120:悪魔
王都から帰還したはいいけど難題山積、まったくもって出鱈目だがね。
開拓を指定された地域はみどり村より気候の落差が激しく、不穏な動きが報告されている隣国との国境近く。
みどり村と道をつなごうにも、途中はノスサンザ大森林でも特に危険な地域を越さなければなtらない。
そこに、これから独り立ちしようという貴族たちの手本になるような都市を作れと。
どれだけ無理難題詰め込んでるんだよ。
帰途の移動中にもバンバンジーの元へ援軍派遣を指示したり、面倒事は片付けるごとに増えていくのに。
あぁ、何から手を付けよう。
そんな風に頭を悩ませているところ、ある報告が上がってきた。
ゼビルの訃報だ。
知性特化とはいえ、ゼビルは幹部クラスの悪魔だ。
体を真っ二つにされた程度では滅びたりしない。
「未確認ではありますが、ゼビルはナレハテによって吸収された可能性があります。」
淡々と告げるクロウに、若干の苛立ちを感じながらも、職務を全うするクロウに当たるわけにはいかない。
「根拠は?」
こぶしを握り締めつつ、短く問う。
「ゼビルの前に、偵察のためシャドウデーモンが対象に近づき消滅しました。ゼビルは、シャドウデーモンの能力によってナレハテの攻撃を受け、チリ一つ残さず搔き消えたとのことです。」
「・・・わかった・・・下がれ。」
ゼビルとは、確か領都へレインを送り届ける時御者としてクロウが召喚して以来の付き合いだ。
深い知識と、調整力で何度も助けられてきた。
裏方として活動してもらうことが多かったが、彼がいなければなしえなかっただろうことも少なくない。
王都へなんか行くんじゃなかった。
いや、断れるはずがない。
なんでこんな時に呼び出したんだ・・・ダメだ、違う、こんなこと、誰も想像できるはずがない。
ダメだ、ゼビルの死を、誰かのせいにしようとしている。
責任があるとすれば、部隊を編成し、彼らの派遣を決めた俺だ。
「イメチェンか?」
「「まぁ、そんなところです」」
勝手にソファーに座っている白い男。
その右腕は、肩からえぐり取られたかのように無かった。
「気分じゃないんだがな。」
いつもと雰囲気が違い過ぎるからこそ応じているが、本当なら叩き出してやりたいところだ。
「「お伝えしなければならないことがあります。」」
急遽会議室代わりになった迎賓館のホールに、遠征に出ている第五部隊と、増援として出立した第一、第二部隊隊員以外のワタリビトと、ホールに入ることのできる従魔たちに、レンとユイが集結した。
全員に重い緊張がのしかかる。
それは、この世界に来ることになった犯人である悪魔が、無残な姿で、力なく椅子に腰かけているからだ。
最恐の悪魔、双子のレンとユイですら一言も発さず押し黙っている。
「「最悪の事態となってしまいました。」」
そう話し始めた内容は、全員の背筋を凍りつかせるに十分だった。
ある一人の化け物がいた。
シンたちからナレハテと呼ばれる者の中の一人。
数多いるナレハテの中では、さして気にするほどのことも無い存在だった。
いずれは、はるかに多くいるより強い個体たちに追い立てられ地上へと落ちるしかない。
何を思ったか、ナレハテは自分より弱い個体を食らった。
腹がすいたわけではない。
元々、食事など不要なのだ。
ただの八つ当たりだったのか、憂さ晴らしだったのか・・・。
弱き存在を手あたり次第に食らった。
因果応報、自らの行いは、すぐに返ってきた。
自分より強い存在、ほんの数年前に、国の端まで追い立てた張本人によって、今度は地上へと落とされる。
が、そうはならなかった。
自分より強かった存在が、今は地に伏している。
地上に落としてやる選択肢はなかった。
いつものように食らう。
そして認識した。
食らうほど強くなる。
彼は慎重だった。
自我などロクに残っていないにもかかわらず、自身より強い者には決して近寄らず、弱きものだけを選んで食らい続けた。
あまりにも多く食らい続けたことで、まともな姿を保つことすらできなくなっていたが、それでもかまわずくらい続けた。
それを面白がった悪魔がいた。
少年のような青い悪魔は、ナレハテを業火で焼き、雷の矢を降らせて反応を楽しんだ。
本来、クソ悪魔や双子の同類は契約も無くこの世界に影響を与えることができない。
しかし、ナレハテ達にはロクに自我が無いことを利用して、まさに捕食されようとしていた弱気ナレハテに囁いた。
「「復讐したいよね?」」
食われながら弱きナレハテが向けた憎悪が、強引ながらも契約となり顕現したのだ。
思いつく限りの手段でいたぶり、存分に楽しんだ悪魔は愚かにも、いたぶってきたナレハテを放置して別のナレハテにちょっかいを出し始めた。
あらかたやりつくして飽き始めたところに、はるかに強い相手、面白い相手を見つけたのだ。
新たなおもちゃをいたぶりつくすと、別のおもちゃを見つける、次々と移り変わるおもちゃたち。
それを虎視眈々と狙い、弱ったナレハテを食らうものがいた。
はるかに強い存在を食える絶好のチャンスを得たのだ。
愚かな悪魔が気づいた時、最初のおもちゃは悪魔の想像をはるかに超える存在になっていた。
最初のおもちゃは、高い知能を獲得していた。
同じ轍は踏まない。
逃げようとする悪魔を一瞬で飲み込み、食らいつくした。
とうとう弱きナレハテは、悪魔の力をも自らの物とした。
悪魔を捕食したことで世界を渡る能力を得たナレハテは、クソ悪魔を急襲、その後この世界へ渡ったのだという。
「「こちらへ渡る直前に、破壊し、封印することはできたのですが、不完全だったため時間と共にこちらの世界へ影響を与えてしまいました。」」
「それが、報告にあったゆがみってやつか?」
「「はい。」」
「じゃぁ、バンバンジーが使ったっていう魔道具での攻撃で解き放たれたってことか?」
「「確かにそうなのですが、あの判断はナイスでした。あの中であれは、バラバラになった体を修復していたようなのです。私の与えた破壊は、完全修復にまだ数年はかかるほどのレベルでした。」」
「「すごいでしょ?」」
こいつ・・・。
「「今あれは、これまで食らって食た無数の雑魚ナレハテの微弱な自我と、愚かなる我が同胞によって食らわれることとなったボスレベルの自我、愚かな我が同胞の自我のせめぎあいによりまともな思考ができる状態ではありません。
肉体も統一性が無く、ただ一つにくっ付いているというだけの状態です。
まだ、滅ぼせる可能性のある状態ですね。」」
まだ可能性はある・・・か。
冗談じゃない。
こいつがこういう言い方をしてるってことは、万に一つ有るかないかってレベルで不可能なことだろうよ。
「「微力ながら、私もご協力させていただきます。世界を救ってはみませんか?」」




