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サウザンドライフ  作者: aqri
モンスターとは何だ?
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モンスターとは何だ?ー1

 モンスターには不可解な能力があるものも多い。回復が早いのは共通しているが、特定の魔法が効かなかったり鳴き声に体調を崩す作用のものがいたり。モンスター討伐は時間をかけず短期決戦が基本だ。今は二人の能力の底上げが必要である。サウザンドの骨を使った武器も完成し今できる装備の準備は整った。

 スノウは普通の犬よりも寝る回数が少しだけ多い。ちょっと休憩すると言うと必ず眠っている。体への負担がやはり大きいのだろう。そういう時は無理に起こさずスノウが起きるまで待っていた。


 自分たちが遭遇したアイビーというモンスター、あまりにも不可解なことが多かった。色々と気になる事はあるが何よりも。


(何故名前がついてる)


 世の中のモンスターの種類は多い。そしてあまり同じ種族のモンスターはいない、常に新種が見つかる。何度か討伐に失敗していたり逃げられた場合、こういうモンスターに気を付けろという注意喚起の意味で名前がつけられる事はあるが、今回はそのパターンには当てはまらない。

 少なくとも国は把握していたが討伐隊や市民は把握していないモンスターだった。目的は討伐ではなく死骸を持ち帰ること。魔法も使えたランキング三位の討伐隊がどうにもできなかったのだからおそらく一位か二位の討伐隊が次の任務を与えられるはずだ。


(本当の目的は何だ、なんだか戦わせることそのものが目的のようにも思える。本気で倒したいのならもっと事前情報を討伐隊に与えているはずだ)


 前々から胡散臭いと思っていたがここにきて本当に闇のようなものを感じる。では討伐隊を辞めて他の生き方をするかというとそれをやる気は無い。自分に何か他の職業ができると思えないしやろうという気も起きない。それに今はスノウを放り出して自分だけ違う道に進むつもりもなかった。この戦いから抜け出したいのならその時はスノウも一緒だ。


 スノウが目を覚ますのは早かった、本当に居眠り程度の時間だ。二人はアイビーについて話し合っていた。もしもまたアイビーと遭遇したらどうするのか。明確な答えは出ないが少なくとも今のレベルであれば身動きせずやり過ごすのが一番だ。しかし今後戦いを重ねスノウの気配がアイビーにはっきりと捉えられるようになったらそれも難しくなる。


「今はごちゃごちゃ考えてもどうしようもないだろ。俺たちは情報もらってねえし探ることもできない」

「戦いにおいて勝つか負けるかの大きな要因は事前にどれだけ準備をしたかですよ、主」

「そんなもん今俺たちにできるのは一つだろ」

「何ですか」

「逃げ足を鍛えておくんだよ」


 自信満々にいうスノウの顔はどこか誇らしげだ。威張って言うことだろうかと思ったが、そういえば言われていた。犬の常識に合わせろと。動物は戦うべき時は戦うが逃げる時は逃げる。自分の力を正確に把握して冷静な判断ができているのだ。動物とはそういうものだ、天敵がいない人間と違って常に命の危険に晒されているのだから。


「では主、逃げ足を鍛える極意はなんですか」

「走る!」


 四本足をぴんと伸ばしてびしっと立ち上がるスノウ。犬の常識に合わせるべきだがやっぱりこれだけは言っておこうと思った。


「いろいろ考えたんですけどやっぱり威張って言うことじゃないと思います」


その言葉にスノウは無言のままサウザンドに体当たりをしたのだった。


 その日から二人は一応作戦を練りながら魔の森でモンスターの討伐を始めた。モンスターの気配はスノウがわかる。なるべく個体で倒せそうだと判断したものから倒していく。苦労することもあったが倒したモンスターの皮等を加工し売って徐々にお金を集め、サウザンドがきちんとした武器を持てるようになってからは討伐の成功率が上がっていった。

 やはりサウザンドは強い。どうしてこれが落ちこぼれなのか、討伐隊養成所の強いというレベルちょっとおかしいんじゃないかとスノウは首をかしげていた。以前話していた両手足を縛られた状態の相手にも負けたというエピソード、一体どんな状況だったのだとちょっと気になってしまう。


 スノウたちが地道な討伐を進めている間も他の討伐隊は輝かしい立派な成績を残している。そのことでスノウたちの実績をバカにする者たちは数多くいたが、その度にスノウが吠えてサウザンドが無視しましょうという対応だ。地道な活動だったがコツコツと進めていた。

 ランキング三位の討伐隊がほぼ全滅した事はその当時は騒がれたが、あっという間にランキングが変わっただけで人々の記憶からは忘れられていた。ランキングが高ければ国から貰える金も多くなる。命をかけて戦っているのだから死ぬのは自業自得、弱いのが悪いという考えが蔓延している。

 誰もが気にすることなく日々は流れていた。誰かが死に、人が入れ替わるのは日常茶飯事だ。そこら辺で誰かが死んでいても誰も気に留めない。


 だからこそ、誰も気にしなかった。かつてのランキング三位で全滅した討伐隊の生き残り二人の死体が魔の森の中で見つかったことを。どうせ名を上げたくてバカをしたんだろう、そんな印象だ。




「んなわけあるか、一人は片足ねえんだぞ。そんな無茶するほど頭スッカラカンかよ、ランキング三位だった奴らが」


 小屋で夕食をとりながら少し機嫌が悪そうなスノウはガツガツと肉を食べている。やっとトラウマを克服し、野兎の肉を食べられるようになった。克服までには兎焼き、兎鍋、干し肉、いろいろ用意されてスノウは一週間兎の首に追いかけられる悪夢を見たが。


「そこなんですよね。皆、他人に興味ないでしょうから気にしないのでしょう。そういうのが貴重な情報を流すことになってるっていうのも、気づいてなさそうですし」

「人間ってウジャウジャいるのになんで連携しねえんだ」

「数が多いと責任の在り処が分散されます。いつか、誰かが、国が、って感じに他責にしやすいんですよ。自分でリスクは負いたくないですし。この話は無意味なのでやめましょう。今回の件はたぶんアイビーです」

「だよな」

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