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101:イェン

 「えぇと、マジか?」

 ドラゴニュート3体を相手にしているユーシンの、嘘偽りない感想だ。

 事前にシンから情報を聞いていたし、接敵までの時間でユーキが考え抜いた、有利に戦える相手ではあるが・・・。

 (ちょろすぎない?っていうか、うちのリザードマンたちの方がよっぽど手ごわいんだけど。)

 ドラゴニュートからすれば遥か格下、身体能力で言えばプロ格闘家と子供ほどの差がある、リザードマンたち。

 龍たちの配下として加わっているが、ゲームでは配下になるはずもない、システム外の存在でこの世界の魔者たちだ。

 レベルアップの恩恵も無いため、本来なら比べる対象にすらなりえないのだが、明らかにリザードマンの方がやりにくい。

 (あ、こいつら、ゲームキャラのままなんだな、シンさんに聞いた攻略法がまんま通用してるし。)

 リザードマンたちは戦うごとに間合いの取り方や連携、駆け引きなど工夫し、技術も熟練してゆく。ステータスに依存しない強さを磨いてゆく。

 が、ドラゴニュート達からはそういった、経験による強さを感じないのだ。

 ドラゴニュートは破壊力と頑丈さ、ごく稀に口から放つ火炎弾が脅威と言えるが、動きは愚鈍ユーシンからすれば。行動パターンも単純そのものでひたすら肉弾攻撃、防御はただ耐えるのみ、火炎弾を放つ前の動きも情報通りと、まるでゲームでNPCと対戦している気分だ。

 連携もクソも無く、バラバラに動いているから非常にやりやすい。

 刃が通らないからと武器を金属バットに変えたが、刀よりしっくりくる気がするのは、ユーシンのキャラ本来の武器だからだろう。

 硬すぎて大きなダメージにはならないものの、積み重ねていくことで確実に戦闘力を奪ってゆく。

 (つまんねぇスね。)

 一撃貰えば瀕死の重傷、こちらの攻撃は通りにくい、本来なら一瞬でも気を抜けないほどの戦いなのだが、周りの様子を気にする余裕すらある。

 (こりゃ、シンさん情報知らないままの方が楽しかったかな。)

 なんて不謹慎なことを考えるユーシンだった。

 

 「う~ん、うちを基準にし過ぎたかな。」

 援軍を合わせてもてこずると思っていたが、疑ってしまうほど思い通りに事が進んでゆく。

 一番負担をかけてしまうだろうと心配していたユーシンも、なにやら余裕、というか退屈そうに見える。

 従魔たちや配下の魔者、魔獣たちは、普段自由に生活している。

 村に魔者が多いこともあって、村の中でも普通に受け入れられ、自発的な訓練や交流も盛んだ。

 だからこそ、かなり早い段階から少しづつ、彼らは変化していった。

 決定的に変わったのはファーレンでのナレハテ戦からか。

 参加した従魔たちはレベルアップ以上に大きく成長し、それに触発されて不参加だった従魔たちも、その配下の魔者や魔獣たちも変わっていった。

 この村の特殊性と、主がシンと言う人物だったからこそ、様々な種と交流し、本来設定されていない知識や経験を得て、彼らは大きく成長したのだろう。

 この村でなければ。

 従魔と言う概念の無いこの世界では、従魔たちは恐怖の対象でしかない。

 人のいない場所で暮らすか、閉じ込められて過ごすしかなかっただろう。

 命令されたことだけに忠実に従うしか、行動を許可されなかっただろう。

 だから敵の従魔たちは、ゲームのキャラのままなんだ。

 参考程度に、と提供された攻略法がそのまんま通用するとは。

 「この分だと、シンさんの方が苦労してそうだなぁ。」

 この世界の人の兵を、極力命を奪うことなく無力化しようなんて、シンの連れて行った戦力を考えると非常に厄介でストレスのたまる作業だろう。

 

 

 全てが無駄に終わった。

 そう思っていると思わせることには成功したらしい。

 シンがこの場にいると知った時点で、全て看破されているのだと悟った。

 これでは、全てを奪おうと用意した鏡も使えない。

 理想の結末には程遠くなるが、シンだけは殺す。

 その術だけはまだ看破されていない。

 でなければ、こうやって悠長に話していたりはしない。

 後は、油断させること。

 そして、限界まで自分を抑えること。

 この二つが達せられれば、確実に殺せる。

 エイルヴァーン上級職の一つ狂戦士。

 イェンは、対シン戦のために選んだのが、この狂戦士だった。

 特殊条件を達成した時のみ転職できる、速さと破壊力に特化した職業。

 防御力も魔法力も全職業中最低ランクと、初撃頼みのネタ職業と揶揄されることの多い狂戦士だが、近距離肉弾戦に限定すれば、最上級職を含めて最強。

 唯一敵わない相手がレベル上限から解放された超越者だが、それも150レベルに達していなければ相手にはならない。

 とはいえ、遠距離武器や魔法を使われれば大ダメージは必至なうえ、極わずかではあるが、戦闘中バーサークという状態異常にかかってしまう。この状態になると一切の操作を受け付けず手当たり次第に攻撃してしまう。そういった意味でも、この職業を選ぶプレイヤーは稀だった。

 PVPのないシングルゲームのエイルヴァーンでは確かめようも無いが、そんな中でも、10年以上遊ばれ続けるゲームには、様々なコアなファンが、あきれるほどの熱量をもってファンとしてのサイトを立ち上げていた。

 その中でも、装備やステータスを入力すれば攻撃力やダメージを計算してくれる便利なファンサイトが回答してくれた。

 全クラスで100レベルを達成した後に転職した究極の超越者でも、100レベル以下なら一撃で殺害可能であると。

 ファンブログの一つ、シン・ハンと言うプレイヤーに強い憧れと嫉妬を抱いていた青年は、データを入力しては、かなうはずもない戦いを妄想していた。

 狂戦士になると、目が赤く、首や腕にどす黒い血管が浮き上がってしまう。

 厄介なバーサーク状態も、ゲームより厄介になっていた。

 戦闘を意識しただけで猛り、なりふり構わず襲い掛かってしまう。

 意志を強くもち、衝動に耐えることで抑えられるが、これがかなりつらい。

 それを隠すために白い仮面をつけ、派手な大陸覇道の装備を身にまとうことで体の緊張や、衝動に耐えるこわばりなどを隠した。

 ユーコから引き出した情報で、シンの従魔は18体、うち4体はクラフト用、3体はこの世界で新たに従魔を獲得できるかの実験で従魔化したとのことなので、戦力になるのは11だけだと分かっている。

 龍こそいないが、従魔枠フルの25体、さらに配下枠も入れて35体、すべてレベル100までパワーレベリングを施した従魔たちなら、余裕でシンの従魔や村のワタリビトたちを抑え、少なくとも半数程度は殺せる。

 そこに人間の兵5000で村を急襲、混乱に陥れる。

 それでも勝てはしないだろう。

 シンは生き残る。

 あっけなく死んだことがあるらしいが、見事復活して見せた上に、今は多数の従魔がいる。従魔たちは、何が何でもシンを助けるはずだ。

 生き残ったシンに、全てを話して聞かせよう。

 出会った瞬間から謀っていたことを。

 ユーコをさらったのも、森で襲われたもの、全てお前を狙ってのことだと。

 兵たちも、ただ操られていただけの一般人だったと。

 全部お前のせいだと。

 心にダメージを与えることができれば、真実の鏡が使える。

 それを使って知識も、経験も、すべて奪ってやる。

 シンのブログを見るたびに、驚嘆と嫉妬を感じていた。

 シンが見つけていない攻略法を、入手困難なアイテムの入手法を、先に見つけてやるんだと躍起になっていた。

 何一つかなうことなくこの世界へ落とされ、いつかシンの知らない攻略法を見つけてやると意気込んでいた気持ちが霧散した。

 そんな中でも、マサトシの持つ魅了の力にいち早く気が付いたイェンは、それを利用して駒をそろえた。

 愚かなマサトシは簡単に操ることができた。

 当然、そのマサトシに魅了された駒たちも思いのままだ。

 自分にそんな才能があったことに驚きつつも、ついには国を手に入れた。

 そんな中、食の大問題を解決したというプレイヤーの存在を知った。

 興味を持ったイェンは、そのプレイヤーがいるという村へ。

 そして、シンの存在を知った。

 最初は憧れが勝った。

 同時に、その差が覆しようもないほどに広がっていることも知った。

 国を手に入れたことも否定された。

 エイルヴァーンのことを、夜通し語り合いたかったがかなわなかった。

 マサトシの命令を守ろうとする同行の駒が余計なことをし出したので、合わせるしかなかったせいでもあるが、彼からの心象はかなり悪いものになってしまっただろう。

 驚嘆と憧れは、後悔によって覆いつくされ、やがて激しい嫉妬と憎悪に変わっていった。

 なぜ、自分じゃない。

 シンの成し遂げたことは、名こそ伴っていないが国を超え話題の中心だ。

 なのに、国を手に入れた自分は・・・。

 いったい何が違うのか。

 知りたい。

 奴と自分の差を。

 その思いは、やがてシンのすべてを奪いたいという欲望に変わっていった。

 真実の鏡。

 エイルヴァーンのMODには、大規模なキャンペーンがいくつも存在する。

 その中でも一時期ブームになったのが、過去の大作RPGをパクリ・・・じゃなくインスパイアされた大規模MOD。

 真実の鏡は、世界中で社会現象にまでなったRPGが元になったキャンペーンMODで登場するアイテムだった。

 変化の魔法で変身した悪魔の正体を暴くために使われる盾。

 この世界でこれを使うと、プレイヤー・・・ワタリビトは向こうの世界の姿に、そして、テキストで記憶を閲覧、保存できる。

 保存したら一撃で葬ってやろう。

 その後、ゆっくりと解析してやればいい。

 そのはずだった。

 後から思えば、狂戦士でレベルを100に上げるため、聖騎士から転職したあたりから、なにかがおかしくなり始めたように思える。

 まさか、魔法の効果に習性が入るだけだと思っていた知識と言うステータスが影響しているのか?

 そうだとするならば、自分は最悪の手を取ってしまったのかもしれない。

 もう後戻りはできない。

 残された道はただ一つ。 

 

 

 確定された死を、ほんのひとかけらでも有意義にするための策も、何もかも時間が足りない。

 詰めが甘かったのは自分だった。

 あのへんな仮面は、狂戦士であることを隠すためだったのか。

 後悔する間もなく迫る刃は、しかしシンの命を刈り取ることができなかった。

 「くっ・・・おまえ、なんでここに・・・。」

 距離を取ったロン毛の腕には、見覚えのあるトゲが突き刺さっていた。

 「役立たず。」

 トゲを投げつけた張本人の後ろに、申し訳なさそうに立つ男女を見て、思わず口に出てしまった。

 リョータとアオイ。

 ユーコの面倒を見てくれと頼んでおいたのに、なんでそのユーコと一緒にここにいるんだよ。

 吹っ切れた、とは言い難い状態のユーコを連れてくるとか無いわ~。

 黒いフードを目深にかぶって、トゲを持つ右腕は若干震えている。

 まずいな、せっかく良くなってきていたのに。

 「ムカつく・・・なんでそんなものまだかぶってんのよ!みっともない顔が見れないじゃない。」

 はい?

 ユーコさん?

 思いもかけない言葉にあっけにとられてしまった。

 ひょっとして、あの震えって怒りの?

 再び放たれるトゲ。

 それを剣で叩き落としながら態勢を整えるロン毛に、弾丸のようになったユーコの回転アタックが決まる。

 人間の姿でやるとなんかキモ・・・

 「なんだかすっごく失礼なこと考えてるぅ。」

 すぐ後ろで聞こえた声は、いつものユーコだ。

 何があったのかは分からんけど、二人に任せてよかった・・・のかな。

 「クク・・・なんだこれは・・・」

 自嘲気味な声。

 「壊したはずのクソ猫まで邪魔をするのか・・・。」

 仮面が落ちる。

 はじいたトゲが仮面を掠っていたようだ。

 赤い相貌と、黒い血管が浮かんだ憎悪の表情があらわになる。

 「そう、それだよそれ。お前の失敗は狂戦士になったことだよ。知力の影響って、気が付きにくいけどハンパないんだぞ。」

 流石にもう気が付いているだろうけど、あえて突き付けてやる。

 あぁ、俺って底意地悪いなぁ。

 期待通り、憎悪に歪んでいた表情がさらに歪む。

 「っていうか、ホントにくだらないことでやらかしてくれたもんだよな。」

 「え・・・なんで?」

 そこには、ロン毛の姿はもうない。

 うん、結構イケメンじゃん。

 殺意がわくね。

 「へぇ、なんか、雑誌のモデルさんっぽいっですね。なんて言ったっけ?あいつ。」

 緊張感のないリョータの声で、ようやく気が付いたか。

 「なんで・・・あなたは、ああいったMODは批判的だったはず・・・。」

 ロン毛、もといモデルもどきの視線の先には、真実の鏡を向けるクロウの姿が。

 モデルもどきの情報は、密談によってクロウから伝えられた。

 「俺は嫌いだけどね、スロークはやってたんだよ。だから借りてきた。」

 そう、もう一人のエイルヴァーンプレイヤーが、みどり村にはいるのだ。

 「うっわ、ゲスい~。」

 「なるほど、あいつも被害者・・・じゃないよなぁ、あれは素だもん。利用されてたっぽいけど素だもん。」

 いつの間にかアオイとリョータがクロウのそばに移動している。

 情報を読み取ってはゲスいキモいと煽りまくってくれるけど・・・ちょっとかわいそうになって来たからそろそろやめようよ。

 獣のような叫びがあがる。

 バーサーク状態になったか。

 隠密性を重視した装備なので、一撃良いのをもらえば即死もあり得る。

 しかも速い。

 策も何もなく、ただやみくもに襲い掛かってくる。

 あれ?

 ちょっとまて・・・。

 速度と攻撃力に極フリした暴走状態って、現実だとこんなに厄介なの?

 攻撃を受け、かわすことに手いっぱいで魔法に集中できない。

 一撃貰えば終わるという緊張感が、余計に余裕を奪う。

 ゲームなら、死んでも復活できるからとここまでの緊張感はない。だから余裕を持って対応できた。

 現実は違うのだと、あらためて思い出させられた。

 ステータスの差がジワジワと俺の命を削る。

 ユーコ達のサポートが無ければヤバかった、という場面がいくつもあった。

 そのたび、少しづつ奴の動きに慣れてきた。

 思い出せ。

 意識の無いバーサーク状態の行動は、いくつかの攻撃パターンからランダムで発動される。

 とうぜん、対応もしっかり頭に入っている。

 決着はあっけなかった。

 バーサーク状態のパターンを完全につかみ、一瞬のスキをついて突き出した剣が、胸に深々と突き刺さった。

 魔法を使わず、あえて剣でとどめを刺すことで、完全に心を砕く。

 我ながらゲスいな。

 「これで、僕は死ぬ・・・お前は、僕の魂でレベルアップするんだろう・・・ハハ・・・お前の一部になるんだ・・・お前が生きる限り、ずっと、お前は僕の魂を抱えながら生きるんだ!」

 あぁ、結局そうなんだな、お前は。

 しょうがない、ダメ押し。

 「残念だったな。俺、もうワタリビト殺してもレベルアップとかしないんだ。全て境界にいる丸悪魔に渡すって契約してるから。お前が行くのは俺の中じゃなく丸悪魔のところだよ。」

 ・

 ・

 ・

 すべてが終わった後・・・いや、まだやることがあった。

 無力化された兵たちの多くが重傷、放っておけば数日で死んじゃうような状態が約半数・・・殺さず無力化って言葉の意味をもっとちゃんと教えておけばよかったかな。

 残り半数はザイスたちの蜘蛛糸でからめとられていたので無事だったけど・・・無事?

 無事って意味が分からなくなりそうだけど、まぁいいだろう。

 治療祭りは夜通し行われることになった。

 村の方も問題無かったようで何よりだ。

 治療しながら聞いた話だと、ユーコ復活にはかなりの荒療治が・・・うん、俺がこっそり(?)事に当たっていることは感づかれていたみたいで、リョータのおかげで明るさを取り戻し、そこにアオイが入ることで前向きになることができたユーコは、過去の自分と決別するために、父親と対決したそうだ。

 といっても、実際に戦うわけじゃない。

 トール協力のもと、VR訓練システムを使って父親を再現、自分の思いのたけをぶつけることで、克服したんだそうだ。

 最初の一言が出るまでにかなり時間が必要だったみたいだけど、すごく立派だったと目を潤ませながらアオイが言っていた。

 結果、俺は何度か命を救われたわけだ。

 ・・・もっと早くアオイと会わせてればよかったのか?

 なんてボソリとつぶやいたら、バシンと背中を叩かれて、

 「ユーコは、おじーちゃん助けたい一心で頑張ったんだから、そんなこと言わない!」

 と怒られてしまった。

 そんなこたぁないでしょうよ。

 と思ったけど口にはしない。背中がまだひりひりするし。

 まだまだ、兵たちの今後、編入してくるヒモノト勢と問題山積だ。

 あぁ、これからが大変だなぁ。


なんとか解決までかけました。

最近は週一更新すらできなくなってしまいました。

やっぱり、余裕が無いといかんです。

お話も一区切り付いたので、ここいらでいったんお休みいたします。

完結ではないのでまだ更新はしていきますが、ここ最近以上に不定期になると思います。

まだまだ放置中の案件一杯あるし。

 

ということで、おきにいり、いいね、誤字報告をいただいた皆様、ありがとうございます。

もしよろしければ、今後もお付き合いいただければ幸いです。

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