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1:白い

初作初投稿です。

よろしくおねがいします。

 何もかも真っ白だ。

 気が付くとそこに座っていた。

 見渡す限り何もない。

ただただ真っ白な空間。

何でこんな所にいるんだろう。

たしか、いつものように自分の部屋でゲームをしていたはずなのに。

 いつもと変わりなかったはずなのに。

それが、突然目の前が真っ白になって。

そしてここにいる。

途中は?全く記憶にない。

 頭が状況についてこない。

 パニックになることだけは避けたい。映画ではそういったキャラから死んでいくからな。

 たまにおかしな夢を見ることはあったけど、ここまでおかしな夢は記憶にない。覚えていないだけで、あったのかもしれないけど、記憶にはない。

 なんなんだこれ。

 すぐ隣に人がいることに気が付いた。

 なんで気が付かなかったんだろう。

 隣だけじゃない。

 そこら中に人がいる。

 なんで気が付かなかったんだろう。

 ん?本当に人なのか?

 気が付かなかっただけなのか、突然現れたのかよく分からないけど、周りをよく見てみる。

 白い。

 輪郭が影のように黒っぽく見えるだけで、顔も何も真っ白だ。

 やっぱり夢か。

 そりゃそうだよね。

 夢ならまぁ、慌てることも無いか。

 夢の中で夢を自覚することはたまにある。そういったときは、たいていすぐに目が覚めるんだ。

 今回もそうだろう。

 すぐに目が覚める。

 よね?


「「ようこそお越しくださいました。私は皆様の案内人を務めさせていただきます、お気軽に案内人とお呼びください。」」


 突然頭の中に直接響く声。

その声に、全身が泡立つような不快感を感じた。

周りの人影もざわつく。

そちらはちゃんと耳から音が、声が聞こえる。

音が耳から聞こえるというだけのことが、こんなにも安心感があるとは。それだけ頭に響いた声に対する不快感が強い。


 「「皆様方は、多大なる犠牲のもと異世界より召喚されました。」」


 再び頭の中に響く声。

 異世界?

 物語じゃあるまいし。

 「召喚って、ラノベとかでよくある?」

 「マジか?勇者か?オレ。」

 「何わけわかんねーこと抜かしてんだよ!」

 ちらほらと反応する声が聞こえるが、大多数が状況についていけていないまま呆然としている。自分もその一人だ。

異世界召還って、物語の中の話だ。

読むのは好きでも、現実になるとは思っていない。

なるはずがない。と、思っていた。

だいたい、多大なる犠牲って何だよ。ラノベだとダメ召喚の典型じゃん。


「「皆様はこれより、とある世界にて生活していただきます。どこに転移するかは運次第ですが。どう生きるか、どう死ぬかは皆様の自由です。」」


・・・

え、それだけ?

少し間が開いて、先ほどよりも多くの反応が声の主に対して浴びせられる。

「無責任だ」「もとに戻せ」「ふざけるな」といった怒声が多いが、「勇者とかじゃないのかよ」「魔王は倒さなくていいんだ?」「当然チートはあるんだろ?」と言った、つぶやくような声、「家族がいるんだ。」「仕事が・・・。」「死にたくない。」などの、縋り付くような声も少なくない。


「「召喚主様が求めるのは変革。それを叶えられる可能性のあるであろう皆様を私が選別しお呼びしました。どう変革されるかは皆様次第。何の制限もありません。自由を謳歌なさってください。」」


「変革ってなんだよ。ザックリし過ぎて意味わかんねーわ!」

「もっと詳しい説明を!」


「「さぁ?わたくしめは変革を、としか承っておりませんので。これ以上はお答えいたしかねます。おかげで大変苦労いたしました。」」


 いや、それって何の目的もないまま知らない場所に放り出されるってことでは?

「待ってくれ!私には家族がいるんだ。仕事だって。異世界だか何だか知らないが、そんなことにかかわってる暇はない。すぐに帰してくれ!」

その声を皮切りに、あちこちで帰せコールが始まった。


「「ご安心を。そのような憂いがないように万全の態勢でお招きしました。」」


静かに頭に響く声に、自分の声も聞こえないような大音量の帰れコールが押し殺された。

騒然とした中、ささやくような声量に聞こえるのに、どんな声よりもハッキリと聞こえた自称案内人の声。

一瞬前とは打って変わって静寂が空間を支配する。

キーンと耳鳴りだけが聞こえる。


「「まず、元の世界の皆様はそのまま、これまで通りの生活をされています。お呼びした皆様は、魂のほんの一部。かけらにすぎません。ご家族にも、お仕事にも何の問題もございませんので、ご安心ください。」」


理解するのに少し時間がかかった。

もう戻れない。仮に戻れたとしても、自分は別にいるってこと?

じゃあ、今いる自分は何なんだ?

クローン、とは違うか。コピーでもないし。かけらって何なんだよ!

これまで感じたことのない恐怖と不安が頭の中をかき回す。

 そして気が付いた。自分もほかの人影同様、真っ白だ。

 飯田(はんだ) 真一(しんいち)という、アラフィフ独身会社員の日本人ではない。

人間、なのか?


「「魂はかけらですが、足りない分は召喚主様の多大なる犠牲によって補填させていただきましたのでご安心を。」」


だから召喚主の犠牲ってなんだよ!

召喚主とやらは死んでるとか?

魂を補填って、自分の魂に、異物を、召喚主の魂だかを混ぜられたとか言わないよな。・・・血の気が引いていく感じがする。指先からすうっと、冷たくなってくる。


「「さらに、皆様に新しい生活をご堪能いただくために、直前に皆様がやっておられたゲームを皆様の力として組み込ませていただきました。皆様風に言うと、チートというやつでしょうか。大サービスでございます。」」


直前までやっていたゲーム?なら、何があっても乗り越えられる自信はある。それだけの時間と情熱をかけてきた。しかし、周りには違う反応を示す人(?)が少なからずいた。

「まってくれよ。ゲームを組み込んだって・・・私がやってたのは将棋だぞ!何の力になるんだよ!」

「俺だって、レーシングゲームだぞ!RPGやFPSならともかく、役に立たないじゃないか!」

「俺始めたばっかりでまだレベル13だぞ!不公平だ。」

再びざわつき始める。

みんなばらばらのゲームなのか。いったい何の基準で選ばれたんだ?

 ゲームならなんでもいいのかよ。いい加減すぎないか?


「「知らねぇよ。」」


突き放したこの一言で再び静寂に包まれる。


「「皆様の世界のゲーム事情には興味ありません。プログラム、というのですか、同じ法則で作られていましたし、この世界とも相性が良さそうでしたので利用させていただきました。なにせ、召喚主様のご要望が非常に厄介でして。柔軟に対応した次第です。あ、でも一応、数値のバランスはとらせていただきましたよ。何せ、同じ意味を持つはずの数値でも、ゲームによって呼び方が違ったり、同程度の性能でも全く違った数値だったり、苦労しました。」」


見えもしないのに、おどけた道化師のように汗をぬぐうようなしぐさをしている様子を連想してしまった。それがなんだか腹立たしい。


「「でも、不公平ってのは確かにそうですね。いけません。ふむ、レベルってやつですか、これが強さの差のようですね?では、皆様公平にいたしましょう。うん、1なら問題ないでしょう。そうそう、所持品も無くしておいた方がいいですね。これなら皆さん平等だ。スバラシイ。」」


「ふざけんな!レベル1だと!!オレは150以上あったんだぞ!」

「所持品って、装備無しかよ!それのどこがチートなんだよ!」

「レベルも所持品も私がやってたゲームには関係無い!どうにかしてくれ」

そこら中で怒声が響く。


「「あぁ、この世界の常識くらいは植え付けて差し上げましょう。良かったですね。何もわからず野垂れ死にするリスクが減ることでしょう。」」


怒声を無視した物言いに、収まるどころか全体に波及していく。

「野垂れ死にするリスクが減るって、まるで、ほとんどがすぐ死ぬみたいな言い方じゃないか。」

ぽつりとつぶやいた一言が、怒声をぴたりとやませた。

自分でも聞こえないくらいの声量だったはずのつぶやきが、はっきりと、全員の耳に届いたようだ。

姿も見えない案内人の顔が、邪悪に笑ったような気がした。

冷汗が全身から噴き出すような感覚にとらわれる。

利用された。

何のために?

静かにさせるため、なんて、案内人の声はどんな状況でも届くのに必要はない。

なら理由は・・・


「「正解です。異世界の事情など、一悪魔にすぎない私に分かるはずもございません。だから、とりあえず数を揃えました。契約は召喚主の望みをかなえうる何かを持った者を召喚することであって、望みをかなえることではありません。ですから。全員死んでいただいても差支えはありません。まぁ、10万の魂の代価ですので、少しだけサービスさせていただきました。」」


サラっととんでもないことをいくつも言いやがった。

誰も一言も、身動き一つしない。

どこかで案内人を神様だとか、それに近い存在だと思い込んでいた。それなら、どんなにひどい神でもすぐ死ぬような扱いはしないだろうと。いや、ラノベにはとんでもないクズ女神とかたまに出るけど。にしても、召喚や転生時に出てくるのが神様だなんて、それこそ物語の中のお約束じゃないか。なのに、そうだと信じ切ってしまっていたなんて。

代価が10万の魂?つまり10万人死んだってこと?

あちこちですすり泣くような声が聞こえ始めた。

それがだんだん連鎖していく。

大狂乱になるまで時間はかからなかった。

このためだったんだ・・・。

この大狂乱のために、自分の声にもならないつぶやきを利用された。

あいつは本当に、悪魔なんだろう。


「「では皆様。良い人生を。」」


阿鼻叫喚の中、真っ白な世界が暗転する。

真っ黒な世界に。

周りの人の気配も無くなった。

 どこに落とされるんだろう。

まともなところだといいなぁ。

自分が最後にやっていたゲーム、それがレベル1で、所持品も無しで始まるのなら、かなり不利な条件になる。テーブルゲームとかよりはましなだけだ。

相当気を引き締めないと。

 とにかく生き残る。それだけを目標にしよう。

 大きな不安と、小さじ程度のワクワク感。

 静かに、ゆっくりと深呼吸をして覚悟を決めた。


 不安だらけの異世界転生。みたいなイメージで書き始めました。

 2話以降登場するゲームは全て架空の物です。


挿絵(By みてみん)

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