119:ゆがみ
「なんだありゃあ。」
強面のドワーフ、バンバンジーの顔が不快感にゆがむ。
第五部隊に課された使命は、閉じ込められたナレハテの殲滅と、ナレハテによって無惨に破壊され尽くした王都の機能回復だった。
使い物にならない瓦礫の山となった王城の代わりに、大広場に仮の城、というか、役所的な施設を建造したり、難民同然の住人たちが住む仮設住宅の建設等が主な任務だ。
本来ならナレハテの討伐以外は管轄外なのだが、国の中枢が壊滅状態ということで緊急に復興しなければ、謀反の気がある貴族たちが蜂起して内戦に、なんてことになりかねないと泣きついてきたらしい。
王家は全滅、急遽据えられた新王は12歳の子供の上前王の従姉妹の甥と、常時ではありえないような少年が王座についたうえ、後見人もクリーンなだけが取り柄と囁かれるような伯爵位と、かなり危なっかしい状態。
サンザ王国としても、近隣で内戦と言う事態は避けたいし、恩も売れるということで最重要案件の一つに挙げていた。
閉じ込められたナレハテの処理は滞りなく済んだ。
魔道具組んで焼くだけの簡単なお仕事だった。
問題はその後だ。
王家やら貴族やらからは連日無理難題を押し付けられ、それをバンバンジーが睨み一つで押し退ける、そんな日々を繰り返しながらの復興だった。
とはいえ、実際にバンバンジーが対応したのは王族関係や上級貴族などのごく一部で、それ以外は全てゼビルが対応していた。
当初バンバンジーは、上司に当たるシン直属の悪魔、慇懃で感情を見せず、淡々と業務をこなすゼビルのことを疎ましく思っていた。
所詮自分たちは元反逆者、こいつもようは監視しているだけなのだろうと。
現地に到着して数日でその考えを改めることになった。
ゼビルは戦闘力こそ悪魔たちの中では平凡だが、貴族たちのあしらいに長け、調整力に長け、交渉事に長けていた。
隊長意外とは話さない、と言う一部は仕方ないとして、それ以外の面倒事を一手に引き受けて瞬く間に処理していくゼビルの有能さに、自分自身が恥ずかしくなってしまった。
少しでも自分の意見を通して有能さをアピールしたい有象無象を捌きつつ、一応無調整しながらある程度は汲みつつ、という微妙な調整をバンバンジーたちの進行状況に合わせて組み込んでゆく手際に舌を巻き、1か月もたつ頃には完全に信頼しきっていた。
ゼビルの奮闘のおかげで思う存分腕を振るうことができた仮設王城。
尖塔こそないものの、これ以上の物はこの国の職人では作れまい、と満足できるだけのものはできた。
ようやく仮設王城が完成したばかりだと言うのに。
その仮設王城の一部が波紋のように歪んでいる。
よりによって、バンバンジーが丹精込めて彫り込んだ飾り細工ごと。
波紋のような歪みは次第に大きく、歪み方もきつくなってゆく。
「やれやれだな。悪いけど、みんなを集めてくれ。」
「偵察に送ったシャドウデーモンは、歪みに到達する10m手前でロストしました。攻撃を受けたなどの反応もなく忽然と消え、以後一切存在を感知できません。消滅した、と考える他ないでしょう。」
淡々と告げるぜビルに、頭を抱えるバンバンジー。
「まいったなぁ、あれ、ナレハテの仕業だと思う?」
周りを見回すが反応はない。
分かるはずもないし、いい加減なことを言える雰囲気でもない。
わかっていても聞かずにはいられなかった。
第五部隊は、もともと長期戦を想定される作戦の支援部隊として設立された。
隊長のバンバンジーはクラフトメインのシミュレーションゲーム、クラフトマンズ出身だが、戦闘はスパイス的に申し訳程度しか起こらず、戦闘を回避してもゲーム進行には支障が無い程度の扱いだった。
もちろん、この部隊でも一番の役割はクラフトだ。
副長のサーヤもメイプルファンタジアというMMORPGプレイヤーではあったものの、選んでいた職業はバード(吟遊詩人)で、支援職だ。
呪楽器と呼ばれる、専用の楽器で曲を奏でたり歌うことで様々なバフ、デバフや回復効果を広範囲に広めることができる。
この部隊でも、疲弊した人々(主に派遣先の騎士団や住民)の心や負傷などのケアを期待されていた。
シンノスケ(元マルチナ)は妖艶な魔女がバリバリアクションで悪魔たちと戦う武闘派だが、中身本来の性別である男に、姿も本来の姿、ガテン系なオッサンへと容姿変更を行ったことで、戦力は大きく減衰している。
戦闘用サイボーグと魔女と言う違いはあったが、マナのオートマトンとシンノスケのマルチナ・ストーム・キリングは、同じ開発チームが手掛けた姉妹作ともいえるもので、流れるような動きが特徴のアクションが売りだ。
ガテン系のオッサンでは再現しきれない。
それでもこの部隊では最高戦力としてバンバンジーたちの護衛的な役割なのだが、残念なことに戦力的には、第一から第四までとはかなりの差があるのだ。
だからこそこういったトラブルは非常に困る。
「はぁ~、連絡はとったよね? 早く来てくれないかなぁ。」
不安げに宙を仰ぐバンバンジー。
こと、クラフトにおいてはみどり村の3人にも引けはとらない、と自負してはいるが、戦闘面に関しては全く自信がない。
「近づいただけで消滅って、関わりたくないんですけど。」
サーヤの言ももっともな話だ。
どうやって戦えばいいのか、見当もつかない。
援軍を待つにしても、ボーっとただ待っているわけにはいかない、それは分かっているのだが、何をどうしたらいいのかさっぱり分からない。
そうして無為に時間が過ぎていったが、援軍が出発したという報を受けてついに、バンバンジーが決断した。
「よし、城を壊そう。」
突貫工事で最初のナレハテを処理した魔道具を解体すると、異変から十分離れたポイントで組み立て始めた。
「どうするんです、これ?」
言われるがまま資材を固定しながらシンノスケが聞いてきた。
本来とは全く違う組み立て方をしているのだから、疑問に思うのも当然だ。
「とりあえずぶっ放す、後はそれから考える。」
それ以上語らず、黙々と組み立てていくバンバンジー。
構造や仕組み、応用のための知識はこの部隊の隊長に任命されてからミッチリと頭に詰め込んである。
状況に応じて臨機応変にクラフトすることこそが、この部隊に求められた使命だと理解している。
昼夜問わずに勧められたクラフトで完成した物は、本来垂直に立つはずの魔道具本体、5本の支柱を、巨大な台車に水平になるように配置した物だった。
「こいつであのゆがみを焼き尽くしてやる。」
台車で突進し、水平に取り付けられた支柱の中心にゆがみを捉えて起動させるつもりらしい。
言われてみれば、高さもゆがみに合わせている。
が、城の壁には律夫ているように見えるゆがみを捉えるということは、城の壁を盛大に破壊するということでもある。
「思い切ったね、バン爺。」
「ちゃんと名前で呼んでくれ、まったく、サーヤもリタもジジイ、ジジイって・・・」
そう言いつつも、半ばあきらめている。
ファーレンにいた時から、もう何年も繰り返しているのだから。
援軍到着まで2時間ほど、バンバンジーたちの作戦もいよいよ始まる。
もし失敗しても、じきに援軍が到着する。
気兼ねなくできるってものだ。
腕力組が台車に取りつき、身長に方向を調節すると一気に押し出した。
危険とされる範囲ギリギリまで全力で押し込むと、そのまま放った。
空気を振動させるほどの地響きと共に城の一部が崩れ、直後もうもうと吹き上がる煙が真っ赤に染まった。
寸分たがわず捉えたゆがみを、紅蓮の豪華が焼き尽くしている。
はずだ。
煙がはれると、魔道具の砕けた支柱の一本の上に、人型のナレハテがいた。
人型、と言うにはかなり無理がある。
頭部があるべきところからは、イソギンチャクを連想するような無数の触手がうごめいている。
顔に当たるものは、右胸にへばりついていた。
腕は右側に2本、肩から生えているものと、右わき腹からはエビの足のようなものが複数生えている。
左側は4本、首筋から脇腹にかけて縦に生えている。
足は左が一本、右が二本。
さらに、背中のいたるところから蝙蝠だったり、鳥だったり、昆虫だったりに似た羽がめったやたらに生えているのだ。
全く理解できない。
あれなら、ただ絵具を垂らしただけにしか見えないような現代アートとやらの方がまだ理解できる。
パーーン!
すさまじい光が、得体のしれないナレハテを打った。
シンノスケの雷撃魔法、ライトニングだ。
アクションが売りのゲームだけあって攻撃手段は中、近距離が中心なので、ライトニングはシンノスケの使える唯一の遠距離攻撃なのだが、ナレハテには一切通用していないようだ。
「まったく・・・せっかく作った城を壊してまで引っ張り出したってのに、余計面倒になったんじゃないだろうな。」
見た目だけでもかなりヤバい。
あのまま増援が来るまで閉じこもってもらっていた方が良かったかもしれない。
「マズイです!バンバンジー様、あれはグャギ・・ガ・・」
振り返ったバンバンジーの目には、地面から突き出た無数の白いトゲに貫かれたゼビルの姿があった。
「な・・・」
「ゼビルさん!」
「グ・・・オキギ・・クダザ・・・イ。アレバ、シャドブ・デモンノ、チガラヴォ、ウバッデ・・・」
言い終わらないうちに、ゼビルは内側から破裂するように消滅した。
「マジかよ、シャドウデーモンの力を奪ったってのか・・・まずい・・・影に気をつけろ!!」
最悪だ、殺した相手の能力を奪えるというのなら、ゼビルの力も奴の力になっているかもしれない。
「くそ!よくもゼビルさんを!」
「やめろシンノスケ!!」
その叫びも、何もかもが遅かった。
いたるところに落ちた影から、無数の白い刃が襲い掛かったのだ。




