112:クラッカー
上空を龍やグリフォンが飛ぶ中、作戦は進行してゆく。
ハクアたち狼とフレイア、デストームによる、豪華すぎる揺動の隙間を縫って、新たに作られた可動式の巨大な防壁を盾に、ジリジリと歩を進める建築部隊。
狼に向けて岩弾を撃った直後、頭上から襲いかかる龍2頭の合体攻撃は壮観だ。
クラッカーの全身が炎に包まれたかと思うと、炎が旋回し、巨大な燃える竜巻と化す。
わずか数十秒で消失するが、クラッカーの体はほぼ全身が炭化し、二回りほど小さくなっている。
が、炎が収まった瞬間にはすでに凄まじい速度で再生が始まっている。
再び攻撃できるようになるまでに完全回復される。
無駄ではない。
炎に包まれている間、炭化した組織が剥がれ落ちる間、そのわずかな時間に建築部隊は前進する。
ゆっくりと、確実に距離を詰めてゆく。
「じれったいなぁ・・・もっとこう、バンと行ってガツンと建てちゃてないのかしら。」
(困ったなぁ、ユーシンさんもユーコさんもいないから、アオイさんを止められない。)
彼女はいつも元気で周囲を明るくするようなイメージだったが、それはやりたいことを思う存分できる上、恋人のユーシン、親友のユーコが近くにいる環境があればこそだったようだ。
(そういえば、シンさんが死んでいた(?)時とか、ユーコさんが誘拐(?)された時も大変だったみたいだし、結構繊細なんだな。)
ここへきて数日は問題無かったのだが、日がたつごとに苛立ちを感じるようになってきた気がする。
検証などに時間がかかってしまったせいでもある。
その間建築部隊はほぼやることも無く時間をつぶしているしかなかった。
黒曜石ブロック運搬のためロクな設備も持ち込んではおらず、ただ待つだけの日々は結構辛いものがあった。
いよいよ作戦開始となっても、やっぱりお預けを食らっているようでもどかしい。
それでも何とかなだめすかして、ようやく一本目の建設を完了、2本目にかかるために再びだるまさんが転んだ状態。
クラッカーから見て真横に移動する分、近づくより安全ではある。
近づかなければ攻撃されないからだ。
しかし、測定しながら動けるわけではない。
目測での距離感で動くしかないので、やっぱり慎重になるしかないのだ。
緊張感が苛立ちを上回っているときは順調に進む。
3本目。
半分を超えた時、疲労感が緊張と苛立ちのバランスを狂わせた。
横へとスライドさせていた防護壁が突然動かなくなり、そのせいで足を滑らせたオークの作業員がカイトにぶつかり、カイトの持っていた工具が転がり落ちた。
咄嗟にアオイが工具を追った。
クラッカーに向かって。
「アオイさんダメだ!」
短い移動時間の最後、クラッカーが攻撃を再開する最悪のタイミングだった。
カイトの叫びも空しく、岩弾がアオイを襲う。
ガキィッ!
アオイの死を意識した次の瞬間、真っ白い何かが現れて岩弾を弾き飛ばした。
スッと立ち上がるその後ろ姿は、
「ユ、ユーシン!?」
真っ先に気が付いたアオイが叫んだ。
「違う!」
くるりと振り返った白い人影、黒地に白く”殺”と書かれた大きめのマスクにサングラス、白い長ランに、やっぱり白いスラックス・・・一応顔は隠してるけどユーシンさんじゃん。
「オ、オレハ、キョーヤだ!」
キョーヤって・・・ユーシンさんが使ってたっていうキャラ名ジャン。
「あ!あぁ~、キョーヤさんですか・・・す、すごく似た人を知っているからビックリしちゃいましたあ~ハハハ・・・。」
察したアカネが話を合わせようとしてるけど、完全棒読み状態だ。
「わざとらしいくらいタイミングばっちりね。」
なんて言うアオイさんだけど、やっぱりうれしそうだ。
しかし、なんでフレイアさん達と一緒にグリフォンが飛んでるのかと思ったけど・・・ユーシンさんが乗ってたんだな。
どう見てもモロバレだけど・・・大丈夫なのか?ユーシンさんは少し前に準男爵に上爵していて、そのせいでこの国には来られないって言ってなかったっけ?
「この国の人たちにバレなきゃいいのよ。」
と、アカネが耳打ちしてきた。
それもそうか。
バレても、どうせ怒られるのはユーシンさんだし。
後はもう、ほとんど消化試合。
ちょっとミスってもユーシンさん・・・じゃない、キョーヤさんがバンバン岩弾を打ち落としてくれるし、かなりスピードアップして建設が完了した。
起動のための準備に1日はかかりそうだというので再び待機。
今度はユーシンさんがいるからアオイさんも・・・ん?今はユーシンさんじゃなくてキョーヤさんだから一緒にいるのは不味いよな・・・。
・・・どうやら、まったく気にしてないらしい。
”いちおう”マスクとサングラスしてるけど、すっかりいつもの二人だ。
なんならユーシンとか呼んじゃってるし。
俺、知~らない。
クラッカーの処理が終わり、後は残った蟻の処理だけ、だったが、それを完了することなく帰途に就くことになった。
療養していたロキスネアド・サムアナフ王が復帰したのだ。
実権を取り戻した王は、敵国であるサンザの兵を引き入れたとして王太子のスクアネドを拘束、即刻撤退するか全面戦争かと突きつけられた。
結局、総隊長であるサンザ王国王太子の指示により即時撤退となったのだ。
どうもうさんくさい。
王復帰のタイミングが良すぎる。
そんな疑問を伝えたけれど、総隊長は意味ありげな笑みを浮かべただけだった。
うん、わからん。
一兵卒の身に腹芸はわからん。
あとで副隊長のシンさんに聞いてみよう。
「作ったままの防護壁とかもそのまま放置してきていいって言ってたけど、アレを利用されるのも癪に障るな。」
輸送機に乗り込むと、つい愚痴が出てしまった。
アレの防御力は無視できない。
「無理無理、サンドボックスゲーマーでなきゃ壊すこともできないもの。むしろ、あれってかなりの嫌がらせだと思う。壊すことも動かすこともできないし、使い道のないただの一枚板が立ってるだけだし。」
なるほど、確かに邪魔と言えば邪魔だな。
「ところで、あの人たち誰?」
そういう先には、フードを目深にかぶったローブ姿の一団がいた。
「あぁ、後始末のための話し合いに参加される使節団らしい。国内がごたついて陸路が危険らしくてね、ご一緒するように指示があった。」
「ふ~ん。」
何かあるんだろうけれど、関わる気はない。
そういったことは上がすることだから。




