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95:ユーコ

 「ねぇ、ユーコ知らない?」

 いきなり俺の平穏を破ったのはアオイだ。

 ようやく大使館の方が片付いて、ヒノモト勢受け入れまでの短い平穏をダラけようと決めていたのに。

 「いや、なんで俺がユーコの所在を知ってるのさ。」

 不満顔全開で答えてやったわ。

 「だって、よく一緒に変なアイドルのライブ動画見てるじゃない。」

 変!な、アイドルじゃないゾ!と言ってやりたいところだけど、実は初めて見た時おれもそう思ってしまったのだった。最初の頃は、アイドルっぽい曲が多かったんだよね。どこがメタル?と首をかしげてしまった後ろめたい黒歴史があるのだ。

 「今日は見てないぞ。」

 と答えるしかできなかった。

 とはいえ、あのお猫様は神出鬼没だからなぁ。

 プチメタライブを見てると、いつの間にか入り込んでたりするんだよ・・・素通りさせるクロウ達もどうかとは思うんだけどさ。

 とりあえずクロウを通じて村の警備を行っている悪魔たちに確認してもらったけど、誰も見ていないという。

 「プチキャットの打ち合わせだったんだけど・・・あの娘約束破ったことなんてないのに。」

 そう言って、アオイは不安げな表情のまま帰っていった。

 

 結局、一週間たってもユーコは姿を見せない。

 アオイは街道警備やハンターたちにも声をかけているようで、村を上げての大捜索にもかかわらず痕跡すら見つかっていない。

 おかしい。

 蠅の王やシャドウデーモンを使っても、痕跡すら見つからないなんてことはあるのか?

 俺も捜索に加わってはいるけど、ヒノモト勢受け入れの準備が始まってしまった。

 無念なことに、15名のヒノモト勢は対ナレハテの戦力として、俺の配下になることが決められてしまっている。

 おかげで受け入れのための手続きやら準備やらで多くの時間を取られてしまっている。

 何ともタイミングが悪い・・・のか?

 あげく、大雨だっていうのにファーレンから送られてきた連中の装備品など、荷受け手続きのために外出しなければならない。

 従魔やその配下達も捜索に回しているので、俺がやるしかないのだから文句も言えないが。

 アオイは、以前ユーコに言い寄っていたという猫獣人に何かされたのではないかと疑っていたけど、それは無い、ハッキリ言って何十人で囲んだとしてもユーコを捕まえることすらできないだろう。

 可能性があるとすると、何か弱みを握られたとか・・・無いか。

 なんか、完全無敵っぽいお猫様に弱みがあるとは思えんし。

 未知のワタリビトに・・・無いか、ワタリビトを悪魔たちが見落とすとは思えない。

 一人心当たりはあるんだよな。

 ただ、動機が分からない。

 メリットもあるとは思えない。

 村までの約10Kmの道を、傘をさして歩く。

 オオザイス号で行こうかとも思ったけど、ちょっと大げさだよなと歩くことにした。

 思考の沼につかるにはちょどよい距離だ。

 半分くらい来ただろうか、雨でよく見えないが、少し先に誰かがたたずんでいる。

 (こんな場所に?)

 この道は拠点と村をつなぐだけ、魔物除けも設置していないので村の住人は通らない。

 近づいてゆくが、相手はこちらに気が付いていないようで、ボーっと、何もない空中を見つめている。

 薄汚いマントを羽織っていて、付けられているフードを目深にかぶっている。

 「風邪ひくよ。」

 すぐそばまで近づいてもこちらに気が付かないので、声をかけた。

 ビクッとしてこちらを向いた顔が、驚愕の表情を浮かべる。

 なにか言いかけたような気がしたが、下を向いてしまった。

 何か違和感を感じる。

 初めて見る顔なのに、知っているような。

 地味な顔の少女は、黒髪黒目の、いかにも日本人顔。ただ、少しやせすぎに見えた。

 戸惑うような、何か伝えたそうな様子を見せたが、結局何も告げずに村の方へと、俺から逃げるように駆け出した。

 「ユーコ?」

 なんでそう感じたのか分からない。

 背格好も、何もかも違う姿なのに、走り去ろうとした瞬間にそう感じた。

 それを肯定するかのようにビクンと一瞬立ち止まったが、さらに速度を上げて逃げ出す。

 「速!」

 当然だ、なんせ相手はユーコだもの。

 まぁ、追いかけっこなら俺の敵ではない。

 マガちゃんに鍛えられた捕獲術はダテじゃないぞ・・・。

 ダテでした・・・スキルも魔法もフル導入したのに結局、捕まえるのに3kmはダッシュする羽目になってしまった。

 「ゼェッ、ゼェッ、おま、ちょっとは、ハァッ、手を抜くくらいが、かわいげがあるってもんじゃ、ないのかね。」

 手首をしっかりつかんで抵抗に備えたけれど・・・ユーコはその場にガクリと膝をついて、そのまま座り込んでしまった。

 おそらくだけど、この姿が彼女の本当の姿なのかもしれない。

 だとしても、いったい何があったのか。

 「とりあえず、俺の家に行こう、そのままじゃ風邪ひくぞ。」

 よく見ると裸足だ。

 生気が抜けたようなユーコを背負うと、拠点へと引き換えした。

 走り出した時に投げ出した傘は、気をきかせたシャドウデーモンが運んでくれていたようで、影から出るとさしてくれている。

 もうずぶ濡れだからあんまり意味無いんだけどね、顔に雨が当たらないだけありがたいか。

 シャドウデーモンを通じてクロウに連絡を取ってもらっているから、風呂を沸かしてくれているだろう。荷受けの手続きも町にいる悪魔に代理を頼んだ。

 もうユーコを探す必要は無くなったしね。

 聞きたいことはいくらでもある。

 それでも黙って、ユーコを背にして雨の道を歩く。

 背中から感じる震えは、寒さのせいだけではないだろう。

 

 ユーコは風呂で暖まり、温かい飲み物を口にした途端、座っていたソファーで寝てしまった

 緊張の糸が切れて、と言うより、極度に疲労していたためのように見える。

 (安心して眠ってくれたのならよかったんだけどな。)

 毛布を掛けて、念のためシャドウデーモンを影に。

 対面側のソファーに腰を掛けると、背もたれに体を預けて目を閉じた。

 俺の鏡台の他に外見を変えるアイテムが存在するのか?

 無いとは言えないが、俺の記憶ではそういった機能って、基本無料系ゲームの課金使い捨てアイテムを消費して使える機能だったりすることが多かったと思うけど。

 そもそも、そういった機能は自分で望んで使うものだ。

 ユーコの普段の様子や、今の状態を見る限り、おそらく強制的に変更させられている。

 そうか、キャラメイクってわけじゃない可能性の方が高いのか?

 本来の姿に戻す的なアイテムとか?

 いやいや、ゲーム内で本来の姿ってなんだよ・・・。

 あ。

 もし俺たちの今の姿が本来の姿ではなく偽装だとしたなら・・・それを解除するようなアイテムはあるな、むしろそっちの方がしっくりくるし、たまに見る。

 いかん、また決めつけてる・・・この姿がユーコ本来の姿って決まったわけでもないのに。

 とりあえずこの問題はユーコと話ができた後で考えよう。

 今日、あの場所にいたのは偶然じゃないだろう。

 何の目的であんな場所に?

 用が済んだから送り返してきたか、もしくは、何かのメッセージか。 

 俺の頭の中には、一人の人物が浮かんでいる。

 決めつけるのは危険だ。

 それでも、拭い去ることのできない疑念。

 「クロウ・・・動向を探ってほしい奴がいるんだ。」

 傍らに静かに控えていたクロウに、できるだけ感情を出さないよう静かに命じた。

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