111:迷宮
109話が110話に変更され、109話に書き忘れを差し込んで、ようやく111話です。
思いついた部分を話数無視してとにかく書こう、なんてのはやめます。
余計時間かかってしまった気がします。
「やっぱりだめか。」
壁のぶちぬきは、7層で限界をむかえた。
岩で補強された壁は、蟻の唾液(?)の効果によるものかは不明だが、グレネードですら傷つけることができなくなってしまった。
「迷路とくい。」
目を輝かせてアピールするリタだが、ツキタケは知っている。
リタは迷路が好きなだけで、けっして得意なわけではないのだ。
任せていたら、一生女王の下へたどり着けないどころか、脱出までできなくなりそうだ。
「道案内はシャドウデーモンに任せる。」
天井がないとはいえ、要塞内は影の宝庫だ。
シャドウデーモン達は先行して女王までの最短経路を探索している。
不安要素といえば、前回の突入がクラッカー乱入によって中断され、消費された弾薬の補給が完全ではないことと、突入前にあらためて蟻への対処法をシンに確認したかったが、王都に呼び出されて不在だったことだ。
緊急事態ではないそうだが、だったら何でこんな時に。
「メイロ・・・。」
恨めしそうにこちらを見るリタをかまっている暇はない。
敵を排除しようと蟻たちが大挙して攻めてくる。
「匂い袋を使え!」
蟻たちが仲間を判断する方法は臭いだという。
それも、フェロモンのように体の中から出続けるようなものではなく、体表に複数付着したワックスの割合を触覚で直接触れて感知している。
ワックスは、前足を舐めてから体にこすりつける、グルーミングという行為によって常に整えられている。
つまり、一時的であれば後天的に変更できるということだ。
元の世界の蟻であれば。
この世界の、ましてナレハテから生まれた蟻のような化け物に通用するのかは不明である。
それでもまずは試すしか無い。
ワタリビトのエンバーロックが支配するダンジョンに現れたという蟻の魔獣、テラフォミカの外殻や、みどり村産の唐辛子などの香辛料などを粉末にしたものを蟻たちにぶちまける。
最初の予定では外殻の粉だけだったんだが、いろいろと計画が狂い量が足らないのでは? ということでかさ増しに色々入れたのだ。
それでいいのかシンさんに確認したかったが、連絡が取れないのだから仕方がない。
「にぎゅきゃぎゃ〜!」
リタの、形容しがたい叫び声が聞こえる。
何があったかは容易に想像できるのであえて無視する。
たぶん自業自得だろう。
問題無くぶちかますことに成功した分だが、蟻たちは大パニックに陥っている・・・が、これ、この狭い中でのたうち回る蟻たち(と、若干名)、大混乱で収集がつかない。
同士討ちを始めるのでは、という目論見はどうなった?
唐辛子やめときゃよかったかな。
リタがやらかした。
やめろというのに、調子に乗って大量の唐辛子粉末で匂い袋を作っていた。それをぶち撒けようと投げつけて、蟻に打ち返されたのだ。
打ち返した蟻もろとも、数名の仲間も巻き込んでかぶってしまって悶絶している。
ツキタケ団長は無視することに決めたみたい。
うん、まぁ、戦闘中だしね。
真っ赤に染まったリタの周囲には蟻も近寄ろうとしないから放っておいていいでしょう。
とにかく、女王戦に向けてMPを温存しなきゃ。
ゲーム時代に使っていた精霊王のレイピア、二ルングレストなら、この程度の敵は簡単にけちらせるのに。
たぶん。
言い訳にしちゃってるけど、アオイちゃんからもらったこの剣もかなりの業物っぽい。
精霊が宿ってないから剣撃のスキル使えないけど。
って、余計なことを考える程度の余裕があるのはやっぱり蟻たちが混乱しててくれているからかしら。
タタタタタッ!
小気味の良いマシンガンの発射音が聞こえてきた。
どうやらリタも持ち直したみたい。
出遅れてしまった。
まさか、打ち返された上自分でかぶってしまうなんて。
シャレでウシオっちが作った超辛ハバネロ粉末入りを使わなくてよかった。
あれは封印しよう。
そしてこの怒りはありんこたちにぶつけるのだ。
ツッキー団長は続々やってくる元気なありんこを狙撃しているみたいだから、マシンガンで悶絶中のありんこを殲滅!
おや?
一部のありんこが同士討ちを始めている?
あっちは確か、ルリルリの担当。
辛いの苦手だからと唐辛子粉末を(大量に)分けてくれたっけ・・・。
「まさか策略!?」
ルリルリめ、こうなることを分かったうえで粉末を分けたに違いない。
「また、何とっ散らかったこと言ってんですか。」
完全ジト目でツッコンんできた間抜け顔のコイツはゴブ太郎。
「すんげぇ失礼なこと考えてますよね? それにオイラはハリカルですからね、ゴブなんとかじゃないですからね!」
「思考読んだ!」
「んなわけ無いでしょ、毎度のこと過ぎて簡単に予想できるだけですよ。」
ナマイキ。
なんでこんなのを副管にしちゃったんだろう。
惨劇となった粉末地獄から抜け出すと、ほぼ同時にシャドウデーモンが女王への最短ルートを割り出した。
しかし、匂い袋作戦が成功したっぽいのはルリだけか。
唐辛子粉末、邪魔だったな。
そもそも、臭いイコール唐辛子なんて発想が狂ってる。
ぶちまけられた粉末が戦闘で巻き上げられて目も口の中も鼻の中も痛くてたまらなかった。
シンさんと連絡が取れていればこんなことには・・・なんでこんな事になったんだったっけ?
・・・言い出したのってリタじゃないか!
くそ! 不安感から話に乗ってしまったけど、一番注意しなきゃならない相手だった。
はぁ・・・蟻たちを混乱させられたからまるっきり無駄じゃなかったし、本人は天罰食らってるから許すとするか。
まったく・・・。
狙撃も近距離で有利な連射もできるアサルトライフルを選んでいたが、進行方向が確定した以上、より近距離での戦闘に有利なサブマシンガンに切り替える。
片手には常にマガジンを持ち、撃ちまくりながら走るように前進する。
複雑な迷宮も、優秀なナビがいればどうということはない。
狭い通路のおかげで警戒しなければならない方向が少なくて済む。
当然、殲滅しなければならない蟻の数も少なくて済む。
アリには指揮官がいないと聞いた。
個々が己の判断基準によって活動している。
ん?ってことは、こいつらはそれぞれが、俺たちを敵だと判断して襲ってきてるんだよな。
いや、それだとおかしい。
それだけなら、どうしてこんなに多いんだ?
次から次に現れる蟻。
間違いなく集まってきているよな?
思い出せ、蟻が連絡を取り合う方法・・・。
臭い・・・フェロモンだったか?いや、こんな狭く複雑な迷路の中で臭いが遠くまで届くとは思えないし、確か、蟻のフェロモンは揮発性が強くて短時間で効力が無くなるって言っていた。
他に何か・・・。
出発前にシンと話した内容を思い出す。
向こうの世界の蟻とは違うかもしれないと、参考程度までなんて言っておきながらなかなか終わらない脱線交じりの蟻トーク、もっとちゃんと聞いておくんだった。
以前の自分に後悔し始めた時、ふと目に入った一匹の蟻。
そうか!振動だ。
思い出させてくれた蟻は、体を小刻みに、リズミカルに上下に振っている。
腹の底が地面を打ち、地面を通じて警戒音で呼びかけているのか?
警戒音で呼んではいるが、敵認定は個々の判断、ならばごまかせるかもしれない。
「蟻の死体を担げ!臭いをごまかすんだ。」
そう叫ぶと、手近な蟻の死体を背負う。
「キモイ。」
「ツッキーの趣味?」
「以外と重いですね。」
「うげ、体液付いた。」
文句を言いつつも従う仲間たち。
効果のほどは・・・上々だ。
先ほどまで襲い掛かってきていた蟻たちが、戸惑うようなしぐさに変わり、襲い掛かっては来なくなった。
「よし、一気に進むぞ!蟻を下ろさないように注意しろ。」
「蟻背負った軍団・・・かっこ悪い。」
「うるさい。」
ルリの文句を一刀両断にして女王を目指す。
女王は想像とはだいぶ違った。
「巨大な腹でほとんど動くことができず、ってイメージだったんだがな。」
今、目の前にいる女王は、確かに巨大で腹部も他の倍ほどもあるが動く気満々で威嚇してくる。
バシュッ
すぐ隣で射出音が鳴ったと思ったら、女王の顔面が炸裂した。
「あ。」
次の瞬間、再生した女王の顔面にリタが声を上げた。
「ナレハテの本体なんだから超再生するの分かってるだろうが。」
「忘れてた。」
猛吹雪が女王を包む。
「とりあえず動きを鈍らせるから準備して。」
作戦通り、ルリがブリザードで女王の動きを鈍らせたのだ。
装備を火炎放射器に切り替える。
部下たちも火焔を発する術式杖を持ち、女王を中心にグルリと取り囲んだ。
「焼き尽くすぞ。外からの蟻に注意しろ!」
一時間後、人の頭ほどもある巨大な魔石を残してようやくナレハテ、蟻の女王は消滅した。
「これで蟻も一緒に消えてくれるとありがたいんだが・・・。」
残念ながら、蟻たちはまだまだ大量に残っているようだ。
「殲滅戦だ。一匹残らず狩るぞ。」
働き蟻も、極わずかだが産卵するらしい。
羽化するのはオスだけってことだが、羽があったら厄介だし、もし新たな女王が誕生、なんてことになったら新たなパンデミックが起こりかねない。
クラッカーのことが気になるが、まずは蟻を殲滅することに全力を尽くすことにしたツキタケたちと騎士団であった。




