20:レベリング
水曜日と土曜日、16時ごろ更新予定です。
よろしくお願いします。
ここ数日雪が続き、膝上まですっぽりと収まるようになってきた。
作物も越冬が必要な小麦、玉ねぎを除いて収穫も済み、アパートなど先行契約分の建築も済んだ。
自分は水瓶の研究中。
元々は地方の集落で細々と売られていた工芸品だったらしいけど、行商人に見いだされて国中に広まったらしい。
色々調べた結果、表面に掘られた模様の一部が、除菌に近い効果を発揮していることが分かった。
近くで発見された小さな遺跡に掘られていた紋様を真似たものだそうだけど、どうやらそれに釉薬の成分がうまくマッチして、原始的な魔導印になっていたようだ。
色々調べた結果、水に含まれる魔素に反応して稼働していた。
で、まずは模様の何が魔導印になっているのかとか、どこを変えたら効果が強くなるかとか、延々と実験に日々を過ごした。
その間みんなは浄水場の建設。
村より10mほど高い丘の上に作られている。
流石にポンプはまだ無理なので、ポンプ不要でも蛇口から水道がちゃんと出るようにだね。
浄水場の上部、5m程の高さから出てくるので、村との高低差は15mになるので、3階くらいまでは水が出るだろう。
4層の沈殿槽をゆっくりと通ってごみや不純物を除去していく。
2mのパイプで村まで通す予定。自分のスキルで作る銅パイプよりクリフトのクラフトで作ったパイプの方が、材料も少なく頑丈にできるようなのだ。なんか理不尽だけど、作業丸投げできるので良しとしよう。
下水の先には浄水設備も同時進行で作っている。熱帯魚なんかで使うろ過機のような仕組みにするそうだ。大きなごみは流れないので沈殿槽は1つ、後はバクテリアが繁殖しやすい環境を作って分解してもらう。さらに大きなパイプ状の濾過槽。空気が入らず、長い距離を流すことで無酸素状態を作って、酸素が苦手なバクテリアを繁殖させて過剰な栄養を分解した後用水路に流すそうだ。
村の中は道を掘って上下水道を埋め込む。ブー垂れるアオイをなだめすかしての工事。当然自分は避難だ。巻き込まれてはたまらない。
で、自分が研究中の浄化システムは蛇口に仕込む予定。
少々大きくなってしまうけど、蛇口のコックに魔導印を仕込んで、触れている間は魔力を使って浄化する。水を出している間触れ続けないといけないけど、蛇口から出る水の浄化程度ならごくわずかな魔力で済むので誰でも使えるのだ。
そんな感じで、冬も半ばを過ぎる頃にはインフラの大半が完成した。
最初あっけにとられていた職人組も慣れたもので、あきれるほどの速度で進行していく工事をよそに、作業場や鍜治場、食堂などが作られていく。中でも炭焼き窯は最優先で作られ稼働している。
そうそう、ごり押しで浴場も作ったよ。薪で沸かすタイプだけど、農作業組が手持無沙汰なので頑張ってもらった。
村の整備が落ち着いてくると、気持ちにも余裕が出てくるもので、久しぶりにレベルアップに励んでみようか、なんて気になってくる。
レベル60になれば、第二貯蔵庫も開放されて資材も装備もより良いものが出てくるだろう。
マスターとマナに声をかけて、まずは従魔と一緒にパワーレベリングだ。
「なんだか、ズルしてるみたいで申し訳ないですね。」
マスターは恐縮しっぱなしだ。
「いやいや、この辺りは魔物も強いから、それなりに上げとかないと戦いにならないからね。」
午前中のレベリングで現在マスターのレベルは15、ステータスを聞いたけど、エイルヴァーンとは全く基準が違うので当てにならない。とりあえず30まで上げて、サポートしつつ戦ってもらって様子を見るしかない。
マナの方は、ゲーム自体レベルが10までしかない。
ストーリー仕立てのゲームで、10章に分けられた構成のドラマチックRPG。章ごとに必要以上の経験値が入らないような作りになっていて、経験値集めのバトルが無い代わりに一戦一戦が中ボスクラス以上の激選だった。その分最初から強く、レベルアップの成長も大きい。プレイヤースキルを必要とされたゲームだった。
物静かでおとなしいイメージの彼女だったけど、戦闘になるとなんとも頼もしい。まさに流れるような動きで全く危なさの無い、完璧な戦い方だった。
従魔たちも順調にレベルを上げて現在レベル30。そろそろ戦闘に参加させてもいい頃か。
ずずぅ~ん・・・
遠くに地響きのような音が聞こえる。
スロークやユーキ、ユーシン達が森の外へつながる道の拡充を行っている音だろう。
結構離れていたと思ったけど、いつの間にか音が聞こえるところまで近くに来ていたようだ。
自分たちも負けないように頑張らなきゃな。
マスターは夕食の支度があるので、夕方前に切り上げるまでひたすらバトル。一応の目標であるレベル30に到達した。早くていいなぁ。
翌日はマスターも積極的に戦闘に参加。背丈ほどもある巨大なスプーンでひたすら殴るという戦闘スタイル。
金属製のスプーンを作ってみたけど、相当な重量だった。スプーンだけに、先端が大きく重いからにちょっと不安だったけど、ゲームの補正だろうか、難なく振り回していた。
マッキーアイランドは、ターン制のバトルだから単調な動きでいいんだろうけど、ここでは同格以上には難しいだろうな。単調すぎるし、それ以外の動きをすると途端に威力が下がってしまう。
むしろ、ゲーム特有の地水火風のファンシーな魔法が調理に役立ちそうだって言ってたから、使えそうな魔法を覚えてもらったら、そっちの習熟を頑張ってもらった方がいいだろう。おいしいご飯は明日の活力だし。
「それにしても、シンさんのおかげで生き残れただけじゃなく絶望からも救っていただいたんだから、感謝してもしきれませんよ。」
マスターから感謝されたのは何度目だろう。こっちが恐縮してしまうよ。
この世界の食べ物に含まれる魔素の味、料理人の彼にとっては絶望するほかなかったんだろう。とにかく感謝されまくっている。
「わたしも、シンさんの鏡が無かったらどうなっていたか分からない。」
機械だったマナの体も、この世界では受け入れられなかっただろうなあ。アオイとは違った意味でありえない存在だったからな。他のメンツは・・・まぁ、ごまかしきれないわけじゃないけど、やっぱり生きにくかったろうな。
「シンさんの料理も食べてみたいですね。すごいスキルを持ってるんでしょう?」
「いやぁ、完全にスキル頼みだからねぇ。向こうじゃジャンクフードにまみれた生活だったよ。調理スキルも、この世界にもないゲーム限定素材で作ることが前提の料理だから。無理やり作っても素人料理に毛が生えた程度にしかならないよ。」
マスターがレベル40になって、料理に使えそうな魔法をあらかた覚えると、予定通りレベリングから離脱した。これからは魔法を調理に応用するためのコントロール訓練だ。
マスターが抜けた分、ライアーが入ってレベリング続行。
ライアーも格闘系ゲームでレベルは無いけど、ユーシン同様、必殺技やコンボの連結には習熟が必要で、強くなるには実戦が欠かせない。練習相手のユーシンが街道整備にかかりきりなので、こちらに参加してきたのだ。
「できれば集団戦とか経験してみたいな。」
というライアーの希望により、ハンターのマルクに聞いてヒエンの生息地へ。
集団で格上の魔物を狩る猿の魔物。単体ではそれほど強くないが、集団戦はお手の物。ということで訓練相手にはよいだろう。
と、思ったんだけどね。
「ちょっと!なんだよこいつら、多過ぎなんてもんじゃないだろ。」
最初こそ順調だったものの、あれよという間に100を超えるヒエンが集まってコンボ練習どころの騒ぎじゃない。
木を支点に立体起動戦を楽しんでいたライアーも、何匹ものヒエンに取りつかれて四苦八苦している。
「ムリ・・・。」
マナも群がるヒエンに辟易といった状態。
流れるような動きで切り裂いていく戦闘スタイルのはずが、飛び込んでくるヒエンに邪魔されて技が出せないようだ。
まぁ、訓練だからね。頑張ってくれたまえ。
手伝わないよ。だって、自分も手一杯。
ダメージはほぼ無いけどうっとおしい。
遠出になるからと従魔達を連れてこなくてよかった。
しかしおかしい。ヒエンの群れはせいぜい30~40程度のはずなのに。
「ぬぅう~、しょうがない。やりたくないけど・・・。」
いててて、なんだ?ライアー、なんかやるの?なら早くして。
と、ライアーの体が燃え上がった。
あ、そういえばあったな。全身発火で相手を燃やすカウンター技。
ライアーに群がっていたヒエンたちが炎にまかれてボタボタと落ちてくる。
炎の玉になったライアーは、そのまま木々を飛び回ってヒエンを焼いていく。
ふ~ん、あれってカウンター技だけじゃなかったんだ。
10匹ほどのヒエンにかみつかれながら飛び回る炎の玉を眺めていると、すぐ隣で何かが光った。
ギェア
ギィー
体に穴をあけたヒエンたちがのたうち回っている。
マナのビーム砲だ。
結構疲れるって言ってたけど、なんか、ブちぎれたのか撃ちまくってる。
阿鼻叫喚って感じになって来たな。
自分に取りついているヒエンたちも攻撃をやめて怯えている。気がする。
やっぱり、なんかおかしいな。
なんで逃げ出さないんだろう。
あ、とりあえず君たちもいい加減にしてね。
取りつくヒエンたちを振り落とす。逃げるなら逃げなさいってつもりだったけど、我に返ったように襲い掛かって来たので切り捨てた。ナム。
結局ヒエンたちは全滅するまで攻撃をやめなかった。やっぱり変だ。
「つかれた。」
肩で息をしながらへたり込んだマナ。無表情に撃ちまくるあなた、ちょっと怖かったです。
「ウザ過ぎだよね。」
降りて来たライアーは・・・スッポンポンだった。
「露出狂?」
いやいや、マナさん、いくら相手が子供だからって、丸出し相手に冷静ね。
あ、看護師さんだったか。
ん?そんなもんなのか?
「あの技使うといつもなんだよね。燃えない服とかないかな。」
うん、それはわかったけど、ちょっとくらい隠そうよ。
ライアーがおかしな方向に進むといけないんで慌てて貯蔵庫からローブを取り出して渡した。
「なんか、露出狂が好きそうな服だね。」
あぁ、計らずも…。そんなつもりないからね。
「そっちの道はこの世界でも駄目だと思うぞ。」
「なんだ、残念。」
残念がっちゃダメ!
「そうだね。そういう人は・・・切り落としてもいいんだよね。」
なにを?ねぇ、なにを?
あ、ライアー隠した。
マナさん怖ぇ、絶対怒らしちゃだめだな。だよね。
無言でライアーとうなづきあった。
日はまだ高いけど、ライアー露出癖化阻止のためいったん帰村。
燃えない服をオリヒメに相談してみるか。
なんてことを考えていた時、村の入り口方向が騒がしくなってきた。
おろ?軽トラがもう戻ってきた。
ここのところ、街道整備でユーシン達は朝早く出ると日暮れまで戻ってこなかったのに。
「シンさーん!助けてほしいっス~。」
なんか、ただ事じゃない雰囲気だな。
駆け寄ってみると、荷台からスロークが出てきた。
「すいません!シンさん、回復魔法お願いします。」
と言いながら荷台に。
そこには、血まみれのオークが。
オヤカタ?!
じゃない、見たことないオークだ。
「すいません、自己回復系しか有効にしてなくて。応急処置くらいしか。」
エイルヴァーンでは、覚えたことのある他を系統の魔法やスキルを、系統ごとに5つまで有効にできるけど、シングルゲームなので範囲系の回復魔法を有効にするプレイヤーはあまりいない。
まずいな、ここで回復系の上位魔法はさすがに目立つ。
「とりあえずソンチョー宅に!他のみんなは?」
「アオンが引く馬車で戻ってきている。怪我をしている者はいない。」
とりあえず安心か。
ソンチョー宅に駆け込むと、ハイヒールとヒール、ライトヒールを次々にかけた。
エイルヴァーンの回復魔法は上限値固定で、かつ最大生命力に対してのパーセンテージで回復する仕様だ。ハイ・ヒールの回復量は25%、瀕死のオークを回復させるには4回はかけないといけないけど、クールタイムが1分と長い。ヒールが15%、ライトヒールが10%なので、とりあえずは危険な状態は脱しただろう。
オークには悪いけど、完全回復させるとハンターや職人たちへの説明が面倒になるので耐えてもらおう。
で、なんでオークが?
「かなりまずいことになりそうなんだ。」




