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10:リベンジと突貫

巨猿とのリベンジマッチです。

 フル装備のスロークを加えた4人とクマ、ゴンが、昨日伐採していたあたりへ。

 巨猿はすでにこちらを認識しているだろうから、慎重に行動しなければならない。

 こちらが準備万端だと感づかれれば、距離を取られるか、先日みたいに対応できない速度で突っ込まれるかだ。

 まずは、普通に木の伐採をしているふうに装う。

 アオンには悪いけど、魔本の中で待機してもらう。どうしても巨猿に反応しちゃうからね。

 スロークと自分で、木を切りながら"警戒"を発動。広範囲を確認できるように広がって伐採しつつ、巨猿を探す。

 「流石にキツイなぁ。」

 スロークが腰を叩いた。

 "警戒"になにかが反応した合図だ。

 スロークはまだ巨猿と戦っていない。反応が巨猿かどうかの識別は自分がしなければ。

 手伝うふりをしてスロークの元へ。

 間違いない。巨猿の反応だ。

 切りかけだった木を両手で押してみたりする。これが巨猿を確認したときの合図だ。

 そのまま切り倒して一度離れた。

 別の木へ、巨猿の反応が消えないように注意しながら。

 巨猿へ背を向けるように木を切り始めた。

 背の方向が巨猿がいる位置だという合図だ。

 慎重に、不自然じゃないように伐採をしながら間合いを詰めていく。

 ドスッ

 木を切っていた斧を地面に叩きつけた。

 その音を合図に、全員で巨猿めがけて駆け出す。

 一瞬遠ざかろうとした巨猿だったけど、すぐに止まった。たぶん、距離的に逃げるのは難しいと察して、迎撃することに決めたんだろう。

 すぐに、巨猿の咆哮が轟いた。

 走りながら、ユーシンにボディプロテクション、スピードアップ、パワーアップ、ディフェンスアップをかけていく。

 仁王立ちして威嚇する巨猿が木々の隙間から見え隠れする。

 まだはっきり全身が見えないので、直感でアイストーンを巨猿の足元付近に発動。

 ヒットすればアーストーンより硬く、冷気による追加ダメージも与えられる。何より機動性を多少は下げてくれる。動き回られたらとても攻撃が当たる気がしないので、今しかチャンスは無い。

 ギャ

 という短い叫びとともに飛び上がり太い木にしがみつく巨猿。

 左足に血痕が見える、どうやらヒットしたようだ。

 その巨猿に、間髪入れず魔法を放つ。

 ストーンバレット。

 散弾のように拡散して石つぶてを放つ魔法だ。距離があるのでかなりの広範囲に拡散する。威力が小さく、同士討ちの危険があるので乱戦には使えないが、射線に仲間がいない状態で動きの早い相手には当てやすい。

 さらに見えない風の刃、エアスラッシュを、木をつかむ手首に放つ。ほぼ同時にスロークも木をつかむ足首へエアスラッシュを放った。

 皮膚を切り裂く程度の威力でも、見えない刃に驚いた巨猿が手を、足を放し、地面に落ちて来た。

 「うるぁあぁああ!」

 尻もちをついた巨猿に、ユーシンの3コンボを躱す余裕はなかった。

 見事なほどに決まった3コンボで、足や腕、胸から血しぶきを上げる巨猿。

 反撃しようと上げた腕にアオンが噛みつき、いつの間に近づいたのかクマが投げ出されていた足を切り裂いた。

 ごぁおぉおおお!

 咆哮を上げる巨猿、怪我もお構いなしに立ち上がると、腕に食いつくアオンを振り回し、投げ飛ばしてしまった。

 そのまま足元のクマを踏みつけようとした時、ゴンのスリングが放った小瓶が、巨猿の額に当たって割れた。

 ぐあぁあぁ!

 割れた瓶から噴き出た煙が目に、鼻に入り、巨猿は両手で顔面を抑えるとそのまま後ろに倒れ、もがき苦しむ。

 小瓶には、なけなしの香辛料を目いっぱい入れておいたのだ。

 クマが再び足を切り裂き、反対の足をスロークが切り裂く。戦士の強連撃かな?ユーシンや回復されたアオンも加わり、まさにタコ殴り状態。

 それでも巨猿の抵抗は衰えない。左手は顔面を抑えて目をこすり、右手一本でつかみかかろうとしている。足はすでにズタズタだ。

 ほんと、とんでもねーな。

 準備できた3倍化マジックミサイル。

 安全な場所から撃とうとは思えなかった。

 こんな状態でも、躱わされる。そんな気がした。

 振り回される腕を何とかかいくぐって、至近距離から顔面へ。

 あぁ、ダメだな。撃つ一瞬、魔石のことを思い浮かべてしまった。

 手でガードされている顔面よりも、心臓を狙った方が確実だったのに。

 ゆっくりと倒れる巨猿を見ながら、この戦いを冒とくしてしまったような、やるせない気持ちになってしまった。

 「こいつ、やっぱりとんでもない奴だ。」

 スロークがぽつりとつぶやいた。

 「今わかったよ。デモンエイプ、この森ではかなり上位に当たる魔物の一種だ。」

 レベルアップで知識の更新が起こったのかな?自分にはまだ分からない。

 「一種?」

 「こいつらは本来群れで生活してるんだ。単独でいたってことは、たぶん権力闘争に敗れて追放されたんだろう。」

 「こんなのがウジャウジャいるってことスか?」

 「いや、本来の生息域はもっとずっと東側だ。追放されてこんなところまで逃げて来たんだろう。自分の居場所を作るために必死だったのかもな。」

 なるほど。ひょっとすると、カルケール伯爵領を襲った魔物の氾濫は、このデモンエイプから魔物たちが逃げ出して起こったのかもしれないな。

 デモンエイプの魔石は、こぶし大ほどもある大きなものだった。毛皮は防寒に使えるかも、ということでできる限り丁寧に剥ぎ取り、他は放置して帰宅することに。肉は毛皮を剥いでいる最中からかなり臭かったので、持ち帰ることは断念した。この森なら1時間もかからず食物連鎖に消えるだろう。

 今回の討伐で、ゴンが進化した。

 マジモンの売りの一つでもあるモンスター進化は、レベルがある一定値になると上位のモンスターに進化できるというものだ。ゴブリンからの進化は一択、オスはホブゴブリン、メスはベティゴブリンだ。

 ホブゴブリンに進化したゴンは一回り大きくなって、身長は150cmほどに、細マッチョがガッチリマッチョになり、なんと、片言だけど言葉を話すようになったのだ。

 モンスターたちのレベルが上がったことでユーキもランクが上がり、4匹目のモンスターを封印できるようになった。

 自分自身もレベルが18になり、ユーシンもレベルなどの概念は無いが、実戦で3コンボを完璧に決めたことで何かつかめた気がするとはしゃいでいた。

 スロークはレベルが4つ上がって40になったと。

自分、15からでも3しか上がらなかったんですけど。上級職と超越者の差が恨めし、うらやましい。


 家に帰り報告を済ませると、いよいよ買い出しに、という話になった。

 まっすぐを知るための目印は、どうしても手持ちでは難しいということで断念、以後のことも考えて、時間がかかっても伐採して道を作ってしまおうということになった。

 自分とスロークが斧で伐採し、クマにも参加してもらって細めの木を切り倒してもらう。

軽トラがまたげる程度の高さにしないといけないから斧で切るのは大変だけど頑張ろう。

ユーキとゴンには真っすぐ進めているのかの確認と邪魔なものの撤去を、アオンには周囲の警戒をしてもらう。軽トラにデモンエイプの毛皮を括り付ければ魔物除けになるのでは?というスロークの意見は、即採用した。

「できればユーキには、途中で馬のような魔物がいれば封印してほしいんだけど。」

思い付きだけど、提案してみた。

「馬?」

「行きはまぁ、あまりかさばるものは無いけど、帰りは結構な量になるだろうから。軽トラを出せるところまでは荷車か馬車を使うようになると思うんだ。魔物なら軽トラで移動中は本に入れられるし、幌の無い馬車なら、車輪を外せば簡易貯蔵庫か、スロークの第一貯蔵庫にしまえると思うんだ。」

人力で運ぶにはどうしても限界があるし、時間もかかる。馬、とは言わなくても、鹿とか、馬車を引いてもおかしくない魔物を封印できれば、人気のある場所での行動がずいぶんと楽になるはずだ。

「わざわざ時間をとる必要はないけど、もし見かけたら捕まえたいよね。ユーキにはモンスター枠を使わせてしまうことになるけど。」

「良いと思う。僕も、馬とか乗ってみたかったし。」

そういえば、アオンに乗って走れないかとか練習してたな。結局足が付いちゃって諦めたみたいだけど。


 翌朝出発した森の外への道中は、想像を大きく外して順調だった。

 クマ大活躍である。

 斧組は不要とばかりに木々をバッサバッサとなぎ倒してゆく。しかも、地面すれすれを切ってくれるので、後処理も必要ない。ただ、倒れる方向がコントロールできないので自分とスロークはクマの切った木が邪魔にならない方向に倒れるようサポートに徹することになった。

 2日目からは、クマの消耗も考えて朝から昼頃までと夕方から作業終了までを自分とスロークが担当することにした。二人がかりでもクマにはかなわず、若干ペースが落ちたけど、それでも想定をはるかに上回るペースで進む。いずれは根を掘り出して、ちゃんと整地して快適な旅ができるようにしたいもんだね。

 デモンエイプの毛皮は効果抜群、道中全く魔物に遭遇することが無かった。つまり、馬車を引ける魔物は封印どころか見つけることもできなかった。残念。

 直進すること7日、ようやく森を抜けることができた。

 軽トラのメーターで150Km。徐行にもならない速度で7日間、ユーシンははさぞ大変だっただろう。でもいざというときの避難所なので頑張ってもらった。

 「アオン、道を探して。人には近づくなよ。」

 ユーキの指示で飛び出すアオン。ずっと警戒しっぱなしだったからストレスもたまったことだろう。思いっきり発散してほしい。

 道が整備できれば、馬車や徒歩で約3日の行程になる。途中2~3か所は休憩所がいるな。道には魔物除けも必要になるだろう。

まだ道とも呼べない状態だからすぐには無理だろうけど。

しばし休憩していると遠吠えが。

「道を見つけたみたいだ。」

軽トラに乗り込んでアオンが向かった方向に走り出す。

10分ほどで走ってくるアオンと合流すると、さらに10分、左右に続く街道が見えて来た。

10Km弱といったところか。森から結構距離があるから、人里が近いのかな?ゼノ村もこれくらい離れてたよな。

主要道路というわけではないようだ。見る限り通行人がいない。

「どっちに向かえばいいかな。」

さっぱりわからん。

「たぶん左っス。なんとなく見覚えがあるんで。2~3回通ったことがあると思うっス。」

ユーシンの感はズバリ正解、1時間ほどで石造りの外壁が見えてきた。

「あぁ、やっぱり。サンサテの街っスよ。俺がいったことのある町では一番活気があったかな。」

 というユーシンの言葉通り、サンサテは人であふれていた。

 モンスターは本に戻し、全員徒歩で荷を背負って門をくぐった。

 移動しながら商売をする商隊でにぎわうゼノ村とは全く違った雰囲気だ。通りに露店は無く、道にあふれるほど商品を並べた店でひしめいている。

 通りを行きかう人も老若男女様々で何となく華やかだ。

 まずは資金調達を、と思ったけど、ゼノ村のように一括で買い取ってくれる業者はいないらしい。あれは、ハンターと商隊が経済の中心だったゼノならではのシステムなんだそうだ。

 ということで、面倒だけど素材毎にあちこちめぐって売りまわる。

 今回の売却品は、狩りで仕留めた魔物の皮、ただし魔物除けに使えるデモンエイプは除いた。

 魔石。今のところ使い道が無いので全部。

魔素抜き実験中に作った失敗作の干し肉をエグみの強さで普通、旨し、美味に分けたもの。美味でもそこそこエグい。後から魔素抜きもできたけど、いきなり魔素抜きの干し肉を広めるのもいろいろと問題になりそうなので、少しづつ広めていくことにした。

乾燥させた薬草なども持参。

魔石、そして予定額に達しなかったときのために、魔素抜き食材も少々。

まずはかさばる皮の売却へ、情報が無いので、できるだけ均等に3等分して、3か所に売却。今後は最も高値を付けたところで取引すればいいだろう。見た目子供のユーキを除く3人で担当して、ユーキには荷車が買える店などの情報収集を頼んだ。

 次に魔石の売却、これは高額になる可能性が高いので3人で。なんせ、デモンエイプの魔石があるからね。まず人間では太刀打ちできない魔物だ。一応問い詰められたときのシミュレーションも済ませてある。

 魔石の取引所はかなり厳重だった。

 入り口には甲冑姿の警備員が2人とそろいの制服を着たガタイのいい男が二人、入店時に武装解除を求められた。

一人ひとり簡素だけど装飾の施された頑丈な木箱に武器を入れると、木札を渡される。退店時に引き換えになるそうだ。

店内には様々な魔石が展示されたショーケースが、サイズや色ごとにまとめられて所狭しと並んでいる。同じ制服姿の店員が数名配置されていて、購入するとき取り出してもらうシステムのようだ。

店員に聞くと、買取は奥の別室で行っているということで案内されるままに別室へ。

狭い部屋を半分に仕切るようにカウンターがあり、カウンターの上は鉄格子。これがガラスだったら、刑事ドラマで見たことのある刑務所の面会室みたいだ。

対面には品のよさそうなオジサマが。おっさんと言ってはいけない。そんな感じだ。

カウンターには中央に四角い穴が開いていて、穴の下は箱状になっている。なるほど、ここに魔石を入れるのね。

とりあえずデモンエイプ以外の魔石を箱の中へ。すると、スッと箱が奥に引っ込んで格子の先にいるオジサマから取り出せる位置に。

結構な数だけど、表情一つ変えずに査定を始める。さすがプロ。

提示された価格も満足のいく額だったので、即決でOKした。ただ嘘でも喜んではいけない。まだデモンエイプが控えている。

魔石を入れた箱が戻ってくる。中には売却額が。

では、いよいよメインイベントだ。お金を受け取ると、デモンエイプの魔石を入れて箱を押す。

オジサマの表情が変わる。なんか勝った気分。

「失礼ですが、これはどちらで。」

やっぱり来たか。

「森だ。2日ほど奥に入った場所で、瀕死の巨猿を見つけた。3mを超える猿だ。俺も長くハンターやってるが、あんなのは見たことも無かった。」

「3mを超える巨大な猿ですか・・・デモンエイプですかな。」

と言って言われた特徴は、まさにデモンエイプだった。こういうところには情報もあるんだね。

「たぶん権争いに敗れて逃げ出した個体でしょう。本来なら森の深奥に群れで住む魔物ですが、過去に権力争いに破れた個体がこの付近まで逃げて来たという記録がありました。幸いにも瀕死の重傷で、まもなく死んだようですが、それから逃げた魔物が森から一斉に溢れ出て大変なことになったものです。」

へぇ、こちらの用意したシナリオに都合のいい実例があったんだな。

「見つけたときは足も腕もズタズタだったが、それでも3人やられた。二度と会いたくはないな。」

と打ち合わせ通りに伝えるスローク。見た目では断然リーダーっぽい、渋いおっさんだ。

「なるほど、今回のあれは、それが原因だったのか。」

あれそれつぶやいてるけど、たぶん自分と同じことを考えたかな?氾濫の原因。

実際には大したケガも無く元気なままでやって来たから大氾濫になったんだろうけど。

提示額は。

うわお。

いかん、にやけてしまう。

仲間を失ったばかりの設定が。

こらえなければ。

ユーシンは後ろを向いてプルプルしてる。

スロークは、さすがのポーカーフェイス。

かと思ったら、太ももをつねってる。

三人とも演技は無理だな。

バレないうちに売却金を受け取り立ち去る。なんと、出口は入り口と離れた場所だった。徹底してるなぁ。

その後薬草とか骨なんかを売りさばき、ここまでの収入は軽く300万を超えていた。

大半がデモンエイプの魔石のおかげだけどね。

ここで一度スロークと別行動をとることにした。ユーキと合流してもらって、荷車や食材の買い出しを担当してもらう。

最後の売却品は干し肉だ。

とはいえ、普通干し肉はそれぞれの店が加工するので、買取はしていない。なのでここは、用意した3種類の失敗作の中から“美味”を餌に、まとめて売りつけようという作戦だ。あわよくば村に興味を持たせる布石だ。

 道が整備されるまでは村の存在は濁しておかないといけないけど、じわじわと美味い飯を浸透させていって、護衛を雇ってでも行きたいと思わせられればしめたものだ。資金には余裕ができたから、今回は一般的な干し肉の卸し価格でもいいかな。

問題はどこに持ち掛けるかだけど。

活気のある店は、自分たちの味に自信をもってそうで相手にしてくれないかも。かといって、人気のない店だと売れなくて広まらない可能性も。村に興味を持っても買い付けに来る余裕も無かったりしたら意味がない。

う~ん、難しいな。

なんて悩んでたら、

「シンさ~ん、試してくれるってとこ見つけたっスよ~。」

ユーシンのコミュ力を侮っていたようだ。そういえば、一人の時も運送業なんか始めてたもんね。意外と起業家としての才能があったりして。

連れられて行った先は食堂だった。なるほど、そういう手もあったか。

時間的に客のいない店内に体格のいいエプロン姿のおばちゃんが一人。

「この人がここのオーナーでベリッサさんッス。」

肝っ玉母ちゃんという表現がしっくりくる。

「とりあえず味は見させてもらうけど、あるだけ全部買うからよろしく頼むよ。」

あら、そんなところまで話が進んでるの?

「干し肉担当の旦那さんが腰をやっちまったそうでピンチらしいっス。加工済みは高くて採算割れになるそうで、ちょっと安めで話しちゃいましたけど。」

なるほどね。問題無いです。

 さっそく試食用の“美味”干し肉を食したまえ。

 「なんだいこれ!」

 予想どうりの反応アザッス。

 「信じられない、どうやって作ったんだい。」

 この後しばし質問攻めにあう。が、まだ試作段階で安定してできないこと、今回は市場の反応を見るために持ち込んだことを説明して、次回もこの店に卸すことで何とか納得してもらった。オバちゃんパワーはこっちでも同じか。

 失敗“美味”レベルの干し肉なら、魔素抜きの時間を半分くらいにすれば似たような感じになるかな。当面売りに来るのはそれで行こう。魔素抜き食材は今回は保留だ。

 ようやくすべて売り終えると、別行動だったスローク、ユーキと合流する。

 すでに荷車と食材の購入は済んでいて、積み込みをしている最中だった。

荷車は、軽トラの荷台くらいの標準的なものだ。

「これなら、ひっくり返して幌の上に乗っけていけないかなって思ったんだけど。」

とユーキ。彼はこういった思い付きがすごい。

うまく乗れば車輪外して貯蔵庫に押し込む手間が省けるな。

薪と防寒具を手分けして買い込む。終わるころにはすっかり日も暮れていた。

「どうしよう。荷物があるから泊まるのは不安だけど。」

スロークが悩むのも無理はない。夜の旅はこの世界では自殺行為、しかもユーシンに負担をかけてしまう。あ!

「ユーシン、自分にも運転できるかな。」

もしできるなら、ユーシンの負担もぐっと減る。と思う。

「あぁ、試したことなかったっスね。」

ということで、夜だけど出発。

レベルが上がったこともあって、荷車を引くのも苦にならない。すでにこの世界の住人の基準を超え始めてるのかもしれない。とはいえ非常識が過ぎるのも何なんで、4人でえっちらおっちらな演技。そっちの方がなかなかに疲れる。

町から十分離れたところで軽トラ召喚。まず自分が運転してみる。おお、問題無いぞ。

今後を考えて何パターンか実験してみたけど、どうやらユーシンが助手席にいれば他人が運転しても問題ないようだ。行幸行幸。

スロークを除く3人が運転できるので、交代で進むとしよう。

実験が終わったらさっそく食材を積み替える。傷む心配のない防寒具や薪は貯蔵庫へ。荷車もうまく幌の上に乗せることができた。荷台組はちょっと狭いだろうけど。

村まで170Kmほどの行程、それほど速度は出せないだろうから、日が昇る前には着くかな。

まずは、ペーパーではないけどあまり運転経験が無いというユーキが森の入り口までの比較的なだらかな工程を運転することに。荷台には自分とスロークが、大量に積み上げられた荷物の隙間に入り込む。

「バイクの免許は持ってるんだけど、維持費も高いし車はとらなかったんだよね。仕事でも使うのはバイクばかりだったから。」

申し訳なさそうに言うスローク。問題ないです。大商人を取ってるあなたは希望の星なんです。

倉庫代わりに、なんて口が裂けても言えないけど。

 第四貯蔵庫が開放されれば、荷車なんかまとめて入れられるし、時間による劣化が一切なくなる。自分より遥かに早く開放されるだろうからね。

 森に入ってからは自分とユーシンの二人で、多少でも疲れたら交代。ってことにしてかわりばんこで運転した。

 夜中の森の中、なかなかに神経を使うドライブだった。


ついにリベンジを果たして森の外とのコンタクトに成功します。


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