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13:おもてなし

水曜日と土曜日、16時ごろ更新予定です。

よろしくお願いします。

翌朝、少しギクシャクした感じはあるが、日常が戻ってきた。

やるべきことはある。余計なことを考えないためにも全力で労働だ。

正直なところ、解放された第一貯蔵庫を開きたい。

でも今はまだダメ。

心が落ち着くまではひたすら労働だ。

やつみたいに暗黒面に落ちるわけにはいかないからね。

トウリョーと2日ほどで長屋を完成させると、ベッドを作り始めた。最初に作っておいた材木があるので、さしたる手間も無く1日で6台完成させると、長屋の中に設置、オリヒメが作った寝具をセットする。

サンサテで買って来た布を袋状に縫い合わせ、綿や羽毛が無いので森で見つけた藁っぽい草を詰めた。

 長さを合わせてカットした物を、一度煮立たせて殺菌して乾燥、敷き詰めるように中に入れて敷布団にした。掛け布団はサンサテで買って来た毛布や防寒具を使う。

真冬になる前に藁に代わるものを見つけたいところだ。

真冬になる前に、といえば、暖房も重要だ。

セメントとは言わないけど、三和土タタキが欲しいなぁ。

和製コンクリートだっけ?三和土を作るには、石灰とにがりがいる、森の中では不可能なんだよね。

とりあえずは土かまどを作って間に合わせとしよう。

ソンチョーの道具からトロ船という容器を借りて、土と敷布団づくりで余った草、水を入れて均等になるまで混ぜる。

各部屋の後ろ側の壁に、50センチ四方の穴を床すれすれに開けると、その切り口に作った土を厚めに貼り付けていく。ぎゅっと押し固めるように。火で燃えちゃうといけないからしっかりと。

土かまどの暖炉は部屋の外に飛び出すようにつけるので、しっかり分厚く箱状に土で固める。鉄板がないので煙突も土で、雪で折れないように外側を木で補強して一応完成。

土を乾燥させるためと、出来栄えの確認のためにさっそく薪を入れて火をつけてみた。煙突は高めにしたので火の粉を吹くことも無く、一応うまくいったようだ。雪でぬれてつぶれないように本体もいずれ補強しよう。まずはあと5個だ。

鉄板があればなぁ。もっと簡単に薪ストーブが作れるのに。

ベッドが設置された日から自分と従魔たちは長屋で寝泊まりしている。

とにかく作業に没頭したかったこともあるが、自分の作った家に住む、というささやかな楽しみを味わいたかったからだ。

初日こそ藁の敷布団がガサガサと寝づらかったけど、慣れればどうということは無い。木の上で寝たり、革鎧のまま寝たりしたのが懐かしい。

・・・いかん、黒歴史を思い出してしまった。

自分とトウリョーが暖炉造りに熱中しているとき、オリヒメとスロークは森へ綿綿花探しへ出ていた。

 綿花は残念ながら見つかってはいないが、数匹のスレッドスパイダーを捕まえてきた。

 体だけで20cmもある大型の蜘蛛で、大量の糸を出すことで知られている。糸は他の蜘蛛種と違って粘着性が無く、スレッドスパイダーはこの糸で枝や葉を縫い合わせて球形の頑丈な巣をつくり、その中で子育てをする。

 狩りは素早い跳躍で獲物を捕まえて、糸でがんじがらめにしてしまう。

強く伸縮性に優れていて滑らかな糸。この糸で作った生地は上質で、貴族に人気らしい。数匹では衣服を作るほどの糸はなかなか時間がかかるが、うまく育てれば次の春には数十倍にも増えるだろう。畑の脇にでも巣作り用の枝などを集めて置けば、害虫駆除にも役立ってくれそうだ。

さっそく、二人が森から採って来た低木(成熟しても3mほどにしかならない木)の若木を畑の周囲に10本ほど植えて、スレッドスパイダーを放してきた来たそうだ。

ソンチョーとユーシン、オヤカタは地下貯蔵庫の続き。この間、暖炉用の土をもらいに行った時にちょっと覗いたら、ソンチョー宅の倍はありそうな大穴が開いていた。崩壊しないように丸太でしっかり骨組みと屋根を作った後、土をかぶせて保温するそうだ。

ユーキはというと、ついに馬の魔物、ホーンホースの封印に成功していた。こめかみのあたりから水牛のような角を生やした馬で、力強く馬車馬として重宝される魔物だ。

それぞれが順調に成果を上げていき、いよいよユーシンとユーキが商人と合流するためサンサテへ出発する日になった。

早朝村を出る軽トラを見送ると、自分は暖炉造りを一時中断して狩りに出た。商人に渡す干し肉を作るためだ。暖炉は一応トウリョーに任せたけど、さすがに一人では大変だろう。

丸一日費やしたおかげで、ハリラビやホーンボアといったおなじみの魔物から、ダークブルという牛の魔物まで狩ることができた。ここに来て初めての牛肉だ。

以前はビクビクしながら魔石だけ取るのがせいぜいだったのに、今では鼻歌交じりにその場で血抜きと解体である。魔物が寄って来たならよい経験値だ。

解体した肉はそのまま簡易貯蔵庫へ。当然空の魔石はセット済み、村へ帰るころには販売向けの、ちょいエグみ残し肉が出来上がる。完全に魔素を抜いた肉はまだ売らない。

商人に渡す分はホーンボアだけで十分足りる。久しぶりの牛肉は魔素抜きが終わったら、地下貯蔵庫に仕舞って、コールドの魔法で氷作って冷却保存、商人が帰ったらみんなで楽しもう。これは当然ステーキだな。じゅるり。

肉の確保もできたし、明日から再び暖炉造りだ。

帰宅後ソンチョーに肉の確保が終わったことを伝えようと家に向かった。

ドアをノックすると、神妙な顔のソンチョーが出てきた。

「いいところに来てくれたよ。ちょっと、困ったことがあってさ。」

言うが早いか招き入れられると、そこにはスローク、オヤカタ、トウリョー、オリヒメ、つまり今村にいる全員がそろっていた。

ん?

なにかある?

汚れたぼろ雑巾塊が床に置いてある。

じゃない、ゴブリン?!

ボロボロのローブのようなものをかぶったゴブリンが、床に座っていたのだ。

「?」

状況が分からず固まっていると、トウリョーが話し始めた。

「申し訳ありやせん。アッシが暖炉造りを進めていると、背後から石を投げ込まれやして。何事かと様子をうかがいに出ると、10匹のゴブリンがいやした。敵襲かと警戒したんでやすが、どうやら主様方にどうしても話したいことがあるとかで、アッシに仲介を頼んできたわけでして。」

で、まずは村代表のソンチョーに話を通して、リーダーだけならと村へ入ることを許可したらしい。

人は無条件でスルーなのに、従魔などのように人に従属していない魔物は敵意が無くてもソンチョーの許可が無いと入れない仕組みになっているようだ。いっそ、敵意のある人もはじいてくれればいいのに。

自分がノックした時、ちょうどソンチョーが呼びに来てくれるところだったらしい。

ゴブリンは片膝立ちの姿勢で深々と頭を下げていたが、頭を上げると両掌を上に向けて前に出すと話し始めた。

「配下の方へのご無礼、誠に申し訳ありません。ワレは、この森に住まうゴブリン、ハダ族の長、ンダバの使者としてまいりました。ハゾルと申します。」

ずいぶんと流ちょうに話す。おそらく上位種、ゴブリンシャーマンだろうと”常識”さん情報。

「この姿勢はゴブリンが相手に敵意が無く服従する意思を込めるときのものだ。使者というのは嘘じゃないと思う。」

むむ、スロークの“常識”さんは自分よりずっと優秀だな。レベル差はあれど、敏捷や火力に傾倒した暗殺者になら、万能型の超越者である自分が知識ではそろそろ追いつきそうなもんだが。自分の“常識”さんは素知らぬ顔(?)だ。

「ワレらはこの森では圧倒的に下位の存在であります。日々捕食者に脅え、新天地を目指そうにも、森を出れば人間に襲われ、それでも何とか命をつないでまいりました。」

あぁ、なんかすいません。

ひょっとしてあのゴブリンも彼らの仲間だったりして・・・。

「しかし、しばらく前に現れた巨大な猿によって部族を守って来た戦士たちの多くを失い、もはや滅びを待つだけとなっておりました。」

デモンエイプか。影響大きいなぁ。

それを倒したからお礼とか?は、さすがに無いか。

「監視のため潜ませていた部族の者から、あの怪物が皆様に討伐されたと報告を受けた族長ンダバの命を受け、やってまいりました。」

監視がいたのか。気が付かなかった。

あの時は結構いっぱいいっぱいだったとはいえ、“警戒”は使ってたのに。

ひょっとして結構な手練れ?

「何卒、ワレらハダ族を、配下の末端に加えていただけないでしょうか。」

片膝立ちの姿勢から、頭を床に付けんばかりに深々と頭を下げる。

辛そうな姿勢だな、じゃない、配下?お礼とかじゃなくて?

さすがにソンチョーもスロークもあっけにとられている。

いや、こっちは人間だよ?人間に襲われって、さっき言ってたじゃん。

「えぇ、と、今この村には不在の者もいるんだ。一応私が村の代表になっているけど、共同生活の場である以上は全員の意見を確認しなきゃいけないから、即答はできない。10日ほどで決定するから、後日改めて話し合わないか。」

さすがソンチョー、見事な後回しスキル。グッジョブです。

「承知いたしました。ぜひ、前向きなご検討を、切に、お願いいたします。」

といってハゾルは森へ戻っていった。

「う~ん、労働力は欲しいけど、まずいよねぇ。」

腕を組み考え込んでしまったソンチョー。

「ようやく外の街との交流が始まるかもってときだけに。」

頭を抱えるスローク。

ふふふ。

そんな二人には悪いけど、思いついちゃった。

「魔素抜き肉、彼らの手柄にしちゃおうと思うんだけど。」

二人ともはてなマークが飛び出しそうな顔で見てくるけど、かまわずに続ける。

「えぐみの正体が魔素ってことは伏せるとして、エグみを和らげる秘術が彼らの部族に伝わっていて、デモンエイプを倒した僕らにお礼としてその秘術を教えてくれた、今はその秘術を村で再現するために研究中で、彼らに手づだってもらいながら完成度を上げているところ。ゴブリンがいないとあの干し肉は完成できない、だからゴブリンがいるのは仕方ないことだ。って言い含められないかな。」

どのみち受け入れるにしても住居も無いわけで、少しづつ受入数を増やしながら、魔素抜き食材はゴブリンの協力なしにはできないって印象付けられれば、何とかなりそうな気がする。もちろん、ゴブリンたちには清潔にしてもらったりとやることも多いが。

「なるほど、ゴブリンたちが敵としてじゃなくここにいる理由があれば、受け入れた後、外からだれか来るたびにいちいち隠れてもらわず働いてもらってても問題ないね。」

理解が早くて助かります。さすがソンチョー。

スロークも納得してくれたようで、とりあえずユーシン達が戻ったら相談して決めることになった。

ゴブリンたちがどの程度役に立ってくれるか分からないけど、できることが一気に増えるのは間違いない。住居も増築しないとな。

「あ!」

ソンチョーの声に振り替える。

「ゴブリンって、何人いるんだろう。聞くの忘れた。」

「やばい。」

“常識”さんが思い出した。

「う~ん、ゴブリンの村って、50から100匹くらいみたいだけど。」

スロークの“常識”さんも同意見のようだ。

「ランク2になって広がった分の木を切って整地しないと、とても収容できないな。」

急遽予定変更である。

とりあえず暖炉造りを予定していた自分はオヤカタと伐採へ、トウリョーも暖炉を中断してソンチョー、スロークと地下貯蔵庫へ。広さも深さも十分なので、壁と天井を作るようだ。大工スキル持ちのトウリョーが必要な段階になっていた。オリヒメには手縫いで大変だけどゴブリン用の服の作成を始めてもらった。ハゾルのいでたちを見ると、衣服には頓着しないようだから早めに準備しておいた方が良いだろう。

予定が目まぐるしく変わってゆく。

でもなんか楽しい。

ユーシン達が戻るまであと5日ほどか、いや、向こうで一泊してくるかもしれないな。

長屋の後ろの木をできる限り切り倒して場所を確保しよう。根も掘り起こさないといけないから、まずは2日でできる限り切って、そのあと集中して根掘りだ。

途中、地下貯蔵庫を完成させたスロークとトウリョーが加わって、ユーシン達が戻るまでに村の南側(ハッキリと方角が分かっていないので、太陽の動きからざっくりと、ソンチョー宅の裏側を南とした。)の大半を伐採し、半分ほどの根を掘り起こすことができた。

横50m、奥行き25mほどのスペースができた。とりあえず20~30人位は受け入れられるだろう。後は第1陣のゴブリンに手伝ってもらえばいい。


商人到着予定日の昼頃、伝令に先行して戻ったゴンが到着した。

ユーキに託されたらしい手紙によると、やってくるのは商人1人と護衛5人、一応テントを持参しているとのこと。

ソンチョーがいつの間にか、というか、自分たちが伐採に集中している間に住宅(中)を増築、3部屋から4部屋になっていた。

商人と護衛のうち3人は個室に寝てもらって、2人は悪いけどリビングで寝てもらえばいいだろう。

従魔たちにはとりあえず長屋に入ってもらって、干し肉を準備する。

「あ!」

ソンチョーの「あ」は最近ちょっと心臓に悪いんですが。

「酢とトウガラシ、売れないかな。」

あぁ、外れガチャか。市場でトウガラシっぽい香辛料があったから、売れるんじゃないかな。

「酢は難しいだろうな。この世界、調味料はかなり未熟だから。」

そうなんだよね。売るにはまず味を知ってもらうことから始めないといけない。でも、酢だけじゃなぁ。

「入れ物も問題だろうな。ペットボトルはいくら何でもマズイ。」

「そうか。じゃぁ、酢はまた今度だね。トウガラシは袋に移し替えればいけるかな。」

なんせ、酢が15リットル、トウガラシが10kgも残ってる。何とか使うようにしてるけど、まったく減らない。売れるなら処分したいけどね。

ゴンが戻ってから、体感で30分ほどで商人を連れたユーシン達が戻って来た。

馬車の旅は相当つらかったんだろう。ユーキは荷台でグロッキーだ。

村に入って来た時ユーシンがぴくッとした気がしたけど、なにかあったのかな?

「母がお世話になっています。カブロと申します。」

丁寧に挨拶してきた商人のカブロ氏は、見上げるほどガタイのいい青年だった。2m近くあるんじゃないかな。

 ベッド小さすぎるな。

「あぁ、ベッドのことならお構いなく、持参してますので。」

いかん、顔に出てたか?

「で、干し肉ですが。どの程度ご用意いただけましたでしょうか。」

なんでも、通常の干し肉の倍額で出した美味干し肉は初日こそ警戒されて売れ行きが良くなかったものの、翌日には初日に試した客が買いあさりあっという間に完売、5割増しで売った下のランクの旨干し肉も瞬く間に売り切れ、前回納品した分も3時間で完売となったそうだ。

「それでですね、お恥ずかしい話なんですが、私もまだ食べたことが無いもので。できれば・・・。」

あれ?ここまでの道中ユーシン達から貰わなかったかな?

「僕たちが持ってたのは完成版なんで、マズイかなと思って出さなかったんです。」

と、すかさずユーキが小声でフォローしてくれた。

うん、なるほど。

 では、やる気を出してもらうためにも完全版をふるまってやろうではないか。

「これはまだ研究中で販売できる量には到底及ばないんですが。」

と前置きは忘れずに。

「これを量産できるようにすることが目標なんですよ。」

と、普段自分たちが食べている完全魔素抜き、煮込んでない干し肉を一枚手渡す。どうせなんで護衛の皆さんにも。

完全勝利を確信する反応アザース。

売りに出す干し肉は30Kg、他に魔石やトウガラシだ。交渉その他はソンチョーに丸投げして、長屋でユーシンとユーキにゴブリンのことを相談した。

ユーシンは即決賛成、ユーキはちょっと考えていたけど、今日合わせる予定のオリヒメへの反応次第で賛成してくれるという。

引き合わせるための雰囲気づくりというか、そこら辺の調整はコミュ力高いユーシンと、いろいろ気が利くユーキに任せる。

護衛たちはスロークが相手している。村産、ということにしているミード(実は買って来たものを魔素抜きしただけ)を振舞って、デモンエイプ討伐とかの話をしてもらっている。

自分は食事の準備に入る。

完成した地下貯蔵庫には日に三回、スロークと手分けしてコールドの魔法を数回ずつかけているので冷蔵庫並みに冷え冷えだ。

これはもう、ガッツリ胃袋をつかんでしまおう。

ダークブルも出そうじゃないか。牛肉と言ったらやっぱりステーキだよな。彼らからしたらゲテモノだろうけど、肉と言ったら干し肉か煮込みしか知らないこの世界の住人に新しい世界を見せてやろう。

残り少ないが、キャベツとニンジン、ジャガイモに干し肉でだしを取った具だくさんスープも作る。

あと、酢を知ってもらうためにピクルスも作る。酢に塩、トウガラシと、砂糖が無いので煮てアルコールを飛ばし、煮詰めて濃くしたミードをほんの少しいれて、キャベツとニンジンを漬け込む。簡易貯蔵庫に入れれば夕食時には漬かるだろう。キューリが欲しいな。

主食は麦ごはん、といきたいところだけど我慢して、茹でた大麦を捏ねて、牛脂を敷いたフライパンに薄く広げて焼く。具無しお好み焼きもどき再び。

完熟ラサの実も出そう。

あぁ、食材が少なすぎる。

調理スキルが宝の持ち腐れだ。

予想通りというか、ステーキを信じられないという目で迎えた一行だったが、ガッツくユーシンを見るや、カブロが意を決して一口。

「こ、これは、購入することはできるんでしょうか。」

この一言で護衛たちもステーキの魅力に取りつかれることになった。ちなみに販売はしません。町に着くまでに傷んじゃいますから。

あからさまにガッカリしてたけど、ここでしか食べられないものを作っておけば、いずれそれを目当てにやってくるハンターや商人、ひょっとすると旅行者も出てくるかもしれない。まだ先だけど、みどり村のランクアップ条件に住人以外の来訪者数ってのがあるってソンチョーが言ってたことだし。種まき種まき。

「ところでなんですが、干し肉、今日いただいたものはまだ無理にしても、前回下ろしていただいたレベルの物30Kgはどの程度で作れるでしょうか。」

ん?

やってくるのは50日に1回じゃなかったっけ?

「干し肉だけじゃなくいただいた野菜も素晴らしいです。それにこの、酸味の効いたもの、同じ野菜のはずなのに全く違っていて素晴らしいですし、魔石の量も質も申し分ない。」

圧がすごいよ。デカいだけに。

たしかにガツガツいってたから作った本人として悪い気はしなかったけど。

「もし定期的に卸していただけるなら、1か月、いや、半月に一度は仕入れに伺わせていただきたいのです。もちろん仕入れだけじゃなく日用品から魔道具、食材までご入用なものは何でもご用意いたします。もちろん誠心誠意特別価格で。」

悪くない話だとは思うんだけどなぁ。

「うちとしてはありがたい話ですけど、そんなに頻繁に来られたら、いままで巡回されていた他の村は困るんじゃないでしょうか。」

興奮気味のカブロにソンチョーが冷静に応じる。

ここら辺はさすがだなぁ。自分はよそのことまで頭が回らんかった。確かに困るよなぁ。恨まれる可能性も無いとは言えない。

「問題ありません。巡回は部下に任せて、自分が専属として回らせていただきます。」

「いや専属て・・・。カブロさん、商隊の代表でしょ。護衛がいるとはいえ危険じゃないんスか。」

行儀悪く、なんちゃってピクルスを指でつまみながらユーシンがつっこむ。

「まったくですぜ。俺らも街道で野盗相手なら、まぁ倍以上人数差が出なければ対処可能ですが、森の中で魔物相手となると分が悪い。魔物除けに魔石をいくら使ってもいいっていうなら別ですがね。」

と、護衛のリーダーらしき男もくぎを刺す。

「正直ここに来たいってのも分かりますがね。」

ふふ、リーダー君もステーキの虜かね。

それでもゴニョゴニョと、自分がここに来るべき理由を取り繕おうとするカブロ氏。

追い打ちを掛けるようにソンチョーが。

「安定供給できるかは現状ではお約束できないです。種類を問わないのであれば、干し肉は森で魔物を狩れれば何とかなると思うんですが、それでも我々の一存では即答できないんです。」

「それは、協力者という方たちのことですか?」

さすがユーシン、この辺りまではちゃんと伝えてくれていたようだね。まるな…任せてよかった。

「ゴブリンだということには正直驚きましたが、森にすむ魔物は外とは異なる生態になることもあると聞いています。協力者という部族も特別な存在なのかもしれませんね。」

へ?

ユーシンを見ると、ビッと親指を突き上げて、やってやりましたぜアピール。

自分の中のユーシン評価が5ランクくらい上がったよ。さすがユーシン。

さっそくということでトウリョーとオリヒメを呼んで顔合わせ。緑色のゴブリンということで驚いていたけど、逆に特別感を感じてくれたようだ。

 流暢にしゃべることからも、かなり知性が高く高位のゴブリンとして認識してくれた。

部族の集落もかなりの損害で、技術交流の意味も含めてこの村に移住させてくれないかと相談されていることも話しておく。これでまぁ、とりあえずは問題ないだろう。

「これから冬ですからね。うちも備えが必要ですし。野菜の方は、まだ自分たちで食べる分しかないんで難しいです。でも、ピクルスというんですが、これを作る調味液なら近いうちにお譲りできるかもしれません。」

サラっと酢の売り込みもしてみる。実際、たくあんやらっきょうと違って、浅漬けやピクルスはあまり日持ちしないのでここで売るのはマズい。なのでレシピと一緒に売ってしまえばいいや、ってことだ。

 トウガラシと酢が売れるなら、ガチャももっと回数増やせるし、調味料や香辛料が増えれば食生活ももっと多様化するし、種ガチャで何としても米が欲しい。食べられるようになるのに年単位で時間がかかるだろうけど。

 格安スーパーの弁当レベルまではまだまだ遠いのだ。

「なるほど。しかし、外にはこの野菜は見たことが無いのですが、他の野菜でもできるのでしょうか。それに、正直野菜自体旨くない。」

ああ、その問題があったか。

「まぁ、冬の間は行き来もできないでしょうから、その間に何か考えてみますよ。」

といったら、何を言ってるんだ、なんて顔をされてしまった。

「もちろん冬も来ますよ。行商用のソリがありますので、ご安心ください。」

ニカっと笑う笑顔の圧がすごいよ、カブロ氏。

「あぁ~、でも、冬の間は狩りの方が難しくなると思うんですよね。自分たちの食い扶持もあるので。」

圧に押され気味の自分に代わってソンチョーの援護射撃が、

「なるほど、村の整備も重要ですね。わかります。ではどうでしょう、腕利きのハンターをご紹介します。もちろん、腕利きなだけじゃなく、村の秘密を守れる口の堅い、信用できるものを。彼らからすれば、これだけ森の深い場所で安全に滞在できるなら喜んで来るでしょう。10人程住める小屋だけご用意いただければ、それを条件に肉も回収させられるでしょう。彼らの取った素材は私が買い取りますので、ご負担はおかけしません。あ、もちろんご入用の素材があれば優先的に皆様へお売りするように伝えます。」

と、まくしたてられて不発に終わった。

結局押し切られて、ハンターの常駐を許可することになってしまった。

村の発展には悪いことじゃない。と、前向きに考えよう。

色々と規格外な村(実際はまだ集落)だからかなり気を使わないとな。ソンチョーよろしくお願いします。

 なんて考えてたら、ソンチョーにジト目されてた。そんなに顔に出やすいかなぁ。

翌朝、出発の準備を終えたカブロ一行と朝食を取りながら談笑していると、もじもじとカブロが、

「出発前に、ぶしつけではあるのですが守護神様にご挨拶させていただけないでしょうか。」

ときた。

守護神?

なにそれ。

「まて、ユーシン。」

スロークが、静かに逃げ出そうとしていたユーシンの首根っこをつかんでいた。

肩を組むようにしてゴニョゴニョと何やら話している。

はぁ~。

深いため息を吐くと、ユーシンを放してカブロに、というか、自分たちに

「守護神像はここの安全を守る重要な像だ。それを発見できたからこそ我々も安心して暮らしていけるわけだが、いつ、悪意を持った者に狙われるとも限らない。だから我々以外が立ち入れない場所に祭壇を作って祀っているのだ。いくら安全を信用してもらうためとはいえ、そのことを部外者に話してしまったユーシンは厳罰に処するべきだ。」

と、厳めしく説明してくれた。

なるほど、めんどくさい嘘ついてきたね。しかもそれ、自分たち聞いてないよ。

自分の中で、昨夜急上昇したユーシンの株が大暴落した。ストップ安なんかぶっちぎりで急降下だ。

「いえいえ、私が無理を言って聞き出したのです。まさかこれほど深い場所に人が暮らせる場所があるはずが無いと。」

あわててユーシンをかばうカブロ。

とりあえず、数日は3食魔素抜かずメシで勘弁しよう。

で、どうしようか。とソンチョーを見る。

 何とかして!という念を込めて。

「分かりました。ただ、現在守護神像は無防備な状態で祀っています。我々だけの秘密としていましたので。申し訳ありませんが、まだ、我々の命に直結する重大な存在を無防備なままお見せできるほどカブロさんとの信頼関係は深くありません。次回お越しの際に何らかの対策をさせていただきますので、今回はご容赦ください。」

とっさに繰り出されたソンチョーの先送りスキル。さすがです。

そうまで言われて引き下がったカブロ、次回の来訪を約束して出発していった。


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