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14:迎え入れ

水曜日と土曜日、16時ごろ更新予定です。

よろしくお願いします。

さて、問題は、2週間で守護神像と祭壇を仕立て上げなきゃならんことだな。

ユーシンに責任を取らせたいところだけど、たぶん無理だ。

 ただ像を作ればいいってもんじゃない。この場所を安全に守護する何か、を感じさせないと。

さらに10人分の住居も必要だぞ。えらいこっちゃ。

解決する問題より発生する問題の方が多いって、どういうことよ。

と、もう一つ、問題なのかは別として、ちょっと気になることがある。

「何か心配事?」

皆が分かれた後、周りに人がいないことを確認して、ユーキに声をかけた。

どうも、昨夜の夕食前から元気が無いように感じる。

今朝も、ユーシンのやらかしに全く反応していない。

「僕、本当に女の子になっちゃってるのかな。」

少し時間をおいて、意を決したようにつぶやいた内容は意外なものだった。

「え、なんで?」

普段から男の恰好をしているし、しゃべり方も女の子っぽさは無い。

「カブロさんにバレちゃったんだ。男所帯の中で大変だね、って。ひょっとして、自分じゃ気が付かないうちに仕草とか、そういったものが女性化してきてるんじゃないかって、不安になってしまって。」

う~ん、カブロは商人だし、特別そういったことに気が付きやすいんじゃないかなって気はするけど。

真剣に悩んでいるユーキに適当なことも言えず、答えられないでいると、

「ごめん、変なことで気を遣わせちゃって。まぁ、護衛の人たちには気が付かれてなかったみたいだから。」

 といって、アオンたちと木の伐採を手伝うために奥へと向かっていった。

 う~ん。

たぶん、あれならユーキの悩みを解決できるかもしれない。

 ただ、それには第一貯蔵庫に入らなければならない。

チクリと胸が痛む。

いつまでも逃げ続けるわけにはいかない。

覚悟を決めよう。

「よし、今夜話そう。」

声に出すことで、一歩前に踏み出せる気がした。

 

夕食後、皆のいる前で、まずユーキに土下座した。

「な、どーしたんスか、シンさん。」

派手に驚くユーシン。ユーキも、他の二人もあっけにとられいている。

「突然ごめん。ユーキ、謝らなければならないことがあるんだ。それに、皆にも話さなきゃならないことがある。」

そうして、まずユーキの悩みを解決できるだろうアイテムを所持していることを打ち明けた。

 スロークもそれを知っていたが、そもそも基になるゲームが違うのに利用できるのか不明だから危険ではないか、との疑問を投げかけてきた。

 もちろん普通ならそう思うが、ユーキへの悪魔の返答が、そのアイテムが利用可能だということを示唆しているといえる。

 襲撃者を殺したことで、レベルがありえないほど上がったこと、その事実を確認した時、ありえないことに高揚感を覚えてしまったこと、そのことで自分自身への嫌悪感と、恐怖にとらわれてしまったことを話した。

4人とも真剣に、自分の告白を聞いてくれた。

「第1貯蔵庫の中にあるんだ。でも、それを、というか、殺したことで得たスキルや魔法を使うことで、殺しそのものを肯定してしまうような気がして、使えなかった。」

すべて話して、自分だけでなんだかスッキリしてしまった。こんなことでいいのだろうか。

不謹慎だけれども、そう思ってしまった。これまでため込んでいた靄が取れた気がする。今ならどんなしっ責も受け入れられる。

「ちょっと良いスか?」

静まる室内に場違いなほどあっけらかんとしたユーシンの声。

「シンさんは襲ってきたやつを撃退しただけスよね。殺しに来てるやつを殺っちまったからって、シンさんが罪の意識みたいなの感じるって、おかしくないスか?超レベルアップ大歓迎じゃないスか。何の落ち度もない奴相手ならまだしも、殺しに来た相手スよ。情けは無用だし、その結果仲間守れて経験値ドバーなら、おいしく頂いちゃっていいじゃないスか?」

え、そんな感じなの?

「まぁ、ユーシンの言うことはちょっと極論的な感じもするけど。罪の意識なんて感じる必要は無いと思うよ。みんなを守ってくれたことは間違いないんだから。」

「あの時も言ったけど、あれは自分がやるべきことだった。もし同じようなことがあったらためらわないと誓えるし、後悔する気も無い。レベルアップに苦労していたシンさんなら、大きなレベルアップに高揚するのはおかしなことじゃないさ。」

ソンチョーもスロークも気づかってくれる。

「すいません、僕があの時煮え切らない態度をとってしまったせいで、シンさんが悩まれていたなんて。」

「あ、いや、ユーキのせいじゃないよ。そもそもあの後、自分は村を出るつもりだったんだし。」

「それでも、です。僕も頭ではわかっていたのに。感情が付いてこれなくて。今も、今朝のことで悩ませてしまったんですよね。」

ユーキは真正面に正座して、まっすぐ自分の目を見ながら言うと、頭を下げた。

「お願いします。今じゃなくていいです。シンさんが心の底から吹っ切れたら、僕にアイテムを使わせてください。」

「今から使うんだよ。そのつもりでみんなに話したんだ。」

そう言って立ち上がると、右手を壁の少し手前に向けて、第一貯蔵庫を発動する。

手の先に頑丈そうな扉が出現する。

「実は、そのアイテムと金庫と、いくつかの装備品以外は何が入ってるか覚えてないんだ。メインで使ってたのは第3と第4だったから。」

そう言って、ドアを開けて中に入る。ゲームでは100個のアイテム枠があるだけだったけど。

「なにこれ。」

体育館位ある空間だとスロークから聞いてはいたけど、壁も見えないほどギッシリと物が詰まっていた。

木材に石材、煉瓦、鉄や鋼、銅のインゴットに積み上げられた大量の木箱。

こんなに大量に入れた記憶は無いけど。

と、詰め込まれた資材をよけながら中を歩いて見回る。

これ、ひょっとして、拠点用の資材?

いやいや、拠点が完成してからは資材関係は処分してしまったはず。

訳も分からず、とりあえずユーキのためのアイテム、キャラメイクをやり直せる“姿見の鏡台”を探して回る。

すると、鏡台を見つける前にこの資材が何なのかが判明するものを見つけた。

「あの悪魔、何てことしてくれる」

貯蔵庫の最奥にあったそれは、拠点の玄関ホールに展示してあった天使の彫像だった。

 実際の天使が悪魔の呪いで彫像になったもので一点物、といういわくありげな存在でありながら、天使を救うためのクエストが発生するわけでもなく、像の周囲半径10mに弱い回復を付与するだけという何とも微妙なアイテムだった。ただ非常に凝った造形で、淡い光を放つエフェクトが気に入って飾っていたのだ。

「苦労して作った拠点をバラシて詰め込みやがったのか。」

だとすると、第一だけに収まるはずが無い。第二以降にもみっちり詰め込まれてるな。簡易貯蔵庫に無かったのは、MODで導入した物だからか?

なんにせよ、整理だけでどれだけかかるだろう。全部村づくりに流用してしまおうか。それならまぁ、多少は許せる。

結局、鏡台を探し出すのにとんでもなく時間がかかってしまい、外で待つ皆を大いに心配させてしまった。

「拠点をバラシて詰め込まれてるって・・・。拠点にはあこがれていたけど、作ってなくてよかったと思うよ。」

心の底からホッとしないでくれ。

「ユーキ、これがアイテムの鏡台。ゲーム開始後でも自由にキャラメイクがやり直せるものだよ。で、こっちは天使像、守護神像にピッタリじゃないかと思って。」

天使像はゲームのエフェクトと同じ淡い光を放っている。

「なるほど、これって三大残念アイテムのひとつだったよね。」

エイルヴァーンにおいて存在した、3つの超微妙アイテム。

どれもいわくありげな説明書きがあり、造形も凝りに凝った異色のアイテムだが、微妙すぎる付与効果効果のおかげで様々な憶測を呼んだ。

裏クエストのキーアイテムだとか、覚醒イベントがあって最上級アイテムに変化するに違いないとか、多くのプレイヤーを巻き込んで真相を暴けと騒動になった。が、結局誰一人何も引き出せず、いつしか“3大残念”と呼ばれるようになってしまった悲しき存在である。

「これって、不壊アイテムだし設置すると自分以外には動かせないから、広場予定地の中央にでも置いて飾ればいいかなって思うんだけど。」

休憩にもいいよね。弱いけど周囲に回復効果あるし。

「野ざらしはやばくないっスか。」

「石材とかもあるからそれっぽく飾って屋根もつけようか。」

ユーキと守護神像という2つの問題が解決したけど、また2つやることができてしまった。

で、ユーキはというと。

「変わってないじゃないスか。」

うん、見た目変わってないんだけど。まさか使えなかった?

「いきなり全く違っちゃったら、カブロさんやベリッサさんが混乱するだろ。だから今回は性別変えただけ。何度も使えるみたいだから、時間を見ながら身長伸ばしたり、少しずつ変えていくよ。」

それもそうか。

じゃあ、これはソンチョー宅に設置させてもらおう。

翌日からはオヤカタと天使像、もとい守護神像を設置する祭壇っぽい台を作る。

 とにかく乱雑に押し込まれた資材から使えそうなものを探すのに時間を取られて、初日は材料の運び出しだけで終わってしまった。

 ユーシン、ユーキ、スローク、トウリョーはハンターが寝泊まりする家と、カブロ一行が滞在する家を作るためのスペース確保に村の入り口、周辺の木を伐採し、根を掘り起こしている。

ソンチョーはゴブリン用の小屋の発注、畑の手入れなどみどり村の機能でできることを中心に忙しく動き回っている。

そして、最初の接触から10日後、再びハゾルが村にやって来た。

「君たちを受け入れることを決定したよ。ただし、ただ保護するわけじゃない。君たちも村の一員として、働いたり学んだりしてもらうことになる。当然、村のルールには従ってもらうことにもなるけどいいかな。」

代表としてソンチョーがハゾルに村での注意事項などを伝える。

ンダバ族は元々100人ほどの村だったそうだけど、デモンエイプの襲来で多くが餌食になり、現在は30人ほど。女、子供がほとんどで、若干名の狩猟班と老人が残るだけだという。

インフラ整備の戦力にはならないかな、と思ったけど、ゴブリンの村では住居を作るのはもっぱら女の仕事なんだそうだ。

 男はとにかく狩猟に出る。が、帰らないものも少なくないうえケガして戻るものが多く、回復するとすぐまた狩猟と、かなりハードな生活をしているんだそうだ。

 結果的に成人以上の男は常に不足していて、部族の存続のためにも決まった相手を作らない。結婚という仕組みが無いのだ。

ということで、力仕事も任せてくれとのこと。頼もしい。

住居もテントのようなものなので持ち込んでくるというので、しばらくはそれで過ごしてもらって、おいおいちゃんとした住居を増やしていこう。

受け入れ人数は少しずつ増やしていこう、という予定だったけど、戦える者があまりに少ないし、全体数も予想よりかなり少ないので、何かあったら不安だ。というソンチョーの気遣いで一気に受け入れてしまうことになった。

当面の教育係はソンチョーとユーキ、言葉と村での暮らし方などを覚えてもらい、その後適性のありそうな仕事を割り振って得意な人の下で覚えてもらう。

 子供たちにも読み書きと簡単な算数程度は教育する。その程度ならそれほど差が出ないはずだしね。先生はもちろんポスドク、ソンチョーだ。

ハゾルは準備を整えて10日ほどでゴブリンたちを連れてくるということで、部族に戻っていった。

人手も増えることだし、久しぶりにガチャを、ということでガチャにトラウマがあるらしいスロークを除く4人で自販機の前に。

む?

自販機に、明らかに不審な装飾が。


<<驚異の激レア素材排出量2倍!>> <<10回連続で1回分サービス期間中>>


「こりゃだめだ。やめとこう。」

即決である。

「なんでっスか?2倍スよ。チャンスじゃないっスか。」

隣でユーキもうなずいている。しかし騙されちゃいかんのだ。

「激レア素材って何さ。」

「む・・・・」

「排出量は何%?」

「ぬ・・・・」

「激レア素材ってのが何か提示されてないでしょ。例えば、聞いたことも無いような貴重なだけでうまくも無いものだったら?それに、排出率2倍って、元々の排出率が分からないのに2倍言われてもね。激レアが最高素材だったとしたら、その排出率が10%で2倍ならやる価値あるけど、0.001%で2倍なら、通常とほぼ何も変わらないからね。しかも、ガチャの1%は100回やれば1個確定って意味じゃない。あくまでも1/100のガチャを100回回すだけだから、1000回やっても当たらないなんてことも有りだから。」

ガチャとはあくまでも課金過剰促進システムなのだ。

「・・・恐ろしい。悪意の塊だね。」

「そうかもしれないっスけど、でも回さないと調味料とか手に入んないっスよね。なら今の方がまだいいんじゃないスか?」


「「ほんとにねぇ。なんでもっとガチャらないんです?せっかくスバラシイ集き、ん~、配布システムのボーナス期間なのに。」」


「本音でてんじゃねーか。ボッタくり悪魔。何が出るかも、確率も提示されていないんじゃ課金する気にならん。提示しろ。提示したら考えんでもない。」

期待通り出て来た悪魔にさっそく要求だ。

こんなことした以上は、ガチャを回させたいのは間違いない。目の前で阻止しようとすれば出てくると思ってたよ。


「「仕方ありませんねぇ。」」


と言って提示された票を見ると…

「うわぁ・・・。」

全員ドン引きの内容だった。

レア度はコモンから激レアまでの5種類、激レアは確率0.0001%だった。コモンは80%だ。

「うん、シンさんの言う通りガチャはやめよう。」

ソンチョーの一言で慌てた、ように感じた悪魔。


「「背に腹は代えられません。どの程度ならガチャを回すんで?」」


「コモン30、アンコモン25、レア20,超レア15、激レア10」

 さすがに無理だろうけど、一応言ってみた。


「「それはいくらなんでも…」」


ん?なんか今日の悪魔は弱気だな。何かあったのか?


「「40、25、20、12、3ではどうでしょう。」」


ガチャとしては十分なレベル。問題ないけど、即答してはいけない。

排出される内容と見比べながら、しばらく考えるフリをする。

「しかたない、妥協しよう。余計な増量期間とかいらないから、確実に確率を守ってくれればそれなりに利用する。」

 ムスッと、仕方なく妥協したって雰囲気で答えるのがポイントだ。

「あ、それと、作物の育成がゲームと違いすぎるんだけどどうなってんの?」

ついでにクレーム入れておく。


「「良い肥料を使わないからですよ。ゲーム通りの期間で収穫したいなら最上級肥料をお使いください。高級肥料で最上級を使ったときの倍、上級で3倍、普通なら現実通りです。では、よろしく。」」


これ以上クレームに付き合いきれないと悪魔は消えた。完全勝利だ。なんか気分が良い。

けど、ちょっと気になるな、何となく、不快感、というか、得体の知れなさが少なかったような…大丈夫かな、あいつ。

ま、いいか。

「じゃあ、自分はガチャ運悪いんで後はソンチョーにお任せします。」

と言って、ハンター小屋の建設に合流するために自販機を後にした。

ハンター小屋は、中央に広い部屋、その周囲に6畳ほどの個室で囲んだだけの簡単なものにした。

 ログハウス風で工期を時短。中央の部屋のど真ん中に囲炉裏風のテーブルを置く。囲炉裏は暖房とコンロを兼用できる優れた熱源だけど、この世界は基本椅子社会なのでテーブルの中央に埋め込むような形にした。天井から吊り下げられる金具も鍋も用意したので問題あるまい。

すぐ外に井戸も設置、村のシステムを利用したのであっという間に完成だ。

反対側にはボットン式のトイレも作ったし、ゴブリン用に購入した小屋がとりあえず不要になったので、ハンターの作業場とか物置として2棟建てておいた。これで活動にも生活にも問題はあるまい。

次に手を付けたのが、村の外、道の整備だ。やはり今のままでは森を抜けるのに時間がかかる。少しでも手を付けておきたいところだ。

自分とトウリョーが切り株周辺を掘り、斧に持ち替えてクマと協力して根を切ると、ロープをかけてオヤカタ、アオン、ユーシンの軽トラで引き抜く。

重機を使っても面倒な作業が、何とも簡単に進んでしまう。まさにチートというやつなんだろうな。地味だけど。

引き抜いてできた穴はゴンとユーキが周囲から集めた土を入れてふさぎ固める。わずか1日で1Kmもの距離にわたって切り株の除去が完了してしまった。とはいえ150Km、順調に進んでも5か月はかかってしまう。

ん?まてよ。150Kmを人(+魔)力で5か月って、無茶苦茶速くない?それでも途方もなく感じちゃうのって、やっぱりスキルチートで感覚が狂ってるんだろうなぁ。

最終的にはしっかり整地して、石畳かなんかで舗装したいところだ。

夕方村に戻ると、再び貯蔵庫にこもって資材のチェックだ。とにかく膨大な量が乱雑に入れられているので、非常に時間がかかる。

とにかく、特別な能力の無いただの資材中心に貯蔵庫から出し、村の空いている場所に積んでいく。

今見つけたいのは、モンスターの侵入を防ぐ魔道具だ。たぶん、この世界の魔物にも効くんじゃないかと期待している。

ここ数日は、作業後に貯蔵庫にこもって整理してから夕食の支度になるので、どうしても手抜き料理になってしまう。ガチャの排出率向上で調味料や香辛料が豊富になってきたので何とか胡麻化している。

まぁ、そのうち料理は誰かに丸投げしたいな。ボロが出ないうちにね!

朝食の準備から始まり、日中は街道の整備、夕方から貯蔵庫整理からの夕食準備と、かなりハードな日々を過ごしていた。

根を抜いてなだらかに整地できた距離は約10Km。日を追うごとに整地速度は上がったけど、村との移動に時間がかかるようになってきた。

移動に軽トラを使えないからなんだけど、理由は新たに判明した軽トラの燃料にある。

ユーシンの魔力?的な何かを利用しているらしいのだ。

本人も、普通に走る分にはまったく負担が無いらしく気が付いていなかった。

根の掘り起こしに慣れてきて、2組に分かれた時に事故は起こった。

オヤカタ、アオンの肉体派とユーシンの軽トラで分かれたのだけど、ベタ踏みフルパワーを使いまくった。

 夕方作業を終えようかという時、突然ユーシンが倒れてしまったのだ。

 30分ほどの休息で回復したものの、これまで感じたことの無いほどの疲労感を感じていたようだ。

無理はさせられないと1組に戻したけど、細めの根などは「このくらい大丈夫っスよ。」なんて軽いノリで一人でやってしまうので、移動はアオンの引く馬車で、ということになった。ユーシンには、道のチェックがしたいから、ということにしている。

難しいもので、無理をしている、ってわけじゃないんだよね。楽しくなると疲労を感じなくなるってタイプ、限界近くまで疲れていることに気が付かないんだよ。

人間って、好きなことに集中していると疲労を感じにくくなるみたいなんだよね。

 60で他界した父親もそんなタイプで、仕事兼趣味の機械いじりで徹夜が続いて、ある日突然倒れてそのままだった。まだ全然若いけど、ユーシンにはそんなことになってほしくないのでこっちで気を付けてやらないと。

 ちょっとしたトラブルがありつつも、ゴブリンの先触れが到着したという知らせが入るまで作業は続いた。

 明日はゴブリンたちの受け入れのため作業は休みだ。

オリヒメの作った服は100着近く。着替えも十分だろう。

数をそろえるために簡素なものばかりだけど、ハゾルのいでたちよりはずっとましだ。

あ~、炊き出しも必要だな。とりあえず芋のスープでいいか。

朝早くからユーキ、ゴン、オリヒメに手伝ってもらってジャガイモの皮をむく。オヤカタとスローク、ユーシンは水汲みに。馬を探す工程でユーキが村の南(推定)5Km地点に川を発見したので、軽トラに空の樽(貯蔵庫に詰め込まれていた旧拠点の名残)を積み込んで向かっている。

 ゴブリンたちを清潔にするための湯を作るためだ。ハゾルはちょっと、無視できないレベルで獣臭があった。

ユーシンの燃料問題から、ソンチョー宅の謎水道やガスも、実はソンチョーの魔力的なものを使っているんじゃないか、という不安が出て来た。問題起こしてからではマズイ、ということで、大量に使うであろう水は川から、となった。30人が使うのだから何往復かしてもらうことになる。

いずれ水路が必要になるな。って、またやらなきゃいけないこと増えてるし。

やれやれだよ。


ゴブリンを迎える場には、ソンチョーはじめ住人総出で、さらにゴンやクマ、アオンも呼んでいた。

ゴンとトウリョー、オリヒメは一応ゴブリンの上位種なので、やって来たゴブリンたちを安心させる意味で前面に出てもらった。

村の境界付近で一行を迎える。

皆痩せていて弱々しい。

まずハゾルが村の中に入ってきた。

ソンチョーが許可しないと村に入れないので、ゴブリンたちの名前などをやり取りするためだ。ハゾルの部族、ハダ族には文字が無いそうなので、口頭で聞くしかない。

当然だけど、最初は族長ンダバと護衛の戦士2名。

ンダバは思ったより若そうな印象のゴブリンだった。ハダ族は世襲制、ということで、ゴブリンシャーマンのハゾル、ゴブリンウォリアーの護衛2名、カダゾとガラドはゴブリンのンダバより上位種だ。ちょっと意外。

ンダバはソンチョーの前に来ると、片膝立ちになり両掌を上に向けて差し出す。

 ゴブリンたちにとっては服従に近い姿勢をとると、それに倣うように他のゴブリンたちも同じ姿勢をとる。

「多くの家族の仇を打ち取っていただき、それだけに留まらず風前の灯火とも言える状態のわれらを受け入れていただき、深く感謝いたします。われら一族、皆様に忠誠を誓うことをお約束いたします。」

そう言って深々と頭を下げ、ゴブリンたちもそれに続いた。

「この村を取りまとめているソンチョーです。遠路はるばるよくお越しいただきました。われら5名が村の代表です。」

と言って、それぞれの紹介を終えると、ハゾルから名前を聞きながらゴブリンたちに入村の許可を与える。

まず用意していた食事を配って落ち着いてもらう。

魔素抜きメシにゴブリンたちには驚愕し、人間はこんなにうまいものを食べているのかと感激していた。ので、この村だけだと説明した。

カブロにはハダ族を迎える方便で、エグ実の無い食事はハダ族の秘術ということにしてあるので、ソンチョーがンダバとハゾルに口裏合わせの相談をしている。

人間がやってきて住む、ということに脅えを見せたンダバたちだが、彼らはゴブリンに危害は加えないと約束していることを伝えると安心したようだ。

自分たちも人間なんだけど。

規格外だけどね。なんか、不に落ちないな。

まぁ、恩人だから特別、ということになるからなのかもしれないけどね。

食事を終えたゴブリンたちはさっそくテントを作り始めた。

ソンチョーはンダバとハゾル、他に村のまとめ役のゴブリン数匹を連れて村の案内とルールの説明に。

ゴンと違って、トウリョーとオリヒメはゲームのまま緑色の肌、同じゴブリンとはいえ最初は珍しがられていたが、すぐに溶け込むと一緒になってテントを張っている。

オヤカタもゴブリンからしたら格上のオーク種、しばらくは怖がられていたが、ゴンやトウリョーたちとのやり取りから程なく馴染んだようだ。

子供たちはもっと柔軟で、あっという間にアオンやクマに馴染んで遊び相手になっている。どちらもゴブリンにとっては死を覚悟する相手だ。

簡易的なテントだったので、数時間ですべて完了してしまった。

体をふくための湯と、配布する服の準備を進める。

焼いた石を水が入った樽に放り込んで、煮立った湯を水で薄めてザックリ適温に。

多くのゴブリンが人の言葉を話せないか、ゴン並みにカタコトなので、オヤカタとトウリョーがお手本になって手桶で湯を取りながら体を洗ってもらう。

 すぐにみんなマネしだしたけど、あけっぴろげというか、おおらかというか、オスもメスも子供も、誰も気にせずすっぽんぽんで洗い始めた。

ま、ゴブリンなんで何とも思わないけどね。

オリヒメ作の服も好評で大喜び、うん、よかったよかった。

当面はソンチョー主導でゴブリンたちの教育を進める。トウリョーとオリヒメが補佐だ。

子供たちはアオンやクマになついているので、ユーキが担当。言葉なんかを教えられたらいいなあ、といったところだけど、まぁ彼も高卒の新社会人だったので無理は言うまい。

自分は用意しなければならない食事量が大幅に増えたので、道整備に出ると間に合わない、ということで日中は貯蔵庫整理に使い、朝夕は大量の調理に忙殺されることになった。


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