戦闘不能になりかねない威力だ。一手毎に焦りが、恐怖が強くなっていく。

 焦りと恐怖は、マナも同じように感じていた。

 ブレードが当たらない。

 どれだけフェイントを織り交ぜようと、マナのブレードは虚しく空を切る。

 ひじからブレードが出ている以上、リーチは短い。そのかわり剣速は手に持つ剣よりはるかに速いはずなのに、ことごとく躱されてしまう。

 聞いていたデモンエイプの速さではない。これが本来の速さなのか、それとも、別の何かがあるのだろうか?

 動かないもう一体も気にかかる。

 その一体の動きひとつで、あっという間に戦況が瓦解しかねない。

 まさに、薄氷の上で戦っているような状態になってしまっていた。

 (このままじゃいけない。)

 マナは、覚悟を決めた。

 今目の前にいる一体だけに集中する。後のことも周りのことも考えない。

 捕まることも覚悟して、一息に肉薄すると回転、渾身の力を込めてブレードを叩き込んだ。

 ギィアグァア!

 胸から鮮血をまき散らすエイプ。

 マナの左ひじからブレードが消え、右ひじのブレードが厚く、長くなっていた。

 ブレードにエネルギーを纏わせて巨大化させるメガブレードという技だ。

 ゲームだと両ひじのブレードは物質だが、ここではエネルギーの塊に変換されているため、メガブレードを使うとエネルギー不足に陥る。その結果、左のブレードが消えてしまい効果が続く一分間は復活しないし、消耗も大きい。

 いまいち使いにくい技だったが、急に間合いが伸びたことでエイプの不意をつくことができた。

 致命傷には程遠いが、確実に深手を与えられたことは間違いない。

 エイプが持ち直す前に、畳み込むように連撃を加える。

 ブレードが片腕になってしまった分、手数は減ってしまったが、思わぬ深手に慌てるエイプを確実に追い詰めていく。

 (あと一手・・・。)

 必殺の一撃を決めようとした瞬間、左肩に激しい痛みを感じて最高のチャンスを逃してしまった。

 何が起こったのかわからぬまま、エイプとの距離を取って。安全圏へ。

 技の効果が消え左ひじにブレードが戻ったが、指を動かすだけでも激痛が走る。

 (左肩は…出血はしてない。これは、土?)

 ためらわずにポーションを飲んだ。痛みは和らいだが、動かせるようになるには少しかかりそうだ。説明では、時間をかけて回復していくタイプで、最大効果まで1分かかると聞いていた。

 ポーションの瓶を捨てると同時に、隣の木が爆発した。ように感じた。

 (あいつ、土を投げてるの?)

 爆発したように感じた木は半分ほども削られ、土が散乱していた。ただの土で肩を砕き、木を削った。恐ろしいほどの威力だ。

 メキメキと音を立てて倒れ、別の木に引っかかって止まった。

 (もうちょっとくらい待っててよ。)

 やっと見えた勝機が、遠い彼方に去ってしまった。

 

 エイプの悲鳴が聞こえた。

 (さすがマナちゃん、しっかりやってるね。)

 マナを気にする余裕もないまま空中戦を繰り広げるライアーは、素直に賞賛を、そして悔しさを感じた。

 (くそ、なんてザマだよ。みっともない。)

 初撃で勝ち筋をつぶしてしまった自分が不甲斐なくて仕方がない。

 (世界3位が聞いてあきれる。こんなやつ、あいつに比べたらずっと荒いしテキトーだし…。)

 ふと、一度も勝つことができなかった、不動の世界一位との対戦を思い出した。

 一度でも隙を作ると、防御以外何もさせてもらえずにHPを削られて敗北を待つだけになる。あいつに比べたら、なんと稚拙な動きか。

 楽しかった。

 結局一ラウンドも取れなかったけど、あいつとの対戦はいつもヒリヒリとした緊張がたまらなく楽しかった。

 こんな猿に殺られそうになってる場合じゃないね。

 エイプの拳が襲いかかり、もろに食らったライアーは弾き飛ばされた。

 ライバルとの対戦を思い出すことで、焦りと恐怖を追い払うことに成功したライアーは、エイプの攻撃をあえて受けることで距離を取ることに成功した。

 さっきと違って、左腕でしっかりとガードし、さらに打撃の方向に合わせるように飛びのくことでダメージを相殺した。0.1秒でもタイミングがズレれば、左腕も失ったであろう攻防に勝ったことで、ライアーは確信した。

 (こいつ、意外と大したことないな。)

 もちろんそんなわけはないのだが、さっきまでの絶望感がすっかり消えた。

 (ポーション苦!)

 右腕が復活すれば、いよいよ反撃開始だ。

 と思った瞬間、何かが爆発するような音が響いた。

 続けてメキメキと木が倒れる音が。

 そして、ライアーは悟った。二人だけじゃなかったんだと。

 何かを投げつけたエイプは数か所が切られていて血を滴らせていた。

 (さすがスロークさんだ。)

 姿は見えないが、近くで援護していてくれていることを知り、俄然やる気が出てきた。

 (かっこ悪いままじゃいられないよね。)

 「反撃開始だよ。おサルさん。」

 右腕が復活したライアーが、エイプに向かって、木を蹴った。


 スロークは後悔していた。

 デモンエイプの実力を見誤っていたのだ。

 あの時のエイプとは比べ物にならないくらい強い。

 ライアーとマナなら、3対2でも問題なく対処できる、自分は隙を見てサポートすれば十分と、スローク本人は3対1となっているユーシンのもとに赴き、暗殺者のスキル”分体”で二人のサポートに来ていたのだ。

 分体はいわば、自分の分身を作るようなもの、能力は半分になってしまうが、スキルは本体同様に使えるし、判断力などは本体と全く同じだ。本体も能力が2/3になってしまうが、問題ないと判断してしまった。

 結果、3体目のエイプをくぎ付けにすることが精いっぱいで、とても二人のサポートまで手が回らなかった。

 姿をさらせば、分体のスロークでは全く歯が立たない。存在を匂わせて、仲間の援護をさせないようにすることに全力を尽くしたが、突然マナと対峙していたエイプの上げた絶叫で、一瞬の隙ができてしまった。

 (しまった!)

 地面の土をつかむエイプ、次の瞬間、マナめがけて投げつけていた。

 2射目を投げつけようとするエイプに切り付け、狙いを外させることに成功したものの、土の破壊力をまざまざと見せつけられることになった。

 メキメキ、と木が倒れていく。

 別の木に引っかかって倒壊まではしなかったが、ただの土だというのにとんでもない威力だ。

 そして、姿を消しているとはいえ、これで完全に存在を気取られることになってしまった。

 分体は殺されても、本体は残る。しかし、分体を作ったことで減衰した能力が戻るのには数日かかってしまう。生きたまま本体に合流、合体しなければならない。

 二人がエイプを倒すまで、エイプに弱体化を悟られることなく、殺されずに援護もさせない、という厄介な作業を受け持たなければならなくなった。


 ユーシンは疲労の極みだった。

 いきなりの4コンボ+必殺技"フルスイング"で1匹を瞬殺し、調子に乗ってしまった。

 少しでも早くシンの元へ、という思いが強すぎた。 

 大技を連発したが、逃げに徹したエイプには当たらない。

 程なく息が切れ、途端に、鉄で中身までミッチリ詰まったバットが重く感じられてきた。

 このミッチリバットだからこそ、とてつもない破壊力で一匹を瞬殺できたわけだが、スタミナが尽きた途端に重い枷になってしまった。

 かといって、バールでは通じない。おそらく本物の金属バットでも、瞬殺できるような威力は出せなかっただろう。なんといっても、以前戦った個体よりもかなり強そうだ。つまり、勝ちを急いで相手の実力を見誤り、大技連発した自分のミスだ。

 おそらく、スロークもいてくれている。もう一匹が動かないのは、おそらくそういうことだ。

 (分身を作れるって聞いたことがあるけど、できればシンさんの元へ行っていてくれればいいスけど。でも、スロークさんならライアー達の方かな。)

 初めての仲間であり最も長く苦楽を共にしたシンは、ユーシンにとって特別な存在、見た目は同年代だが、兄や父親のように思っていた。

 だからこそ、たった一人で4匹を相手にしているシンのことが心配だった。

 でも、スロークのこともよく知っている。

 彼なら、まずデモンエイプと対戦経験の無い二人のサポートに向かったはずだ。次に勝率の高い自分だろう。時間稼ぎに徹すると宣言したシンを信頼しているからこそ、他を早く終わらせて駆けつける、という手段に出るだろう。

 だからこそ、一刻も早く決着をつけたかった。

 とにかく今は息を整える。

 (わりぃっス、シンさん、ちょっと時間かかっちまいまス。)

 とたん、ユーシンの疲労を見透かしたようにエイプの攻撃が始まった。

 つい今しがたまで逃げることばかりだったエイプが、機動力を捨てて滅多矢鱈に殴り、かみつき、蹴ってきた。

 防御するバットが1撃ごとに重くなり、とうとう持ち上げることすらできなくなると。ついにエイプの拳に捕まった。

 拳と木に挟まれ、背の木がなぎ倒される。

 膝からくずおれ、派手に血を吐いた。かろうじてバットで支えて倒れることだけは防いだものの、もう体は動かない。

 (くそ!なんでいつも俺は…。)

 飛びそうになる意識を必死につなぎとめて、エイプをにらみつけた。

 

 スロークは大きな違和感を感じていた。

 彼が動きを封じているはずのエイプは、実は自分なんて歯牙にもかけていないのではないか?と。

 姿を消しながら、エイプの意識を引くために気配を感じさせると、確かに反応するが、どことなく嘘くさい。ユーシンが最初の一匹を瞬殺した時も、無反応だった。

 まるで、ユーシンとエイプ2匹の戦いなど、ただの見世物だとでもいうような態度で、援護しようというそぶりすら見せない。

 本当にこいつはデモンエイプなのか?そんな漠然とした不安が、スロークを動けなくさせていた。

 ユーシンが苦戦している、それはわかっても、動けなかった。

 逆なんだ。

 自分がエイプを押さえつけているんじゃない。

 エイプが、自分を押さえつけているんだ。

 余計なことはするなと。

 お前などいつでも殺せると。

 ユーシンを見殺しにしてしまう。

 それでも動けないのは、自分が動けば確実に殺されるという、圧倒的強者からの威圧。自分が死ねば、分体も消滅する。ライアーたちの負担を増やしてしまうし、ユーシンが生き残る道も途絶えてしまう。

 そんなのは言い訳だ。今動かなければユーシンは死ぬ。頭ではわかっていても、指一本動かせないまま時間だけが過ぎていく。

 こいつはデモンエイプじゃない。

 それだけは間違いないと言える。

 ならどうすればいい。

 全力でも遠く及ばぬ相手に、弱体化している自分で何ができるのか。

 (それもいいわけだな。)

 何で読んだかも忘れたけれど、心に残っていた言葉を思い出した。

 「戦士が戦場に立つとき、その時、その瞬間こそがベスト・コンディションだ。」

 たとえ腕を失っていようと、高熱にうなされようと、命を懸けて立つと決めた瞬間、それ以上のコンディションなんてあり得ない。たら、ればは最悪の言い訳だ。

 だから、弱体化がなんだ。今、この瞬間が自分のベストだ。

 スロークは隠密を解いた。

 いるのは知っていた、とでもいうかのように、デモンエイプの姿をした何かが、邪悪な笑みを浮かべて振り向いた。

 

 シンは意外と落ち着いていた。

 デモンエイプは魔法を警戒するから、範囲魔法と高威力の単体魔法を混ぜて使いながら時間を稼ぐから問題ないと大口をたたいたけど、実は本当にそうなるなどとは、かけらも思っていない。

 なんせ、前のエイプは権力闘争に敗れて逃げ出した、いわば弱者だ。

 しかも今回は、プレイヤーが関わっている可能性が高い。強化されている可能性があるってことだ。

 4匹のデモンエイプが目の前にいても、意外なほど冷静でいられる。自分も随分と図太くなったものだ。

 自分がこのポジションを選んだ理由は、プレイヤーがいる可能性が高いからだ。

 自分とスロークの例があるように、敵のプレイヤーもマジモンをやっていた可能性が無いとは言えない。

 そうだとすると、プレイヤー自身は戦闘力に乏しい可能性がある。なら、最も戦力をそろえて自分を守るはずだ。

 ただの予想なので外れるかもしれないけど、だとしてもここにいる可能性がわずかでもあるなら、ここを選ばない訳にはいかない。

 確認しないといけないことがある。

 目的は何なのか。

 迷彩服の男と関係はあるのか。

 そして、最も重要なこと。

 なぜ狂ったのか。

 自分達と同じ境遇の仲間であるプレイヤーの命を、レベルアップのためだなんて理由で簡単に奪えるはずがない。理性というタガを外したものが何なのか、知らなければならない。

 急造のタワーシールドを自分の前に立て、寄りかかるように腕をかけた。

 「始める前に聞いておきたいんだけど、君たちはひょっとして、迷彩服着たFPS男のお友達かな?」

 と、日本語で、大きな声で呼びかけた。

 「お友達と来たか。ちょっとは緊張感持てよな。」

 姿は現さず、声だけが帰ってきた。

 "君たち"を否定しないってことは、やっぱり他にもいるね。ってか、あいつも仲間だね。いちおうユーキ達に頼んだけど、最悪のケースだけはハズレてくれるといいな。

 「いきなり襲って来たんでね、名前すら知らないんだ。こっちも二人死にかけたんで殺したけど。一応正当防衛を主張させてもらうからね。」

 本当は一人だけど、シールドが間に合わなければソンチョーも死んでいたんだし、水増し請求してやる。

 「やっぱりかよ。いい狩場見つけたから偵察してくるなんて抜かしやがって。抜け駆けしようとしたか。それで返り討ちって、やっぱ抜け作だな。」

 ご説明アザッス。

 「4~5匹やったくらいで強くなった気でいやがるんだから、話になんねぇだろ?プレイヤースキルを上げろってあれだけ言ってやったのによお。」

 人じゃなく匹か・・・やっぱりかぁ、困ったな。

 「君たちはそれをどうやって知ったの?クソ悪魔は隠そうとしてたっぽいけど。」

 「なんだよ、知ってんのかよ。最後にバラしてやるのが楽しかったのによ。ってか、聖都に行ったんじゃねぇの?行かねぇでどうやって知ったんだよ。そっちの方がショーゲキなんだけど。」

 聖都?

 大陸中央、リンデール聖王国の都、聖都リムヴァ。魔物を敵対視する宗教国家。行きたくないな。

 聖都を囲むように退魔結界が張られ、魔物が入ろうとするとはじかれる。

 膨大な魔力を消費するためと言って、多額のお布施を要求する胡散臭い街。

 かつて人に擬態する魔物が暴れまくったそうで、対策のためとされている。と"常識"さんが教えてくれた。

 二度言うけど、胡散臭いよね。

 なるほど。

 そこではじかれたのか。

 「復讐って、そういうこと?宗教国相手に、無茶するねぇ。」

 「んなことまで言ったのかよ。みっともねぇ。復讐とかぬかしてたのはヤツだけだよ。この世界の間抜けども従えて、意気揚々と聖都に入ろうとしたらはじかれたそうだよ。魔物の手先ってんで、手下どもみんな処刑で、逃げられた奴だけ生き残ったんだそうだ。」

 そうか、彼の場合は殺された手下の復讐のため、って方が大きそうだな。親友、恋人的な相手でもいたかな?

 「それでレベル上げるためにプレイヤーキラーって、本末転倒じゃない。」

 「いいじゃねぇか、どうせ化け物同士なんだ。醜く殺しあえばいいんだよ。だいたいこれ、ゲームだろ?ここで死んでも向こうじゃ普通に生きてるわけだしよ。」

 え?そういう風にとらえるの?

 あぁ、自分の考えのなんと浅はかだったことか。

 向こうにいるのが本体なら、ここでの自分が死んでも、自分が死んだことにはならない。だから何をやってもいい。そういう理屈か?

 いや、ちょっと違うな。たぶん、もっと単純だ。本体が向こうにいるなら、自分は何なのか。しかも、自分が魔物だと知ったことで、自分が保てなくなったか?

 いわば最上級の自暴自棄。

 ひどい話だ。

 勘違いも甚だしい。

 タワーシールドで隠れるように、マジックミサイルを準備、3倍化まで集中する。

 「ひとつ言っておきたいんだけど。自分たちは魔物じゃないよ。」

 「は?」

 「迷彩男の遺体は焼いて葬ったけど、魔石が出なかった。たぶん、君たちが殺してきたプレイヤーからも出てないはずだけど。」

 返事は無い。姿を見せていないから反応が見れないけど、集中する時間を稼ぐためなので続ける。

 「たしかに、この世界に生まれるシステムは、人よりも魔物の起源に近いかもしれないけど、魔物じゃぁないんだ。」

 「じゃぁなんで、聖都は俺たちを拒絶した!魔物だからだろう。」

 やっぱり、彼もはじかれていたんだ。

 「単純に、魔力や魔素の保有量で計っているだけさ。あの宗教では、宗教上の理由とかで魔法使いは邪教徒、存在を認められなくなったんだ。聖都に結界が張られる直前にね。つまり、魔力の高い人間もはじいてしまうからごまかすために付け加えたのさ。」

 実際に魔法使いが邪教扱いされたのがいつからかは知らないからハッタリだけど、創設当初魔法使いが邪教扱いされていなかったことだけは"常識"さんが知っていた。

 「それ以外にどうやって判断する?魔石の有無なら、君たちははじかれることは無かった。魔物も人と同じ、ほどんどが親から生まれる、魔素だまりから発生することなんてほとんどない。そもそも生まれの違いなんて、判別しようがないしね。じゃぁ、どうやって魔物か人か判別するんだい?この世界の魔法は非常に未熟だ。人と魔物の判別なんて、そんなたいそうなことはできないんだよ。」

 ゴブリンたちと暮らすようになってから、人や動物と魔物の違いが何なのか、魔石以外に何がわけているのかを考えたことがある。結果、魔石以外に何もないと結論付けたんだ。

 魔物たちは、無意味に人間を襲わない。なわばりを守るためだったり、食べるためだったり、生き残るためだったり。

 ゴブリンたちも、武具を奪うために人間を襲うが、自分達では作れないから奪う、という理由があった。

 作れないのは、圧倒的弱者であったからだ。武具を作れるほど発展することができずに、魔物や人間達に殺されてゆく。結果、原始的なまま発展できず、生き残るためには武具が必要で、ならば武具を作り、自分達でも倒せる可能性が高く、自分たちを殺す人間から奪う、という発想につながっていった。

 魔物だからという理由だけで殺す人間の方がよほど魔物と言えるのではないか?

 だからこそ、魔物だけを判別して正確にはじく巨大な結界があるなんて、ちょっと信じられない。

 ソンチョーの村システムだって、障壁が判断しているのは体内の魔石の有無と、意識があること、ソンチョーの許可があるかどうか、の3点だ。だから魔石だけなら素通りできるし、意識を失った状態なら生きていても入ることができる。

 「自分たちは、犠牲者の魂と魔素によって体をつくられた。でも人だよ。若干魔物寄りかもしれないけど、人なんだよ。それに、この世界で自分たちが死んでも向こうで死なないなんて、あのクソ悪魔は言ってないぞ。」

 「は?何言ってんだよ。俺たちはかけらだぞ。向こうとは切り離されてここに拉致られたんだろうが!」

 「思い出せよ。奴はこう言ったんだ。

   向こうでは、そのまま、これまで通りの生活をしている。

   魂のほんの一部、かけらにすぎない。

   家族にも、仕事にも何の問題もないから安心しろ。

奴が言ったのはこれだけだ。あの、白い部屋時点では普通に生活しているって言っていただけだ。こっちで死んでも向こうは無事だなんて言ってない。こっちで死ねば、魂の片割れである向こうでも死ぬんだよ。」

 これはかなり強引なデマカセだけど、まんざら嘘とも言い切れない気がしている。あいつのことだからいろいろ隠したり胡麻化していそうだ。とりあえず今は、動揺してくれて時間が稼げればいい。

 「うそだ、そんわけがねぇ。」

 ギリ聞き取れる程度の声。うん、動揺してくれてるね。おかげで狙いをつける時間も稼げそうだ。

 しばらくブツブツと、何かつぶやいていたようだけど聞き取れなかった。

 知りたいことは知れたし、後はみんなが来るまで時間稼げればいいので静観、襲ってくるならマジックミサイルの洗礼だ。

 「そうだ・・・。」

 ブツブツと言っていたつぶやきが途切れた。

 「奴を締め上げて吐かせればいいんだ・・・。」

 ん?やばい方向に考え出してる?

 「そうだよ。あいつならできるはずだ・・・そのためには・・・。」

 一気に緊張感が高まる。

 「力をつけないとなぁ。殺れ!」

 はぁ、そういう結論になるんじゃないかとは思ったけど、早すぎでしょ。

 もっとこう、考えなきゃ。

 短慮ではオッサンにはかないませんよ。

 年上だったらごめん。

 タワーシールドを手前に倒すと、すでに準備万端のマジックミサイルを、迫りくる巨大な猿たちに放った。

 十分すぎるほどの時間があったおかげで、狙いもばっちり、近かった2匹の心臓を正確に貫いた。

 少し遅れた1匹は心臓を外れたけど、2本が胸に当たり致命傷だろう。最後の1匹は外してしまったけど、声の主は動かず。ってことは、戦闘力無い系かも。不意打ちはもう通用しないだろうけど、最上の上を行く結果だ。

 これで勝ちの目が見えてきたな。

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