99:5000
なんとかかんとか・・・・
敵はこの世界の人間、それも5000人という規模。
意外と、倫理的な不安は感じない。
最近ほとんど活躍の機会がないけれど、地味に常識さんが影響しているのかもしれない。
この世界では、数百人規模での小競り合いは日常茶飯事だし、魔物が跋扈するわけだから、人の生き死にはすごく身近だ。
それでも、相手の多くが一般人となると、やっぱりジェノサイドは良くないよねってくらいの倫理観は機能している。
だれも殺さずに、は無理だとしても、こちらの被害はゼロに押さえつつ、できるだけ生かして無力化したいところだ。
と、なるとメンバーも厳選しなきゃならない。
俺の従魔って、この世界の住人にはオーバーキル出しまくりの破壊の権化レベルだろうし。
ここは、あえてチート訓練をやらせて士気、練度MAXにさせてから攻めた方が良いかな、その方が相手も強くなって生き残りやすくなる・・・といいな。
いったいどれだけ生きたまま無力化できることやら・・・。
やっぱり、クロウと配下の悪魔たちを主力にせざるを得ないな、負担かけすぎだけど、後で何かで労おう。
無力化させるのが目的だから、悪魔たちの中でも状態異常で麻痺や睡眠を使えるのを中心に揃えてもらおう。
コクエンも器用だから、うまく手加減してくれそうだけど配下達は・・・難しいかな。
コンも連れていこう、配下の管狐や狐火は攪乱にいいだろうし、コン自身も誘惑系のスキルがあるし。
嫌がるだろうけど、エルフの里の時に聞いたマガちゃん情報、嫌がるのはポーズだけで実は・・・を信じて無理やり連れて行こう。
他にもだれか・・・
うん、性格的にも温厚だし、頑丈だからナナホシは連れていきたいな。
ザイスとコザイス達も、糸でからめとってくれるから今回の戦いには合ってるよな。
クロキリも、麻痺の状態異常は有効だ。
総勢120程度か?
ミナゴローシなら十分すぎる戦力だけど・・・うう~ん。
村の戦力を連れて行くわけにはいかない。
こちらでも何か行動を起こさないとも限らないからだ。
俺が標的だ、と言うのはあくまでも俺の推測で、実は俺をおびき出すためのフェイクである可能性もある。
ゲームが違う以上単純に比較できないけど、チートで知力を最大限に上げているだろうから、俺よりも頭がいい可能性は高い。
スロークにも、それとなく注意喚起しとかないとな。
「龍たち配下のリザードマンも加えてはいかがでしょうか。」
悩んでいると、クロウが案を提示してくれた。
リザードマンか・・・確かに、頑丈だしオーガ達より器用でパワーが無いから向いてるかもな。
「リザードマンたちは今どれくらいいたっけ?」
確か、前に聞いた時は60ちょっとだったはずだけど。
「総勢で200程です。」
え?
「そんなにいたっけ?え、食料とか足りてるの?」
いかん、ひょっとして、また俺破産しかけてるんじゃないの?
「問題ありません。食料も問題無くいきわたっております。」
「え、そうなの?ならいいんだけど・・・。」
マジか?
それだけ支店が稼いでるんかな?
問題なければいいよって、任せっきりにしちゃってたから、今いくら資金があるのか全くわからん。
ま、問題ないって言ってるしいいか。
スロークや村から防衛費として食料や資金が支給されていることをシンはまだ知らないのであった。
クロウもその件に関しては黙して語らず。
以前のクロウなら間違いなく報告していただろう。
しかし、報告すれば彼の仕える主は、自分で何とか賄おうとまた不要な苦労を背負い込むだろう。
ただ従順に従うだけが主のためにならないということを学習し、あえて報告しないという選択ができるようになっていた。
頼りにならない上司を持つ部下が、想像以上に成長する、という実社会ではまず起こらないであろう奇跡が起きていたのだった。
総勢300程の部隊で5000の軍を攻略することになる。
ま、問題無いだろう。
問題があるとすれば、兵以外がどれだけいるかだよな。
すぐ動けるように、従魔全員に招集かけて、浮き岩に待機させるか。
最悪のケースを考えるならもっと手勢がいるけど、村の防御を考えるとこれ以上はだめだよな。
エルフの存在には気がついていないようだから、戦力を回さなくてもいいし・・・。
双子は何としても村に残しておきたい。
隠密行動できないだろうから。
うん、なんもかんもぶち壊されそう。
あ、双子残すには、マガちゃんにも残ってもらわなきゃだ。
マガちゃん連れ出したら確実にバレる。
う~ん、困ったな。
さらに困ったのは俺だよ。
勝てないだろうなぁ、俺一人じゃあ。
ヤツは間違いなくカンストしてるだろうし。
あれ?戦力足りないじゃん。
余裕ぶっこく暇なんかなかった。
なんて慌て出したタイミングで、3日後には5000人を超えるという報告が入った。
仕方ない、獣魔たちは村のみんなとも良好な関係を築いてくれているし、最悪俺が死んでも今までどおりグリンウェル領のために動いてくれるだろう。
5000人の兵は、数十〜百人程度ずつ、ヤツが同伴して連れてこられてきていた。
まぁそうだろう、戦略ゲームの基本、武将がいなければ兵は動かない。
村などを巡って募集し、連れてきては解散して放置を繰り返して、チマチマと5000まで揃えたんだから恐ろしい執念だ。
ここで解散されても、逃げ出すこともできずに留まることしかできなかった兵たちにちょっとだけ同乗してしまう。
悪魔たちが慎重に慎重を重ねて確認した、索敵範囲外ギリギリのラインで息をひそめる。
チート機能を使って強制的に士気と練度を引き上げたタイミングで突入するためだ。
視線の先で、かすかな光の点滅が見えた。
それこそが突入の合図だ。
一斉に飛び出すと、数秒ほどで太く、高い木に駆け上る。
一瞬でも早くやつを視認して、虚をついて瞬殺できれば・・・いいんだけどね。
混乱する兵たちに、悪魔たちを先頭に襲いかかる。
順調に思えたが、想定外にも敵の士気と練度が高い。
ほんの数瞬で混乱が収まり、組織立った防御と反撃が機能しだす。
個々の戦闘力も想定以上、驚きの強制強化だ。
この想定外の強化は、こちらからすると願ってもない幸運と言える。
なんせ、殺さないように神経を研ぎ澄ませたり、必要以上に手加減しなくてよいのだ、瞬く間に無力化された兵士の山ができてゆく。
そんな状況でも混乱が起こらないのは、チート能力によって強制的に士気を高められているから。
リアルタイムではなくターン制のゲームだったことが災いしたな。
ターンが終わるまで、あのゲームって、確か戦場モードでは8ターンで1日だったから、3時間ほどは士気の変化は起こらないと見込んでいる。
しかも、指揮官である武将の能力が高ければ士気の低下を防ぐことができる。
まぁ、この分なら3時間もかからないだろうけど。
おかげで、あっけにとられるほど順調な無力化戦となった。
(見つけた。)
遠く、5000の兵の先に、目も鼻も口もないのっぺらぼうのような仮面と、ド派手な鎧をまとった姿があった。
何が起こっている?
強化が終わると同時に森から飛び出してきた魔物達によって、苦労して集めた兵たちが次々になぎ倒されてゆく。
10人ほどで囲めば、グレートベアにも対峙できるほどの戦闘力と、恐怖をものともしない高い士気。
別売りだったブースターキットの機能を使って強制的に高めた5000の兵は、強化と数の力でこの森でも十分の戦力と言えるはずだった。
あんなに強い魔物がこの周辺にいるはずがない。
しかも、これほどのタイミングで、徒党を組んでなど起こるはずがない。
「くそ・・・どこでバレた?」
みどり村の警戒網も、ここまでは手付かずだったはずだ。
一度だけ、配下から浮遊する岩を調べに来ているようだと報告を受けた。
あの時は戦闘力を図るために周囲の魔獣をけしかけさせたが、結局新たな脅威、双子の幼児という情報が手に入っただけに終わった。
いや、もう一つ、かなり親しくしていると思われるプレイヤーの存在も確認できた。
多くいる仲間の一人といった印象でしかなかったが、その時報告を受けた会話内容には、同棲しているのか、と思わせるものもあった。
だからこそ、危険を冒して拉致した。
残念ながら、所持していたアイテムやスキル、魔法を駆使しても完全に情報を引き出すことはできなかったが、それでもザックリと、戦力の判断はできると確信できた。
最後に、切り札になりえる鏡の実験も無事済ませた。
あれを使えば、今のゲームキャラとしての彼ではなく、本来の情報をすべて知ることができる。
姿が元に戻る、なんて効果は副産物に過ぎない。
と思っていたが、ユーコには面白いように効果があった。ひょっとすると、シンにも効果があるかもしれない。
殺さず村の入り口に放り出したのは、ある意味挑発だ。
最後にはうめき声以外口に出すことも無くなっていたし、完全に壊れているから、こちらの情報が漏れることはないと思っていた。
その姿に、怒りで我を忘れてくれればやりやすくなるとも思った。
気が付かれずに野垂れ死んだなら、それをネタに怒りを煽ってやろう。
想像すると、我慢ができなくなる。
数年前から少しずつ、時間をかけて進めてきた人員確保を加速させた。
それがいけなかったのか?
どこかにほころびが出たのだろうか。
(くそ!最近思考がまとまらない。以前なら、少ない情報でも正確に予測できていたのに。)
いらだちが募るが、手の打ちようがない。
武将として兵をまとめる立場にいる限り、一騎討以外に戦闘で戦うことができない。
そして、一騎討は相手の武将、リーダーにあたる者にしか申し込めないのだ。
シンは知らなかった。
仮面の男がプレイしていたゲーム、大陸覇道3では、猛将、知将などといった武将タイプが複数存在することを。
そして、ブースターキットの武将編集機能を利用しても、部将タイプ毎の上限を超えることはできないことを。
仮面の男が、双子を警戒するあまり、兵を指揮した時に最大の効果を得られるように、オールマイティーな勇将タイプから、戦闘力特化の猛将タイプに変更し、その結果最大値が100のゲームにおいて、知力が60までしか上げられなくなったことを。
さらに同ゲームにおいては、装備品によって上昇する分を含めた120が、ステータスの最大値であり、ゲームの装備を手に入れられないため、結局50%程度の知力しかなかったことを。
仮面の男は知らなかった。
ゲームにおいて、火計等の計略発動時に影響するだけでさして重要でもなかった知力が、この世界ではそのまま頭脳面に影響してくるとは。
シンが最も警戒し、仮面の男が歯牙にもかけなかった知力というステータスの差が現状に直結しているということを、仮面の男はまだ認識できていない。
「くそ!鶴翼陣形!」
とにかく行動をと、部隊の陣形変更を命じた。
敵に対して左右に長く、左右の先端が敵側にせり出した形の、三日月のような陣形だ。
防御に適した陣形で、敵を囲い込んで集中攻撃を加えることで損失を抑えつつ攻撃する。
人間同士の戦いであったなら有効だっただろう。
少数とはいえ、個の戦闘力がかけ離れすぎていると、鶴翼陣形はただ薄く引き伸ばしただけ、左右が覆いつくそうとするよりも早く中央を貫通され、踵を返した魔物たちに背後から押し出されてゆく。
その先には、ザイス&コザイスの張った蜘蛛糸トラップが。
こうして、開戦から2時間ほどもすると、ほどんどの兵が無力化されていた。
計画のすべてをあきらめ、速やかな撤退に意識を切り替えようとした時、背後からの言葉が彼を凍り付かせた。
「よう、久しぶりだな、ロン毛。」




