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21:会議

水曜日と土曜日、16時ごろ更新予定です。

よろしくお願いします。

 深夜、営業後の食堂に集まった12名。

 村代表としてソンチョー、スローク、ユーシン自分。

 ハンター代表としてマルク、ルッツ。

 職人代表でギリョウ、リュカ。

 ゴブリン代表でンダバ、ハゾル、ガダゾ、ガラド。

 そして、ユーキの馬車でやって来たオーク6人。

 大けがで運び込まれて、今も昏睡のままのオークがオーグル、グラン族の姫、パラミドの親衛隊長だったそうだ。

 そして彼の守護対象パラミド、お付きのパナ、パト、護衛のオベル、オリク、オギトの7名が、今回訪れているオークだ。護衛の3人も大けがを負っていたが、昏睡のままのオーグルに変わって姫の警護を、と言って参加している。無理してるようにしか見えないんだけどな。

 そうそう、ソンチョーの村、というか結界に、新たな問題が見つかった。許可されていない魔物でも、意識が無ければ入れてしまう。まだオークが目を覚まさないから、意識が戻った後どうなるかは分からない。

 そこら辺は今後注意していく必要がある。

 で、話し合うのはもちろん彼らオークについてだ。

 スロークからザックリとは聞いているけど、あらためて詳しく経緯を聞く。

 「街道の整備をしているときに、彼ら4人が武器を構えたまま飛び出し、攻撃してきました。すでにかなりのケガを負っていましたが、攻撃された以上反撃したのですが、デモンエイプの毛皮を魔物除けに所持していたにもかかわらず襲い掛かってきたこと、元々かなりのケガを負っていたこと、他に3名が隠れていたことから、殺さずに取り押さえました。」

 うん、オークからすれば圧倒的上位のデモンエイプだ。臭いで存在を感知すれば、普通なら近づきはしない。だいぶ時間がたったとはいえ、魔物除けの効果はまだ健在だった。

 隠れていても警戒使ってれば、丸わかりだしね。何かあるのではと判断したようだ。

 すぐに隠れていた3人が飛び出してきて、助命と謝罪をしてきたという。

 彼らはグラン族というオークの部族で、村より5日ほど奥に入った地で200を超える大部族として暮らしてきた。それが突然、10匹のデモンエイプが襲来。絶望的な戦況の中、彼らは姫を逃がすため脱出、以後の部族の状況は分からないという。

 森に生息する魔物から姫を守りつつたどり着いたが、デモンエイプの臭いを感知してしまった。

 すでに重傷を負っていたオーグルが、ここが死に場所と飛び出し、護衛3人も続いた、ということ。

 なるほど、魔物除けが逆効果になっちゃったのね。

 「でも飛び出した先にいたのは人間だよ。なんでそのまま襲い掛かったの?」

 もっともなご意見です。ぜひお聞きしたい。

 「デモンエイプの中に、人間もいたのです。」

 ほへ?

 パラミドは確かに、襲い掛かって来たデモンオークの一体と話す人間を見たという。

 デモンオークのにおいの原因が毛皮だとは思いもせず、てっきり、ユーシン達も仲間だと思い込んでしまったんだそうだ。

 そう言うと、パラミドは両ひざをついて、両掌を上に向けた状態で前に差し出し、深々と頭を下げ謝意を伝えて来た。

 それに従うように他のオークも続く。

 ゴブリンとはちょっと違うけど、手のひらを上に向けるのは同じなんだな。

 ちょっとというか、かなりまずいことになって来たな。

 ヒエンはデモンエイプにとっては使い走りのような存在らしい。とは"常識"さんからの新情報。

 普段ヒエンはデモンエイプから逃げるように生活しているけど、一度出会ってしまうと決して逆らえないらしい。

 ってことは、今日のヒエンたちの異常行動もデモンエイプがらみ。っていうか、たぶんプレイヤーがらみなんだろうなぁ。

 そのヒエンの異常行動についても報告した。

 もちろんマルクたちもいるのでヒエンが100匹超だとか、殲滅したとかは伏せたけど。

 10匹のデモンエイプをテイムしたか、強い個体をテイムして、残り9体を従わせているか。どっちにしろ厄介だし、ヒエンも参加してくる可能性がある。

 危機感は共有した方がいい。

 すでにデモンエイプッて段階で、この世界の人間にどうこうできる問題ではない。

 重い沈黙が続く中、ギリョウがそれを破った。

 「しかしな、オークの集落は5日も離れた場所なんだろ?ここまでは影響ないんじゃないか?」

 「おう、そうだな、だいぶ離れとるだろう。」

 リュカも同調した。

 安心したい気持ちはわかる。

 他の魔物ならそれも言えただろう。

 「伝聞だが、デモンエイプは恐ろしいほど狡猾で執念深いそうだ。このオークたちが村の近くまで来た段階で村のことは知られている可能性が高いな。」

 ルッツがギリョウの言葉を否定した。

 それは、もしあの時オークたちを殺してしまっていたとしても結果は同じだとも含んだ言い方だった。

 「人間が絡んでるってもの腑に落ちないな。ユーキ君みたいな力があって、デモンエイプを操ってるってことか? それともこの村の魔物たちみたいに、特殊個体が人間を頼った?いや、さすがにないか。」

 沈黙していたマルクが疑問を投げかけた。

 彼らはプレイヤーのことを知らない。スキルのことも。

 だからこそ理解できない。デモンエイプが人間と会話なんて。

 「村の中に許可しない魔物は入れない。そのことは変わりありません。ただ、籠城戦となるとどれほどかかるかわからないし、知らずにやってきたカブロさんたちが被害にあう可能性もある。あと、外から何かを投げつけられた場合に村の中に被害が出てしまう可能性も捨てきれません。なにかしらの対応は必要だと思います。」

 ソンチョーの発案で、いったん戻ってそれぞれ話し合い、翌日もう一度会合を開くことになった。退去するなら一刻も早い方がいい。

 念のため、できる限り食堂で過ごしてもらうことを一緒に伝えた。

 住人たちが食堂を出てしばらくすると、アオイやクリフト、ユーキ達プレイヤー一同と従魔達が入ってきた。

 「クソ猿が群れでとかって、やってらんないっスね。」

 腕を組み、珍しく神妙な顔をするユーシン。

 苦い思い出のある相手、さすがのユーシンも慎重にならざるおえないようだ。

 「僕たちと同じ存在だとすると、目的は何だろう? やっぱり、あいつと同じなのかな。」

 うつむいたままユーキがつぶやいた。

 奴と同じなら、また殺すことになるのか。

 知らない6人にも、あの事件のことは伝えてある。

 自分が殺したことも。

 反応は思いもかけず、悪くなかった。

 意外過ぎるほどにすんなりと受け入れられてしまったので、こちらが悩んでしまったほどだ。

 「おじーちゃんが悪い人のわけないじゃない。」

 アオイの一言に救われた気がした。おじーちゃん呼びは許さないけどね!アラフィフはおじーちゃんじゃないから!

 最近、ゴブリンの子供たちにまで、おじーちゃん呼びする子が出始めている。一刻も早く辞めさせねば。

 と、そんなことは置いといて、これからはプレイヤー同士で話し合いだ。

 「しかし、デモンエイプ10匹か・・・。バラけたところを1匹ずつ、ってわけにもいかないだろうね。奴らの速さなら、すぐに駆けつけてくる。」

 「できれば集団で対応したいところだな。そうなれば自分の暗殺術も生きるし、互いにサポートしあえる。」

 現状、他者に回復魔法を使えるのは自分だけなのでスロークの言う通り、団体同士で戦った方が勝率は高くなると思う。弱点をカバーしあえるのは大きなアドバンテージだ。

 「シンさん、俺の武器、今までのバールで慣れてたし、気にいっちゃぁいるんスけど、本来キャラの持ってた武器って、バットなんすよ。無理だとは思うんスけど、作ってもらうことって、可能ですかね?」

 「バットかぁ・・・正直持ったことすらないんだよね。球技全般苦手で。ざっくりした形はわかるけど、期待に沿えるかわからないよ。できれば、うぃきネットで寸法とか調べたいな。」

 先日勝ち得たうぃきネットは、高額になるので使う前にみんなに相談してから、という暗黙のルールが出来上がっている。

 「いいと思うよ。それでユーシンが強くなれるなら、村のためにも必要だよ。」

 というソンチョーの発言通り、全会一致で許可が出た。気合を入れて作りましょう。

 集団戦になった場合の役回りなどを決めていく。

 村ギリギリの位置で戦うことが重要。大きなダメージを受けたときは即村の中へ、障壁内に逃げ込んで治療。

 今回は秘蔵のポーションを投入する。この世界では使うことをはばかられる超高級品扱いのポーションだ。ゲームじゃただの初級ポーションだから、おなかタプタプにならないと効果がいまいちかもしれないけど。自分が回復中心に動くと火力に不安が出てしまうので、回復はポーション頼みだ。本当にやばいときは、スローク提供のハイポーションとエクストラポーション。

 攻撃の要はユーシン、ライアー、マナ、アオンだ。自分は攻撃しつつ補助も掛け持ち、スロークは隠密で隠れながら、隙を見て暗殺で確実に仕留めて行ってもらう。

 ユーコは戦ってるところを見たことが無いけど、キャラクターの速さを生かしてかく乱役、本人もやる気なので多分大丈夫。無理はしないように。

 アオイもやる気十分なのだけど、アスクラの戦闘スタイルが・・・デモンエイプにはとてもついてこれそうにないので、主にサポート役として、マスターや従魔達とでついてもらうことにした。

 ユーキ、ゴンも障壁内でサポート役、クマはユーキのボディガードだ。

 問題は、バラけてやってきた場合だ。

 バラけたなら余計、集団で確実に各個撃破すればいい、と思えない問題がある。

 なんせ、相手にはプレイヤーが絡んでいる可能性が高い。どんなからめ手で来るかわからない。

 さらに懸念が一つ。この障壁、もし魔物が故意に障壁に攻撃を加えた場合、ソンチョーに何かしらの影響が出ないとも限らないからだ。ユーシンの軽トラのように、普段なんでもなく使っていることでも、過負荷がかかった場合に突然意識を失うなど起こりえる。

 以前、スロークを追いかけて障壁にぶつかったホーンボアとは格が違う上に10匹だ。自由にさせるのは危険だ。

 そうなったときは、かなりムチャでも戦う人を厳選して、最悪の場合村を放棄して脱出することも念頭に置かなけえばならない。少しでも不向きと思えるメンバーはその時の護衛として、ソンチョーたちと行動を共にしてもらわなければ。

 みどり村には、どうしても行き詰った時用の救済策、「村を破棄する」コマンドがある。すべてを失う代わりに、新たな土地で村をやり直すことができるコマンドだ。ソンチョーにはいざとなったらためらわずに使ってもらいたい。

 厳選メンバーは相手の出方次第で、ということで、スロークと自分は常に広域警戒でデモンエイプの動向を探ることになり、この日は解散となった。


 翌日は朝早くからバットづくり。金属バット、というとアルミだろうけど、無いので鉄で。頑丈な方がいいだろうと中までみっちり鉄で作ったら、重くてとても持ち上がらなかった。当然か。

 とりあえず、形状だけでも見てもらおうとユーシンに見せたら、ブンブン軽快に振っていた。マジですか。

 ゲーム補正恐るべし。

 形がそれっぽければOKってことかね。

 「なぁ~んでこうなるの~!」

 隣で剣を作っていたアオイの嘆きが聞こえる。

 チラリと見ると、ギザギザの剣が。

 まぁ、アスクラで出てくる装備もカクカクギザギザ、極小サイズのドット絵を拡大したような造形だったしね。それよりはまっすぐだと思うよ。うん。

 「あ~、フランベルジュみたいでいいんじゃない?」

 一応フォローしてあげよう。

 「なにそれ?」

 あ、知らないか。

 「波打った刀身が炎のようだってつけられたフランスの剣、だったかな?切り口がえぐいことになるらしいよ。」

 「えぇ~、スパッと切れる剣がいい~。」

 まぁ、3本目にしてだいぶカクカクが滑らかになって来たから、そのうち作れるさ。

 しかし不思議だ。

 ここの炉は鉄をドロドロに溶かせるので、糊を混ぜた砂で金型を作って流しいれ、冷えて固まってきたら型を壊して叩いて微調整、そして刃先を研ぐ。いわゆる鋳造法で作っている。わけだけど、どうやったらこんな形になるんだろう。

 もちろん、最初は正攻法、赤くなる程度に熱した鉄をたたいて伸ばして成形する鍛造で作ったんだけどね。見事というしかないほど、ギザギザカクカクの剣ができた。

 なので、失敗しようがないという理由で鋳造にしたんだけど…。

 なんでこうなるかね。

 不思議パワーが働いているとしか思えない。

 ゲーム補正が悪い方に働いてるな。

 「こんなんじゃ、日本刀なんて無理だなぁ。」

 「ん?日本刀に興味あるの?」

 意外。そういうのは興味無さそうだったけど。

 「え、興味って程じゃないけどね。その、なんかさ、きれいじゃない?」

 ?

 ちょっと引っかかるけど、まぁいいか。どうせ無理そうだし。

 本物作ろうとしたら鍛造でちゃんとできるようにならないとね。

 こっちはこっちで、宿題が終わったから警戒に戻るか。できればあと2~3日は猶予が欲しいけどな。

 自分の剣がグレートベア戦よりだいぶランクが下がってしまったけど、一応カブロ一押しの物に強化を数回施してあるので、以前のデモンエイプ戦よりはマシなはずだ。できればもうちょっと強化したいけど、警戒の負担をスロークに押し付けっぱなしは良くない。

 食事後の会議まで村の周辺を巡回して回った。

 村の西側に多数の反応。

 う~ん、動きは無いけど、これってやっぱり、ヒエンだよな。デモンエイプのパシリって話だし。

 100どころじゃないぞ。

 あからさまに密集してるのはおとりっぽいなぁ。

 ってことはエイプが来るのは東?いやいや、決めつけは良くないか。

 他に異常が見られないだけに、今日襲撃ってことは無いんじゃないかな。

 と、思いたい。

 食事後の会議には、代表のみ出席のゴブリン以外全員が集まった。

 回復したオーグルも参加。かなり無理してるだろうに、それを全く感じさせない。

 理解はできないけど、アイドルの追っかけとかではない本物の親衛隊とかって、そういうものなんだな。と感心してしまう。

 会議は、現状の報告から始まった。

 注目となったのは、ヒエンと思われる集団。

 「やはりデモンエイプの配下になっているってことだな。」

 「群全体なら100を超えるのも珍しくないが、人里近くで固まってるなんてありえんからのう。」

 「10や20ならなんとかなるが、さすがに100とは、想像もつかんわい。」

 ハンターやたちの反応は重い。

 そうだよね。いや、何となく想像は付いていたけど、やっぱり、脱出するなら早い方がいい。

 非戦闘員も多いことだし、できれば脱出の護衛を引き受けてくれるといいんだけど。

 「障壁の内側から弓や投石で地道に数を減らすしかあるまい。」

 「え?」

 思わず声が出てしまった。しかも、ソンチョーと見事なハモリ付きで。

 ハンターたちが一斉にソンチョーと自分に視線を移した。

 「あ、いえ、まさか戦ってくれるとは思いもしなかったので。皆さんには、脱出される方達の護衛をお願いできればと思っていたんですが。」

 以下同文でっす。とばかりに首を縦に振った。

 「ソンチョーの頼みなら仕方ないが、脱出するやつなんているのか?」

 マルクの問に声を上げるものはいなかった。

 「ここはもう、俺らの村だ。なら守るのは当たり前だろうが。」

 ギリョウがソンチョーの背中をバシッと叩いて拳を上げると、鬨の声を上げた。

 ハンターが、職人が、ゴブリンやオークまでもがそれに続く。

 あぁ、なんか、泣きそう。

 戦いとは無縁の人達まで、村を守ろうと拳を突き上げている。いつの間にか、ユーシンやユーコたちまで一緒になっている。

 その輪の中に入りたいと思う気持ちをぐっと抑える。

 勢いだけで勝てる戦いじゃない。

 水を差す気はないけど、一人くらいは冷静に、少し引いた所で考えておかないと。

 自分たちにとって最悪は何だろう。

 もし、ヒエンがおとりでデモンエイプとは別行動を取るなら、ハンター達やゴブリンのハンター達に対処してもらえば良いだろう。マルクが言っていたように、障壁の中から攻撃してもらえばいい。無理する必要はない。デモンエイプがまとまってきてくれれば好都合。厳しいけど対応できると思う。

 問題は、ヒエンとセットで、一斉に襲ってきた場合だ。

 正直、手に負えなくなるだろう。

 命も顧みず、狂ったように襲いかかってくる大量のヒエンをかわしてデモンエイプに対応することは不可能だし、おそらくエイプはヒエンもろとも攻撃してくる。

 そんな状態になれば、弓が攻撃手段のハンター達はかえって足手まといになってしまう。自分たちも遠距離攻撃中心に、ヒエンから始末するしかないだろう。時間がかかるしソンチョーの負担が心配だけど、乱戦に入っていけば思うつぼだ。

 プレイヤーが関わっているならそうはならないと思うんだけど。ヒエンはエイプへの恐怖で襲ってくるだけだから、プレイヤーにはコントロールしきれないだろう。ちょっと頭が働くなら、暴走は最後の手段にとって置くはずだ。

 プレイヤーを襲う目的は?やっぱり経験値だよな。

 それなら、コントロールの効かないヒエンを使って無駄にせず、デモンエイプで逆らえないようにしてから自らの手で。と思うはずだ。

 迷彩男とつながっていた可能性もある。

 奴は、絶対有利の狙撃を捨てて近距離戦を選んで負けた。もしつながっていたとしても詳細は伝わってないと思うけど、何かしら警戒しているかもしれない。

 いや、思い込むのは良くない、復讐に駆られている可能性だってある。 

 考えろ。

 最悪の一歩先を警戒するんだ。

 落ち着きを取り戻した食堂で、思いついた限りのパターンと、考えた対処法を話した。

 さすがにそんなことは無いだろうと笑われたものもあるけど、頭の片隅にでも入れて置いてもらえれば、いざという時に差が出るはずだ。危機感の共有、とまではいかなくても、そういう可能性もあるということを知っておいてもらえればいいだろう。準備は自分がすればいいんだ。

 この日は深夜遅くまで話し合いが続き、職人やゴブリンたちは矢や、岩などを投げ込まれた時、建物への被害を減らすための簡単な防壁建造を、ハンターたちは、交代でヒエンが確認された西側の警戒を、オークたちも協力を申し出てきたので、ハンターたちと警戒をしてもらうことになった。それ以外は自分とスロークが交代で広域警戒を使って巡回。などなど、それぞれの役割を決めて解散となった。


 夜が明けるとほぼ同時に活動が始まった。

  巡回しながら、警戒と同時に村の様子を見て回る。

 村づくりは全てストップし、みんな決められた役割にそってあわただしく動き回っている。

 そんな中、アオイは鍛冶小屋に籠り続けているようだ。そんなに熱中するなら、もっとちゃんとした小屋を作っておけば良かったな。隙間風入りまくりで寒いだろう。

 今後の課題だな。

 なんて感じで巡回を続けたが、ヒエンは動かずデモンエイプも感知できなかった。

 スロークも異変を感知することはできなかったようだ。

 すぐに動くとは思えなかったけど、なにも感知できないのも不気味だな。

 事件が起こったのは2日後だった。

 巡回中のスロークが、東側から村に近づく個体を検知して伝えてきた。

 「これ、デモンエイプじゃ無いと思うんだけど。動きが変だろ。」

 スロークの指摘通り、村に近づきそうで近づかない。フラフラと動き回っている。

 「だね。グネグネと・・・何かに追われてる感じ?にしては、追いかけてくる方が見当たらないな。」

 違和感を感じる。村の存在を分かっていて、あえて周辺をうろついているような…かといって、調査って動きでもない。立ち止まることなく動き続けている。

 「どうする?助けに行った方がいいかな。」

 「村に着くか、魔物に襲われそうにならない限り様子見がいいんじゃないかな。こっちに索敵持ちがいるのかを調べてるのかもしれないし。」

 「あぁ、なるほど、この段階で近づくと、完全に索敵持ちがいるってバレるな。」

 「おとりかもしれないよねぇ。こういうのって。苦手だなぁ。動き出したってことだろうから、とりあえず反対側も警戒しといたほうがいいかね。」

 「なるべく平常に見せかけた方がいいな。」

 警戒は慎重に、広域警戒でヒエンを検知するぎりぎりのラインまで西側に移動して、通常運行のフリ。苦手だ。

 怪しい存在の正体がつかめたのは夕方近くだった。

 散々動き回ったあげく、村から見える地点まで来たのでスロークが確保した。

 知らせを受けて駆け付ける。

 途中で会ったソンチョーに、確認したいこともあるの任せてほしいとだけ伝えて合流した。

 緑の髪、左右で色の違う目、まさにゲームキャラ、って感じの男で、服は血で染まり、全身の打撲、数か所の骨折もあった。

 狩りの途中、デモンエイプに襲われて逃げ出したという。仲間とはチリジリになって分からないと。

 クラフト系のマイナーなゲームをプレイしていたとか、日用品なら何でも作れるとか、怪しい男グロックは、聞いてもいないことまでベラベラとしゃべりまくった。う~ん、カルいなぁ。

 気づかれないようにスロークと目くばせ。

 「まだ建設中だけど、部屋は使えるから診療所で治療をしよう。すまんね、ここには回復系の魔法が使える者がいないんだ。」

 そう言って、急遽診療所となった倉庫へと連れて行った。貴重品を分別して保管できるように小部屋が多く、鍵もかかるのが選んだ理由だ。

 「ここでいいかね。」

 職人たちがベッドをしつらえてくれていた。

 「急ごしらえで悪いね。自分の応急処置は重ね掛けできないんで、とりあえず苦しいだろうから肋骨の骨折にかけさせてもらったよ。後は毎日1か所づつかけていくから完治するまではここで安静にしててよ。」

 「あ、はい、わかりました・・・。窓とかないんですね。」

 「あぁ、そうだよね。申し訳ないんだけど、この村ではゴブリンを使役してるんだ。まだレベルが低くて完全じゃないから、安全を期してね。特に君みたいに重傷で弱ってる人へは極端に態度が変わるんだよ、所詮魔物だよね。だから、ここは特に頑丈に作ってるんだ。完全に使役化が完了するまでは気が許せないんでね。」

 「なるほど、それは怖いですね。あの、何か慌ただしかった気もするんですが、何かあったんですか?」

 「君が来ただろう?」

 「いや、その前から何か準備されているように見受けられたもので。」

 「あぁ、少し前にオークの襲撃がありまして。道の整備中だったんですけどね。まぁ、所詮オーク数匹なんで、ゴブリン20匹程度の消耗で済みましたよ。でまぁ、一応この世界の住民もいるんで、安心させれために形だけでもやっておこうということになりまして。」

 う~ん、ここに来るまでの道中必死に考えたことだけど、こうもペラペラ嘘が付けるようになるとはねぇ。なんかショック。

 「それはそれは、なんというか…。」

 「お気になさらずに。では、夕食はちょっと期待してくれていいですよ。あ、さっき言ったとおりゴブリンの従属化が完全ではありませんので、ドアには施錠させていただきますけど、信用できる者に様子を見に来させますので、何かあればその時お申し付けください。」

 そう言って施錠し、急遽診療所になった倉庫を後にした。

 さて、たぶん今日か明日には動き出すかな。

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