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104:優先度最低

 小国家群が乱立し、争いの絶えない南の果て、大海に囲まれた最小の大陸ユーステラ。

 そこに派遣された第四部隊は、順調に駆除活動を進めていた。

 (さすがシン様だ、この大陸の技術は、一般兵の強化に大いに役立つだろう。)

 術式杖発祥の地と言われる大陸で普及率は高いが、技術そのものはすでにシン開発の拳銃型術式杖があるので得るものは無い。

 しかし、魔導兵装として騎士のみならず一般傭兵にも普及している技術は、まだこの大陸以外には広まっていない。

 要は、魔力で体や武器を包み込み防御力や攻撃力を飛躍的に高める技術なのだが、基礎を覚えれば容易に使いこなせる利便性が秀逸だ。

 基礎能力の高いワタリビトや従魔たちのようにゲームにより強化されている者たちには無用の技術ともいえるが、ヒトやゴブリン、オーク、オーガにリザードマンと、この世界の者たちに覚えさせれば、かなりの強化になるだろう。

 常に争いが絶えないこの大陸だからこそ生まれ、広まった技術といえる。

 サンザ王国からは、通常であれば1年近くかかるほど遠く離れたこの地でも、食の恩恵は受けていた。

 と言っても、ごく一部の裕福な国のさらに一握り、王族等が祝い事で食べる程度の限られた恩恵だが。

 それらの恩恵とともに、グリンウェル領と言う特異な存在、ナレハテの情報や、対策専門の部隊の存在も伝わってきていた。

 この大陸にナレハテが落ちて来たのは、シンとレインが初めてナレハテに遭遇した時期よりも早かった。

 巨大なナレハテは、険しい岩山の先端に激突、大半は突き刺さるように固定され活動を停止したが、衝撃でばらけた破片が動き出し、無数の白い化け物になって大陸中に分散していった。

 この大陸の人々にとって不幸だったのは、姿も強さも能力も異なるナレハテの欠片たちが、魔導兵装によって強化された騎士たちが渡り合える程度に弱体化していたことだ。

 殺せなくても追い返すことはできる。

 国々はナレハテの欠片を脅威としては捉えず、主要な町、街道付近に現れた時は騎士を派遣するが、そうでもなければ放置してきた。

 争いを続ける小国家群が密集していることで情報の共有もされず、難民や貧しい人々が僻地に勝手に集落を形成するなど、管理もままならない状況が多く、いったいどれだけの被害が出ているのかも把握されないまま月日を重ねてきた。

 そんな状況で幸運だったのは、調査のため放たれていたシャドウデーモンがこの大陸にたどり着いたことだ。

 みどり村の益になりそうなことならばシンの許可は不要と、かなりの裁量権を与えられ(丸投げされ)、判断力などの面で成長していたシャドウデーモンは、この大陸の魔導兵装がみどり村の兵力強化に役立つと判断、ナレハテの欠片による被害を把握しつつあった国に潜入し、派遣依頼を出すよう誘導したのだった。

 依頼書に魔導兵装に関することを記載するよう誘導するのに苦労したが、結果は満足いくものだった。

 (優先順位は低いだろう、魔導兵装使用者が絶滅する前に来てくれれば、程度に考えていたが、見出してくれたシン様はやはり素晴らしい。)

 勝手に心酔しているシャドウデーモンだが、見出したのはクロウである。

 実際にサンザ王国で仕分けされた優先度は最低だった。

 クロウが見出してなかったら、おそらく最後まで派遣されなかっただろう。

 派遣されたのは第四部隊。

 団長に侍のカタヤマ、副団長にアーチャーのアキヒロと獣人のバリケン、裏番にコクエンを擁する、オーガ、オーク、弓兵中心の部隊だ。

 標的は小型で多数、能力も多用ということで選ばれた部隊だ。

 スカイドラゴンによって運ばれた第四軍団は、依頼主である国との面談や打ち合わせと同時に、同行した十人のシャドウデーモンと蠅の王による調査を実施、片っ端からナレハテの欠片を焼却処分しつつ、しっかりと魔導兵装の技術も取り込むことに成功した。

 

 「しかし多いな、せめて総数が分かれば終わりが見えるんだけどな。」

 移動と戦闘を繰り返す日々に、つい愚痴がこぼれてしまうバリケン。いかに獣人とはいえ、中身は普通の、元理容師だ。

 「討伐数より見つかる数のほうが多いって、終わらないよね、これ。」

 矢を作りながら同調するアキヒロも゙、終わりの見えない戦いにかつての苦境を思い出した。

 「そろそろ、4隊に分かれてもいいかもしれないな。」

 コクエンの言葉に、目を閉じてじっとしていたカタヤマの表情がパッと明るくなる。

 「ようやくか。」

 元々、この地での戦闘やコミュニケーションに慣れ次第分かれて効率よく処理してゆく計画だった。

 部下たちも魔導兵装の扱いに習熟し、戦闘面では問題無く別れられる状態にある。

 それを留まらせていたのが言葉の壁だった。

 サンザ王国のある地域とは全く異なる言語、しかも、この大陸では国ごとに違った言語が使われているのだ。

 調査のために先行して潜入し、全ての言語を習得していたシャドウデーモンが通訳としてヒトに成りすましてきたが、分かれるとなれば複数人が言語を理解できていなければならない。

 学習能力の高いシャドウデーモン達はナレハテ探索にかかりきりであるため頼れない。

 結果、3か月と言う期間全体での行動を余儀なくされてきたのだった。

 今では約3割ほどが身振り手振りを使えば何とか会話できるレベルに、10人程が普通に会話できるレベルになり、速度を上げるためにも分割に踏み切ることになった。

 

 

 隊を分けて1月ほど、報告では全体で100を超えるナレハテの欠片処理が完了している。

 10日ほど前から新たな発見報告は無く、ようやく先が見えてきた。

 刀匠アオイ作の太刀、蒼月は実に素晴らしい。

 これまで刃こぼれ一つなく最高の切れ味を維持してくれている。

 この刀に出会えただけでも、グリンウェル領に移住してよかったと思える。

 ゲーム、サムライ・ロードでは、刀は消耗品扱いで実によく折れた。

 敵がドロップした優れた刀剣も、細かく手入れをしても長く使い続けることができない仕様だったから、ゲーム中は市販品含め、所持容量限界まで武器を持ち歩いていたものだった。

 それが、予備含めて2本あれば事足りるんだから非常に楽だ。

 ヒノモトとして戦っていた時はサーベルモドキのような剣だったので、常に違和感を感じていた。

 アスクラのプレイヤーが作ったということで驚いたが、恋人のために努力したなんて話を聞いて、むしょうに羨ましくなったものだ。

 「まぁ、そのおかげでこれだけの業物が手に入ったんだからな・・・。」

 そうつぶやくと、迫りくるセミの蛹のようなナレハテを一刀両断に、この程度の相手なら集中する必要もない。

 即座にゴブリンたちが槍で串刺しにして動きを封じる。

 槍は突き刺すと同時に炎を噴き上げ、数分もするとナレハテを焼き尽くした。

 ドワーフ特製の対ナレハテ用装備だ。

 ファーレンでの戦いでドワーフ戦士団が使用した斧は、以後改良を重ねて火力もアップ、今回の遠征のために扱いやすい槍として量産され配備されたのだ。

 「よし、野営の準備だ! 明日は朝から1日移動になるからしっかり休めよ。」

 号令と同時に一斉に動き出す兵たち、もうすっかり慣れたもの、瞬く間に複数のテントが設営され、夜が更けていくのだった。

 

 頭上に放たれた矢が、上空でパッと、弾けたかと思うと、無数の矢になって降り注ぐ。

 アキヒロのレインアローだ。

 無数の矢によって地面に縫い付けられた3体のナレハテは、即座にドワーフ特製の炎を吹き出す槍によって焼却された。

 「やっと終わった、小さくて素早いのは面倒だよねぇ。」

 アキヒロ隊が対応していたのは、10体の頭と羽毛の無い鶏のようなナレハテだった。

 特筆するような能力はなかったが、実際の鶏サイズと小さい上、動きも素早く捉えにくかった。

 その上、一体二体処理しても、しばらくすると十体に戻ってしまい、散々苦労させられた。 

 観察の結果、最初の一体を処理後、10分ほどでどれかから、減った分が一気に増殖することがわかった。

 バラバラに逃げる十体を10分以内にすべて処理するという面倒極まりない作業に10日もかかってしまった。

 どれだけ攻撃しても即座に回復されてしまい、終わりのない戦いを延々と続けたファーレンでの経験がなければ途中でくじけていたに違いない。

 「はぁ~、次のターゲットもめんどくさそうなんだよね。」

 夕食を口に放り込みながらついつい愚痴が出る。

 「だから、せめて半分でも弓兵を連れて来るべきだったんですよ。変なところでカッコつけるんだから。」

 副官役の青年にたしなめられる。

 アキヒロ以外で唯一の弓兵だ。

 班分けの際、自分がいるんだから弓は十分だと、他の班に譲ってしまったのだった。

 結果、バラけるナレハテを追いかけ回すことになってしまった。

 もっと弓兵がいれば、走り回らなくても矢を射かけて動きを誘導したり、動きを止めたりとかなり楽に済んでいただろう。

 部下として割り当てられたみんなに悪いことをしてしまった。

 次のターゲットは、早い上に短距離ではあるが飛ぶらしい。

 「がんばりまぁ~す。」

 ボソリと自分を鼓舞してみたのだった。

 

 「これ無理だろ?」

 白濁した粘液にまみれたバリケンはすっかりやる気をなくしていた。

 硬い鎧のような外殻を持つ2mの大男。

 ならば相性バッチリと挑んだが、外殻を破壊したとたんにナレハテは、粘液上の物体に変容した。

 粘液をいくら殴りつけてもダメージにならない。

 獣化による爪の斬撃も噛みつきも効果無し。

 ドワーフ特製の炎を放つ槍も矢も、焼き尽くす前に粘液によって消化されてしまう。

 「汚ったねぇし、何やっても通じねぇし・・・もーやだ・・・。」

 バリケンの選んだワーパンサーは、パワーとスピード重視、トリッキーな空中技も豊富な人気キャラだったが、相手が流体だとなんとも無力だ。

 頼みの綱は部下の使う装備だが、炎は最大火力になる前に消されてしまう。

 終わりの見えない戦いを延々と繰り返される苦痛。

 ファーレンを思い出してしまう。

 最後まで生き残ったアキヒロと違い、バリケンは早々に退場してしまった。

 巨大な大福のようなナレハテに対して、様子見に近づいた瞬間に串刺しにされたのだ。

 スピードに自信があったため、さして警戒もせずに近づいてしまったことで、最初の犠牲者になったのだ。

 あんな思いはもうしたくない。

 十分に吟味したうえ、この相手なら対応できると確信して来たのに。

 「中身がドロドロなんてズルいよな。」

 自分で選んでおいてなんだが、愚痴を言わずにはいられない。

 「ん?」

 疲れてボーっと見ていたバリケンが、ふと違和感に気が付いた。

 なんか、小さくなってる?

 「カーマ、ちょっと来て!」

 副官の弓兵を呼びつける。

 「あいつ、炎を消した時なんか出てない?」

 そう言われて観察すること数分。

 「蒸気では?・・・ん?こんなに小さかったでしたっけ?」

 今まで気が付かなかったが、最初に見た時より一回り小さい。

 「やっぱり小さいよな、ひょっとしてだが、あの蒸気の分だけジワジワと縮んでるんじゃないか?」

 「マジですか?」

 「いや、分からんけど。」

 「・・・。」

 「とにかく、あのまま燃やし続けるぞ!あのモヤが蒸気なのか何なのか分からんけど、小さくし続ければ、そのうち何とかなりそうだ・・・たぶん。」

 はぁ、とため息を吐くと、カーマは指示を出しに向かった。

 彼の上司は確信ではなく感で言っただけ、無駄に終わる可能性も高いのだが、それでも何となく期待してしまう。

 上司の感は、こういう時は結構当たるようだ。

 

 「ご指導感謝します。」

 コクエンは、疲れ果てて座り込んだ初老の男にみどり村特製のワインが入った革袋を差し出した。

 「指導なんてとても・・・ただ死にそびれてきただけの古い剣だよ。今じゃ、新兵にも通じない。」

 ふくらはぎをさすりながら男は革袋を受け取ると、グビリとあおった。

 「なんだこりゃ!? あんたんとこは、こんなのが普通に飲めるのか?」

 彼の知る酒は、潰した木の実を発酵させただけの単純なもの、エグみが強すぎて味わうのではなく、酔ってストレスを散らしたり、痛みを紛らわせるための物だった。

 「噂には聞いていたが、デマだとばっかり思っていたよ。まさか食い物飲み物を美味いと感じる日が来るとはな。」

 「そうですね、村ではもっとうまいものがありますよ。」

 コクエン達に助けられた後、男と親子は保護され、親子は人の兵が護衛につき近隣の町へと送られていった。町の管理者に対応をゆだねることになっている。

 残った男は、コクエンからいきさつを聞かされた。

 男は、開戦間際の緊張感からデマが広まっていると思い込んでいたが、白い化け物とやらが各地で猛威を振るっているとは思いもしていなかったと驚いていた。

 「どうりでどこも受け入れてくれないはずだな。」

 集落を見つけて定住を、と思っていたが、そんな状況では無理だと諦めた彼は、足を治すために村へ来ないかと言うコクエンの話に乗った。

 代わりに、兵たちに手ほどきを、と頼まれたのだった。

 「しかし、俺なんぞよりもずっと強いと思うが、必要なのか?」

 今日の訓練でも、結局下っ端にも勝てなかったのに。

 「どうしても、身体能力にかまけて技の研鑽を疎かにしがちでね。あなたの技は必ず彼らの力になる。すでに気づいたものも多少はいるかな。村で足を治したら、あなた用の装備を作ってもらいましょう。」

 翌朝にはコクエンの言葉がお世辞では無かったことが明らかになった。

 3名のオーガが剣を教えてほしいと話しかけてきた。

 まさか、初めての弟子が魔物だとは、人生というものはあまりにも奇妙なものだ。

 コクエンにとっても、配下のオーガ達へ技への理解を深めさせるという悩みが解消される兆しが見えたことに安堵した。

 配下は勤勉で真面目なものが多いが、技の研鑽という概念を教えるのに苦労していたのだ。

 いち早く気づいて磨いてきた彼が教えようにも、彼はオーガロード、配下のオーガ達より数段上の存在で、身体能力に大きな差がある。その彼が教えても、身体能力が数段上の存在であるため、技より身体能力の高さやスキルが注目されてしまってうまく伝わっていなかった。

 もちろん、指導すればきちんと鍛錬をこなすが、身体能力強化や連携訓練に比べるとはるかにモチベーションが低い。

 教えを請うた3名は、強さも技への取り組み方もバラバラだったが、それでも何か気が付いてくれたようだ。

 討伐の最後に良い出会いができた。

 心からそう思えた。

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